相続税は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に申告・納税しなければなりません。しかし、相続税の生前対策をせずに放置した場合など、相続税の金額が高額すぎて、期限内に支払うのがどうしても困難な場合があります。
相続税の期限を守れないと延滞税、無申告加算税などのペナルティがあり、支払わなければならない税金の負担がますます増加します。
相続税の納期限に間に合わなそうなとき、納税期間を延長できるのでしょうか。また、相続税の申告・納付の期限までにどうしても支払えないとき、納税期間の延長以外に対処法がないのでしょうか。
今回は、ご家族の予期せぬ死亡によって生前対策が追い付かなかった相続人の方に向けて、相続税の納税期間を延長する方法と、相続税の申告・納税期限が迫っているときのその他の対策について、税理士が解説します。
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相続税の申告・納税は10カ月以内!
まず、原則として、相続税の申告・納税は、相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内に、現金で一括納付しなければなりません。
例えば、2018年12月1日に被相続人がお亡くなりになったとき、相続税の納期限は、2019年10月1日です。相続税の納期限は厳格で、1日でも過ぎてはいけませんから、余裕をもって申告・納付をします。
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期限の最終日が土日・祝日の場合は?
相続税の納税期限の最終日が、土日・祝日のときは、期限の最終日の次に到来する平日が納期限となります。例えば、先ほどの例で、納期限最終日の10月1日が日曜日であれば、納期限は10月2日です。
相続税は、現金で税務署に納付する必要があるため、期限の最終日が税務署の閉庁日だと、最終日に納付することが物理的に不可能だからです。
相続開始を知らなかったときは?
相続税の納期限は、その相続人が、被相続人の死亡(相続開始)を知ったときから進行します。
つまり、他の相続人と仲たがいしていたり、音信不通、行方不明となっていたりしたことで連絡してもらえず、相続開始を知らなかった人がいるときは、納期限が人によって異なることがあります。
相続税の申告期限を過ぎてしまったら?
相続税の申告・納税を10カ月以内に行うことができなくなったとき、申告期限を過ぎたことによる制裁(ペナルティ)には、次のものがあります。
延滞税
:相続税の申告期限までに、相続税を申告・納付しなかった場合、または、納める相続税額が足りなかった場合に課される税金。納期限から2か月以内は年7.3%(特例で平成30年中は2.6%)、2か月超えは年14.6%(特例で平成30年中は8.9%)で計算される。
※納期限は、各手続について次の通りです。
期限内申告:法定納期限
期限後申告・修正申告:申告書を提出した日
更正・決定:更正通知書を発した日から1月後の日
過少申告加算税
:相続税の申告額が過少であり、相続税の追加納付が必要となったときに、追加納税額に対して課される税金
無申告加算税
:相続税を納付すべき場合であるにもかかわらず相続税の申告をしなかったときに課される税金。期限後に申告した税額に対して、50万円以内にたいして15%、50万円超えに対して20%を追徴される(自主的に申告したときは5%、税務調査の事前通知の後にした場合は、50万円までは10%、50万円を超える部分は15%)。
重加算税
:過少申告加算税、無申告加算税の要件に該当するときに、故意に事実の隠蔽をしたなど悪質性の高い場合に課される税金。追加税額に対して35%~40%が追徴される。
また、申告期限に遅れてしまうと追徴税額が加算されるだけでなく、相続税の税額を軽減することのできる「配偶者の税額控除」、「小規模宅地等の特例」などの特例を利用できなくなります。これは、相続税の特例制度が申告期限までに申告することを適用要件としているためです。生前の相続税対策で、特例の利用を前提として相続税を計算しているときは、特に注意が必要です。
相続税申告の期限の延長
相続税を支払うことのできる目途が立つけれども、特別な事情があってどうしても申告期限に間に合いそうにない場合には、相続税申告の期限を延長してもらうことができます。申告期限の10カ月はあっという間に過ぎますので、早めに手続しておきましょう。
相続税の申告期限を延長できる特別な事情には、次のようなものがあります。
ポイント
- 相続人の異動があったとき(認知、失踪宣告、相続人の廃除などによって相続人の人数に変動があったときなど)
- 納期限直前に災害などが発生したとき
- 納期限直前に遺留分減殺請求があったとき
- 納期限直前に新たな遺言が見つかったとき
- 納期限直前に、相続人とみなされる胎児が生まれたとき
特別な事情があるときに認められる相続税申告の期限の延長は、最大で2か月間とされていますが、税務署に申請し、認められる必要があります。
相続税の延納
相続税がかかることを見越して、ご家族がお亡くなりになる前から税理士に継続的に相談し、相続税対策をしてきたご家庭であれば、相続税の支払に窮することはありません。
しかし、相続税は「現金一括払い」が原則であることから、手元に現金がなければ、資産が足りていても支払うことができません。不動産(土地・建物)を相続したとしても、現金に換金しなければ、相続税の納税はできません。
このとき利用できる制度の1つに「相続税の延納」があります。
相続税が延納できる期限は?
