遺産分割調停とは、相続財産(遺産)の分割方法について、家庭裁判所において、調停委員の関与のうえで話し合いを行うことです。遺産分割協議が、いざ進めると相続人本人間だけでは思ったようにまとまらないとき利用すべき制度です。
ご家族がお亡くなりになる前は「親戚関係はうまくいっているから、相続トラブルは起こらないはず。」という家族間も、遺産分割調停が長引くケースも少なくはありません。遺産分割調停が長引くと、相続人は精神的に疲弊します。
よくある相続相談
遺産分割調停を、家庭裁判所に申し立てる方法、必要書類を知りたい。
遺産分割調停を有利に進めるポイントと、調停の期日当日の対応方法を知りたい。
遺産分割調停を、弁護士に依頼するときの弁護士費用を知りたい。
協議、話し合いがこじれ、遺産分割調停を利用しなければ先に進まなくなってしまったとき、遺産分割調停をできる限り有利に進めるためのポイントを理解しておく必要があります。
そこで今回は、遺産分割調停の申立てから、調停成立までの手続きの流れを、相続に強い弁護士が、わかりやすく解説します。
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遺産分割協議がもめる原因・理由と対処法は、こちらをご覧ください。
「遺産分割協議」とは、法定相続人や、遺言によって相続人に指定された人が、相続財産(遺産)をどのように分けるかについて話し合いをする協議のことです。 遺産分割協議は、あくまで話し合いですから、円満に解決 ...
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相続財産を守る会を運営する、弁護士法人浅野総合法律事務所では、相続問題と遺産分割調停のサポートに注力しています。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野です。
相続問題が発生した後で、遺産分割調停を申し立てることとなる相談者の方の中には、「昔は仲良かった。」「それほど財産もないのに」と、相続トラブルを予測すらしていなかった方も少なくありません。
しかし、損をしたと考えている側は、「兄だけ良い大学に行かせてもらえた。」「娘だけ結婚のとき多くお金を出してもらえた。」と、昔の恨み、不満、不公平感が溜まっていることも多いものです。
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遺産分割調停とは?
遺産分割調停とは、相続財産の分け方について、家庭裁判所に申立を行い、家庭裁判所の選ぶ調停委員に仲裁してもらいながら話し合いを行う手続きのことです。
家庭裁判所に持ち込まれる事件は、相続財産が多額なものばかりではありません。
昔は、「相続財産はいらない。」、「全て長男が相続してよい。」と言っていたとしても、結婚、出産、育児、進学と、お金の必要なライフイベントを経るにしたがって主張が変化していくこともよくあります。
あくまで「話し合い」で、完全決着ではない
遺産分割調停は、相続人本人間の話し合いではこれ以上相続財産について円滑に決めることができなくなったときに利用する制度ですが、あくまで話し合いの延長であり、完全決着ではありません。
つまり、相続人の一部が、遺産分割調停>における話し合いを拒否したり、主張が大幅にかけはなれていたときは、遺産分割調停だけでは解決できず、遺産分割審判に自動的に移行します。
遺産分割審判では、家庭裁判所が、相続分について強制的に決定してくれるので、相続トラブルの最終決着となります。
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もめる遺産分割協議の原因・理由と対処法は、こちらをご覧ください。
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遺産分割調停せずに遺産分割審判を申し立てられる?
「調停前置主義」という言葉をご存知でしょうか。
たとえば・・・
例えば、離婚問題は、離婚訴訟を起こす前に、離婚調停で話し合いを行わなければなりません。「訴訟より前に調停が必須」という考え方が「調停前置主義」です。
相続問題では、この「調停前置主義」はとられていません。つまり、遺産分割調停を起こさずに、直接、遺産分割審判を起こしても、法律上は問題ありません。
ただし、遺産分割審判を直接起こした場合、家庭裁判所の判断で、「調停で話し合うべき」と考える場合にはまず遺産分割調停に付すことができるため、いずれにせよまずは遺産分割調停の申立を先行させたほうがよいでしょう。
遺産分割調停を有利に進めるには?
