民法に定められた法定相続人・法定相続分の考え方は、一般的に公平な遺産分割の割合であるとされていますが、実際には、法定相続分以上の貢献を主張したい相続人がいることがあります。
法定相続分を越えて、相続財産の維持、増加に貢献したことを主張する相続人の相続分を増やし、公平な相続を実現する考え方が、寄与分の考え方です。
よくある相続相談
長男は家業を手伝ったが、次男は生活費を入れなかったので、長男に多く相続してほしい。
長女が特に、被相続人の老後の看護を行ったので、長女に多く相続してほしい。
相続財産の大部分は、長男が老後に家計の援助を行ったために形成された。
通常認められている法定相続分を越えて、相続する財産を増やすことのできる寄与分が認められる場合と、その計算方法を知ることで、遺産分割協議において、損のない相続を主張することができます。
寄与分と似た考え方に、ある相続人が特別に得た利益を控除して公平な相続を実現するための特別受益という考え方がありますので、あわせて理解しておきましょう。
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特別受益が認められる場合と、その計算方法は、こちらをご覧ください。
お亡くなりになったご家族から、生前に、学費や住宅の新築、建替えなど、多くの援助をしてもらった相続人と、援助を全くしてもらえなかった相続人との間で、不公平感が生じることがあります。 相続人間の、生前にお ...
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2018年民法改正で導入される「特別寄与料」はこちらをご覧ください。
民法において「相続人」と定められている人が、家族の面倒をまったく見ず、むしろ、「相続人」以外の人が、介護などすべての世話をしているというケースは少なくありません。 相続人ではないけれども、介護など一切 ...
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相続財産を守る会を運営する、弁護士法人浅野総合法律事務所では、相続問題と遺産分割協議のサポートに注力しています。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野です。
お亡くなりになったご家族(被相続人)の生活の支援、介護、生活費の援助、事業活動の支援などによって、相続財産の維持、向上に貢献した方には、寄与分として、より多くの相続分を得られる可能性があります。
被相続人の生前に、他の相続人より多くの貢献をし、法定相続分どおりの相続では不公平ではないかとご不満、お悩みの方は、寄与分が認められるかどうか、相続に強い弁護士にご相談ください。
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寄与分とは?
共同相続人の中で、お亡くなりになったご家族(被相続人)の財産の維持、増加に特別の寄与をしたものがいるときに、その人の相続分を増やして、相続人間の公平を図る考え方が、寄与分です。
法定相続分どおりだと、「子」という同じ続柄であれば、皆平等に相続財産を分け合います。しかし実際には、遠方にいて音信不通の相続人もいれば、同居して介護の世話をしたり、生活費を支出したりする相続人もいます。
寄与分が、相続人間の公平を目的としたものであることから、公平を損なわない制度となるよう、寄与分が認められる要件は、限定的に考えられています。
そこで、寄与分が認められるために必要となる要件について、相続に強い弁護士が解説します。
特別の寄与があること
「特別の寄与」とは、通常期待されている程度を越えた貢献のことをいいます。通常期待されている扶養、援助などは、特別の寄与とは認められず、寄与分は認められません。
寄与分が認められると、他の相続人の取り分が少なくなってしまうため、ある相続人の寄与が、「特別の寄与」にあたり寄与分が認められるかどうかが、遺産分割協議において、激しい争いの元となります。
注意ポイント
寄与分が認められる特別の寄与として、通常期待されている程度を越えた貢献が必要であり、次のような行為は、特別の寄与にはあたらないものとされています。
- 夫婦間の協力扶助義務
- 親族間の扶養義務・互助義務
これを越えた貢献があったとしても、特別の寄与と認められるかどうかは、裁判例においても、被相続人と相続人の身分関係によって異なる判断がされます。
身分関係が近いか、遠いかによって、「通常期待されている貢献がどの程度か。」が異なると考えられているからです。
遺産が維持・増加したこと
寄与分が認められるためには、相続人の行為によって、相続財産の維持・増加の効果が生じたことが必要です。
例えば、財産上の効果のある寄与とは、次の行為をいいます。
たとえば・・・
- 相続人の寄与行為がなければ生じたであろう財産の減少を阻止した
- 相続人の寄与行為がなければ生じたであろう消極財産(借金など)の増加を阻止した
- 相続人の寄与行為がなければ生じなかったはずの財産の増加があった
財産上の効果がない行為であるけれども、寄与分を主張されることの多い行為として、精神的な援助、協力がありますが、これらの行為によっては寄与分は認められません。
財産上の効果がない行為は、寄与の程度を評価することが難しく、主観的な評価が相続人ごとに大きく異なるおそれがあり、かえって公平を害し、遺産分割協議のトラブルの原因となりかねないためです。
寄与分の認められる類型は?
