ご家族がお亡くなりになり、相続が発生すると、多くの相続手続きを行わなければなりません。相続手続きの中には、期限があるものがあり、期限に違反すると厳しい制裁(ペナルティ)やデメリットが避けがたいものもあります。
ご家族がお亡くなりになると、通夜、葬儀など相続以外にもやることが多く「今は忙しいので、相続手続は落ち着いてからやろう」とお悩みの方もいます。
そこで今回は、期限のある相続手続のうち、どの期限を過ぎたらデメリット、不利益が大きいのか、どの期限違反に制裁(ペナルティ)があるのかを、相続に強い弁護士が解説します。
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遺産分割の期限について、詳しくはこちらをご覧ください。
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【遺言を発見した直後】遺言書の検認
お亡くなりになったご家族(被相続人)が自分で遺言書を作成していたときは、相続が発生したらすぐに(遺言書を発見したらすぐに)、「遺言書の検認」という相続手続きが必要です。
遺言書の検認は、公正証書遺言以外の遺言(自筆証書遺言、秘密証書遺言)で必要となる手続で、遺言書の偽造、改ざんを防止するため、家庭裁判所で、相続人の立会いのもとに遺言書を確認する手続きです。
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遺言書の調査方法と検認については、こちらをご覧ください。
「遺言書」が、相続において非常に重要であることは、一般の方でもご理解いただけているのではないでしょうか。遺言が存在する場合には、民法の原則にしたがわない遺産分割を行わなければならないことが多いからです ...
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遺言書の検認の期限
遺言書の検認には、「○か月以内」という期限は、法律上定められていません。民法では、「相続の開始を知った後、遅滞なく」行うものと定められています。
相続開始時に、遺言があることを知らなかったときでも、遺言書を見つけたらすぐに検認手続を行う必要があります。
期限を過ぎてしまうと?
「遺言書の検認」という相続手続きの期限を過ぎてしまったとき、つまり、相続開始を知り、自筆証書遺言などの遺言書が存在することを知ったにもかかわらず、検認を行わなかったときは、「5万円以下の過料」という制裁(ペナルティ)が課されます。
この制裁(ペナルティ)による不利益は、検認を行わずに遺産分割を行った場合だけでなく、遺言書の内容に従っている場合であっても、検認を行わずに遺言書の開封を行ってしまえば課されるものです。
期限を過ぎないようにする対策は?
「遺言書の検認」という相続手続の期限を過ぎないようにする対策としては、「遺言書の検認」は相続開始後すぐに行わなければならないわけですから、早いうちに(できれば生前に)遺言書の有無を確認しておくことです。
遺言書の有無は、被相続人の死後に公正証書遺言であれば公証役場で検索ができますが、遺言書の検認が必要な自筆証書遺言は、相続人が自力で探すしかありません。生前に、被相続人に必ず遺言の有無を確認しておいてください。
【3か月以内】相続放棄・限定承認の熟慮期間
相続財産(遺産)の中に、多額の借金(相続債務)があり、相続財産(遺産)を相続してもこの債務が支払いきれない可能性があるときは、相続放棄、限定承認という手続きによって、特別な相続を行います。
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったこととなり、相続争い(争続)に巻き込まれる心配もありません。
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相続放棄したほうが得かどうかの判断基準は、こちらをご覧ください。
相続放棄とは、お亡くなりになったご家族から、財産を引き継がず、その代わりに莫大な借金も引き継がないために利用する制度です。 いざ相続が開始したら、葬式や通夜などであわただしいでしょうが、早めに相続財産 ...
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相続放棄・限定承認の期限
相続放棄、限定承認はいずれも、相続開始を知ったときから3か月以内に行わなければならないこととされており、この期間を「熟慮期間」といいます。熟慮期間内に家庭裁判所に申述することで相続放棄、限定承認ができます。
熟慮期間内に相続財産の調査が終わらなかったり、相続放棄、限定承認をして相続財産を失ってよいか悩み中の場合には、熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申し立てることができます。
期限を過ぎてしまうと?
