限定承認について、その方法と手続を解説します。相続人は、相続が開始した時点から、お亡くなりになった方(被相続人)の一切の権利義務を承継します。
一切の権利義務の中には、プラスの相続財産(遺産)も含まれますが、マイナスの相続財産(遺産)も含まれます。被相続人が生前に借り入れをした借金などが典型例です。
借金も相続してしまうのでは、せっかく相続財産(遺産)を得た意味がないので、どうせなら相続をしたくないです。
亡くなった私の父は、借金がかなり多く、借金の金額を合計すると、得られる相続財産(遺産)の金額を越えてしまいます。
相続財産の金額が、借金の金額よりも少ない場合には、その借金が必ず返さなければならないものである場合には、相続をする方が損してしまうことになります。この場合、「相続放棄」を選択することになります。
これに対して、相続財産は相続したいけれど、借金が上回ることは避けたい、という場合に利用されるのが限定承認です。どうしても相続したい資産(不動産など)が存在するときに活用されます。
今回は、限定承認について、限定承認の方法と手続の流れを、相続に強い弁護士が解説します。
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相続財産を守る会を運営する、弁護士法人浅野総合法律事務所では、相続問題と遺産分割協議のサポートに注力しています。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野です。
相続が開始されたとき、相続人となる人は、「単純承認」、「相続放棄」、「限定承認」の3つの選択肢から、相続の方法を選ぶことができます。
このうち、相続放棄と限定承認は、裁判所に申述をしなければならず、その手続きは一般の方でも行うことはできますが、相続の開始を知ったときから3か月以内という期限があることから、弁護士などの専門家に依頼したほうが確実です。
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限定承認とは?
相続を開始したとき、相続人は、次の3つのいずれかを選択することで、そもそも相続をするか、しないかを決めることができます。つまり、相続人には、相続するか否かの選択権があるのです。
限定承認や相続放棄など、相続財産となる不動産(土地・建物)や現金、預貯金から借金にいたるまでを、すべて包括的に受け継ぐのではない方法を選ぶこともありますので、遺産分割協議の一番最初に選択すべきことです。
ポイント
- 単純承認
:お亡くなりになったご家族(被相続人)の相続財産(遺産)を、相続人がすべて包括的に受け継ぎます。 - 相続放棄
:相続人が、お亡くなりになったご家族(被相続人)の相続財産(遺産)一切承継しません。 - 限定承認
:相続人が、相続によって得た相続財産(遺産)の限度で、お亡くなりになったご家族(被相続人)の債務を承継します。
この3つの選択肢のうち「限定承認」とは、受け継いだ相続財産を限度として、負債の責任を相続する方法のことをいいます。相続開始を知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に、限定承認の申述をすることが要件となります。
つまり、相続財産から借金を返済し、財産が残れば、これを相続するという手続きです。
相続開始を知ったときから3か月以内に、相続放棄か限定承認の申述を家庭裁判所に対して行わなかった相続人は、単純承認したものとみなされます。
限定承認をすべきケースとは?
