不動産登記のうち、「権利部(権利登記)」の部分については、登記を行う義務はありません。つまり、所有権移転を受けても、登記を行わなければならないわけではありません。不動産登記をすると、登録免許税や司法書士費用など、手間と費用が嵩みますが、それでも登記を行っておくべき理由が「対抗要件」です。
実際に、相続や売買、贈与などで不動産(土地・建物)の所有権を得たとき、登記をするのは、この「対抗要件」としての登記に重要な意義があるからなのです。
「対抗要件」というのは、法律の専門用語であり、その考え方を理解していただくのが難しいかと思いますので、不動産問題、相続問題を多く取り扱う弁護士が、わかりやすく解説します。
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不動産の「対抗要件」とは?
まず、不動産の対抗要件について解説するにあたって、次の民法の条文を見てみてください。
民法176条(物権の設定及び移転)物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
民法177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
この2つの民法の条文に書かれているとおり、不動産の所有権移転など権利変動は、買主と売主など当事者の意思表示が合致すれば行うことができ、それ以外に特に必要な要件などはありません。
しかし、その物権変動を、当事者以外の第三者に対抗するときには、「対抗要件」が必要であり、その対抗要件が、不動産の場合には「不動産登記」です。
これは、不動産所有権の移転など、権利変動は目に見えないため、登記によっておおやけに示さなければ、「誰が、どの範囲の不動産(建物・土地)に、どのような権利を持っているか」がわからなくなってしまい、取引の安全と円滑を損なってしまうからです。
不動産売買の場面を考えてもらってもわかるとおり、売買や相続が繰り返されて、しかも、誰が現在の所有者かがわからないのでは、安心して買主を信用して、代金を支払うことができなくなってしまいます。
対抗要件がなければ対抗できない「第三者」とは?
さきほど、物権変動の当事者以外の「第三者」には、対抗要件がなければその物権変動を主張することができないと解説しました。この場合の「第三者」は、原則として物権変動の当事者以外の人のことをいいますが、例外があります。
この際の「第三者」は、対抗要件を備えていないと取引の安全と円滑を害されてしまうおそれがあるため保護される対象であることから、保護されるに十分な立場にいる人でなければなりません。
そのため、不法占有者や、物権変動があることを知ってあえて所有権を侵害しようとした人など、不動産登記による対抗要件の制度によって保護する必要性がないと考えられる人は、「第三者」には含まれません。
対抗要件の制度によって保護される「第三者」に該当しない人について、説明していきます。
「当事者及び包括承継人」は含まれない
不動産売買の際の売主、買主のように、物権変動の当事者は、その物権変動があったことを知っているのが当然ですから、不動産登記がされていなかったからといって「売買契約があったとは知らなかった」と主張するのはおかしいことは理解いただけるでしょう。
したがって、物権変動の当事者は、対抗要件の制度によって保護される「第三者」には含まれず、その結果、不動産登記による対抗要件を備えていなくても、当事者に対しては、その物権変動を主張することができます。
また、相続をした相続人は、当事者の地位を包括的に承継することになります。1つ1つの権利義務ではなく、権利義務関係を全体としてまとめて承継するということです。したがって、相続人などの包括承継人は当事者と同一と評価されるため、同様に「第三者」には含まれません。
登記されていないことを主張する正当な利益を有する者
不動産登記による対抗要件の制度によって保護される「第三者」に含まれるためには、不動産登記がされていないことを主張する正当な利益を有する人でなければならないとされています。これは、対抗要件の制度が、第三者の取引安全の保護にあることから当然です。
例えば、不動産が二重に売買されてしまった場合に、不動産の所有権が移転していたことを知らずに買った人は保護に値しますが、不動産の所有権が移転していたことを知っていたのに、登記されていないことを利用して所有権を奪おうとした人は保護に値しません。
このように、嫌がらせの目的であったり、正当な所有権を有する人を不当に侵害しようという目的があるような人を、法律の専門用語で「背信的悪意者」といい、「第三者」には含まれないため、不動産登記による対抗要件を備えなくても、所有権を主張することができます。
不動産登記による対抗要件が問題となるケースは?
