相続が開始されたとき、まずは遺言に指定された相続分(指定相続分)にしたがって分割され、遺言がないときは、民法に定められた相続分(法定相続分)にしたがって分割されます。
しかし、遺言もなく、法定相続人となる人が一人もいないとき、相続財産は誰が相続するのでしょうか。少子高齢化、単身世帯の増加、晩婚化で話題の「おひとりさま相続」の問題です。
相続をする人が誰もいない財産について、「国庫に帰属する」という結論は有名ですが、相続財産(遺産)が国庫に帰属するまでには、財産を受け継ぐことのできる人がいる可能性があります。これを「相続人不存在」といいます。
そこで今回は、相続人がいない、身内・血縁のいない人がお亡くなりになったときに、相続財産が誰のものになるか、どのような手続きが必要かについて、相続に強い弁護士が解説します。
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「法定相続人」についての基本的な考え方は、こちらをご覧ください。
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相続財産を守る会を運営する、弁護士法人浅野総合法律事務所では、相続問題と遺産分割協議のサポートに注力しています。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野です。
相続人が誰一人いない状態の方の相続のことを「おひとりさま相続」といったりします。おひとりさまの相続は、何も対策をしなければ最終的には相続財産が国庫に帰属してしまいます。
身寄りがなく、相続人がいなくなる可能性のある方は、生前から、遺言を作成したり、エンディングノートを作成したりといった、相続財産を、望む人にお渡しするための準備をしておきましょう。
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相続人が誰もいない場合(相続人不存在)とは?
「相続人が誰もいない場合」(相続人不存在)というのは、遺言によって指定された相続人がおらず、かつ、法定相続人も誰一人いない状態をいいます。法定相続人がいないかどうかは、次の順序でご確認ください。
ポイント
- 配偶者がいる場合、配偶者は必ず法定相続人になります。
- 子がいる場合は、子が法定相続人となります。
- 直系尊属(両親、祖父母など)がいる場合は、直系尊属が法定相続人となります。
- 兄弟姉妹がいる場合は、兄弟姉妹が法定相続人となります。
→配偶者がいない場合は?
→子がいない場合は?
→直系尊属がいない場合は?
→兄弟姉妹もいない場合、「相続人が誰もいない」状態となります。
したがって、配偶者がおらず、第一順位の法定相続人(子)、第二順位の法定相続人(直系尊属)、第三順位の法定相続人(兄弟姉妹)のいずれもいない場合にはじめて、相続人が誰もいない(相続人不存在)といえます。
相続人が誰もいない方には、次の2つのケースがあります。相続人がまったくいない状態を、相続人不存在といいます。
- 元々相続人が誰もいないケース
- 相続人が死亡、相続放棄、相続欠格、相続廃除などでいなくなったケース
元々相続人が誰もいないケース
もともと結婚をしていない独身者であれば、配偶者(夫または妻)はいませんし、養子縁組をしていない限り子もいないことが多いでしょう。
この場合には、兄弟姉妹などもおらず、既に父母、祖父母も他界してしまっており「天涯孤独」であるという方には、もともと相続人は誰もいない状態であるということになります。
相続人が死亡等でいなくなったケース
相続人がいたけれども、既に死亡してしまったため、今は相続人がいないという方もいます。この場合、お亡くなりになった方の代わりに、その子が相続する「代襲相続」が起こらないかどうか、慎重に検討してください。
相続財産が少なく、消極的財産(負の財産・借金など)が多く、相続人が「相続放棄」してしまった場合にも、相続人が誰もいない状態(相続人不存在)となることがあります。
相続人が全員、相続廃除や相続欠格によって、相続人としての資格を喪失してしまった場合もまた、相続人が誰もいない状態(相続人不存在)となります。
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相続人になれないケース(相続欠格・相続廃除)については、こちらをご覧ください。
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「相続人不存在」にあたらないケース
相続人が不明な場合と、相続人がいない場合(相続人不存在)とは、区別しなければなりません。調査をすれば相続人が判明する場合には、戸籍などを取り寄せ、相続人調査をしなければなりません。
戸籍上は相続人が存在するけれども、音信不通であったり、生死不明であったり、海外にいて連絡がつかなかったりする場合には、相続人不存在とはいえず、法定相続分にしたがって遺産分割をする必要があります。
例えば、「自分には相続人がいないと思う。」といって相談に来る方の中には、次のようなケースで、実際には相続人が発見される場合があります。
たとえば・・・
- 音信不通で長年連絡のとれなかった兄弟の現住所が判明した。
- 兄弟姉妹が既に死亡していたが、その子(代襲相続人)がいた。
- 前妻、内縁の妻との間に、過去に認知した子がいた。
相続人がいない人が増えている
近年、「おひとりさま相続」の問題が注目されているように、相続人がいない人は増えています。生涯を独身のまま過ごし、子もおらず、両親も亡くなってしまった、という方が、思いのほか多いのです。
相続人がいない人が増加している原因は、男女ともに生涯未婚率が上昇していること、晩婚化の進展、少子高齢化・単身世帯の増加などにあります。
相続人がいない(相続人不存在)場合の相続の流れは?
以上の流れによって、やはり相続人が誰もいない状態(相続人不存在)であることが確認できたときは、いわば「浮いている財産」について、相続財産が誰のものかを決める特別な手続きが必要です。
相続財産管理人の選任・公告
法的に相続する人がおらず、行き場のなくなった財産は、「相続財産法人」という法人となり、この法人を管理する「相続財産管理人」が、家庭裁判所によって選任されます。
相続財産管理人は、相続人を捜索したり、お亡くなりになった方が借りた借金を返済したり、お亡くなりになった方の遺言がある場合には、遺贈を履行したりして、財産の清算を行います。
相続財産管理人が選任されると、官報に公告され、相続人がいれば名乗り出るよう促します。相続人が最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所で行われ、2か月の間、官報に公告されます。
もっとくわしく!
