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特別寄与料とは?計算方法と相場、請求の流れと期限について解説

特別寄与料は、相続人以外の親族が、被相続人の介護や家業に無償で従事した場合にその対価として支払われる金銭です。似た考え方に「寄与分」がありますが、こちらは相続人にしか請求できず、その不公平を解消すべく、2018年相続法改正によって新設されたのが特別寄与料です。

特別寄与料は、まずは相続人に請求し、話し合いをする必要がありますが、相続人にとっては、寄与を認めれば自分の取り分が少なくなるため、簡単には承諾してもらえません。特別寄与料をめぐる争いを早期に解決するには、証拠を収集するなどの事前準備が大切です。また、話し合いでの解決が難しい場合、家庭裁判所の手続きを利用できますが、特別寄与料には「相続の開始及び相続人を知った時から6か月」または「相続開始時から1年」という期限があるので注意を要します。

本解説では、特別寄与料の内容と要件、請求までのプロセスについて解説します。特別寄与者に該当しそうなら、速やかに弁護士に相談してください。

目次(クリックで移動)

特別寄与料制度の基本

まず、特別寄与料の制度の基本的な法律知識について解説します。また、類似の制度として寄与分がありますが、意味や内容の異なるものなので、区別して理解する必要があります。

特別寄与料とは

特別寄与料とは、相続人以外の親族の行為が、亡くなった方(被相続人)の財産の維持、増加に役立ったときに、相続人に労務の対価を請求できる制度、またはその金銭のことです。典型例としては、故人の子の配偶者、故人の兄弟姉妹などが、介護や家業に無償で従事したケースが挙げられます。

特別寄与料は、相続人以外の親族のための制度です。特別な寄与が認められる場合には、寄与の認められた人(特別寄与者)は、相続人に対して、貢献の対価を請求できます。

特別寄与料について定めた民法1050条の条文は、次の通りです。

民法1050条

1. 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。

2. 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。

3. 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。

4. 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。

5. 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。

民法(e-Gov法令検索)

特別寄与料の主な目的は、相続人以外の親族が無償奉仕をしているのに遺産が全く得られないという不公平を解消する点にありますが、これによって、立場の強い相続人からの介護や看護の押し付けから逃れられる付随的な効果があり、相続人ではない人が、他の親族と対等な関係を築く手段としても役立ちます。

特別寄与料は、2018年の相続法改正によって新設され、2019年7月1日に施行されました。

特別寄与料と寄与分の違い

特別の寄与と似た制度に、寄与分があります。

寄与分は、相続人の行為が、被相続人の財産の維持、増加の一助となった場合に認められるもので、寄与分を有する相続人は、他の相続人よりも多くの遺産を受け取ることができるという効果が生じます。寄与分もまた、故人への特別な貢献に報いる制度という点は、特別寄与料と共通しますが、次の4点で違いがあります。

意味の違い

特別寄与料と寄与分とは、本質的な意味合いからして異なります。特別寄与料は、寄与を権利の形にしたものですが、寄与分は、寄与を相続分に反映するものです。寄与分の考え方だと、被相続人への貢献に報いる方法として「相続分を増やす」という考え方をとるため、相続人ではない場合にはどれほど財産形成に貢献しようとも「相続人ではない」という形式的な理由だけで遺産が取得できないという不公平が生じていました。

こうした不公平を解消するために、貢献に報いて財産を与えるために、特別寄与料の制度が新設されたのです。

利益を享受する主体の違い

まず、利益を享受する主体が異なります。寄与分は、相続人でなければ主張できないのに対して、特別寄与料は、相続人以外の親族を対象とした制度です。特別寄与料は、相続人でない人の貢献を考慮するために導入されたものだからです。

認められる要件の違い

認められる要件にも違いがあります。寄与分が相続分に加算されるには「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付」が必要ですが、特別寄与料が発生しうる行為態様は「被相続人の療養看護その他の労務の提供」とされます。特に、特別寄与料では「財産上の給付」が対象とならず、労務提供に限られている点が、寄与分との大きな違いです。