不動産登記による対抗要件が、よく問題となるケースが、不動産の二重譲渡のケースです。ある売主が、不動産を1人の人に売り、その後に、更に他の人に不動産を売ってしまった場合が、「二重譲渡」です。
不動産売買があっても、所有権移転は目に見えないため、登記をせずに更に他の人に売っても、買主となった人には前に行われた売買の存在がわかりません。
この不動産(土地・建物など)の二重譲渡のケースでは、先に第三者対抗要件を得たほうが、もう1人の買主に対して所有権を対抗することができます。つまり、登記を取得したほうが、有効に所有権を取得することができるというわけです。
登記を取得できなかったほうの買主は、二重譲渡をしてしまった売主に対して、損害賠償請求をすることなどによって責任追及をします。
このような登記の原則を「公示の原則」といいますが、これと比較されるものに「公信」があります。しかし、不動産登記には「公信力」はないとされています。これは、「登記があれば所有権があるものとする」という、本来ないものを作り出す力であり、この力はないとされています。
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相続で、不動産登記による対抗要件が問題となるケースは?
遺産相続の場面でも、相続財産(遺産)に不動産が含まれるご家族の場合には、その不動産の相続による権利移転があったらすぐに、不動産登記名義の変更を行い、対抗要件を備えておくことが重要です。
最後に、相続の場面で、不動産登記など対抗要件が問題となるケースについて、弁護士が解説します。
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遺産分割と、不動産登記による対抗要件
相続した不動産を、誰がどのように分けるかを話し合うのが、遺産分割協議です。遺産分割協議によって、相続人全員の合意で不動産を誰が相続するか決めたときは、遺産分割協議の効果は相続開始時に遡及します。
つまり、相続開始時から、その相続人が所有権を持っていたものとなります。ただし、この場合に、遺産分割協議よりも前に不動産の所有権の譲渡を受けた人は、害されないこととなっています。
これに対して、遺産分割協議が終了した後、登記までに、第三者が不動産の所有権を取得してしまった場合には、遺産分割協議によって相続した人とのうち、不動産登記による対抗要件を先に備えた人が優先することになっています。
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遺言と、不動産登記による対抗要件【2018年法改正】
2018年に行われた民法の相続法部分に関する法改正で、遺言によって不動産を相続した人は、法定相続分を越えて相続した部分について、不動産登記による対抗要件を備えなければ、第三者に所有権を主張することができないものとされました。
これまで、遺贈(遺言による贈与)と、「相続させる」と書かれた遺言とで、取扱いが裁判例によって曖昧になっていたところが、法律によって明確にされ、今後ますます、遺言がある場合の相続の場面における、不動産登記による対抗要件の具備が重要となります。
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お亡くなりになった方(被相続人)が、生前に遺言書を作成していたときには、その遺言書にしたがって相続手続きを進めることができます。相続財産(遺産)に不動産(家・土地)が含まれるとき、「遺言による相続登記 ...
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いかがでしたでしょうか?
今回は、不動産登記の「対抗要件」の意味と効果、対抗要件を備えておくべき理由などについて、弁護士が解説しました。
不動産の所有者がお亡くなりになった際の相続では、必ず対抗要件を備え、二重譲渡などによって不動産を失いかねない事態を回避してください。登記手続きや、これに必要となる登記簿謄本、戸籍などの資料収集は、弁護士、司法書士など相続の専門家にお任せください。
「相続財産を守る会」では、相続問題を数多く取り扱う弁護士、司法書士が在籍し、ご相談者、ご依頼者の方の手間を煩わせることなく遺産分割協議や遺言にもとづき、迅速に相続登記を行うことができます。