民法において「相続人」と定められている人が、家族の面倒をまったく見ず、むしろ、「相続人」以外の人が、介護などすべての世話をしているというケースは少なくありません。
相続人ではないけれども、介護など一切の世話を行っていたり、お亡くなりになった方のために費用を支出していた場合、相続財産(遺産9からいくぶんかは頂きたいと考えるのも、無理からぬことです。
よくある相続相談
自分以外の兄弟は離れて暮らしているため、親と同居して、ずっと家業を手伝ってきました。兄弟よりも多めに遺産をもらうことができないでしょうか?
ずっと介護をしてきた、夫の父親が最近亡くなりました。夫とは離婚しましたが、妻である私は遺産をもらえないでしょうか?
私たち弁護士は、このようなご相談をよくお受けします。
亡くなった方に貢献してきた相続人や、相続人ではなくても亡くなった方のために貢献してきた方にとって、「遺産を多少でも多くもらえないのか。」という疑問は当然のことです。
そこで今回は、「亡くなった方への貢献を、相続にあたって評価する制度」について、説明します。
よりくわしく!
現在の相続についての法律でも、相続にあたって、亡くなった方への貢献を評価する制度があります。
さらには、2018年(平成30年)7月に成立した相続法の改正で、亡くなった方への貢献を評価する新しい制度がつくられ、さらに保護が充実しました。
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2018年(平成30年)の相続法改正のまとめは、こちらをご覧ください。
平成30年(2018年)7月6日に、通常国会で、相続に関する法律が改正されました。 正式名称、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」という法律が成 ...
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)、代表弁護士の浅野です。この記事の解説は、私が監修しています。
民法のルールにしたがった相続では、法律に「相続人」とさだめられた続柄の人しか財産をもらうことができません。
しかし、特別な貢献をすれば、その分だけ報いを受けることができる制度があります。利用を検討されているかたは、ぜひ、相続の得意な弁護士にご相談ください。
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「寄与分」制度
現在の相続についての法律では、亡くなった方を生前介護していたような場合に、その貢献を評価して、相続財産(遺産)の取り分を、本来よりも多く認めるという制度があります。
この制度を、「寄与分(きよぶん)」と呼びます。
そこで、2018年改正法について解説する前に、現在でも主張することのできる「寄与分」について、詳しく解説します。
「寄与分」とは?
「寄与分」とは、相続人の、特別な貢献に対して、相続財産(遺産)の中から、その貢献が認められた分の財産を、相続分にくわえて余分にもらえる制度のことをいいます。
亡くなったご家族の、財産の維持や増加について、特別の寄与をしたことで認められるのが「寄与分」です。
むずかしい話なので、具体的な例で、わかりやすく解説します。
たとえば・・・
亡くなった親がのこした相続財産が6000万円ありました。A、B、Cの3人の子どもが相続人であす。
この場合、法律でみとめられた原則的な相続財産の取り分(法定相続分)にしたがうと、A、B、Cはそれぞれ2000万円ずつを受けとります。
しかし、3人の子のうち、Aは亡くなった親と同居して無償で介護をして、一生懸命貢献していました。B,Cは結婚後、実家には近寄りませんでした。
このAの貢献を「寄与分」として評価することで、Aの相続における取り分を増やすのが「寄与分」です。
「寄与分」が考慮される結果、Aの取り分が3000万円、B、Cの取り分がそれぞれ1500万円ずつになる、といった調整がされます。
「寄与分」が認められる貢献とは?
さきほど解説した具体例では、お亡くなりになった親の「介護」を行うことが、「寄与分」を認める貢献となりました。
「寄与分」が認められるのは、介護の場合にかぎりません。
亡くなった方が営んでいた家業を手伝ったり、資金を出したりしていたことで亡くなった方の財産が増えたといえるような場合にも、「寄与分」が認められます。
ただ、「寄与分」が認められるかどうかの判断は難しく、相続人の間で話し合い(遺産分割協議)でもまとまらないときは、家庭裁判所が「寄与分」の金額を決めます。相続手続きは、専門家である弁護士にお任せください。
「寄与分」がみとめられるのは相続人だけ
亡くなったご家族に貢献をすることで認められる「寄与分」ですが、この「寄与分」が認められるのは、相続人に限られます。
相続人以外の方は、どれだけ貢献しても「寄与分」による救済を受けることができません。
たとえば・・・
夫婦と子どもがいる場合に、夫(子どもの父親)が亡くなりました。この場合の相続人は妻と子どもです。妻や子どもが介護などの「貢献」をしていれば、「寄与分」が認められます。
これに対して、子どもの妻は、亡くなった方から見ると、相続人ではありません。
結婚相手の親の介護をしなければならない、という方は少なくないでしょうが、これによって資産の維持や増加に貢献したとしても、亡くなった方からみて「相続人」でない以上、「寄与分」は認められず、遺産は受け取れません。
「寄与分」がみとめられない人の救済は?