限定承認は、相続放棄をして財産も借金もいずれも引き継がない、という選択肢がある一方で、相続財産の限度という条件付きですが、借金をも相続する手続きです。
限定承認をするとき、損をしないようにするためにも、限定承認が活用できる典型例を理解していただくことで、限定承認すべきケースについて、具体的にイメージしてみてください。
限定承認が活用できる例
借金の金額が不明確で、相続財産を越えているかどうかがすぐには調査できない場合
お亡くなりになったご家族の経営していた会社を引き継ぐなど、一定の借金を引き継ぐ必要がある場合
相続財産を相続した場合には、財務状況を立て直し、借金の返済をすることが可能な場合
借金を相続してでも、どうしても相続したい財産(不動産など)がある場合
特に、限定承認を活用しなければ対処できないのが、どうしても相続したい財産があるケースです。例えば、居住用不動産を相続したい場合や、家業の事業に必須の財産、家宝などを承継したい場合が、これにあたります。
限定承認の手続は、単純承認や相続放棄の場合に比べて複雑なため、「相続放棄と比べて、限定承認をしたほうが得だろうか。」とお悩みの方は、相続の法律の専門家(弁護士)にご相談ください。
注意ポイント
限定承認を活用するときに、気を付けて頂きたいことは、「相続開始を知ったときから3か月以内」という期限だけではありません。
限定承認は、相続財産を越える債務(借金)を、受け継がなかったこととする手続であるため、その要件は厳格です。次の行為をしたときは、「相続開始を知ったときから3か月以内」でも、単純承認したものとみなされます。
単純承認されたものとみなされることから、その後に限定承認を選択しなおすことはできません。
- 相続人が、相続財産の全部又は一部を処分したとき
- 相続人が相続開始を知ったときから3ヶ月以内に限定承認又は放棄の手続きを取らなかったとき
- 相続人が、限定承認又は放棄をした後でも、相続財産の全部若しくは一部を隠匿したり、私的にこれを消費したり、相続財産と知ったうえでこれを財産目録に記載しなかったとき
限定承認のメリットは?
限定承認のメリットは、相続財産の中に借金があるときに、相続をすることによって損をすることがなくなる点にあります。
相続財産の額を限度とするという留保付きで、債務の弁済をし、債務を弁済してもなお相続財産(遺産)が残る場合に、その財産を承継する、という手続きの流れになるからです。
相続財産(遺産)にプラスが残った場合にだけ財産を得られることとなり、反対に、財産が残らなかった場合には、それ以上の債務の責任は、相続人は負わないことになります。
借金が明らかに多い場合は相続放棄をすればよいですが、相続財産の中にどうしても取得したい財産がある場合でも、借金のほうが多くなってしまう危険、リスクを負わずにその財産を手に入れられるのが、限定承認のメリットです。
たとえば・・・
ご家族がお亡くなりになったとき、相続人が妻と子1人の合計2名で、相続財産が、8000万円と、借金の金額が不明であったとします。
このとき、単純承認した後、借金の金額が1億円であったことが明らかになったら、相続をしたことによって、相続人2名はマイナス2000万円の損害を被ることとなります。
これに対して、限定承認をした場合には、借金が6000万円であったら2000万円相続できますし、借金が1億円であったとしても、8000万円の相続財産がゼロになってしまうだけで、相続人の財産から払う必要はありません。
限定承認のデメリットは?
限定承認にもデメリットがあります。限定承認は、便利そうに聞こえますが、相続放棄よりも利用頻度が低く、それほど用いられていません。
限定承認の制度は、相続人にとって有利であるがゆえに、手続きが複雑なものとなっており、面倒な清算手続きが必要なことが、限定承認のデメリットの1つです。
相続税の準確定申告が必要となったり、みなし譲渡所得税が課税されたりすることによって、相続税の面で不利になる可能性があることも限定承認のデメリットです。
また、限定承認は、共同相続人が全員で行う必要があることから、遺産分割協議などで紛糾しないケースである必要があり、相続人全員が、「限定承認すべきである」という共通認識が存在している必要があります。
相続人全員で行わなければならない反面で、限定承認の申述を行う前に、相続人の誰か1人でも、さきほど解説した「単純承認をしたとみなされる場合」にあたってしまうと、限定承認できなくなります。
限定承認の要件は?
限定承認できるのは誰?
