「株式」は、会社の所有権をあらわす考え方です。つまり、会社の株式を保有している「株主」が、その会社の持ち主ということです。
会社の所有権をあらわす「株式」には、財産的価値があります。そのため、株式を保有している人がお亡くなりになれば、株式がその相続財産(遺産)に含まれて相続人に承継されるのは当然のことです。
しかし、株式は、その他の相続財産、たとえば、預貯金、現金、不動産(家・土地)などと異なり、「株式を相続する」ということがイメージしづらい面があります。また、株式を相続しているかどうかを調べなければなりませんが、これがなかなか困難な場合もあります。
そこで今回は、株式を相続した可能性のあるすべての相続人に向けて、株式を相続したかどうかを調査する「相続財産調査」の方法について、相続・事業承継に強い弁護士が解説します。
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相続される株式の種類は?
ひとことで「株式の相続」といっても、さまざまなケースがあります。そして、相続された株式の種類によって、その調査のしかた、探し方はそれぞれ異なります。
まず、相続される株式には、次のようなケースが考えられます。
- 上場株式
- 非上場株式(未公開株式)
- 経営していた会社の株式
株式の種類ごとに、その特徴や調査方法などについて、相続・事業承継に強い弁護士が解説します。なお、「相続財産の調査方法」というとき、その調査には、次の2点の異なる調査が必要となります。
- そもそも相続財産(遺産)として存在するかどうか
- 相続財産(遺産)として存在したとして、その評価額はいくらか
いずれの調査についても、上記の3つの株式の種類ごとに、異なった方法を理解しておく必要があります。
上場株式の調査方法
有名企業など、誰でも知っている会社の中には、上場している会社が多くあります。上場している会社の株式は、証券取引所という株式取引のための市場で、誰でも売り買いすることができるようになっています。
そのため、上場株式の場合には、次に解説するとおり、調査方法が明確であり探しやすく、かつ、市場取引価格によって評価額も計算しやすいです。
証券会社に問い合わせる
お亡くなりになった方(被相続人)が株式取引に利用していた証券会社がわかる場合には、証券会社に問い合わせをすれば、相続財産(遺産)となる上場株式を調査することができます。
相続人であることを証明する資料(戸籍謄本など)と身分証明書など、必要書類を送付し、「残高証明書」の開示を、証券会社に求めてください。上場株式であれば市場取引価格がわかりますので、「被相続人の死亡日現在」の残高を開示してもらいます。
お亡くなりになった方(被相続人)の取引口座のある証券会社を調べるために、遺品整理の際、証券会社からの郵便物や、預貯金口座の取引明細などをチェックしておきましょう。
株主名簿管理人に問い合わせる
上場企業では、信託銀行などが「株主名簿管理人」となって、会社の株主の管理を行っています。この場合、株主名簿管理人の「特別口座」に株式が保有され、株式の解約手続の窓口も「株主名簿管理人」となります。
証券会社ではなく信託銀行から株式に関する書類が届いている場合には、その信託銀行がお亡くなりになった方の株式を管理している可能性がありますので、問い合わせて下さい。
証券保管振替機構(ほふり)に確認する
証券会社や信託銀行からの書類はないけれども、お亡くなりになった方が株式を持っていたと思う、という場合には、「証券保管振替機構」、通称「保振(ほふり)」で調査をしてください。
具体的には、保振(ほふり)で、「登録済加入者情報の開示請求」をします。これは、上場株式などが管理されている口座が、どこの証券会社や信託銀行で開設されているかを調べるための制度です。このような、口座を管理する証券会社や信託銀行は、「口座管理機関」とよばれています。
この調査では、株式の取引履歴や保有残高は分かりませんが、どこの金融機関で株式が管理されているかが分かります。そのため、口座があることが判明した証券会社や信託銀行に、さらに問い合わせて、お亡くなりになった方の口座の解約などの手続きを行えます。
開示請求は郵送で行います。法定相続人が開示請求を行う場合の流れは以下の通りです。
ポイント
開示請求書、法定相続人の本人確認書類、戸籍謄本などの必要書類を準備する
必要書類を株式会社証券保管振替機構 (ほふり)に郵送する
「登録済加入者情報通知書」が送られてくる
もっとくわしく!