交渉決裂後の手続きの違い

特別寄与料と寄与分とでは、協議での解決が難しい場合の手続きにも違いもあります。寄与分を有する相続人は、遺産分割調停の申立てのなかでしか寄与分の処分を争うことはできません。一方で、特別寄与料の場合は、遺産分割に関する事件が家庭裁判所に係属しているかどうかにかかわらず、家庭裁判所への申立てによって請求することができます。

寄与分の基本について

特別寄与料を特別縁故者の違い

相続人以外の貢献に報いる制度としては、特別縁故者という考え方もあります。ただ、特別縁故者は、相続人が存在しないときに、残った遺産を特別の縁故のある人に与えるものであって、相続人のいるケースではそもそも適用されることはない点が、特別寄与料とは大きく異なります。

特別縁故者について

特別寄与料を請求できる場合とは

特別寄与料を請求するためには、法律の定める一定の要件を満たす必要があります。そこで次に、特別寄与料を請求できる人(特別寄与者)の条件と、特別寄与料が認められる要件とに分けて解説していきます。

特別寄与料を請求できる人の条件

特別寄与料を請求するための前提として、「親族であること」という積極的要件と、「相続人でないこと」「相続権を失った者でないこと」という消極的要件を充足する必要があります。

親族であること

大前提として、被相続人の親族であることが、特別寄与者の条件となります。親族とは、6親等内の血族、配偶者、および3親等内の姻族のことを指します。親族かどうかの判断の基準時は、被相続人の相続開始時とされています(離婚したなどの事情で相続開始時に親族でなくなった者には特別寄与料の請求はできません)。

したがって、特別な貢献があったとしても、内縁の妻や夫、認知されていない子、家事代行者や介護ヘルパーなどは特別寄与者にはなれません。特別寄与者の範囲が親族に限定されるのは、請求権者の該当性をめぐって当事者間で主張立証が繰り返されるなどして相続をめぐる紛争がいっそう複雑化、長期化する事態を避けるためです。

相続人でないこと

次に、相続人でないことが必要です。相続人は、特別の貢献があるならば寄与分を主張することができるため、特別寄与料による保護の対象とはなりません。相続人でないことの条件について、次のようにまとめることができます。

スクロールできます
配偶者必ず相続人となる
必ず相続人となる
被相続人の配偶者または子がいるときは相続人にならない
父母被相続人の配偶者または直系卑属がいるときは相続人にならない
祖父母被相続人の配偶者、直系卑属、または父母がいるときは相続人にならない
兄弟姉妹被相続人の配偶者、直系卑属または直系尊属がいるときは相続人にならない
甥・姪被相続人の配偶者、直系卑属、直系尊属、または兄弟姉妹がいるときは相続人にならない
被相続人の子・孫・兄弟姉妹・甥姪の配偶者相続人ではない

相続権を失っていないこと

加えて、相続放棄相続欠格相続廃除により相続権を失っていないことも必要です。相続権を失っている方は、そもそも相続人の資格を有していれば寄与分による解決が期待できる立場だったのであり、それにもかかわらず相続権を失っていることを考慮し、特別寄与者にはなれないこととされています。

特別寄与料が認められる要件

特別寄与者の条件を満たす場合、次に、特別寄与料が認められる要件に該当するかを検討します。具体的には、「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」といえるかどうかを検討します。

上記の要件は、次の5つの観点に分けて検討することができます。

  1. 被相続人の財産の維持又は増加の事実があること
  2. ①と相続人以外の親族の行為との間に因果関係があること
  3. 行為が労務の提供といえること
  4. 行為が無償であること
  5. 行為が特別の寄与であるといえること

財産の維持又は増加

まず、亡くなった方(被相続人)の財産が維持又は増加している事実が必要です。

親族の行為との因果関係

財産の維持又は増加が、親族の行為との間に因果関係がある必要があります。

労務の提供

行為の態様は「労務の提供」に限定され、寄与分とは異なり財産上の給付(財産の出資など)は対象になりません。「療養看護」は労務提供の例として挙げられているだけで、この態様に限定する趣旨ではなく、その他に家事従事や財産管理などの労務の提供のしかたもあります。

