特別縁故者(とくべつえんこしゃ)という言葉をご存じでしょうか。ご家族がお亡くなりになったときに相続できる人は民法で定まっていますが、相続人でなくても相続できる場合もあります。
相続人がいない場合に、相続人でなくても相続することができるのが「特別縁故者」の制度です。
今回は、特別縁故者とはどのような人がなることができるのか、また、特別縁故者が、相続人ではないのに相続できる場合とはどのような場合であるか、その具体的手続きなどについて、相続に強い弁護士が解説します。
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特別縁故者が財産をもらえるのは、相続人がいないとき
民法には、相続人の決め方についてのルールが記載されており、それによれば、配偶者(夫または妻)、子、親、兄弟姉妹などが法定相続人となります。
しかし、法定相続人が一人もいないことがあります。法定相続人が先に亡くなったり、相続放棄をすることなどによってこの状況が起こります。特別縁故者が財産をもらえるのは、まさにこの相続人がいないときです。
相続人がいないとき(相続人不存在のとき)には、相続財産管理人の選任や公告など一定の手続きを踏んだ後、相続財産は国(国庫)に帰属します。この複雑な手続きは詳しくは、下の解説をごらんください。
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相続人がいないときの相続財産の帰属は、こちらをご覧ください。
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念のため、手続きの順序と、定められた期限について、簡単にわかりやすく弁護士がまとめました。
相続人の存在が不明である場合の流れ
家庭裁判所による相続財産管理人の選任・公告
上記から2ヶ月後に、相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告・催告(最低2ヶ月間公告)
相続人捜索の公告(最低6ヶ月間)
相続人の不存在が確定
特別縁故者に対する相続財産分与の申立て(相続人捜索の公告期間の満了後3ヶ月以内)
家庭裁判所による特別縁故者の認定
相続財産分与の申立ては、被相続人(お亡くなりになった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行う必要があります。
特別縁故者の相続財産分与請求権とは?
特別縁故者の相続財産分与請求権とは、相続人がいないときに、お亡くなりになった方と特別の関係のある方が、お亡くなりになった方の財産を受け取ることができるという権利です。この権利をもつ方を特別縁故者(とくべつえんこしゃ)といいます。
お亡くなりになった方(被相続人)の意思としても、自分の財産を国にあげるくらいであれば、世話になった人、死亡直前に献身的に介護してくれた人などに、たとえ他人であっても財産を与えたいと思うのが自然ではないでしょうか。
特別縁故者の相続財産分与請求権は、このような故人の思いを実現するための権利でもあるのです。
【ケース別】特別縁故者になれるのは誰?
相続人がいないとき、特別縁故者が財産分与を請求できると解説しました。しかし、お亡くなりになった人(被相続人)の知人であれば、だれでも特別縁故者になれるわけではありません。
特別縁故者になるためには、親族、血縁である必要はありませんが、一定の近しい関係にあることが必要なのです。
弁護士のもとにも、「自分は特別縁故者になれるのではないでしょうか?」、「どうせ国にとられるのであれば、自分が財産を請求したいのですが、可能でしょうか?」といった相談が寄せられます。
そこで今回の解説では、ケースに分けて、特別縁故者としてどのような人であれば認められるのか、特別縁故者になれるのは誰なのかを、相続に強い弁護士が解説します。特別縁故者の権利について定める民法958条の3第1項に規定された、次の順序にしたがい解説します。
ポイント
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
【ケース①】被相続人と生計を同じくしていた者
特別縁故者の1つ目の類型は、「被相続人(お亡くなりになった方)と生計を同じくしていた者」です。
- 内縁の妻や夫(婚姻届を出していないが夫婦と同視できるもの)
- 事実上の養子・養親(正式な養子縁組をしていないが親子と同視できるもの)
などがこれに該当します。この類型に該当するのは、文字どおり、お亡くなりになった方と一緒に暮らすなどして生計をともにしていた方です。
【ケース②】被相続人の療養看護に努めた者
特別縁故者の2つ目の類型は、「被相続人の療養看護に努めた者」です。
被相続人(亡くなった方)を積極的に看護・介護した方がこれに該当します。ケアマネージャーとしてお世話をしていた方のような、職業として看護・介護した人はこれには該当しません。
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【ケース③】その他被相続人と特別の縁故があった者
特別縁故者の3つ目の類型は、上のケース①(被相続人と生計を同じくしていた者)、ケース②(被相続人の療養看護に努めた者)のいずれにも当てはまらないが、「被相続人と特別の縁故があった者」です。
ケース①やケース②には該当しないものの、これらのケースと同じように亡くなった方と密接な関係が認められたり、その方に財産をのこすことが亡くなった方の意思にも合致するであろうと認められる場合がこれに該当します。
「特別の縁故があった」かどうかというのは、抽象的な基準でわかりにくいと思います。過去の裁判例で特別縁故者として認められたのは、以下のようなケースです。
事例1(東京家庭裁判所平成24年4月20日審判)