熟慮期間を過ぎてしまっても相続放棄、限定承認という相続手続きのいずれも選択しなかったときは、単純承認したものとみなされ、原則的な相続が進みます。この後は、原則として、相続放棄、限定承認はできないことが、期限を過ぎてしまったデメリット(不利益)です。
ただし、相続開始を知らなかったり、相続財産の中に借金があることを知らなかったりしたときは、3か月の熟慮期間を過ぎてしまっても、相続放棄、限定承認をすることができる場合があります。
期限を過ぎないようにする対策は?
相続放棄、限定承認という相続手続きを、熟慮期間を過ぎないように行うには、相続財産の調査を素早く行わなければなりません。相続財産や、特にその中のマイナスの財産(借金)の金額を知らなければ、相続放棄、限定承認すべきか判断できないからです。
また、万が一、期限を過ぎてしまいそうになったときは早めに熟慮期間の伸長手続を行い、期限を過ぎてから初めて借金の特則が来て相続放棄の必要性に気づいたときには、気づいたらすぐに相続放棄をすることで、期限を過ぎないように相続手続を進められます。
【4か月以内】準確定申告
準確定申告とは、お亡くなりになった方(被相続人)が、確定申告をする必要があるときに、お亡くなりになった後に相続人が代わりに確定申告をする相続手続きのことです。
準確定申告は、被相続人が生きていたとしたら確定申告が必要となる場合には、行わなければなりません。被相続人が事業を経営していた場合や、不動産からの賃料収入を得ていた場合などには、準確定申告を期限内に行ってください。
準確定申告の期限
準確定申告の期限は、相続があったことを知った日から4か月以内です。
ご家族がお亡くなりになった状況で、ご家族が営んでいた事業の書類などをまとめて4か月以内に申告をすることは、事業内容などを全く把握していないと困難かもしれません。
被相続人が、経営者である場合などには、生前にお世話になっていた税理士を聞いておくことで、準確定申告をその税理士に、期限内にスムーズに行ってもらうことが期待できます。
期限を過ぎてしまうと?
準確定申告の期限を過ぎてしまうと、延滞税、無申告加算税、過少申告加算税、重加算税といった加算税を支払う制裁(ペナルティ)を課され、本来支払うべきであった税額よりも多くの税金を支払わなければならないというデメリット(不利益)があります。
期限を過ぎないようにする対策は?
準確定申告は、相続開始によってその期限が進行しますが、厳密にいうと相続手続きではなく、被相続人が生きていたとしても行わなければならない確定申告と同様のことです。
準確定申告の期限を過ぎないようにするには、計画的に、確定申告の準備をすることです。しかし、本来であれば確定申告は、2月1日から3月15日の間にすればよかったところ、突然の御不幸によって準確定申告が必要となると、期限が前倒しとなる可能性があります。
常日頃から、確定申告に必要となる書類を保管するとともに、その保管場所や任せている税理士などを相続人に伝えておくことが、準確定申告の期限を過ぎないようにする対策となります。
準確定申告の必要となる事業経営者の場合には、あわせて事業承継(誰が、被相続人の営んでいた事業を引き継ぐか)の問題が、遺産相続のトラブルの火種となることがあります。
【10カ月以内】相続税申告・納付
相続財産から相続財務を控除した金額が、「3000万円+600万円×法定相続人の人数」という基礎控除額を越える場合には、相続税を申告し、納付する必要があります。
相続税の申告は、相続人が自ら財産と債務を調べ、相続税を計算して申告する必要があります。
相続税申告の期限
相続税申告の期限は、相続があったことを知った日の翌日から10カ月以内です。そして、相続税納付の期限もまた、申告の期限と同じです。つまり、この期限までに申告と納付とをいずれも済ませる必要があります。
期限を過ぎてしまうと?