【労務の提供といえる行為】

  • 被相続人の介護や看護
  • 被相続人の家業の手伝い

【労務の提供といえない行為】

  • 被相続人の生活費の負担
  • 被相続人の事業に対する出資

無償であること

また、労務提供は「無償」である必要があります。被相続人から対価を得ていると、特別寄与料の要件を満たさず、請求はできません。例えば、被相続人から契約や遺言によって、貢献に報いる趣旨で財産上の利益を受けている場合には、無償ということはできません。ただし、労務の対価とはいえないほど利益が小さいときは、無償と判断される可能性があります。

特別の寄与があること

最も重要なのが、労務提供が「特別の寄与」といえる必要がある点です。特別の寄与というには、その貢献に報いるのが相当であると認められるほどの顕著な貢献があったことを要すると考えられています。具体的には、例えば療養看護のケースだと、その具体的態様に加えて、被相続人が療養看護を必要とする状況にあったかどうか、継続的に行われていたかどうかといった事情が加味されます。

特別寄与料の計算方法

特別寄与料の計算方法は、寄与分制度における計算方法に準じて考えられます。以下では、療養看護型と家業従事型とに分けて、計算方法について解説します。

もっとも、算出された金額よりも、実際もらえる特別寄与料は少なくなることがあります。

相続人が受け取った遺産を超えて負担するのは相当でないため、特別寄与料は、被相続人の相続開始時における財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができません(1050条4項)。相続人が複数いる場合、各相続人の負担額は、特別寄与料に当該相続人の相続分を乗じた額となります(1050条5項)。相続分が指定されている場合は指定相続分、指定されていない場合は法定相続分によることとなり、相続放棄があった場合は、放棄による変動後の相続分にしたがいます。

被相続人の看護・介護をしていた場合(療養看護型)

特別寄与料の代表例が、被相続人の介護を無償で行っていたケースです。

  • 夫の父が認知症を発症して要介護状態になった。兄夫婦は遠方に住んでいるため、次男の妻である自分がパートを辞めて義理の父の介護をしていた。
  • 姉の介護が必要となったが、甥や姪は仕事を理由に協力しない。仕方なく妹の自分が、アパートの賃貸借契約を解約し姉の家に住み込みで介護をしていた。

介護や看護をしていたケースは、「その労務を外注したらいくらかかったか」という視点から金額を計算します。そのため、療養看護型における特別寄与料の計算式は、次のようになります。

  • 療養介護型の特別寄与料 = 介護報酬相当額 × 療養看護の日数 × 裁量割合

「介護報酬相当額」は、本来介護ヘルパーなどを雇った場合に支払う日当額です。ケースにもよりますが、概ね1日5,000円から8,000円程度です。介護保険制度で利用される介護報酬基準額が参考にされ、要介護レベルに応じて金額が変わります。

「療養介護の日数」は、特別寄与者が介護にあたった日数であり入院期間、施設入所期間、または介護サービスを受けた期間は含まれません。

「裁量割合」は、特別寄与料を適切に調整するために、家庭裁判所の判断で定められるもので、0.5〜0.9の数値の幅で定められることが多いです。もともと親族には扶養義務があり、しかも介護や看護の専門家ではないことから、本職の報酬をそのまま基準にすると不相応な金額になることがあるためです。

以下では、具体例で、療養看護型の特別寄与料の計算について解説します。

【事例】

被相続人の姉Aが、相続人である子BとCに対し、無償の療養看護を理由に特別寄与料の支払いを請求した。相続財産の総額は1000万円であり、遺贈はなかった。Aの被相続人に対する介護の日数は合計で3年間。その後は介護施設でのサービスを受けることになったので、介護していない。要介護レベルは介護開始から2年を経過した後高くなった。