そこで、相続財産(遺産)に占める不動産の割合が高いために、相続税を支払いきれないとき、相続税の延納制度を利用することができます。延納の場合、相続財産に占める不動産の割合によって延納の期限が次のように定められています。
ポイント
- 相続財産(遺産)に占める不動産の割合が50%未満
最大5年 - 相続財産(遺産)に占める不動産の割合が50%以上75%未満
10年~20年 - 相続財産(遺産)に占める不動産の割合が75%以上
10年~20年
相続税の延納制度を利用すると、上記の期間内に、相続税を毎年支払う「年賦払い」となります。
相続税の延納にかかる利子は?
相続税が支払いきれないときに利用される相続税の延納ですが、当然ながらデメリットがあります。
相続税の延納を利用すると、「延納利子税」がかかるため、期限内に一括支払いするよりも、支払う税金の総額が増加します。延納を利用するときは、相続税の元本だけでなく、延納利子税も含めた支払計画を綿密に練らなければなりません。
相続税の延納を利用したが、途中で資金が尽きて困窮することのないよう、制度利用の開始時には必ず、税理士に支払計画を計算してもらいましょう。
相続税の延納を利用する条件は?
相続税の延納は、どのような場合であっても利用することができるわけではなく、あくまでも現金一括支払いが原則です。そこで、相続税の延納を利用できる条件を、税理士がまとめておきました。
- 相続税額が10万円を超えること
- 相続税を金銭で納付することに難しい理由があること
- 延納税額および利子税額に相当する担保を提供できること
- 相続税の納期限までに延納申請書などの必要書類を提出すること
相続税の延納は、「相続税を支払う現金が不足している」という理由だけで自由にできるものではなく、一定の要件を満たして、税務当局の許可が必要です。現金納付が可能であると認定されれば、許可が下りないこともあります。
相続税の物納
相続税を期限までに現金で支払えないときに延納を利用することができるものの、延納制度の利用には厳しい条件があり、許可が必要であることを解説しました。
相続税を期限内に支払うことが難しいケースのうち、次の場面では、相続税の物納の方法を利用することを検討する場合があります。
- 資産は一定額あるけれども、その資産を現金に換金することが困難なために相続税を支払いきることができないとき
- 相続税の延納制度を利用する要件を満たせないとき
- 相続税の延納制度を利用しても、利子税額を考慮すると現実的な支払計画が立てられないとき
相続税を、相続財産(遺産)の中にある不動産(土地・建物)、株式などの現物で支払う「物納」は、あくまでも例外であり、最終手段とお考えください。税金を物で納めるという特殊な方法は、国の許可があってはじめて利用できる制度です。
「現金があるけれども減らしたくない」、という相続人の自己都合で物納を選択することはできません。
相続税の物納には、複雑な要件が定められており、物納が認められないケースもあります。詳しくは、「物納しか手がない」とお考えになる前に、相続税に詳しい税理士にご相談ください。
期限に間に合いそうになかったら「まずは申告!」
「相続税の期限までに相続税を支払うことができない」といって税理士に相談に来る方の中には、「遺産分割協議が終わらない」という方がいます。
しかし、遺産分割協議が終わっていないからといって、相続税の申告をせずに放置しておくと、節税対策となる「配偶者の税額軽減」、「小規模宅地等の特例」といった特例を受けることができず、税額がますます増加してしまいます。
遺産分割協議が相続税の期限までに終わっていなかったとしても相続税申告を行う方法として、相続税申告と同時に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、遺産分割協議の見込みについて伝えることで相続税申告を行う方法があります。
この方法によって遺産分割協議中に相続税申告をしたときは、申告期限後3年以内に遺産分割をまとめ、そのまとまった日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求を行うことで「配偶者の税額軽減」、「小規模宅地等の特例」などの特例の適用を受けることができます。
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相続税申告は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
相続税の申告・納付には「相続開始を知ったときから10カ月以内」という期限があり、この期限に違反するとペナルティのある厳しいものです。
しかし、相続税に詳しい税理士が最もお勧めする相続対策は、生前からしっかりと節税対策をして、いざというときの相続に備えるというもので、「相続税の納期限に間に合わない」ということは、事前に税理士としっかり打ち合わせしていれば、むしろ稀なことです。
「相続財産を守る会」では、いつ突然降りかかってくるかわからないご家族の不幸に備えて、できるだけ早いうちから相続税対策をすることはもちろん、期限に間に合わない緊急事態にも、その段階のベストな申告方法を、税理士がアドバイスします。