相続税の申告、納付もまた、準確定申告と同様に、期限を過ぎてしまうと、延滞税、無申告加算税、過少申告加算税、重加算税といった加算税を支払う制裁(ペナルティ)を課されます。
これによって、本来支払うべきであった税額よりも多くの税金を支払わなければならないというデメリット(不利益)があるだけでなく、相続税額を低く抑えるための特例が、期限後だと利用できなくなります。
税理士に生前から相続税の節税対策を依頼すると、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例といった相続税を低く抑えるための制度の利用を勧められることが多いですが、相続税の申告期限に間に合わないと、これらの特例は利用できません。
期限を過ぎないようにする対策は?
遺産分割協議がまとまらず相続財産の分け方が決まらなかったり、相続財産の調査が終わらず相続税額が計算できなかったりする場合であっても、相続税の申告・納付の期限は変わりません。
相続税の申告・納付の期限までに遺産分割協議が終わらないことはよくありますが、その場合には、法定相続分で相続したものとして暫定的に申告をして、後から遺産分割協議がまとまったところで更生を行うことで、期限を過ぎないように相続手続きを進めます。
【1年以内】遺留分減殺請求
遺留分減殺請求権とは、民法で認められた法定相続人が最低限確保できる相続割合(遺留分)を侵害されたとき、その侵害された相続人が、遺留分を侵害して多くの相続財産を得た相続人に対して、不足する分の返還を求める請求のことです。
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遺留分減殺請求権の行使方法は、こちらをご覧ください。
相続が開始されたときに、相続財産をどのように引き継ぐ権利があるかは、民法に定められた法定相続人・法定相続分が目安となります。 しかし、お亡くなりになった方(被相続人)が、これと異なる分割割合を、遺言に ...
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遺留分減殺請求の期限
遺留分減殺請求権の期限は、遺留分を侵害された相続人が、相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った日から1年間です。
期限の起算日が他の相続手続きと異なり、相続が開始したことを知っていても、遺留分を侵害されるような生前贈与、遺贈があった事実を知らなければ、遺留分減殺請求権の期限は進行しません。
ただし、相続開始の時から10年間経過したときは、遺留分減殺請求権は行使できません。
期限を過ぎてしまうと?
遺留分減殺請求権は、1年間の期限を過ぎてしまうと、その後は行使することができないというデメリット(不利益)があります。どれだけ不公平な相続がされても、期限後は救済されませんから、期限を必ず守る必要があります。
遺留分減殺請求権の期限は、相続放棄・限定承認の熟慮期間のように、家庭裁判所に申立てをしても延長することはできません。
期限を過ぎないようにする対策は?
期限を過ぎないようにするには、遺留分を侵害されたことを知ったら、配達証明付き内容証明郵便など、到着日がわかる方法で、遺留分減殺請求権を行使する意思があることを早めに示すことです。
内容証明郵便を送ったことをきっかけとして始まった交渉の結果、話し合いによって円満に解決ができることもあります。また、話し合いがうまくまとまらない場合には、6か月以内に訴訟提起に踏み切るようにすることが、期限を過ぎないようにする対策となります。
請求の相手方の態度がはっきりしなかったり、どのような相続が公平かお迷いの場合であっても、期限を過ぎないよう、次の段階(訴訟など)へ、期限内に進めていくことが重要です。
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いかがでしたでしょうか?
相続手続きは、あなたが思うよりもはるかに時間のかかる手続です。手続を行うための必要書類の取り寄せだけでも、「被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍」を収集しなければならず、相当時間がかかります。
相続財産の調査も、金融機関、法務局などに多くの書類をもらいにいかなければなりません。日中にこれらの手続にかかる時間を割くことが出来ない方は、弁護士など相続の専門家に相続手続を代わりにお任せください。
相続手続の経験豊富な弁護士であれば、相続手続の期限を過ぎるようなミスはなく、余裕をもって期限を遵守しながら、依頼者にとって最も有利な相続を実現するお手伝いができます。