限定承認は、相続人全員が共同して行うこととされています。したがって、限定承認を、家庭裁判所に対して申述して行うことができるのは「相続人全員」です。
共同相続人が複数いるとき、相続人の一部が限定承認を希望したとしても、相続人のなかに1人でも限定承認に反対している人がいれば、限定承認をすることはできません。
相続放棄を選択した相続人は、最初から相続人ではなかったこととなるので、残りの相続人全員が合意すれば、残りの相続人は限定承認をすることができます。
限定承認の申述期間
限定承認は、相続開始を知ったときから3か月以内にしなければなりません。この3か月の期間を、「熟慮期間」といいます。
相続が開始したことを知っていたにもかかわらず、3か月を経過しても、相続放棄も限定承認もしていなかったときには、その相続人は、単純承認をしたものとされてしまい、その後に限定承認を選ぶことはできません。
もっとくわしく!
限定承認は、原則として、相続開始を知った時点から3か月以内に行う必要がありますが、例外もあります。
限定承認をするかどうかを、この3か月の熟慮期間中に決定することができない事情があるときは、3か月の期間内に家庭裁判所に延長を申し出ることができます。
限定承認の熟慮期間の延長を家庭裁判所に申し出ることを、「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立て」といいます。
限定承認の申述先
限定承認を申述する先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
限定承認に必要な費用
限定承認を申述するのに必要となる費用は、相続人1人収入印紙800円分と、家庭裁判所の定める郵便切手代です。
必要となる郵便切手代については、裁判所によって異なるため、詳しい金額は家庭裁判所にお問い合わせください。
限定承認に必要な書類
限定承認を、家庭裁判所に申述するときに、提出しなければならない書類、資料について、相続に強い弁護士がまとめました。
限定承認ができる期間は、相続開始を知ってから3か月に限られているため、戸籍などのうち、申述までに入手することが困難なものについては、後日追加提出してもよいこととされています。
限定承認の必要書類
申述に必要となる書類
- 限定承認の申述書
- 被相続人に関する書類
:出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、住民票の除票または戸籍の附票 - 限定承認の申述人全員の戸籍謄本
- 財産目録
- 当事事者目録
申述人(相続人)に子が含まれる場合
- 被相続人の子(及びその代襲者)が死亡している場合、その子(及びその代襲者)の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本)
申述人(相続人)が配偶者と直系尊属の場合
- 被相続人の直系尊属に死亡している方がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(ただし、相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る。例えば、祖母が相続人の場合、父母と祖父)
申述人(相続人)が配偶者のみの場合、または、配偶者と兄弟姉妹(もしくは、その代襲者の甥姪)の場合
- 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の兄弟姉妹で死亡している人がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 代襲者となる甥姪が死亡している場合、その甥姪の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
限定承認の清算手続きは?
限定承認の申述が、家庭裁判所に受理されたあとは、限定承認の申請をした人が、相続財産の清算手続きを行う必要があります。
なお、限定承認をおこなった相続人が複数いるときは、申述の受理と同時に、家庭裁判所が相続財産管理人を選任し、その相続財産管理人が、相続財産(遺産)の清算手続きを行います。
限定承認のあとに必要となる相続財産(遺産)の清算手続きとその流れについて、弁護士がまとめました。
- 5日以内(相続財産管理人が選任されたときは選任から10日以内)に、2か月以上の期間を定めて限定承認をしたことなどの公告を行い、知れている債権者に催告する。
- 公告期間が満了した後に、相続債権者となった人に対して、債権額の割合に応じて弁済を行う。
- 相続債権者に弁済をした後に、受遺者に弁済を行う。
相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか。
今回は、「借金があるけれども、相続財産の中に承継したい財産がある。」という相続相談に対して、限定承認を活用すべきケースとその方法、手続などを、相続に強い弁護士が解説しました。
限定承認は、「相続財産の範囲でしか債務を負担しない」というとても有利にみえる制度ですが、手続が複雑で手間も費用も多くかかるおそれがあります。準確定申告、みなし譲渡所得課税など、相続税の面でも注意点があります。
限定承認をすることで、結局損をしてしまうことのないよう、どのような計画で相続するかについて、事前に専門家にご相談ください。
「相続財産を守る会」には、相続に強い弁護士が在籍し、限定承認の活用例も豊富に有しています。