相続財産(遺産)の調査で忘れてはならないのが「借金の調査」です。プラスの財産もマイナスの財産もいずれも相続するため、借金調査の結果、借金の方が多い可能性がある場合、相続放棄・限定承認を選択する必要があります。
相続放棄・限定承認の期限は、相続開始を知ったときから3か月のため、借金の調査に時間がかかりすぎたり、借金を調べず放置したりしておくと、相続放棄できず借金を返済する負担を相続によって負うおそれがあります。
借金を相続して支払う場合にも、借金の金額を事前に調査しておくことで、相続税の計算の際、借金額を控除でき、相続税を減額できます(「債務控除」といいます。)。
そこで今回は、相続開始を知ったらすぐに行うべき遺産調査のうち、借金の調査と、信用情報調査の具体的な方法について、相続手続きに詳しい弁護士が解説します。
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「書類」から借金の調査をする方法
相続が発生して、借金があるかどうかとても気になることでしょう。実際、お亡くなりになったご家族が近しい方でも、借金は隠れてしていることが多く、いくら借金があるかなかなか把握が困難です。
突然サラ金から督促状が届いて借金を知ることもあります。また、借金は銀行、クレジットカード、ローン等だけでなく、友人、親族、勤務先の会社等に借金していることもあります。
そこではじめに、お亡くなりになった方(被相続人)のお手元にある書類によって借金を調査する方法について解説します。
預貯金通帳
預貯金通帳の記録、口座の利用明細などを確認し、月々の口座引き落としによる借入金返済がないかどうかを確認してください。
あわせて、まとまった金額の入金がある場合には、借入金の可能性があるため、その振込元、使途、用途を確認します。
金銭消費貸借契約書・借用書
個人間での金銭の貸し借りによる借金がある場合には、金銭消費貸借契約書や借用書などの書面を締結しているのが一般的です。
むしろ、借金を示す重要な証拠が一切存在しない口頭の約束などは、借金の貸し手側からしても、裁判で請求することが困難です。
書斎や仏壇、貸金庫など、お亡くなりになった方(被相続人)が重要な書類を保管していた場所に、金銭消費貸借契約書、借用証など、借金の存在と金額を証明する書類がないかどうか確認してください。
借入金残高証明書
銀行などの金融機関で借入を行っている場合や、住宅ローン、自動車ローンなどの借金がある場合には、借入金残高証明書を、金融機関、ローン会社から入手することで、借金の存在と金額を調査することができます。
住宅ローンを組んでいる場合には、これ以外に、不動産の登記簿謄本に抵当権が設定されており、その債権者としてローン会社が記載されていること、住宅ローンとともに組んだ団体信用保険会社から保険金との相殺通知が来ることといった書面で借金を調査できます。
決算書類・確定申告書
お亡くなりになった方(被相続人)が事業を営んでおり、その事業用のローン、事業用の借入、高価な機器のリースといった種類の借金がある場合があります。
これらの事業用の借入は、被相続人の経営する法人の決算書類、被相続人が個人事業主の場合には確定申告書などを読み解くことで借金の調査をすることができます。
「信用情報調査」で借金の調査をする方法
銀行、クレジット会社、消費者金融など、金融機関からの借金を調査するのに、最も手っ取り早い方法が、信用情報を調査することです。信用情報とは、銀行や消費者金融などの金融機関が借入の情報を登録し、貸付が可能かどうかを判断する基準とするものです。
信用情報機関には次の3つがあり、いずれも、相続人からの情報開示請求に応じてくれます。
ポイント
全国銀行協会(銀行系)
JICC(消費者金融系)
CIC(クレジット・信販会社系)
お亡くなりになった方(被相続人)の借金の全体像を把握し、相続放棄すべきかどうかを調査するためには、この3つの信用情報機関のいずれからも情報開示を受ける必要があります。1つの機関だけの情報では十分ではありません。
親族、友人など個人からの借金は、信用情報には記載されません。信用情報調査は、一覧性があって簡便ですが、相続の際には、信用情報調査だけでなく、遺品整理、重要な書類の調査などの方法で借金を調査する必要があります。
「信用情報調査」で借金の正確な金額までは調査できない
3つの信用情報機関から得られる情報は、いずれも概算額となり、1000円未満の端数までは明らかにしてもらえません。また、開示請求をした1、2か月前までの過去の借金残高しか、信用情報には記録されていません。
そのため、信用情報機関に開示請求して借金を調査する方法は、簡便で一覧性があるものの、お亡くなりになった方(被相続人)の正確な借金額を知るためには、信用情報によってわかった債権者となる金融機関に、再度情報開示を請求する必要があります。
ただし、今回の解説の目的である、「相続放棄したほうが得かどうか」を知るための借金調査には、1000円未満の端数は不要です。概算額で明らかに借金のほうが相続財産より多いことが判明すれば、直ちに家庭裁判所に対して相続放棄を申述すべきです。
注意ポイント
実際に、相続放棄をせずに相続した借金を返済することを選択した場合、信用情報機関から開示された借金額に対して、遅延損害金や利息が加算される可能性があります。
借金を返済するスケジュールを立てる場合には、改めて債権者であることが判明した各金融機関に対して情報開示請求をしてください。
「信用情報調査」による借金調査にかかる期間は?