必要書類を郵送してから「登録済加入者情報通知書」が送られてくるまでに2週間程度はかかります。
開示結果はいわゆる代引サービスを使って郵送されますので、開示費用(2000円が最低金額)は、開示結果を受け取る際に、郵便局の職員に支払うことになります。
登録済加入者情報の開示請求についてのくわしい情報は、こちらで確認することができます。
非上場株式(未公開株式)の調査方法
中小企業、ベンチャー企業、スタートアップ企業などの多くは、上場企業と異なり、その株式を、株式取引市場で売買することができません。このような会社の株式を、「非上場株式」もしくは「未公開株式」と呼びます。
非上場株式の場合、「たまたま友人の会社に出資し、株式を得ていた」といったケースで、株式が相続されたかどうか、探すのに手間がかかります。上場株式と異なり、証券会社や証券保管振替機構(ほふり)、株主名簿管理人による管理がされていないからです。
株式の評価額も、上場株式と異なり市場価格がそもそも存在しないため、評価に専門的知識が必要となります。
株券や株主名簿記載事項証明書をさがす
非上場会社の場合には、株券が発行されている場合があります。また、株券が発行されていない場合でも、「株主名簿記載事項証明書」という、株主の名前と持っている株式の数が記載された書類が発行されている場合があります。
株券や株主名簿記載事項証明書が見つかった場合には、その会社の株主である可能性が高いので、会社に問い合わせをしてください。
株式譲渡契約書や引受契約書をさがす
非上場会社(非公開会社)の株式を取得する方法には、大きくわけて、以下の2つの方法があります。
ポイント
- 他の株主から非公開株式(非上場株式)を買い取る方法
- 会社にお金を払い込んで非公開株式(非上場株式)を得る方法(出資・増資)
他の株主から株式を買い取る場合には、株式譲渡契約書という、株式の売買のための契約書を結ぶのが一般的です。
会社にお金を払い込んで株式を得る場合(会社の増資に応じる場合)には、株式を得ようとする人、つまり株主になろうとする人が、会社との間で、株式を引き受けるための契約書や申込書などのやり取りをします。
「投資契約書」という名前の契約書があれば、同じように、その会社の株式を持っている可能性が高いでしょう。
このように、市場取引の証拠は残らない非上場株式(非公開株式)であっても、お金の流れを書類上で追っていくことによって、実際に株式を持っている可能性があるかどうかを調査することができます。
経営していた会社の株式の調査方法
お亡くなりになったご家族(被相続人)が、自分自身で会社経営をしていたとき、その会社の株式をお持ちになっている場合があります。このようなケースを「オーナー企業」といいます。
オーナー企業の株主兼経営者がお亡くなりになったとき、その会社の事業を継続するためには、会社の株式を分散しないよう、後継者に引き継ぐ必要があります。そのため、相続開始より前に、生前から相続対策が必要となります。
経営していた会社の株式の場合には、経緯からして、株式が相続財産(遺産)に含まれるかを調査することは容易であることが多いです。オーナー企業の場合、その全ての株式を社長とその親族が保有していることがほとんどだからです。
ただし、次のような場合には、社長とその親族以外に、株式を保有している人がいる可能性があります。その場合、十分な調査の上で事業承継対策をしなければ、もともと予定していた後継者に株式が承継されず、他の人に経営権を奪われてしまうおそれがあります。
注意ポイント
- 創業者が社長以外にも複数存在していた。
- 世話になった専務に株式を与えたという話を聞いた。
- 運転資金に困った際に、借金ではなく出資してもらった。
- 会議室を借りて株主総会を開いているという話を聞いた。
その他の調査方法(3つの類型に共通)
これまでに、上場株式、非上場株式、ご自分で経営している会社の株式のそれぞれについて、お亡くなりになった方がもっていた株式があるかどうかを調べる方法を解説しました。
株式が存在するかどうかをしらべる方法は他にもありますので、さらに解説します。以下でご説明する方法は、上場株式にも非上場株式にも共通して検討しておかなければならない方法です。
通帳の取引明細を調査する
取引をしている証券会社の情報や、株券などが見つからなかったとしても、預金通帳を確認することで、株式をもっていることがわかる場合があります。
株式を有している会社から配当があれば、預貯金口座に配当金が振り込まれ、通帳に記録されます。上場企業であれば、その会社がいつ、いくらの配当をしたかがホームページのIR情報(投資家向けの情報)で確認できます。
聞いたことのない会社からお金が振り込まれている場合で、取引をしていた形跡もなければ、配当金として受け取っていることが考えられます。この場合は、会社に問い合わせれば、その会社の株主になっているかどうかが分かります。
また、証券会社への振込みがあれば、その証券会社で株式などの取引を行っていると考えられますので、その証券会社へ問い合わてください。
確定申告書を調査する
株式の売買によって利益を得たり、損失を被ったりした場合には、その譲渡所得、譲渡損について確定申告が必要となります。また、配当所得について確定申告が必要なケースもあります。
お亡くなりになった方が確定申告をした際に作った「確定申告書」が残っている場合には、そこに書かれている内容を調べて、株式を持っていたかどうかを確認することもできます。
配当所得の欄に、所得として金額が書かれている場合には、お亡くなりになった方が株式をもっていたのではないかと推測できます。
顧問税理士などの専門家にたずねる
お亡くなりになった方が事業を営んでいて、確定申告を顧問税理士に依頼していたような場合には、その顧問税理士が、お亡くなりになった方の財産の状況について知っている可能性があります。
他にも、お亡くなりになった方が懇意にしていた弁護士、司法書士、行政書士などの専門家がいる場合には、その専門家の方に、お亡くなりになった方の財産のことについて、話を聞いてみるのも有効です。
相続手続は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、お亡くなりになった方が遺産として株式をもっていたかどうかを調査する方法について解説しました。
お亡くなりになった方が、資産として株式を持っていたのに、相続人がそれに気づかなければ、せっかく残してくれた相続財産(遺産)を引き継ぐことができません。
「相続財産を守る会」では、相続や事業承継に強い弁護士が、株式にかぎらず、お亡くなりになった方が残した大切な相続財産をさがし出し、ご家族や相続人が受け取れるように、全力でサポートいたします。