相続財産目録とは、相続手続きに利用される、お亡くなりになった方(被相続人)のある一時点(死亡時など)における相続財産(遺産)を網羅的に記載した書面のことです。
相続財産目録は、法律上の作成義務があるものではないですが、遺言書作成の際に利用されたり、相続開始後(被相続人の死亡後)の遺産分割協議の際に、話し合いのときに利用されたりします。相続財産(遺産)が特定されて、便利だからです。
相続人間の「争続」が長期化してしまったり、協議書などを作成した後で、遺産分割していない相続財産(遺産)が発見されたりしないよう、相続財産目録を作成しておくのがお勧めです。
今回は、相続財産目録に関する基礎知識と、相続財産目録の作成方法、作り方を、書式・ひな形・記載例を示しながら、相続に強い弁護士が解説します。
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相続財産目録とは?
相続財産目録とは、お亡くなりになった方(被相続人)のある一時点において所有している財産を網羅的に記載した書面のことをいいます。
相続財産目録には、決まった書式があるわけではありませんが、せっかく作成するのですから、わかりやすくまとめて整理されているほうがよいでしょう。裁判所の示す相続財産目録の書式例が参考になります。
引用元:裁判所
こちらの書式・ひな形のサンプルを参考にしながら、相続財産目録について弁護士が解説していきます。
相続財産目録に記載する財産
相続財産目録に記載する財産は、ある一時点における、所有している財産の全てです。不動産、動産、株式、預貯金といったプラスの財産だけでなく、借金、ローンなどのマイナスの財産も網羅的に記載します。マイナスの財産も、相続の対象だからです。
「この財産は他人に知られたくない」と隠してしまうと、相続財産目録としてあまり役に立たないものになってしまいます。相続財産目録に載っていない財産があると、相続税計算に誤りが生じて、相続税対策、生前対策として有用ではなくなってしまいます。
また、後から、相続財産目録に記載されていない財産が発見されたとき、改めて遺産分割協議が再度必要となる等の不都合が生じます。財産的価値のあるものは、全て記載してください。
経済的価値のない財産(思い出の品、形見の品)などを記載する必要はありませんが、遺産分割協議の便宜上、別途まとめて整理しておくのがよいでしょう。
相続財産目録を作成するメリット
相続財産目録を作成するメリットの1つ目は、財産を一目見てわかりやすく整理することです。相続財産目録を見ながら話し合いをすることで、相続の生前対策はもちろん、遺産分割協議の話し合いもスムーズに進められます。
「誰がどの財産を得るか」を話し合う前提として、全体でどれだけの財産があるかという前提条件について、相続人間の共通認識をそろえることで、不正確な議論による揉め事を防ぐことができます。
相続財産目録を作成するメリットの2つ目は、相続税申告のときの便宜のためです。まず、基礎控除額(3000万円+600万円×相続人の数)を超える財産を有しているかを知り、その後、相続税の評価額を出して相続税額を算出するため、財産を漏れなく知る必要があります。
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相続財産目録を作らないデメリット
逆に、相続財産目録を作っていなかったり、作成方法が不正確であり、間違った相続財産目録を作ってしまったりしたときには、次のようなデメリットがあります。
デメリットの1つ目は、相続財産(遺産)に関する正確な情報が把握できないことによって、「相続放棄すべきか」の判断基準を誤ったり、有効な相続税対策、生前対策がとれなっくなってしまうことです。
デメリットの2つ目は、実際に相続が開始したとき(被相続人の死亡後)、遺産分割が円滑に進まずに「争続」となって、遺産分割が完了しなくなり、相続財産となる不動産、預貯金などを処分できない状態が続くことです。
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相続財産目録を作成するため、相続財産調査を行う
相続財産目録には、ある一時点における、その人のすべての財産が記載されていなければなりません。そのため、相続財産目録を作成するためには、相続財産の調査をする必要があります。相続財産の確定が、相続財産目録作成のために必須です。
相続財産調査の結果、明らかになった財産をすべて一覧にして、相続財産目録を作成してください。遺産分割協議の際には、相続財産目録は「あったら便利」といった程度ですが、遺産分割調停を申し立てる際には、家庭裁判所に提出する必要書類となります。
あらかじめ相続財産調査を早めに行い、相続財産目録を作成しておくことが、「争続」を長期化させずに、スムーズに相続を進めるための秘訣です。
不動産(土地・建物)の財産調査
不動産(土地・建物)を被相続人が所有していたかどうかを調べ、相続財産目録を作成するときは、戸籍、住民票などを頼りに、自宅、経営していた会社の本店所在地など、可能性のある不動産の登記簿謄本を順に取得していきます。
不動産の登記簿謄本は、法務局に申請すれば、相続人であっても取得することができます。あわせて、相続税算定のため、固定資産税評価証明書、公図などを取得します。
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預貯金の財産調査
預貯金の財産調査を行って相続財産目録を作成するとき、最も頼りになるのが「銀行通帳」です。通帳を記帳し、残高を確認することは、相続人でも可能です。残高の未記帳部分が「おまとめ記帳」になる場合には、詳細な財産調査を行うため、履歴開示が必要です。
どの銀行などの金融機関に口座をもっているかが不明なときは、キャッシュカード、クレジットカード、銀行など金融機関からの郵便物、メールなどをチェックします。