「信用情報調査」の方法によって借金の調査をする場合に、適切な必要書類を集めて信用情報機関に提出、申請すれば、その後、借金の情報の開示までにかかる期間はそれほどかかりません(通常1週間程度です。)。
したがって、迅速に進めれば相続放棄の熟慮期間(3か月)には十分余裕がありますが、実際には開示請求までに必要書類となる戸籍を収集したり、申請に必要な書類を記載したりしなければなりません。
不備を訂正し、再送している時間の余裕がないおそれもあります。正確にミスなく記入する自身のない方は、相続の専門家である弁護士、司法書士にお任せください。
特に、信用情報機関への開示請求は、郵送によって行うため、窓口で指導を受けながら記載することができず、全ての書類が返却されてから再提出していると、期間があっという間に経過するおそれがあります。
「信用情報調査」による借金調査の必要書類は?
信用情報機関に、信用情報の開示を求め、金融機関からの借金の調査を行うときに必要となる書類は、次のとおりです。なお、下記必要書類は、信用情報機関1社分ですので、3セット分必要となります。
提出した必要書類によって照会した情報を開示してもらうため、正確な記入が重要です。また、被相続人の情報について、どの電話番号(自宅、職場、携帯など)、運転免許証番号などを利用しているか不明な場合には、わかる限りの情報を記載しておきましょう。
ポイント
- 信用情報開示申込書
- 開示請求者が相続人であることを示す戸籍謄本
- 開示請求者の身分確認書類
- 定額小為替(1000円分)
- 被相続人の電話番号または運転免許証番号
信用情報開示申込書の記載例は、それぞれの信用情報機関(全銀協、JICC、CIC)のホームページからダウンロードできます。
「信用情報調査」に必要となる戸籍の取得は?
信用情報を、信用情報機関に開示請求するために必要となる戸籍謄本は、開示請求をする請求者が、相続人であることを証明するものでなければなりません。相続手続きのあらゆる場面で、戸籍謄本は必須の書類となります。
相続順位の高い配偶者(夫または妻)、子などであれば、必要となる戸籍の数が少なくて済みますが、相続順位の低い両親、兄弟姉妹などの場合、先順位の法定相続人が存在しないことを証明する戸籍謄本も必要なため、通数がとても多くなる場合があります。
たとえば・・・
子が相続人となるとき、借金調査の際に信用情報機関に提出する戸籍謄本は、請求者が被相続人の子であることを示す戸籍謄本があれば足ります。
これに対して、兄弟姉妹が相続人となるときは、必要な戸籍謄本は、子、直系尊属(両親、祖父母など)が存在しないことを証明し、かつ、請求者が被相続人の兄弟姉妹であることを示す戸籍謄本がすべて必要となります。
更に、法定相続人が既にお亡くなりになっていた場合にその子が代わりに相続する「代襲相続」が発生している場合、なおさら収集しなければならない戸籍が多数となります。
収集しなければならない戸籍が多岐にわたったり、通数が多くミスするおそれがあったり、本籍地が遠方であったりする場合には、一括して弁護士、司法書士などの専門家に戸籍収集を依頼したほうが簡単に相続手続きができるケースも少なくありません。
信用情報機関に、開示請求の際に添付した戸籍などの書類は、原本を提出する必要があり、還付・返還を受けることができません。したがって、全銀協、JICC、CICの少なくとも3セット分が必須となります。
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相続に必要となる戸籍収集について、詳しくはこちらをご覧ください。
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「信用情報調査」の具体的な流れは?
信用情報機関に、信用情報の開示請求をして、借金の調査をする流れは、次の通りです。
- 必要書類を収集し、申込書を記載する。
- 各信用情報機関(全銀協、JICC、CIC)に郵送する。
- 開示請求者の自宅に、信用情報が到着する。
開示される情報は、開示請求者の自宅宛てに送付されてきます。これは、弁護士や司法書士が、代理人として請求した場合も同様です。開示請求をしてから1,2週間は、ポストを注意して見ておくようにしてください。
「信用情報調査」による借金調査は、解読が必要!
