遺留分減殺請求権とは、民法で認められた法定相続人のうち、兄弟姉妹以外(配偶者、子、孫、直系尊属)がもつ、遺言などによっても侵害されずに相続できる相続分のことをいいます。
生前贈与や遺言による贈与(遺贈)などによって遺留分が侵害されてしまったとき、遺留分減殺請求をするわけですが、この権利行使の意思表示を確実に相手方に伝えるために、「配達証明付き内容証明郵便」が利用されます。
内容証明郵便は、郵便局が取り扱う送付方法の中でも特殊なものです。そこで今回は、遺留分減殺請求権の行使を確実に行えるように、遺留分減殺請求の内容証明の書き方、作成方法を、書式・ひな形を示しながら、弁護士が解説します。
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遺留分減殺請求を、内容証明で行う理由は?
法律上、遺留分減殺請求の意思表示を行う際に、どのような方法で行わなければならないかのルールはありません。つまり、確実に意思表示が到達すれば、普通郵便でも書留でも、メールやLINE、口頭でも、遺留分減殺請求権の権利行使はできます。
しかし、遺留分減殺請求権を行使すると、行使された相手方は、相続できる財産(遺産)が減ることを意味していますから、徹底的に争ってきて、「争続」のトラブルが激化する可能性があります。
遺留分減殺請求権は、相続開始を知ったときから1年以内(消滅時効)、かつ、相続開始から10年以内(除斥期間)に行使しなければならないので、権利行使を争う相手方が、「そもそも遺留分減殺請求の意思表示を受けていない」と反論したとき、権利行使したことを証明しなければいけません。
このように、遺留分減殺請求権の行使が、トラブルの発端となって遺産分割争いが激化するとき、はじめの権利行使の段階から、証拠に残る形で行う必要があり、内容証明を利用すべきなのです。
内容証明郵便の場合には、送付した郵便物の文書内容を、郵便局が証明してくれます。これと共に配達証明郵便を利用することによって、「いつ、どのような内容の文書を、誰に送ったか。」の証拠を残すことができます。
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遺留分減殺請求権の行使にかかる弁護士費用は、こちらをご覧ください。
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もっとくわしく!
配達証明付き内容証明郵便と似た方法に、特定記録郵便や書留郵便があります。
しかし、特定記録郵便、書留郵便は、いずれも「いつ、誰に書面を郵送したか。」の記録は残るものの、送付した書面の内容までは証拠化してくれません。
遺留分減殺請求の内容証明【書式・ひな形】
通常の通知書の文例
それでは早速、遺留分減殺請求の内容証明の書式・ひな形のサンプルを見ていきましょう。意思表示を内容証明で行うことが重要であることから、書面の題名は「通知書」、「遺留分減殺請求書」など、どのようなものでも構いません。
〒XXX-XXXX
東京都中央区銀座〇〇の〇
相 続 花 子 殿
父相続一郎(XXXX年XX月XX日死亡)の相続につきまして、次の通り、遺留分減殺請求の通知をします。
父相続一郎は、XXXX年XX月XX日付け公正証書遺言にて、全ての財産を長女である貴殿に相続させる旨の遺言をしました。
しかしながら、同遺言は、父相続一郎の子である私、相続太郎の遺留分を侵害します。
したがって、私は、本書面をもって、貴殿に対して、遺留分減殺請求をします。
遺言無効を合わせて主張するときの文例
遺留分減殺請求をするとき、そもそも、遺留分を侵害することとなったトラブルのもとの遺言書について、「遺言自体が無効なのではないか」という場合もあります。例えば、認知症の方に、同居の親族が無理やり遺言を書かせたのではないか、遺言書作成の強要と疑われる事案です。
遺留分減殺請求とともに、遺言の無効もあわせて主張する際の内容証明の書式・ひな形・文案ものせておきます。
〒XXX-XXXX
東京都中央区銀座〇〇の〇
相 続 花 子 殿
父相続一郎(XXXX年XX月XX日死亡)の相続につきまして、貴殿に対して次の通り通知します。
父相続一郎は、XXXX年XX月XX日付けで自筆証書遺言を作成し、全ての財産を長女である貴殿に相続させる旨の遺言をしました。
しかしながら、同遺言は、作成日時時点で重度の認知症にかかっていた父相続一郎の遺言能力はなかったと考えられること、貴殿にとって著しく有利な内容であること等から、無効であることが明らかです。
なお、仮に、上記自筆証書遺言が有効である場合であっても、同遺言は父相続一郎の子である私、相続太郎の遺留分を侵害しますので、本書面をもって、貴殿に対して遺留分減殺請求をします。
通知書に必ず書いておくこと
遺留分減殺請求を内容証明で送付するときには、文書の内容に特に決まりはないものの、「遺留分減殺請求権を行使する」という権利行使の意思が明確に伝わるような文書にする必要があります。必ず記載すべきことは、次の内容です。
ポイント
誰の相続を対象としているか(被相続人の氏名と、死亡日)
誰の遺留分を侵害しているか(送付者の氏名)
送付者が遺留分を有していること(被相続人との関係、続柄など)
遺留分を侵害した方法(生前贈与の年月日、内容、遺言書の作成年月日など)
遺留分減殺請求権を行使するという内容
具体的に、減殺すべき生前贈与の内容や金額、減殺すべき遺贈の内容や金額が判明していれば、より具体的な請求を記載することもあります。遺留分の割合や金額などを記載するには、法律の知識が必要となるため、弁護士にご相談ください。
内容証明郵便は、インターネットを通じてオンラインで送付できる電子内容証明サービスもあり、便利ですので利用してみてください。
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遺留分の割合と計算方法は、こちらをご覧ください。
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遺留分減殺請求の内容証明の様式は?
