相続問題を考えるとき、「登記」、「不動産登記」という言葉がよく出てきます。「不動産登記」とは、不動産を管理したり、税金を徴収したりするために発明された国の行政上の制度ですが、一般の方にはわかりづらいかもしれません。
しかし、「不動産登記法」という名称の法律もあるとおり、不動産登記はとても重要です。特に相続財産(遺産)の中に不動産を持っているご家庭では、不動産登記についての配慮は欠かせません。登記問題を業務分野としているのが、司法書士です。
不動産登記とはどのようなものかをよく理解していただき、なぜ登記する必要があるのか、登記が重要な理由などについて、司法書士が解説します。
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不動産登記とは?
「登記」とは、ある権利状態を、社会的に公示する制度のことです。権利や義務は目に見えないので、「誰が、何に対して、どのような権利を持っているか」を、まとめて記載しておく場所が必要となります。
登記所(法務局)が登記を管理しており、登記所(法務局)にいけば、「誰が、何に対して、どのような権利を持っているか」を、「登記簿」というデータで調製され、整理した形で検索し、調べることができます。
「登記」には、不動産登記以外に、商業登記(法人登記)、船舶登記、成年後見登記、債権譲渡登記など、さまざまな種類の登記がありますが、中でも最もよく利用されており、最も重要なのが、不動産(土地・建物)に対する権利を公示する不動産登記です。
不動産登記が必要な理由は?
不動産(家・土地)の所有権を得ても、「不動産登記をしなければならない義務」というものはありません。したがって、所有する不動産について登記せずに放置しておくことも可能ではあります。
ただし、後ほど解説する不動産登記の種類のうち、「表題部(表示登記)」をする権利は、不動産登記法上義務付けられており、新築の建物の所有者は、新築してから1か月以内に表示登記を行わなければ、10万円以下の過料に処せられます。
しかし、不動産は、その評価額が高額となる記帳な財産ですから、みすみす失ってしまわないようにするためには、不動産登記が非常に重要となります。不動産登記に関するルールを定める不動産登記法には、不動産登記制度の目的について次の通り定められています。
不動産登記法第1条この法律は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより、国民の権利保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することを目的とする。
不動産登記をしておかないと、第三者から見て、ある不動産の権利を誰が持っているかがわからないことから、安心してその不動産の売買などの取引を行うことができません。売買契約をしようとしても、相手が本当にその不動産の所有者かわからないので、安心して売買契約をし、代金を支払うことができないのです。
つまり、「取引の安全」を図るという目的が、不動産登記の必要な重要な理由です。権利関係を登記簿によって確認できれば、正しい不動産取引を、円滑に行うことができます。
不動産登記の種類、記載内容は?
不動産登記には、「権利登記」と「表示登記」の2つの種類があります。不動産登記を記した登記簿謄本には、この2種類の登記のいずれもが記載されています。
権利登記とは?
権利登記とは、不動産に関する権利に関する事項が公示された登記のことをいいます。
登記簿のうち、権利登記の部分を「権利部」といいます。この「権利部」には、権利の主体、権利の種類、権利の内容、権利の所在・変更・移転に関する事項などが記載されています。
不動産登記の「権利部」は更に2つ(甲区・乙区)に分かれています。甲区には、所有権に関する権利についての事項が記載され、乙区には、抵当権、地上権など、所有権以外の権利に関する事項が記載されています。
表示登記とは?
表示登記とは、権利登記に記載された権利の対象となる不動産がどのようなものであるかに関する事項が公示された登記のことをいいます。
登記簿のうち、表示登記の部分を「表題部」といいます。この「表題部」には、所在、地番、地目、地積、床面積、敷地に関する権利などが記載されています。
マンション(区分所有建物)の登記の場合には、建物と土地とが1つの登記簿に記録されていることから、土地と建物をつなぐ「敷地に関する権利」についても、建物の不動産登記に登記されているのが通常です。
登記事項証明書とは?
登記所(法務局)で入手できる不動産登記を記載した写し(コピー)の書類のことを「登記事項証明書」といいます。
登記事項証明書のうち、登記事項のすべてを記載した書面のことを「全部事項証明書」といい、登記事項のうち現在も効力がある部分だけを記載したものを「現在事項証明書」といいます。
その他に、ある登記名義人に関する部分だけを記載した「一部事項証明書」、所有者や共有者に関する事項を記載した「所有者事項証明書」などがあります。
相続の際にも、それぞれの用途に応じて、全部事項証明書の登記事項証明書が必要な場合と、現在事項証明書の登記事項証明書で足りる場合とがありますので、事前に提出先の金融機関、役所や司法書士などに必要書類を確認してください。
不動産登記の効果は?
不動産登記には、「対抗力」という効果があります。この不動産登記の「対抗力」とは、法律の専門用語で、不動産(土地・建物)の所有権などの権利を、第三者に対して主張することができる効果のことをいいます。
ポイント
例えば、不動産を二重に売買されて2人の所有者があらわれてしまったような場合や、遺産分割による相続登記をしないうちに相続人のうちの一人の法定相続分を第三者に差し押さえられてしまったような場合には、対抗力を有する不動産登記を先に行ったものがその不動産の権利を主張することができます。
これに対して、不動産登記には「公信力」はないものとされています。「公信力」とは、本来所有権などの権利を有していなくても不動産登記をすればその権利を持っていたこととなる効果です。
したがって、不動産登記の効果は、あくまでも既に有している所有権、抵当権などの土地・建物に対する権利を公的に明らかにし、第三者に主張するためのものであり、ない権利を生み出すものではありません。
不動産登記をしないとどうなる?
所有権移転や相続をしても不動産登記をしなければならない義務はないと解説すると、登録免許税や司法書士報酬などの費用や手間がかかる登記などしたくないと考える方が多いのではないでしょうか。
不動産登記をしないと、どのような危険やリスク、デメリットがあるのでしょうか。
不動産登記をしないと、誰がその土地に対する権利を有する者かを調べるのに、多大な手間と費用がかかってしまいます。特に、遺産相続に関する権利関係は非常に複雑となることが多いため、登記制度を利用しなければ、誰が不動産を相続したのかが全くわからず、混乱を招きます。
「誰が権利を持っているのか」とともに、「どの範囲の不動産に権利を持っているのか」も重要です。不動産登記の登記簿には、登記されている土地の種類や面積、地番なども記載されており、権利の対象となる土地の範囲が明らかにされているからです。
不動産の表示登記をしていないと、その土地をどのように利用したらよいのか、隣の土地との境界がどこなのかも不明確となり、争いの元となります。
不動産を売却処分したいときにも、不動産の権利登記をしておかなければ、あなたが正式な所有者であると証明することが難しくなってしまうので、取引を安全に行うことができず、買手がつかなくなってしまいます。
相続登記は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、相続に関する登記の問題を考えるにあたって理解しておいていただきたい、「そもそも不動産登記とは?」という最も基本的な知識について、相続登記に強い司法書士が解説しました。
不動産登記は、ある不動産に対して1つしか存在せず、その不動産(土地・建物)がどのようなもので、誰が、いつ、どのような権利を取得したかを、履歴として調査することができる非常に重要な書類です。
相続によって不動産を入手したり、相続対策のために不動産を売買したりするとき、不動産登記を行うことが非常に重要です。不動産登記は、相続と不動産に詳しい司法書士に、ぜひ事前にご相談ください。