「相続財産管理人」は、検察官のほか、相続財産について利害関係を有する債権者、受遺者の申立てによって選任手続が行われます。
したがって、お亡くなりになった方が相続人不存在であるが、お亡くなりになった方に返してもらいたいお金がある場合などには、相続財産管理人の選任を、家庭裁判所に申し立てます。
相続財産管理人は、利害関係などを考慮して適切な親族がいる場合でなければ、弁護士、司法書士などの専門家が選任されます。
債権者・受遺者に対する公告
相続財産管理人の選任を公告した後、2か月の期間、相続人の申出がないとき、次は、相続財産管理人は、債権者、受遺者からの申出を促すため、2か月以上の期間を定めて、官報に公告をします。
ポイント
- 債権者
:お亡くなりになった方に貸付を行っていたなど、債権を有している人 - 受遺者
:お亡くなりになった方から遺贈により財産を受け取る予定であった人
知れている債権者、受遺者がいる場合には、個別に、申し出るように催告を行います。債権者、受遺者からの申出があったときは、相続財産管理人は、それらの人に対して相続財産の清算を行います。
相続人捜索の公告
2回の公告によっても、相続人、債権者、受遺者のいずれもあらわれないときは、最後に、6か月以上の期間を定めて3度目の公告を行います。これを「相続人捜索の公告」といいます。
最後の公告期間を経過しても、相続人であると名乗り出る人がいないときは、相続人不存在の状態であることが確定します。
相続財産が国庫に帰属する
ここまでの流れにしたがって、相続財産管理人が、債権者、受遺者を探し、相続人を捜索しても、いずれも現れない場合には、残った相続財産(遺産)は国庫に帰属します。
「財産が国庫に帰属する」というのは、簡単にいうと、国の所有する資産となる、ということです。
相続人が誰もいないとき(相続人不存在)、相続財産がすぐに国庫に帰属するのではなく、多くの手続を経て、3回官報に公告された後であるため、1年以上の年月がかかることが一般的です。
特別縁故者の財産分与請求
相続人が誰もいない相続人不存在であることが確定した場合であっても、法定相続人以外の、特別に縁故のある人に対して、財産を与えることができるのが「特別縁故者の財産分与請求」の制度です。
この制度により、血縁・親族ではなく、法定相続人ではない人であっても、特別に縁故があることによって、財産の分与を請求できます。
特別縁故者の財産分与請求を行うためには、相続人不存在が確定してから3か月以内に、親密な関係にあったことを主張し、家庭裁判所に請求し、認めてもらうことが必要です。
特別縁故者として家庭裁判所に認められる例は、次のようなケースです。
たとえば・・・
- 近所の知人であるが、老後に献身的な介護をした人
- 法律上の夫婦ではないが、同居して生計をともにしていた内縁の妻
- 養子縁組をしていないが、本当の親子と同等の関係にあった人
相続人がいない(相続人不存在)ときの生前対策は?
相続人不存在であっても、特別な縁故があることを家庭裁判所に請求し、認めてもらえれば、法定相続人でなくても相続財産を受け継ぐことができます。
しかし、特別縁故者として家庭裁判所に認めてもらうためには一定のハードルがあり、また、認めてもらえたとしても、財産をもらえるのは相続開始から1年以上経過してからのこととなってしまいます。
例えば、次のようなケースで、相続財産の処分方針が決まっているのであれば、遺言による生前対策を行うことで、相続人不存在の場合の対策をしておくことがお勧めです。相続の生前対策は、相続に強い弁護士にお任せください。
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相続人不存在が明らかなとき
既に生前から、相続人不存在となることが明らかな方は、相続人不存在となるときのための生前対策を行っておいたほうがよいでしょう。
例えば、いわゆる「独居老人」となっており、特別縁故者となる人の心当たりもない方は、遺言・エンディングノートを作成し、相続財産の処分についてのご自身の意思を示しておきましょう。
世話になった人がいるとき
老後に、長年にわたって献身的な介護をしてくれた人や、病気で苦しいときに看護してくれた人など、世話になった人がいる場合には、相続人不存在であっても、世話になった人に遺言で財産を与えることができます。
財産を、包括的に遺贈(遺言によって贈与)したときは、相続人が誰もいない状態(相続人不存在)にはならないとされているからです。
財産を承継したい法人・団体があるとき
事業を行っている方の中には、相続財産の中に、事業継続のために利用する必要のある資産がある場合もあります。
相続人不存在の場合であっても、事業に利用する必要のある資産は、経営する法人に承継させる必要があるため、相続人不存在に備えた対策が必要となります。
社員の中に、事業に特に貢献した人がいる場合に寄与分を考慮したり、社員の中に後継者とすることが決まっている人がいる場合にその人に贈与したりすることもできます。
相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか。
今回は、相続人が誰もいない(相続人不存在)の場合に、相続財産が誰のものか、どのような手続きが必要か、相続財産を有効活用するための方法などについて、相続に強い弁護士が解説しました。
「相続人がいないとき、相続財産は国庫に帰属する」という結論だけでなく、そこまでにかかる期間や、手続き、実際に誰が相続財産を得ることができるのかを知ることで、生前から、財産を有効活用する対策ができます。
相続人不存在となる可能性が高い場合には、遺言の作成、エンディングノートの作成などの生前対策について、相続の専門家である弁護士、司法書士のアドバイスをお受けください。
「相続財産を守る会」には、相続に強い弁護士が在籍しており、複雑な相続問題を多く解決した過去の実績から、無料相談にて相続をお手伝いしています。