寄与分の認められる特別の寄与には、さまざまな行為類型があります。
どのような行為であれば、特別の寄与と評価してもらうことができ、寄与分を認めてもらえるのかを具体的にイメージしていただくために、典型的な寄与行為の例を、5つのパターンに分けて解説します。
寄与分の認められる寄与行為は、被相続人の相続財産に対する貢献ですから、相続開始まで(被相続人の死亡まで)に行われた行為でなければなりません。
家事従事型
家事従事型の寄与行為とは、無報酬や、これに近い状態で、被相続人の経営する事業に従事することをいいます。
寄与分を認めてもらうためには、無償で、継続して手伝っている必要があり、給与を受け取っていたり、短期的に少し手伝っただけであったりする場合、寄与分は認められません。
例えば、「被相続人の事業を、無償で手伝った。」とういのが、この寄与行為の典型例です。
金銭等出資型
金銭等出資型の寄与行為とは、被相続人に対して、財産権の給付を行う場合や、財産上の利益を給付する場合のことをいいます。
例えば、「被相続人の負っていた借金を全額返済した。」、「借金の肩代わりをした。」というのが、この寄与行為の典型例です。
不動産ローンを負担した、居住用の不動産を購入してあげた、老人ホームへの施設入所費用を負担してあげた、入院費用などの医療費を負担した、といった行為も、この寄与行為にあたり、寄与分が認められます。
療養看護型
療養看護型の寄与行為とは、無報酬や、これに近い状態で、病気療養中の被相続人の療養介護を行うことをいいます。
例えば、「被相続人が重病の際に、看病をした。」、「被相続人の老後の介護をした。」というのが、この寄与行為の典型例です。
療養介護の必要性が認められなければならないため、単に「同居をして、家事の援助を行った。」、「たまに寝起きや食事、排泄を手伝った。」という程度では、寄与分は認められません。
扶養型
扶養型の寄与行為とは、無報酬や、これに近い状態で、被相続人を継続的に扶養する行為のことをいいます。
例えば、「被相続人と同居し、その生活を支えた。」、「毎月仕送りをしていた。」というのが、この寄与行為の典型例です。
生活費としてお金を渡している場合であっても、実際に同居して面倒を見ていた場合であっても、通常期待される扶養義務の範囲を超えていたかどうか、という点が、寄与分を認めてもらえるかの重要なポイントとなります。
財産管理型
財産管理型の寄与行為とは、無報酬や、これに近い状態で、被相続人の財産を管理する行為のことをいいます。
財産管理型の寄与行為によって、寄与分が主張されることの多い例としては、被相続人が賃貸用不動産を所有しており、その管理運営、立ち退き交渉、賃料の授受などを相続人が行っていた例があります。
不動産の管理に関する行為は、不動産の管理会社に頼むと費用がかかるため、これらを無報酬で行っていたとすれば、寄与分が認められやすい行為です。
寄与分の認められる人は?
相続財産の維持・増加に特別の寄与をした人のために、公平を図るための寄与分ですが、誰にでも認められるわけではありません。寄与分は、相続人にのみ認められています。
たとえば・・・
どれほど献身的な介護をしたとしても、ヘルパーさんや看護師の方には寄与分は認められません。
同様に、どれほど家業を手伝ったり、無給で仕事を手伝ったりしたりした結果、相続財産の増加に貢献をしたとしても、会社の部下には、寄与分は認められません。
相続人
民法では、寄与分が認められる人は、相続人に限定されています。したがって、相続人以外の人が、相続財産の維持・増加のための特別の寄与をしたとしても、寄与分は認められません。
寄与分は、法定相続分にしたがった相続分の算定方法の修正であるため、寄与分が認められるのは相続人に限ります。
もっとくわしく!
寄与分の考え方は、被相続人の相続財産の維持・増加に、特別の寄与のあった人に対して、多くの相続財産を相続させるためのものです。
しかし、相続人以外に寄与分を認めると、介護従事者、愛人、親しい友人、近所の知人など、多くの人が、自分の寄与がいかに大きいかを主張し始め、遺産分割協議が遅れてしまうおそれがあります。
学説上は、相続人以外の人の特別の寄与を、相続人の寄与に包含して、一定の寄与分を認めるという考え方が有力です。この考え方でも、寄与分を認められるためには、相続人の寄与と同視できる程度の行為が必要です。
たとえば・・・
父が死亡したときの相続人が、妻と長男の2人であったとします。
長男は、仕事をしていたため家をあけることが多かったものの、両親と同居しており、長男の妻(配偶者)が、父親の介護、看病を献身的に行っていたとします。
この場合、長男の妻は、父の相続人にはなれないため、寄与分は認められません。しかし、長男の妻の寄与の程度を考えて、長男の寄与分を多めに認めるという解決をするケースがあります。
包括受遺者
相続人以外の人に対して、その貢献に報いる目的で「包括遺贈」がされることがあります。この遺贈を受ける人のことを「包括受遺者」といいます。
この場合、相続人以外の人が、その寄与に応じた報いを受けたことを意味しますので、その貢献の程度に応じた包括遺贈がされている限り、それ以上の寄与分は認められず、寄与分を請求することはできません。
代襲相続人
法定相続人となるべき人が、既に死亡していたり、相続欠格・相続廃除によって相続人となれないときに、その子が代わりに相続することを「代襲相続」といいます。
代襲相続人は、代襲相続をされた人(被代襲者)が特別の寄与をしたときには、その寄与の程度に応じて、寄与分を認めてもらうことができます。
寄与分の金額は?相場、目安はある?