遺産分割調停の進め方を知らなければ、遺産分割調停における話し合いが自分の側にとって不利に進むことによって、相続財産(遺産)の分け方が思わぬ不利益なものとなるおそれがあります。
遺産分割調停の話し合いを、少しでも有利に進めるために、どうしたらよいのでしょうか。
まずは、遺産分割調停の手続の流れという、基本的な知識を、しっかり理解しておくことが必要です。そこで、遺産分割調停を多く取り扱う弁護士が、申立て方法から手続の流れまでを、わかりやすく解説します。
遺産分割調停の申立て方法
遺産分割協議がまとまらず、遺産分割調停の申立てに至るとき、その申立は、いずれの相続人からでも行うことができます。全ての相続人に申立権があることについて民法で次の通り定められています。
民法907条2項遺産の分割について共同相続人間に協議が調わないとき、また協議をすることができないときは、各共同相続人はその分割を家庭裁判所に請求することができる。
したがって、遺産分割調停を申し立てる前に、まずは協議を行い、もしくは、協議を行おうと努力をしてみるべきです。
相続財産(遺産)の分配方法に関する主張が大幅に乖離していて話し合いが成立しないときや、話し合いを拒否されて協議ができないときには、遺産分割調停を申し立てることができます。
遺産分割調停の管轄裁判所
遺産分割調停を家庭裁判所に申し立てるとして、どのこ家庭裁判所に申立てを行えばよいのでしょうか。
遺産分割調停は、お亡くなりになったご家族(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立書と戸籍などの必要書類を添付して申立てをします。
そのため、被相続人の住所地によっては、遺産分割調停の管轄が、相続人にとって不便な遠方の裁判所となるおそれがあります。
遺産分割調停の申立てに必要な書類
遺産分割調停を、家庭裁判所に申し立てるときに、提出しなければならない書類、資料について、相続に強い弁護士がまとめました。
遺産分割調停に必要な費用は、申立手数料として、被相続人につき1200円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手が必要となります。郵便切手の金額は、裁判所によって異なるので、家庭裁判所に確認してください。
遺産分割調停の申立てに必要な書類
遺産分割調停申立書
- 遺産分割調停申立書(原本) 1通
- 遺産分割調停申立書(写し) 相手方(相続人)の人数分
共通して必要となる書類
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の子などの死亡によって代襲相続が発生するときは、死亡した子などの出生から死亡までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の住民票または戸籍の附票
- 遺産の評価を証明する書類(不動産登記事項証明書、固定資産税評価証明書、預貯金通帳の写し、残高証明書、有価証券の写しなど)
相続人に直系尊属(両親・祖父母)が含まれる場合(「配偶者+両親」、「両親のみ)など
- 直系尊属に死亡している方がいるとき、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本)
(ただし、相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る。)
相続人が配偶者のみの場合、もしくは、兄弟姉妹が含まれる場合(「配偶者+兄弟姉妹」、「兄弟姉妹のみ」など)
- 被相続人の父母の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の兄弟姉妹に死亡した方がいるとき、その人の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 代襲者となる甥姪に死亡した人がいるとき、その人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
遺産分割調停の進め方
遺産分割の前提問題の解決
「相続財産をどのように分けるか。」という分割方法についての話し合いの前提問題として、次の2点を確定する必要があります。
ポイント
- 相続人の確定
- 相続財産の確定
そもそも前提問題となるこの2点が決まらなければ、分割方法を話し合うことはできません。
「誰が相続人か。」「相続財産には何があるか。」は、なんとなくわかっている気になっているかもしれませんが、戸籍謄本、登記簿謄本などを調べていくうちに、知らなかった相続人、財産が明らかになることも少なくありません。
相続人調査の結果、新たに相続人が発見される例
- 前妻との間の子
- 内縁の妻、事実婚の配偶者との間の子
- 認知した婚外子
- 生き別れの兄弟の子(甥姪)
相続財産調査の結果、新たに相続財産が発見される例
- 妻に内緒で購入した別荘地
遺産分割調停の事前準備として、しっかりと相続財産調査を行って財産目録を作成し、相続人調査を行って家系図(相続人関係図)を作成しておきます。
遺産分割調停では、ある相続人が、お亡くなりになったご家族(被相続人)の預貯金を使い込んでいたことが問題となり、どこまでの支出が、相続財産の範囲となるのかが激しい争いとなることもあります。
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遺産分割協議の前に行うべき「相続人の確定」は、こちらをご覧ください。
ご家族がお亡くなりになったとき、遺産分割協議を始める前に、「相続人の確定」をしておくことが重要です。 「誰が相続人になるのか。」は、民法で法定相続人に関するルールが定められていますが、実際の相続のとき ...
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遺産分割調停の期日の流れ
遺産分割調停の前提問題について、相続人間の合意ができたら、いよいよ、相続財産(遺産)の分割方法についての話し合いがはじまります。
遺産分割調停における分割方法の話し合いでは、遺言、民法で定められたルール(法定相続分)以外に、被相続人から金銭的な恩恵を受けていた分を考慮する「特別受益」、被相続人の財産の維持・増加に寄与した分を考慮する「寄与分」などが主張されます。
これらの特別な相続財産(遺産)の分け方を主張する相続人は、遺産分割調停で、そのような特別な分け方が公平となることについて、主張し、各種証拠をもって立証します。
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「寄与分」の基礎知識と計算方法については、こちらをご覧ください。
民法に定められた法定相続人・法定相続分の考え方は、一般的に公平な遺産分割の割合であるとされていますが、実際には、法定相続分以上の貢献を主張したい相続人がいることがあります。 法定相続分を越えて、相続財 ...