各信用情報機関に、信用情報の開示を請求すると、各機関から、信用情報についての書類が送付されてきます。しかし、この書類は、弁護士、司法書士等の専門家でない限り、読み解くことがそれほど容易ではありません。
というのも、借金の調査に必要となる信用情報機関は3つあるものの、それぞれの管理している情報の種類は異なるため、すべての情報を統合して解読しなければ、全ての金融機関の借金情報を知ることができないからです。
すべての信用情報に、別の契約として記載されている借金情報や、ある信用情報にしか記載されていない借金情報なども存在するため、複雑な読解が必須となります。保証債務について、記載がされていないこともあります。
特に借金の調査が重要なケースは?
相続が発生したとき、借金の調査はできるだけ早く行ったほうがよいですが、次の場合には、特に借金調査が重要となり早急な把握が必要です。
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相続放棄・限定承認が必要な場合
相続債務が、相続財産よりも多額となる可能性があるとき、相続放棄、限定承認を申述することで、借金を支払う義務を引き継ぐことを回避する必要があります。相続放棄、限定承認は、相続開始を知ってから3か月の熟慮期間を過ぎると、原則としてできなくなります。
相続財産と相続債務の金額が不明確で、相続放棄したほうが得かどうかの判断が困難である場合に限定承認を利用することもありますが、限定承認は、その手続きが複雑であり、相続人全員の合意が必要であるため、あまり利用されません。
相続人としては、相続財産の中に占める債務(借金)の金額を早急に調査し、相続放棄するか、単純承認するかを検討する必要があります。
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相続放棄と、限定承認・単純承認との違いは、こちらをご覧ください。
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被相続人名義の不動産を相続したい場合
被相続人名義の不動産が、自宅や事業用不動産などに利用されておりなかなか手放すことが困難な場合には、相続放棄を利用することができません。
相続放棄を選択できない場合には、相続人は借金を返済しなければならないのですが、借金の存在と金額を適切に調査しなければ、どの借金を、どの相続人が(誰が)、どのように返済するのが得であるのかを判別することができません。
この場合には、相続人による借金の返済が可能か、返済スケジュールの目途が立つか、リスケジュール(債務整理)の交渉が必要かどうかについても、弁護士にご相談ください。
過払い金が発生する場合
お亡くなりになった方(被相続人)の借金が、借入時期が相当昔で、違法な高金利を返済し続けていた場合などには、「返しすぎ」の状態、つまり、「過払い」の状態にあることがあります。
過払いとなった利息は元本返済に充当される結果、払いすぎた利息の返還を請求できるのが、過払い金返還請求権です。出資法と利息制限法によって二重の利息が定められた結果、グレーゾーン金利が課された時代に借金返済した場合、過払い金がある可能性があります。
過払い金返還請求権の時効は、「完済から10年」です。そのため、過払い金が存在する相当期間以前からの借入と返済が存在する可能性があるときは、相続人は借金の存在と金額だけでなく、返済状況についても直ちに調査すべきです。
被相続人以外の名義による借金に注意!
お亡くなりになった方(被相続人)の名義による借金の調査方法は、以上の通りです。基本的には、信用情報を調査し、その他の重要な書類を調査すれば、借金の全容は明らかになるでしょう。
しかし、被相続人以外の名義による借金であっても、実質的には被相続人の借金であると評価され、相続債務の一部となる場合があることに注意が必要です。名義違いの借金の例は、例えば次の通りです。
たとえば・・・
父親が高齢のため住宅ローンを組むことができないけれども、資力は十分に有している場合に、息子名義で住宅ローンを組んで、その返済資金を、引き落とし口座に毎月父が入金していたとします。
この場合、その住宅ローンの名義は息子であるけれども、実際には父親の借金として相続債務に含まれることがあります。
相続手続は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、「相続放棄をしたほうが得かどうか」を知る大前提として、相続放棄によって放棄すべきお亡くなりになった方(被相続人)の負っていた借金の調査方法について、相続に強い弁護士が解説しました。
相続放棄をするか否かは、3か月の熟慮期間内に決めなければならず、借金調査に必要な戸籍収集に手間取ったり、複雑な信用情報機関への開示請求や、開示された資料の読解に難儀していると、あっという間に3か月が経過し、相続放棄ができなくなってしまいます。
「相続財産を守る会」では、相続放棄の依頼をお受けするとすぐに、相続財産と相続債務をスピーディに調査し、3か月の熟慮期間内に確実に相続放棄についての判断が下せるよう、相続の専門家である弁護士、司法書士、税理士が尽力します。