相続財産(遺産)の中に、不動産が含まれる人がいます。被相続人が不動産を所有していたとき、不動産の評価額が相続財産の中のかなりの割合を占めることが多いです。
不動産は人によっては所有していないこともあるため、相続人が、お亡くなりになったご家族が不動産を持っていたかどうかを知らない場合には、調査して探さなければいけません。
被相続人の重要な財産の1つである不動産について、被相続人がお亡くなりになった後に調査する方法と探し方について、相続に詳しい弁護士が解説します。
ポイント
相続不動産の調査には、①相続不動産が存在するかどうか、②相続不動産の評価額、という2つの段階がありますが、今回の解説では、前者の「相続不動産の存否」についての調査方法、探し方を紹介します。
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なぜ相続不動産の調査が必要?
相続した不動産の調査が必要な理由は、単に「不動産を相続できるのに、不動産を発見できないと損だから。」というだけの理由に留まりません。相続不動産は金額が大きいため、調査をせず放置すると影響が甚大です。
ご家族がお亡くなりになり相続が開始したときに、プラスの財産のうち相続不動産を調査しなければならない理由を解説します。
相続税の納税・申告ミスが起こる
相続財産が一定の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の人数)を越える場合、相続税を支払う必要があります。相続した不動産を発見できずに見逃すと、本来であれば相続税がかかるのに相続税を支払わず放置するおそれがあります。
相続税は、税務署が「不動産を相続したかどうか」を調査して納付を命じるのではなく、相続人自ら、調査し、申告・納付しなければなりません。不動産の相続を見過ごして相続税についてミスをすると、次の余分な税がかかる危険があります。
注意ポイント
延滞税
:相続税の納付が遅れた場合
過少申告加算税
:誤って少なく相続税を申告した場合
無申告加算税
:期限までに相続税の申告を行わなかった場合
重加算税
:財産を隠したり証拠書類を偽装したりといった悪質な行為があった場合
特に、悪質な行為を行った場合に課せられる重加算税は、追加納付した税金に対して、さらに35%~40%の税金がかかるとても重い負担です。相続した不動産を、過失により見逃すことはもちろん、故意に隠すことはもってのほかです。
意外な不動産が見つかる
「不動産を相続しましたか?」と言われて、真っ先に思いつくのが、自宅として利用している土地・建物の相続です。自宅がお亡くなりになった方(被相続人)名義となっているとき、その相続を見逃すことはさすがにないでしょう。
しかし、相続する可能性のある不動産は、自宅だけではありません。次のような相談ケースでは、相続人の誰も知らない意外な不動産が、調査によって見つかることがあります。
- 先祖代々相続されてきたが、相続登記を怠っていた田舎の土地
- 所有しているが、他人に賃貸したまま長期間が経過したマンション
- 駐車場、倉庫などに利用したまま放置していた土地
- 愛人用に購入したまま放置していた別荘地
【調査方法①】まずは預貯金調査から
相続財産の中で、特に価値が高く、金額も大きくなりがちな重要な財産が、不動産(土地・建物)と預貯金です。そして、「預貯金が全くない。」という方は稀であることから、相続財産の調査は、まずは預貯金の調査から始めます。
今回解説する相続不動産の調査でも、預貯金の調査をしている過程で、不動産(土地・建物)を所有していたことが次のような事情から明らかになることが少なくありません。
ポイント
- 預貯金通帳に、不動産を貸した賃料の入金が記録されていた
- 預貯金通帳に、不動産の固定資産税の支払が記録されていた
- 預貯金通帳に、住宅ローンの貸付・返済履歴があった
以上のケースでは、預貯金口座のある銀行などの金融機関が持つ情報から、法務局、市区町村役場などに照会することで、順々にお亡くなりになった方(被相続人)の所有していた不動産(土地・建物)の詳細を判明させることができます。
預貯金通帳は、お亡くなりになった方のあらゆるお金の流れ、動きを知ることのできる重要な資料のため、まずはじめに調査しておいてください。
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預貯金の調査方法について、詳しくはこちらをご覧ください。
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【調査方法②】郵便物調査でわかる相続不動産の存否
お亡くなりになった方(被相続人)に届いている郵便物を調査することで、不動産を所有していたかどうかがを知ることができる場合が少なくありません。そのため、2つめの調査方法は、郵便物調査、遺品整理です。
例えば、次のような資料は、被相続人が不動産を所有していたこと(不動産を相続していること)を強く推認することができます。
ポイント
- 市区町村役場・都税事務所から届く固定資産税通知書
- 銀行など金融機関から届くローン返済の明細書
- 信託銀行・証券会社から届く運用履歴
特に、固定資産税の納付書は、毎年5月~6月に、不動産の所有者に対して送付される書類であり、これが郵送物の中に含まれている場合には不動産を所有していたと考えてよいです。固定資産税評価証明書が手元にある場合も同様です。
固定資産税の通知書・納付書には、必ず不動産の所在地が記載されており、不動産を特定することのできる土地の地番、建物の家屋番号が記載されています。これらの情報により、市区町村役場で不動産登記簿謄本を取得し、所有権者を調査できます。
注意ポイント