介護報酬相当額は、最初の2年間につき日額5,000円、残りの1年間につき日額6,000円、裁量割合は0.7とする。


【特別寄与料の計算】

Aの特別寄与料 = (5,000円×365日×2年×0.7)+(6,000円×365日×1年×0.7) = 2,810,500円

Bの負担額 = 2,810,500円×1/2=1,405,250円

Cの負担額 = 2,810,500円×1/2 = 1,405,250円

被相続人の事業に従事していた場合(家業従事型)

典型例の2つ目は、相続人以外の親族が、被相続人の事業を無償で手伝っていたケースです。

  • 夫の父が切り盛りする居酒屋の手伝いを毎日していた。特に給料は受け取っていなかった。
  • 兄は生前会社を経営していたが、その事業は弟の自分も協力していた。兄夫婦と暮らしていたし、他の従業員の給料のこともあるので、金銭を受け取っていたとはいえ、取るに足らない額だった。

家業に従事していたケースでは、「他の職場で働いていた場合にはいくら稼げたのか」という視点から特別寄与料を計算します。そのため、家業従事型では次の計算式で算定されることになります。

  • 家事従事型の特別寄与料 = 通常得られたであろう給与額 × (1−生活費控除率) × 寄与期間

「通常得られたであろう給与額」は、賃金センサスを参考に、同種・同規模・同年齢の年間給与額を参考にすることが多いです。

「生活控除率」は、算出できた給与額から、被相続人に負担してもらっていた生活費を控除するための割合です。住居や生活費などに不安のない暮らしをしていた場合、交通死亡事故における被害者の逸失利益を算定する際の数値が適宜参考にされることもあります。

以下では、具体例で、家業従事型の特別寄与料の計算について解説します。

【事例】

被相続人の姉Aが、相続人である子BとCに対して、無償の家事従事を理由に特別寄与料の支払いを請求した。相続財産の総額は1000万円であり、遺贈はない。Aの「通常得られたであろう給与額」は、賃金センサスをもとにすると、月額でおよそ20万円であった。

Aは被相続人と寝食を共にしていた。家賃、食費、水道代、光熱費などは一切負担しておらず、少なくとも月に10万円分の生活費がかかっていた。Aは被相続人の家業に5年間従事していた。


【特別寄与料の計算】

Aの特別寄与料 = 20万円 × (1-0.5) × 60ヶ月 = 600万円

Bの負担額 = 600万円 × 1/2 = 300万円

Cの負担額 = 600万円 × 1/2 = 300万円

当事者間の話し合いで決める場合

上記の式は、あくまでも裁判所が特別寄与料を計算するときに参照されるものです。当事者間の話合いで決める際には、これらの例にはこだわらず、自由な額が提示され、話し合いによってその金額で合意に至ることもあります。この場合、当事者が合意するなら、特別寄与料はいくらでも構いません。

とはいえ、交渉や話し合いの差異にも、裁判所における計算の結果は一定の材料として考慮されるため、よく理解しておく必要があります。

遺産分割の基本について

特別寄与料の相場

次に、特別寄与料の相場の目安について解説します。

前章でも説明した通り、特別寄与料には一定の考え方に基づく計算式はあるものの、具体的にいくらになるかはケースバイケースの判断が必要となり、一律の相場を決めることはできません。また、特別寄与料の計算方法については法律でも明確に定められてはいません。また、交渉の段階であれば、相続人の承諾さえ得られれば、特別寄与者が自由に金額を設定することもできます。

話合いがまとまらず家庭裁判所に処分を申し立てた場合も、寄与の時期、方法、程度、相続財産の額といった要素を総合的に考慮して、特別寄与料が定められます。

特別寄与料の請求方法

次に、特別寄与料を請求する方法について解説します。

特別寄与者は、相続人の一人または数人に対し、特別寄与料の支払いを請求することができます。請求方法としては、まず相続人との協議を試みるのが通常ですが、話し合いが難しいときは家庭裁判所に調停の申立てをします。