相続財産の維持、増加に貢献をしていたとしても、「相続人」でないというだけで「寄与分」が認められません。
相続人でない家族(たとえば、子どもの妻など)は、せっかく義父の介護をしても、相続財産(遺産)からは何の見返りも得られません。
介護を受けていた方からしても、亡くなった後に、面倒を見てくれた方に何ものこせないのは、不本意でしょう。
このような「寄与分」の不都合は、現在の相続についての法律では、「寄与分」の制度以外の部分で、解決しておくべきです。
ポイント
たとえば、相続人以外の方の介護を受け続けるとき、生前に「遺言書」を作成して、自分の面倒を見てくれる方に財産の一部をのこしておけば、このような事態は避けられたかもしれません。
「寄与分」の制度だけでは不都合がある部分については、相続の「生前対策」が非常に重要です。
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また、相続人でない方の貢献を評価する仕組みも、全くないわけではなく、裁判例で救済された例もあります。
例えば、さきほどの例でいうと、次のような裁判例を活用することによって、救済を受けることができます。
ポイント
亡くなった方の子どもの配偶者が、亡くなった方の介護を行っていた場合、この人は相続人ではないため「寄与分」はもらえません。
しかし、裁判例では、亡くなった方の子どもの遺産の取り分を増やすことで、その配偶者の貢献を実質的に考慮した例があります。
ただ、法律では相続人がもらえる「寄与分」についてしか書かれておらず、明確に書かれているわけではない方法で、「特別な救済」をしてもよいのかどうかは、議論がありました。
裁判所が、このような法律にない特別の救済をすることで、もらえる相続財産(遺産)が減ってしまう人もいます。
改正法でみとめられる「特別寄与料」
ここまで解説してきましたとおり、現在の民法でも「寄与分」という制度があるものの、「寄与分」には、「相続人の貢献しか考慮されない。」という不都合がありました。
そのため、明文の規定のない、「相続人以外の人が、相続財産の維持、増加に貢献した場合」に、救済がないおそれがある、という点が、2018年の法改正で議論の対象となりました。
「特別寄与料」とは?
「特別寄与料」とは、2018年(平成30年)7月に、民法の中の、相続に関する法律が改正されたことで導入された制度です。
その改正の目的は、相続人でない人の貢献を考慮するための、新しい制度です。
「特別寄与料」は、どのような場合に認められる?
では、2018年法改正によって導入された「特別寄与料」を請求したい!とお考えの方に向けて、どのような場合に請求できるか、「特別寄与料の請求方法」を解説します。
「特別寄与料」は、以下の要件をすべて満たした場合にみとめられます。
ポイント
被相続人(亡くなった方のことです)の相続人以外の親族が、
被相続人に対して、
無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、
被相続人の財産の維持や増加について特別の寄与をした場合
「特別寄与料」も、基本的には、さきほど説明した「寄与分」と同じで、亡くなった方に対して無償の貢献をしたことで、亡くなった方の財産の維持や増加に特別の寄与をしたといえることが必要です。
ただ、寄与分とは異なる点は、、「特別寄与料」は、亡くなった方の「相続人以外の親族」に認められるということです。
相続人が介護などによって特別な貢献した場合は、「特別寄与料」ではなく、これまでどおり「寄与分」において考慮され、救済されます。
「特別寄与料」がみとめられるのは「親族」だけ
「寄与分」が認められない人の貢献に対する救済として、2018年法改正でつくられた「特別寄与料」ですが、この制度にもまた、もらえる人の限界があります。
「特別寄与料」は、相続人以外の人のうち、亡くなった方の「親族」にしか認められない点にも注意が必要です。
亡くなった方と身分的な関係の全くない人にまで、「特別寄与料」を認めてしまうと、相続をめぐる争いが複雑になりすぎ、解決が難しくなってしまうため、「特別寄与料」を請求できるのは亡くなった方の「親族」に限定されました。
「特別寄与料」は、寄与分と異なり、介護のような「労務の提供」についてだけみとめられます。
注意ポイント
相続人でもなく、親族でもない方は、「特別寄与料」の制度ができたあとでも、相続財産(遺産)から、その貢献分をもらうことができません。
たとえば、ケアマネージャーが仕事の範囲をこえて、亡くなった方のお世話を熱心にした場合であっても、「寄与分」はもちろん、「特別寄与料」も認められません。
「特別寄与料」を請求するには?