被相続人が、不動産を単独所有していた場合に、固定資産税通知書によって不動産の存在が明らかになることが多いです。しかし、不動産が共有名義のときは注意が必要です。
不動産(土地・建物)が共有名義のとき、固定資産税は「連帯納税」となります。所有権割合によらず、共有者全員が連帯して全額を支払う義務を負います。そして、この場合、納税通知書は、共有者のうち代表者1名にのみ送付されます。
そのため、被相続人が、不動産を共同所有しているが、代表者でなかった場合には、不動産を所有していたとしても固定資産税の納税通知が送られてきません。相続不動産を探す際には注意が必要です。
【調査方法③】法務局で登記簿謄本を取得する
固定資産税の納税通知書を発見することができたら、そこに記載されている不動産の情報(土地であれば地番、建物であれば家屋番号)を利用して、法務局で登記簿謄本を取得し、被相続人の所有となっているかを確認します。
不動産の所在する住所だけしか判明していない場合であっても、法務局に問い合わせをすることで地番を教えてくれます。
登記簿謄本は電子データ化されており、インターネット経由でオンラインによって登記簿謄本を取得することもできます。最寄りの法務局にいけば、全国の不動産についての登記簿謄本を取得できます。
登記簿謄本は、「表題部」、「甲区」、「乙区」という3つの表記がされており、「甲区」に、所有権者が記載されています。
注意ポイント
相続は、今回解説する不動産(土地・建物)などのプラスの財産はもちろんのこと、マイナスの財産も合わせて相続します。調査の結果、マイナスの財産のほうが多い場合には、相続放棄を選択すべき場合もあります。
相続した不動産を調査している際に、登記簿謄本に、抵当権の記載があった場合には、その抵当権の債権者に対して、債務の調査を行う必要があります。住宅ローンが多額な場合には、その不動産はむしろマイナスの財産のほうが多いこととなる場合があるからです。
抵当権の記載は、取得した登記簿謄本のうち、「乙区」に記載されています。
【調査方法④】登記済権利証を探す
不動産(土地・建物)の所有権を有していることを端的に証明するのが、「登記済権利証」(権利書・権利証などともいいます。)です。登記済権利証が見つかり、お亡くなりになった方(被相続人)の名前が書いてあれば、不動産を所有していたと考えられます。
不動産の権利証は、不動産所有権を取得し、登記した際に発行され、再発行はされません。現在は、「登記識別情報」がその代わりとなっていますが、従来からあった権利証が保管されている場合にはそちらも有効です。
登記済権利証、登記識別情報は、不動産の所有権を取得して登記したときに、その登記(不動産の名義変更)を行った司法書士からもらっている場合が多いため、故人が仲良くしていた司法書士がいる場合には聞いてみてください。
【調査方法⑤】名寄帳を取得する
相続した不動産が存在するかを調査する方法の中には、「名寄帳」を取得して不動産を探す方法があります。名寄帳とは、ある市区町村役場が管轄している課税対象となる不動産が全て記載されています。
相続する不動産の中には、固定資産税が課税されていても、登記がされていない不動産(土地・建物)もあるため、登記簿謄本を見るだけでなく名寄帳の取得が必要となる場合があります。
名寄帳は、管轄内の不動産の一覧です。未発見の不動産はないと考えている場合であっても、念のため最後に、名寄帳を取得し、調査してください。名寄帳は、相続人であれば請求できますので、必要な戸籍謄本などの収集をしてください。
注意ポイント
名寄帳には、課税対象となっている不動産しか記載されていません。つまり、非課税の不動産は、名寄帳を取得することでは発見することができません。例えば、「私道」がこれにあたります。
「私道」を相続しているかを調査する方法は、私道に隣接する不動産の状況によって確認する方法があります。私道は、隣接する不動産と一体として活用される場合が多いため、私道を所有している可能性があれば、その登記簿謄本を取得して探す必要があります。
【調査方法⑦】遺言の記載から探す
相続手続きでは、遺言の存在が非常に重要です。遺言が存在すると、遺産分割協議を経ずして、法定相続分より優先して遺言にしたがって分けることになるだけでなく、不動産の相続登記のときに必要な書類も大幅に省略することができます。
相続人の全く知らなかった不動産が、遺言の中に記載されていることで発見できる場合があります。遺言に記載された不動産は、全て登記簿謄本を取得し、所有権者を確認しなければなりません。
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遺言書の調査方法と検認については、こちらをご覧ください。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、相続財産(遺産)の中でも、特にその価値が高く、財産のうちのかなりの割合を占めることとなる不動産(土地・建物)について、存在するかどうかを調査する方法、探し方について、弁護士が解説しました。
相続不動産を調査した結果、存在した場合には、固定資産税評価証明書を取得し、その評価額を明らかにした上で、相続税申告や、公平な遺産分割に生かす必要があります。非課税の私道、未登記の建物など、探しづらい不動産は、弁護士などの専門家にお任せください。
相続した不動産が存在するかどうかの調査はもちろんのこと、相続財産調査は非常に手間のかかることです。おひとりで全て実行することが難しい場合、弁護士、司法書士などの専門家にお任せください。
「相続財産を守る会」では、不動産相続を数多くお取り扱いしてきた経験と実績、ノウハウを生かし、ご相談者様の状況に合わせた不動産の調査方法から相続手続きに至るまで一括してサポートさせていただけます。