相続開始からある程度たった後ではじめて、「自分の相続した財産が少ないのではないか」、「不公平な相続で権利を侵害されたのではないか」と気づいたとき、どのように対応したらよいでしょうか。
民法で最低限相続できることが保障されている「遺留分減殺請求権」の行使には、「時効」、「除斥期間」という2つの期限があり、いつまででも権利行使できるわけではありません。一方で、「時効」については中断する方法があり、きちんと対応しておけば、期間が経過した後でも遺留分を取り戻せます。
そこで今回は、遺留分減殺請求権の「時効」、「除斥期間」という2つの期限と時効中断の方法について、相続に強い弁護士が解説します。
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遺留分減殺請求権の2つの期限とは?
そもそも「遺留分減殺請求権」とは、民法で、兄弟姉妹以外の法定相続人が最低限相続できることを保障された「遺留分」を、遺贈や生前贈与などによって侵害されたときの救済策のことです。
遺留分を有している法定相続人は、配偶者(夫や妻)、子、直系尊属(両親、祖父母)やその代襲相続人であり、兄弟姉妹は遺留分を認められていません。
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遺留分減殺請求の期限については、民法の条文で、次のように定められています。
民法1042条減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
この民法の規定を読んでいただければわかるとおり、遺留分減殺請求権には、「1年」と「10年」という2つの期限があり、それぞれ別々に進行します。2つの期限について弁護士が詳しく解説します。
消滅時効:相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年
遺留分減殺請求には「消滅時効」があります。「消滅時効」とは、法律で定められた一定の期間が経過したときに、対象となる権利を消滅させる制度であり、消滅した権利は行使することができません。
権利を行使せずに長期間経過した場合、「もはや権利は行使されないだろう」という期待を保護し、安定性を高めることが目的とされています。
遺留分減殺請求権の消滅時効は「1年」であり、1年の起算点は、「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」とされています。つまり、相続が開始したことを知らなかったり、遺留分を侵害する贈与・遺贈を知らなかったりすれば、時効期間は進行しません。
相続の開始や遺贈・贈与のことを「知った」といえるためには、これらの事実だけでなく、これによって「遺留分が侵害されたこと」を知ったという状態でなければ、時効期間は進行しないものとされています。
ただし「遺留分を侵害されていること」を知ったといえる状態であるかどうかは、相続財産の調査、遺留分の計算方法について理解する必要があります。自分の遺留分が侵害されているかどうか、ご心配な場合には、弁護士にご相談ください。
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除斥期間:相続開始の時から10年
ここまで解説したとおり、相続開始や、遺贈・生前贈与により遺留分が侵害されていることを知っていなければ、消滅時効は進行しませんが、一方で、除斥期間は、これらを知らなくても進行します。
除斥期間とは、権利の存続期間のことをいい、中断などはなく、一定の期間が経過すると権利が消滅して行使できなくなる制度のことです。
そして、遺留分減殺請求権の除斥期間は、相続開始から10年間とされています。つまり、相続開始を知らなかったり、遺贈や生前贈与によって遺留分を侵害されていることを知らなくても、相続開始から10年経過後は、遺留分減殺請求ができません。
遺留分減殺請求の期限を過ぎてしまったら?
遺留分減殺請求の2つの期限(時効・除斥期間)について解説しました。これらの期限を過ぎてしまえば、どれほど不公平な遺言が存在していても、どれだけ多額の金銭請求ができるはずであったとしても、もはや権利行使はできません。
しかし一方で、遺留分減殺請求権の消滅時効期間は1年ととても短く、その間に相続人調査と財産調査を進め、遺言を調査し、遺留分が侵害されているかどうかを理解することは、専門家の助けを借りなければ非常に困難です。
実際、相続開始(被相続人の死亡)から1年を過ぎてから、弁護士のもとに法律相談に来られる方はとても多くいます。
相続開始(被相続人の死亡)から1年が過ぎていたとしても、まだ10年経過していない場合には、「消滅時効期間が経過していない」という主張が可能な場合があります。例えば、次の場合です。
ポイント
- 相続が開始したこと(被相続人が死亡したこと)をしばらくの間知らなかった。
- 遺言が隠されており、遺留分が侵害されていたことを知らなかった。
- 相続財産の一部が隠されており、正しい遺留分の計算ができなかった。
これらの場合には、相続開始と同時に消滅時効期間が進行しないため、相続開始から1年足っていたとしても、まだ時効は完成しておらず、遺留分減殺請求が可能です。
加えて、次に解説するとおり、消滅時効は、中断することができます。
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遺留分減殺請求の時効・除斥期間の中断方法
「消滅時効」の制度は、ずっと放置をしておいた権利が消滅し、行使不可能になるという制度ですので、放置をしないことによって、時効を中断することができます。逆に言うと、相続開始や、遺留分が侵害されていることを知らなければ、時効中断のための方策をとることもできませんから、時効は進行しないこととされているのです。
より詳しく説明すると、遺留分減殺請求権は、ひとたび行使すればこれによって効果を生じるため、厳密には「時効中断」というより、一度行使をすればその後は時効が進行することはありません。このような権利の性質を「形成権」といいます。
一旦権利行使の意思表示をすれば、期限などを気にする必要がなくなるということは、「意思表示を行ったという事実」を確実に証拠化しておく必要があります。具体的には、配達証明付き内容証明郵便にて、通知書を送付する形で、遺留分減殺請求を行ってください。
遺留分減殺請求を行う方法には、内容証明を送って話し合いをする方法のほかに、調停、訴訟による方法があります。「調停前置主義」のため、訴訟より先に調停を行う必要があります。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、不公平な遺言・生前贈与によって遺留分を侵害された相続人の方に向けて、遺留分減殺請求権の2つの期限(消滅時効・除斥期間)とその止め方について、弁護士が解説しました。
遺留分減殺請求権は、ひとたび行使すれが効果を発揮する「形成権」であるため、権利行使の意思表示をすれば、「時効中断」というより、その後は期限が進行しなくなります。しかし、きちんと証拠に残るよう行使しなければなりませんし、その後に遺留分相当額を取り戻せなければ意味がありません。
「相続財産を守る会」では、遺留分に関する紛争、トラブルを数多く担当した弁護士が、遺留分の正しい計算方法と、遺留分の確実な権利行使を、ご相談者に代わってサポートします。