では、寄与分が認められるとして、その金額はどの程度なのでしょうか。寄与分に、目安や相場はあるのでしょうか。
寄与分について明確な基準はなく、話し合いによって決めることができずに調停、審判などで争いとなった場合には、最終的には裁判所が判断をすることとなります。
一方で、次のとおり、寄与行為の類型ごとに、寄与分の一定の基準を考えることができます。
ポイント
- 家事従事型の寄与分の相場・目安
:本来労働に従事していれば得られたであろう給与の金額が基準となります。 - 金銭出資型の寄与分の相場・目安
:実際に出資した金額が基準となります。 - 療養看護型の寄与分の相場・目安
:職業介護人に、同様の業務を依頼した場合にかかる費用や、実際に支出した生活費の金額が基準となります。 - 財産管理型の寄与分の相場・目安
:専門の業者に財産管理を依頼した場合にかかる費用が基準となります。
寄与分の計算方法・算定方法
寄与分がある場合の相続財産の計算方法は、寄与分を除いて、その他の積極財産を、遺言や法定相続分に応じて分割します。
寄与分が認められるときは、相続財産から、ある相続人の寄与分を控除したものを「みなし相続財産」として算定し、これを法定相続分で分けた後で、特別の寄与をした者の相続分に、寄与分を加算します。
もっとくわしく!
- 最初に、相続財産から寄与分の金額を控除し、これを「みなし相続財産」とします。
- みなし相続財産の金額を、遺言がある場合には遺言で指定された割合に応じて、遺言がない場合には法定相続分に応じて分割します。
- 最後に、寄与分を得た相続人に、寄与分額を加算し、具体的相続分を算出します。
たとえば・・・
ある男性がお亡くなりになったとき、その法定相続人が、妻と子2人であり、相続財産の合計額が1億2000万円であったとします。
長男だけが実家に同居して、老後の介護を無償で、継続的に行っており、これを職業介護人(ヘルパーなど)に任せたとき、2000万円の費用が必要であったとします。
寄与分を考慮せずに法定相続分どおりに遺産分割をすれば、妻が「1/2」の6000万円、子はそれぞれ、「1/4」の3000万円ずつを相続することとなります。
一方で、長男に2000万円の寄与分が認められる場合の計算方法は、次の通りです。
- まず、遺産総額の1億2000万円から2000万円を控除した1億円をみなし相続財産とします。
- 遺言がないときは、このみなし相続財産を、妻と長男、次男とで法定相続分にしたがって分け、その計算後に、長男にだけ、2000万円の寄与分を加算します。
- その結果、妻の相続分が5000万円、長男の相続分が4500万円、次男の相続分が2500万円となります。
長男が、介護について特別の寄与をした分だけ、公平の観点から寄与分として考慮され、他の相続人よりも、相続できる財産の額が多くなっているのがわかります。
寄与分の請求方法
寄与分の請求は、まずは、遺産分割協議によって行われます。「特別の寄与をしたので、相続する財産を増やしてほしい。」と、遺産分割協議で主張をし、話し合いをしなければなりません。
寄与分は、法律や家庭裁判所などによって自動的に認めてもらえるものではなく、「寄与分がある」と考える相続人が、自分で主張・立証しなければなりません。
しかし、ある相続人の寄与分が認められることは、他の相続人のもらえる財産が少なくなることを意味しますから、遺産分割協議における話し合いで、円満に寄与分が認められることは多くありません。
実際には、誰の目からみても貢献が明らかであり、相続人全員が認めるような寄与でない限り、寄与分を求める相続人は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
遺産分割調停における話し合いでも解決しない場合、遺産分割審判に移行して、家庭裁判所の判断をもらうことになります。
もっとくわしく!
お亡くなりになるご家族(被相続人)の立場からすれば、寄与分の主張が争いの火種とならないよう、生前に遺言を作成し、特別の寄与をしたと考える相続人に対して生前贈与をしておくことがお勧めです。
遺言によって、特別の寄与のあった相続人に、他の相続人より多くの財産を相続させることは、遺留分を侵害しない限り、被相続人の意向のとおりとなります。
相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか。今回は、特別の寄与をした相続人に対して、より多くの財産を相続できるようにするための寄与分について、が認められる場合、認められない場合と計算方法、相場などについて、相続に強い弁護士が解説しました。
相続問題は、民法に定められたルールにしたがって、法定相続分にしたがって分割するのが原則ですが、「公平」の考え方から、寄与分、特別受益などによる細かい調整をきちんと理解しておかなければなりません。
「相続財産を守る会」には、相続に強い弁護士が在籍しており、寄与分の絡む複雑な相続問題を多く解決した過去の実績から、無料相談にて相続をお手伝いしています。