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「特別受益」の基礎知識と計算方法は、こちらをご覧ください。
お亡くなりになったご家族から、生前に、学費や住宅の新築、建替えなど、多くの援助をしてもらった相続人と、援助を全くしてもらえなかった相続人との間で、不公平感が生じることがあります。 相続人間の、生前にお ...
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遺産分割調停の期間は?回数は?
遺産分割調停が申し立てられると、家庭裁判所から、調停を行う期日が指定され、各参加者に対して通知がされます。相続人は、調停期日に家庭裁判所に集まり、話し合いを行います。
1回の調停期日で調停成立とならないときは、次の期日が指定されます。平均して、1か月~2か月程度の期間を空けながら期日を指定してもらい、1年程度で終了することが一般的です。
調停期日は、平日の日中に行われるため、仕事などの関係で出席が困難な方は、弁護士に依頼して代理で出席してもらうことができます。
遺産分割調停で話し合いを行うことは、相続財産(遺産)の分け方に関する一切のことです。どのように分けるのが公平であるかを、寄与分、特別受益、相続財産の評価額などを踏まえて話し合いします。
遺産分割調停の終わり方
遺産分割調停は、完全決着のできる制度ではありません。調停はあくまでも話し合いであり、調停で終わる場合もあれば、調停が不成立となる場合もあります。
遺産分割調停の終わり方と、終わり方ごとのその後の対処法について、相続に強い弁護士が解説します。
遺産分割調停で調停成立した場合
遺産分割調停で、調停が成立する場合とは、遺産分割調停に参加した相続人の全員が、相続財産(遺産)の分割方法に合意した場合のことをいいます。
この場合には、遺産分割調停で合意した内容について、調停調書を作成し、調停成立によって調停は終了します。
調停調書の内容は、遺産分割協議書に近いものであり、その内容は、次の記載が含まれます。
ポイント
- 確定した相続財産の具体的な情報
- 相続財産ごとの取得者(相続人)
- 遺産分割にともない支出した費用(葬儀費用、債務の支払いなど)の負担者(相続人)の確認
- 清算条項(相続に関する一切の債権債務がないことの確認)
- 遺産分割調停の費用負担に関する定め
遺産分割調停の成立時に作成される調停調書は、確定した審判と同等の効果があり、強制執行をする力(執行力)をもっています。
つまり、遺産分割調停に記載されたとおりにお金を支払わなかったり、物を引き渡さなかったりした相続人に対して、調停調書に基づいて強制執行をすることができる(財産を差し押さえるなど)ということです。
遺産分割調停で調停不成立となった場合
遺産分割調停では解決の見込みがないと判断したときは、調停委員会は、「調停不成立」として、遺産分割調停を終了させます。
遺産分割調停が不成立となった場合には、遺産分割調停の申し立て時に、遺産分割審判の申立があったものとみなし、遺産分割審判の手続きに自動的に移行することとなります。
遺産分割審判とは、遺産分割調停のように話し合いを主とする手続きではなく、家庭裁判所が、相続財産(遺産)の適切かつ相当な分割方法を決定する手続きです。
遺産分割調停を弁護士に依頼するメリット
当事者である相続人間だけで話し合うと、感情的になりやすく、話し合いは頓挫しがちです。
話し合いが決定的に決裂してしまう前に、利害関係のない第三者である家庭裁判所の仲裁を得ることによって、もつれた糸がほぐれることがあります。遺産分割調停を用いる大きなメリットの1つです。
遺産分割調停を、少しでも有利に進めるためにも、相続の法律、裁判例を理解した弁護士のアドバイスを受けることで、自分の側の主張を整理、強化できます。
遺産分割調停の場で、法律・裁判例で認められない非常識、一方的な主張を繰り返す相続人は、調停委員の心証も悪くなります。相続に強い弁護士のサポートを受けることで、遺産分割調停を有利に進めることができます。
遺産分割調停のサポートは、「相続財産を守る会」にお任せください
いかがでしたでしょうか。
今回は、遺産分割調停を少しでも有利に進めるために知っておきたい、遺産分割調停の申立て方法と、その後の調停期日の手続の流れについて、相続に強い弁護士が解説しました。
遺産分割協議における当事者間の話し合いでうまくまとまらないと、つい喧嘩腰になってしまったり、より多くの相続財産を獲得しようとムキになってしまうこともあるでしょう。
しかし、遺産分割調停は、裁判所で行われる手続であり、「強く言った人が勝つ。」「うるさい主張が通る。」という手続ではありません。自分の主張、希望を、証拠などの理由とともに、説得的に調停委員に伝える必要があります。
相続財産を守る会では、これまで経験してきた遺産分割調停のサポート経験、実績を武器に、ご依頼者にとってより有利な相続の実現を目指します。