「特別寄与料」の考え方は理解できました。
妻のお父さんが亡くなりましたが、最期を支えたのは私なので、妻の兄弟には相続財産(遺産)をとられたくないです。「特別寄与料」の請求はできますか?
では、早速、「特別寄与料」の請求方法について、弁護士が解説していきます。
なお、「特別寄与料」は、2018年法改正でできた制度で、実際にはじまる日は、2018年(平成30年)7月13日から1年以内とされています。
施行日より後に亡くなった方についてしか、「特別寄与料」の請求をすることはできません。
「特別寄与料」の請求方法は?
「特別寄与料」が認められる条件を満たすときは、権利が認められる「親族」は、相続人に対して、「特別寄与料」(金銭)の支払を求めることができます。
注意ポイント
「特別寄与料」は、その権利が認められる本人しか請求できません。
本人以外の第三者が、その親族の方に代わって勝手に「特別寄与料」の支払を求めることはできません。
「特別寄与料」の具体的な金額は、まずは請求をした本人と、請求された相続人との間の話合いによって決められることになります。
もし、話合いができない場合や、話し合ったけれども金額について話がまとまらない場合も考えられます。
話し合いでは「特別寄与料」の金額について合意できない場合は、「特別寄与料」を請求する者は、家庭裁判所に、金額を決めるよう求めることができます。
「特別寄与料」はいつ請求できる?
「特別寄与料」を請求できるのは、相続の開始後、つまり、被相続人が亡くなった後です。
しかし、「特別寄与料」を、家庭裁判所に請求する場合には、「特別寄与料」の請求には、次のとおりの期限があります。
特別寄与料の請求の期限
特別寄与者が相続の開始(=被相続人が亡くなったこと)および相続人を知った時から6ヶ月以内、かつ、相続開始時から1年以内
「特別寄与料」を請求できるのは、亡くなった方の親族であって、しかも生前に亡くなった方の介護などをしていた方です。
そのため、被相続人の方が亡くなった場合、「特別寄与料」を請求したい人(特別寄与者)は、通常は、すぐにその事実を知ることができます。
「特別寄与料」を請求すべき人が、お亡くなりになった事実をすぐには知ることができない場合、「特別寄与料」を請求できる期間が限定されていることに注意が必要です。
「特別寄与料」の金額はどのように計算する?
話し合いで「特別寄与料」を決めるときは、「特別寄与料」の金額は、話し合いで決まった金額となります。
これに対して、家庭裁判所に、「特別寄与料」の金額を決めるよう申し立てた場合には、家庭裁判所は、以下の点を考慮して、特別寄与料の額を決めます。
ポイント
- 亡くなった方に対する貢献の時期、方法や程度
- 亡くなった方がのこした相続財産の額
- その他、関連する一切の事情
亡くなった方が、そもそも財産(遺産)をのこしていない場合には、「特別寄与料」をもらうことはできません。
亡くなった方が、遺言によって財産を誰かに与えている場合には、その残りの部分からしか、「特別寄与料」はもらえません。
寄与分、特別寄与料の相談は、「相続財産を守る会」にお任せください
2018年(平成30年)に行われた相続法の改正によって導入された、「特別寄与料」について解説しました。
「特別寄与料」の制度によって、これまであった「寄与分」によっては救済されない、相続人以外の親族が行った貢献についても、相続財産(遺産)から一定の報いを受けることができるようになります。
「寄与分」、「特別寄与料」によって、これまでの貢献についての権利を請求したい方は、当会にご相談ください。
他の相続人にとってみれば、「寄与分」、「特別寄与料」を主張する方との間では、感情的対立が大きくなるおそれが高く、専門家によるサポートが必要な分野であるといえます。
「相続財産を守る会」では、弁護士があなたの代わりに相続人と交渉をしたり、適切な「寄与分」、「特別寄与料」の金額について、丁寧に解説いたします。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
2018年におこなわれた、改正法では、これまでは考慮されなかった、相続人以外の方の貢献も、相続において考慮されるようになります。
今回の解説では、次のことをご理解いただけます。
解説まとめ
「寄与分」によって救済される「相続人」の特別な貢献と、その方法
「特別寄与料」によって救済される「相続人以外の親族」の特別な貢献と、その方法
ただ、改正法が施行された後でも、「特別寄与料」の条件が満たされているかどうかについては、争いになる可能性があります。また、金額をいくらにするかについても争いになるでしょう。
相続についての争いを防ぐためにも、遺言をふくめた「生前の対策」など、早めの対処が大切です。