相続人と協議する

特別寄与料を請求するとき、まずは相続人全員に連絡し、話し合いの場を設けます。話し合いによって特別寄与料をもらうには、相続人を納得させる必要があり、そのためには、介護や家業の従事といった事実について、証拠となる資料を提示しましょう。

証拠資料があれば労務の提供の程度についても相続人にイメージしてもらいやすくなります。特別寄与料を期待するならば、日頃から介護状況や家業の従事について記録をつけておく必要があります。特別寄与料の金額についても合意を得やすいよう、労務提供に従事した際にかかった費用の領収書なども必ず保管しておいてください。

話合いがまとまった場合は、争いが再燃しないよう必ず合意書を作成しておきます。協議で解決できるなら裁判所における手続きは扶養で、時間的、金銭的な負担は少なくて済みます。

遺産分割協議の進め方について

家庭裁判所に調停を申し立てる

とはいえ、特別寄与料を請求する場面は、まさに相続人とそれ以外の親族との利害が対立する局面です。特別寄与料を請求すれば、相続人からの強い抵抗が予想されるでしょう。相続人との協議が功を奏しないとき、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停は、調停委員に仲立ちしてもらい、話合いによる解決を目指す手続きです。

【手続きの概要】

  • 申立先
    相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所
  • 申立てに必要な費用
    申立人1人につき収入印紙1,200円分
    連絡用の郵便切手(金額は家庭裁判所により異なる)
  • 申立ての必要書類
    申立書(原本1通、写しを相手方の人数分)
    申立人と相手方の戸籍謄本
    被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

【申立書の書式及び記載例】

特別の寄与に関する処分調停の申立書(裁判所)

併合されていない遺産分割事件や、他の相続人に対する特別寄与料請求事件がある場合は、家庭裁判所の裁量によって併合されることもあります。例えば、遺産分割事件と併合されていない場合には、相続財産の範囲や額を明らかにすることが難しく、相手方が特別の寄与を認めていないなどの事情があると、移送の決定がなされることもあります。

調停が不成立となった場合には、審判手続に移行します。

特別寄与料の請求期限

特別寄与料には、請求期限があります。具体的には、相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月を経過すると、時効によって請求ができなくなります。また、相続開始の時から1年を経過したときにも、請求はできません。

そもそも、特別寄与料を請求できるほどに被相続人に貢献をしている人は、被相続人が死亡すればすぐに知れるのが当然でしょう。相続が開始した後はスピーディに対応せねばならず、直ちに弁護士にご相談ください。なお、特別寄与料の請求は、相続の開始後、つまり、被相続人が死亡した後でなければすることができません。

相続手続きの期限について

特別寄与料と相続税申告

特別寄与料によって財産が移転した場合に、相続税の申告の注意すべきポイントを解説します。特別寄与料を受け取った人(特別寄与者)も、支払った相続人も、特別寄与料が税額に影響するため、税金の計算を誤らないよう注意しておかなければなりません。

特別寄与料を受け取った人の相続税

特別寄与料を受け取った人(特別寄与者)は、確定した特別寄与料の額に相当する金額について、被相続人からの遺贈によって財産を取得したものとみなされます(相続税法4条2項)。

したがって、特別寄与者は受け取った財産について相続税を納める必要があります。更に、特別寄与者には相続税額の2割加算が適用されます。遺贈などによって財産を取得した者が「被相続人の一親等の血族および配偶者以外の者」である場合には、相続税が2割増で課税されるところ(相続税法18条1項)、特別寄与者はこれに該当するからです。

申告の期限は、特別寄与料の金額が定まったことを知った日の翌日から10ヶ月以内となります(相続税法29条)。

特別寄与料を支払った相続人の相続税

特別寄与料を受け取った人だけでなく、支払った相続人もまた、相続税の手続きが必要になるケースがあります。

特別寄与料を支払った相続人は、相続税の申告において課税対象の遺産から特別寄与料を差し引くことができます(相続税法13条4項)。相続税の申告が済んだ後で特別寄与料を支払った場合には、特別寄与料の額が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更生の請求をすれば、還付を受けることができます(相続税法32条1項)。