遺留分減殺請求をはじめ、内容証明郵便を送付するときには、郵便局の定めた様式にしたがう必要があります。文字数、行数などに、細かい決まりがありますので、下記を参考に内容証明を作成してください。
用紙のサイズ
遺留分減殺請求の内容証明の用紙のサイズには、特に定めはなく、用紙の種類にも定めはありませんから、便せん、コピー用紙、原稿用紙などいずれの用紙でも構いません。
ただし、パソコンで印字する場合にはA4用紙がお勧めです。
筆記具
遺留分減殺請求の内容証明の筆記具にも、特に定めはなく、手書きでもパソコンでも構いませんが、手書きの場合には消えないボールペンがお勧めです。
鉛筆やシャープペン、消えるボールペンなどで書いてはいけないわけではありませんが、内容証明という重要な通知を作成するには不向きです。
文字数・行数
内容証明の文字数、行数には、厳格な定めがあります。縦書きの場合でも横書きの場合でも、1行20文字以内、1枚26行以内で作成します。
使用できる文字
内容証明の文案に使用できる文字に制限があり、ひらがな、カタカナ、監事、数字、句読点、かっこ、一般的な記号は利用できますが、英字は固有名詞以外には使用できません。
句読点や記号なども1文字と計算します。
用紙の枚数
遺留分減殺請求の内容証明の用紙枚数には、特に定めはありませんが、枚数に応じて料金が加算されます。
2枚以上となるときは、同一の通知書であることを示すために、ホッチキス止めして、すべてのつなぎ目に「契印」を押します。
オンライン内容証明の場合の様式
インターネット上で利用できるオンラインで内容証明を送付するサービスを利用すれば、ワードなどで遺留分減殺請求書の文案を作成することができ、文字数や行数などの要件もありません。
遺留分減殺請求の内容証明の出し方
遺留分減殺請求の内容証明の書面案の作成ができたら、郵便局にもっていって郵送の手続を行います。この際、同内容の書面を3通作成して持参します。
3通のうち、1通は相手方に送付され、1通は郵便局に保管され、1通は差出人の保管用となります。カーボン用紙で複写されるタイプの内容証明郵便作成セットなども市販されています。
書面案と封筒に、差出人、受取人の住所、氏名を記載します。封筒の色や大きさ、サイズ、種類などは自由です。内容証明案の修正が必要となったときのためには「加除訂正」の記載をした上で押印が必要となりますので、印鑑を持参してください。
郵便局の窓口に持参して、内容証明郵便を送りたいと告げると、文書案3通が同内容かを郵便局員がチェックし、内容証明の送付手続を進めます。小さい郵便局の場合、取り扱っていない場合もあるため、事前に内容証明を取り扱う郵便局かどうかを確認してください。
遺留分減殺請求の内容証明を送る相手方は?
遺留分減殺請求の内容証明を送るときには、その相手方に注意が必要です。内容証明を送るべき相手方を知るためには、相続財産(遺産)の金額を調査した上で、誰がどの程度の金額の財産を相続したかを調べ、遺留分を計算する必要があります。
相続財産(遺産)の調査には、登記簿謄本、固定資産税評価証明書などの多くの資料の取り寄せが必要となり、遺留分を確定させるためには、さらに戸籍収集をして相続人を確定しなければなりません。
各調査に時間がかかり、遺留分減殺の期間制限(1年)までに調査が終わりそうにない場合には、とりあえず考え得るすべての相手方(相続人など)に対して、遺留分減殺請求の内容証明を送って「時効中断」しておくことをお勧めします。
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遺留分減殺請求権の行使方法まとめは、こちらをご覧ください。
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遺留分減殺請求の内容証明の受取を拒否されたら?
遺留分減殺請求を内容証明によって相手方に伝えたとしても、受領拒否をされてしまったらどうしたらよいでしょうか。内容証明郵便は、受取の際に受取人のサインが必要で、受け取りを拒否されると、送付者に返送されるからです。
しかし、遺留分減殺請求権の行使は、内容証明郵便が到達した際に意思表示の効果を生じます。つまり、受取拒否したとしても、遺留分減殺請求権の行使がなかったことにはなりません。
内容証明郵便は受取には署名が必要ですが、内容証明の相手方本人が受け取る必要はなく、家族などが受け取っても、意思表示が到達したと取り扱われます。受取拒否をして内容証明が返送されても、受取を拒否した時点で内容を了知可能であれば、意思表示は到達したものと評価するのが裁判例の考え方です。
したがって、「遺留分減殺請求について争いが明らかであり、送っても受取拒否されるに違いない」と予想されたとしても、内容証明を送付しておくことが重要です。
相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、遺留分減殺請求の権利行使を行う際に活用すべき内容証明について、その書式・ひな形を示しながら、注意点も踏まえて弁護士が解説しました。書式・ひな形を参考にして内容証明を作成してみてください。
遺留分減殺請求の問題では、内容証明の送付は、あくまでも出発点に過ぎません。その後、内容証明を受け取った相手方から連絡があったら、いよいよ交渉のスタートです。遺留分についての交渉を有利に進めるためには、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
「相続財産を守る会」では、遺留分減殺請求の経験豊富な弁護士が、遺留分を正確に調査、計算し、相手に対して権利行使を明確にする内容証明の作成、交渉を有利に進めるサポートをしています。