Aさんは、被相続人の姉の長男の妻(被相続人の義理のめい)です。裁判所は、Aさんについて、
- 被相続人が、家の血を引く唯一の近親者として、Aの夫を気にかけており、相当程度親密な交流をしていたこと
- 被相続人は、Aの夫の生存中は、同人に対して財産の管理処分を任せる意向を有するなどして頼りにしていたこと
- A自身も夫を通じて被相続人と親密な交流を継続していたこと
- 被相続人がAの夫に財産の管理処分を託する遺言書を書いた旨伝えていたことからすれば、被相続人は、Aに対しても一定程度の経済的利益を享受させる意向を有していたと認められること
などを理由に、特別縁故者に該当すると認めました。
事例2(東京家庭裁判所平成24年4月20日審判)
Bさんは、被相続人の妻の母の妹の娘(被相続人の妻の実の従妹、被相続人の義理の従妹)です。裁判所は、Bさんについて、
- 長期にわたり被相続人夫妻と交流を続け、ある時期以降は、被相続人の自宅を訪問して家事を行い、被相続人の妻の世話を続けたこと、被相続人の妻死亡時には、被相続人とBの二人で密葬をしたこと、被相続人死亡時に遺骨を寺に納骨したことなどから、被相続人とBの関係は、通常の親戚づきあいを超えた親密な関係にあったと認められる
- 被相続人がBに財産の管理処分を託する遺言書を書いた旨伝えていたことからすれば、被相続人は、Bに相当程度の財産をのこす意向を有していたと認められる
として、Bは特別縁故者に該当すると判断しました。
事例3(東京高等裁判所平成26年5月21日決定)
Cさんは被相続人の従兄です。裁判所は、Cさんについて、
- 被相続人に代わって被相続人の父親の葬儀を執り行っただけではなく、被相続人の父親の死後は、自宅に引きこもりがちとなり周囲との円滑な交際が難しくなった被相続人に代わって、被相続人宅の害虫駆除作業や、建物の修理等の重要な対外的行為を行った。
- 民生委員や近隣と連絡を取り、緊急連絡先としてCの連絡先を伝え、時々は被相続人の安否の確認を行っていた。
- 被相続人の死亡時には遺体の発見に立ち会い、その遺体を引き取り、被相続人の葬儀も執り行った
として、特別縁故者に該当すると判断しました。
以上のような場合に特別縁故者として認められます。なお、被相続人との関係の密接度合いなどによって、特別縁故者に該当する場合であっても、財産を分けてもらえる割合は変わってきます。
「特別縁故者かどうか」が争いになってしまったら?
ここまで、特別縁故者に関する裁判例を紹介してきたとおり、ある人が「特別縁故者と認められるかどうか」は、しばしば争いとなります。
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どのような争い方がある?
特別縁故者だと考える人が家庭裁判所に対して財産分与請求権を行使すると、家庭裁判所は、次の2点の判断(審判)を行います。
ポイント
請求者が、特別縁故者にあたるかどうか。
特別縁故者に、いくらの財産を与えるのが適切か。
家庭裁判所の審判に不服がある場合には、申立人は、「即時抗告(そくじこうこく)」という手続きを2週間以内に行うことによって、高等裁判所に審理してもらうことができます。
たとえば・・・
特別縁故者にあたると思って財産分与の申立てをしたのに特別縁故者にあたらないと判断された場合や、特別縁故者にあたるとされたものの、財産分与の額が思っていた額より少ない場合には、即時抗告をすることを検討することになります。
特別縁故者としてより多くの財産を受け取るためには?
特別縁故者として認めてもらうため、また、特別縁故者としてより多くの財産を受け取るためには、自分が特別縁故者にあたること、また、亡くなった方との関係が深かったことについて、家庭裁判所に証拠を提出した上で説明をする必要があります。
したがって、家庭裁判所の手続きを有利に進めるために、事前に十分な証拠をそろえておく必要があります。
上で解説した通り、特別縁故者の類型には、①被相続人と生計を同じくしていた者、②被相続人の療養看護に努めた者、③その他被相続人と特別の縁故があった者、という3つの類型があります。類型ごとに、そろえておくべき証拠は異なります。
たとえば・・・
療養看護に努めたことを主張するのであれば、亡くなった方のお世話をいつからいつまでしていたのか、どれくらいの頻度でどのくらいの時間していたのか、自分でお金を出していたのであればどの程度出していたのか、といった点がポイントとなります。
したがって、被相続人のもとへ通うための交通費の支出の記録、被相続人とのやり取りの記録などを残しておく必要があります。
被相続人のために立替払いしたり、療養看護のために自らお金をかけたのであれば、支出についての領収書や振込明細の保管などが重要です。被相続人と一緒にいる様子を定期的に写真におさめておくことも有益です。
相続手続は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、「特別縁故者」という聞きなれない用語について解説しました。お亡くなりになった方(被相続人)に一定の関わりをもっていた場合、特に、独居であったり身寄りのない方であった場合、相続人でないからといって財産をあきらめてはいけません。
特別縁故者にあたるとして財産分与請求を行うときは、少しでも「特別縁故者である」と認めてもらいやすくなるために、また、少しでも多くの財産の分与を家庭裁判所に認めてもらうためにも、今回の解説を参考にしてください。
「相続財産を守る会」の弁護士は、あなたが特別縁故者として認められ、より多くの財産を受け取ることができるよう、どのような資料・証拠を用意すればよいかをアドバイスいたします。
被相続人がすでにお亡くなりになっている場合だけでなく、生前から、特別縁故者としての請求も見すえてどのような準備をしておくべきかについてもアドバイスいたしますので、お気軽にご相談ください。