特別寄与料請求のトラブルを防ぐための対策

最後に、特別寄与料請求でのトラブルを防ぐための対策について、解説します。

被相続人となる者が生前に行う対策

特別寄与料が請求される根本的な理由は、特別の寄与があるのに、その働きについて何らの対価も与えていないことによって不公平感が生じてしまうからです。言い換えれば、亡くなる前に、その貢献に報いておけば、特別寄与料をめぐる争いを防止できます。

被相続人となる者が生前に行っておける対策としては次のものがあります。

  • 特別の寄与に見合う財産を生前贈与、もしくは、遺贈する。
  • 生命保険の受取人として、特別の寄与のある親族を指定する。

これらの対策では、生前に遺言書を書いておくことが非常に重要です。しかし、特別の寄与があるからといって優遇しすぎ、財産を与えすぎて相続人の遺留分を侵害すると、逆に、相続人から不満が生じて、争いに発展してしまいます。

遺言書の基本について

相続発生後に相続人が行う対策

相続発生後に、特別寄与料を請求されてしまった相続人の側でも、注意点があります。

親族に特別寄与料を請求された場合、早期に解決したいなら、頑なに特別寄与料を認めないのではなく、妥協点を探るなど、協力的な姿勢をみせる手が有効です。相続開始後は相続人ではない親族への対応以外にもやることがたくさんあります。他の共同相続人との間で、遺産分割の協議をしていかなければなりません。こうした対応を個別に行っていると想像以上に手間がかかります。

まだ遺産分割が済んでいないのであれば、特別寄与者に相続分の一部を譲渡しておけば、遺産分割手続きに参加してもらって、そのなかで一括解決することができるようになります。

相続分の譲渡について

特別寄与料を請求する人(特別寄与者)ができる対策

最後に、特別寄与料を請求する人(特別寄与者)がすべき対策を解説します。相続開始後に、唐突に請求をしても相続人からの反発を受けるリスクが高いです。あらかじめ、相続人となる人に対して、特別寄与料が発生することを通知し、理解を得る努力をしておきましょう。

また、有利に交渉を進めていけるよう、日頃から証拠を揃えて準備しておく必要があります。例えば、次のような資料が有用です。

【看護療養型の特別寄与料の証拠】

  • 要介護認定通知書
  • 要介護の認定資料
  • 診断書やカルテ
  • サービス利用票
  • 医療機関の領収書
  • 介護日誌や業務日誌などの介護記録

【家業従事型の特別寄与料の証拠】

  • タイムカード
  • 雇用契約書
  • 取引先とのメールなど就労の証拠
  • 被相続人の確定申告書、税務書類
  • 事業用の預金通帳

どれだけ被相続人に貢献したとしても、その事実を客観的に示す資料がなければ、特別の寄与と認めてもらいづらいです。「親族との揉め事は避けたい」という気持ちが強いなら、特別寄与料の請求を控えるという選択肢もあります。

しかし、いくら親族であるからといえ、労いや感謝の一言もかけられず、無償でこき使われることは耐え難いはずです。今後は相続人が優先して介護や家業に従事するように通知したり、特別寄与料を請求する可能性があることを示唆したりしておく必要があります。

遺産分割がもめる理由と対処法について

まとめ

今回は、特別寄与料について、詳しく解説しました。

特別寄与料の制度は、相続人以外の親族が、自分の尽力で維持、増加された遺産について、相続人からの金銭の支払いという形で、支払ってもらえるものです。その請求は、相続人との間で話し合うことから始めますが、合意を形成できない場合には、家庭裁判所を介して解決していくことになります。

相続人からは強い反発を受けることも考えられますし、相続人の立場が強かったり、人数が多かったりして、特別寄与者1人では交渉のハードルが高いケースもあります。特別寄与料に関する争いをスムーズに解決したいなら、相続問題に明るい弁護士に相談することをお勧めします。

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