株式、債権などの有価証券が存在しないかどうかについても、相続財産目録を作成する際、証券会社に口座の有無、残高を紹介します。ただし、未上場株式(非公開株式)の評価には、公認会計士、税理士などの専門家のサポートが必要です。
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相続した預貯金の調査方法・探し方は、こちらをご覧ください。
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相続債務の財産調査
借金やローンなどの債務もまた相続の対象ですので、相続債務の財産調査が必要となります。まずは、通帳を記帳し、費目をチェックすることで、住宅ローン、自動車ローンなどの引き落としがないか調査してください。
あわせて、信用機関の情報を取り寄せることで、金融機関、クレジットカードなどの債務状況を明らかにすることができます。ただし、個人間の貸借り等は、金銭消費貸借契約書を発見していただくしかなく、債権者の請求待ちとなることも少なくありません。
相続債務の調査の結果、相続財産よりも多額の借金がある場合には、相続財産目録を作成する段階で「相続放棄をすべき」であることが判明することもあります。
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【相続財産別】相続財産目録の書き方・作成方法の記載例
財産調査を終えて、相続財産(遺産)の詳細を把握することができたら、次にいよいよ相続財産目録を作成します。書き方、作成方法などについて、記載例を示しながら、弁護士が解説します。
相続財産目録に記載する情報は、相続財産(遺産)を特定することのできる情報と、その財産の評価額です。
不動産
相続財産目録に記載する、不動産(土地・建物)の記載例は、財産として所有している不動産を特定するのに十分な情報を記載してください。財産調査の際に取得した不動産登記簿謄本を参考に、所在地、地積を記載し、固定資産税評価証明書を参考に評価額を記載します。
ただし、税務申告の際には、路線価を基準として、評価額を計算しなおす必要があります。
記載例
所在:東京都中央区銀座〇丁目〇番地〇号
地積:○○.〇〇平方メートル
評価額:5000万円
預貯金・現金
預貯金、現金の書き方もまた同様に、財産調査のときに知ることのできた、銀行など金融機関の口座が特定できる情報を、相続財産目録に記載します。通帳などの記載をもとに、金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号、名義人名などを記載します。
合わせて、相続財産目録を作成する時点の、残高を金融機関に紹介し、財産の評価額として記載します。
記載例
金融機関名:○○銀行
支店名:銀座支店
口座の種類:普通預金
口座番号:XXXXXXX
評価額:2000万円
有価証券
財産調査の結果、株式、債券などの有価証券を所有していることが明らかになったときには、相続財産目録に、有価証券を特定できる情報と、その評価額を記載します。
有価証券を特定するための情報は、証券の種類によって異なりますが、株式の場合には、預け先の口座のある証券会社、支店名、対象となる株式銘柄、株式数を記載します。
記載例
証券会社名:○○証券
支店名:銀座支店
銘柄:○○株式会社
株数:100株
評価額:5000万円
ゴルフ会員権
相続財産(遺産)の中にあるその他の財産の中で、財産的価値が高額となる可能性のあるのが「ゴルフ会員権」です。
ゴルフ会員権は、ゴルフ場の利用権ですが、歴史の長い名門のカントリークラブなどの利用権は高値での売買取引が行われるなど、一定の財産的価値のあるものとして評価することができ、相続財産目録の作成の際にも、見逃してはなりません。
記載例
会員権:ゴルフ会員権(ゴルフ場○○カントリークラブ利用権)
運営会社:○○株式会社
評価額:200万円
自動車
相続財産の中に、自動車(車両)がある場合には、財産的価値が高い場合がありますので、相続財産目録の作成時にも、自動車(車両)を特定できる情報とともに、その評価額を記載します。
相続財産目録に記載するために、ある自動車を特定するためには、車検証などを参考に、車両番号、車種などを記載してください。
記載例
車種:自動車(○○○社、○○○○)
車両番号:XX-XXXXX
評価額:500万円
相続債務
相続財産には、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金・ローンなど)も含まれることを解説しました。そのため、相続財産目録を作成するときにも、債務の種類や金額も記載しておかなければ、財産的な価値を見誤るおそれがあります。
相続税を計算する際にも、相続債務の金額が重要となるからです。相続債務を特定するためには、債権者と、債権額、返済日などを記載します。
記載例
債権者:○○銀行
債権額:3000万円
借入用途:住宅ローン
相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、相続財産目録とはどのようなものか、また、財産ごとにどのような情報を記載しなければならないかについて、相続財産目録の書式・ひな形と、財産ごとの記載例を示しながら、弁護士が解説しました。
相続財産目録は、相続財産調査を担当する弁護士、司法書士や、相続税申告を担当する税理士などに作成を任せることも多いですが、より有効な駛馬からの生前対策や、円滑な話し合いのため、おおざっぱにでも自分たちで作成しておくことがお勧めです。
相続財産の調査段階から、相続に強い弁護士などの専門家に依頼することで、相続財産目録を適切に作成した上で、これに基づいた相続対策の有効なアドバイスを受けることができます。ぜひ一度「相続財産を守る会」にご相談ください。