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相続分の指定とは?法定相続や遺産分割方法の指定との違いも解説

相続人の相続する遺産の割合を指定することを「相続分の指定」と言います。相続分の指定は、遺言で行います。具体的に割合を指定することのほか、第三者に割合の決定を委ねることも可能です。

相続分の指定をすることは、遺産分割がスムーズに進める役に立ちます。相続人が複数いる場合には遺産分割協議を行わなければならないのが原則ですが、遺言によって相続分の指定をしておけば、その内容が適正である限り、遺産分割協議を省略することもできるからです。

本解説では、相続分の指定の意味と、もたらす効果や、法定相続、遺産分割方法の指定との違いについて解説します。

目次(クリックで移動)

相続分の指定の基本

まず、相続分の指定の基本的な法律知識について解説します。

相続分の指定とは

相続分の指定とは、被相続人が、相続人の取得する遺産の割合をあらかじめ決めておくことです。

相続分の指定の方法は、具体的には、遺言によって行うこととなっており、共同相続人の相続分の割合を具体的に指定する方法が典型例です。例えば、「妻Aの相続分は50%、長男Bの相続分は40%、次男Cの相続分は10%とする」のように、遺産分割の割合を遺言書に記載しておく方法です。これ以外に、その割合の決定を第三者に委託することもできます。

相続分の指定について定める民法902条は、次の通りです。

民法902条(遺言による相続分の指定)

1. 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。

2. 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。

民法(e-Gov法令検索)

相続分の指定に基づく相続割合を「指定相続分」と呼ばれ、法定相続分よりも優先されています。相続分の指定があったときは、原則として、相続人全員の同意がない限り、これに基づいて遺産分割を進めることになります。

指定が可能な財産に特段の制限はありません。預貯金はもちろん、株式、債券などの金融商品だけでなく、不動産や貴金属もまた、指定された割合に従って分割されます。ただし、貴金属のような物理的に分割できない遺産や、不動産のように割合だけ指定したのでは分割に争いが生じたり、売却して分割するのに手間と時間のかかったりする財産が遺産に含まれるときは、相続分の指定をしても、結局は遺産分割協議を行う手間が生じる可能性のある点には留意が必要です。

相続分の指定と遺産分割方法の指定の違い

相続分の指定と似た方法に、遺産分割方法の指定がありますが、区別しなければなりません。遺産分割方法の指定とは、「誰に何を相続させるか」を具体的に示す方法です。例えば、「自宅の土地と建物、預貯金は妻Aに、株式は長男Bに相続させる」といったように、具体的に対象となる財産を指定し、承継先を指定します。

これに対し、相続分の指定は、各相続人の取得する遺産の割合しか示されていません。そのため、相続人全員が遺産分割の対象となる財産を把握したうえで、各相続人がどの財産を取得すればその割合になるのか、協議をする必要があります。相続人の負担を考えると、相続分の指定よりも遺産分割方法の指定のほうがスムーズに事が運びやすいです。

相続分の指定と遺産分割方法の指定の違いについて、具体例で解説します。

例えば、遺産が合計1億円、内訳が以下のような場合。

  • 預貯金 5,000万円
  • 土地 2,500万円
  • 建物 2,500万円

「妻Aの相続分は50%、長男Bの相続分は40%、次男Cの相続分は10%とする」という相続分の指定がされると、妻Aは5,000万円分の遺産を取得できますが、具体的に「何を、どの割合で」取得するかは協議で決める必要があります。上記の例なら、他の相続人との話し合いの結果、土地と建物を取得するか、預貯金を相続するか、といった選択になることが多いでしょう。

一方で、遺産分割の指定では各相続人が取得する遺産まで具体的に示されるので、遺産分割協議を行わずに済むケースもあります。例えば「妻は不動産、長男BとCが預貯金を折半」と遺産分割の指定がされれば、その通りに分割されます(ただし、遺留分を侵害する内容ではないことが前提であり、遺留分を侵害される相続人がいるときは、遺留分侵害額請求によって修正を求めることができます)。

遺産分割の基本について

相続分の指定と法定相続分の違い

法定相続分とは、民法の定める法定相続人ごとの相続割合です。具体的な法定相続分は、法定相続人となる続柄ごとに、以下のように定められています。

スクロールできます
法定相続人相続分の割合
配偶者のみ配偶者が全遺産を相続する
配偶者と子配偶者が2分の1、子が2分の1
配偶者と直系尊属配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1
配偶者と兄弟姉妹配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1
子のみ子が全遺産を相続する
直系尊属のみ直系尊属が全遺産を相続する
兄弟姉妹のみ兄弟姉妹が全遺産を相続する

法定相続分は民法に定められているものの、実際には必ずこの割合で分割しなければならないわけではなく、遺言による相続分の指定がある場合には、異なる割合で指定されたものが優先されます。

遺産分割に関する基本的なルールは、以下のとおりです。

  • 遺言がある場合
    遺言に従う(相続人全員の同意がある場合は遺産分割協議で決定できる)
  • 遺言がない場合
    遺産分割協議を行う

つまり、遺言による相続分の指定がある場合には、法定相続分よりも優先されます。相続の流れをスムーズに進めるためには、遺言書が効果的なのです。

遺言書の基本について

相続分の指定の効果と相続における扱い

相続分の指定は、遺産分割に大きな影響を及ぼすため、債務を相続した場合や不動産の登記を行う際など、相続における扱いに注意しておかなければなりません。

なお、相続分の指定の効果は、遺言の効力が発生するとき(通常は相続開始時、つまり、被相続人の死亡時)から効力が生じます。また、相続分の指定を第三者に委託したときは、第三者の指定を待って、相続開始時に遡って効力が生じます。

相続債務との関係

被相続人に借金などの債務がある場合には、その債務も相続しなければなりません。

債務の相続がある場合に、相続分の指定がされていると、各相続人はその指定された割合に応じた債務を負担することとなります。例えば、相続した負債が100万円で、相続分の指定が「長男70%、次男30%」とされた場合には、長男は70万円、次男は30万円の返済義務を負います。

ただし、債権者は相続分の指定とは関係なく、法定相続分に従って返済を請求することが可能です。遺言による相続分の指定という、債権者には関係のない事情によって債権者が害されるのは適切ではないためです。この場合だと、債権者は、長男と次男にそれぞれ50万円の請求が可能です(実際に長男と次男が50万円を弁済した場合、相続分の指定に従い、次男は次男は長男に対して20万円の求償を請求して調整することができます)。

相続する借金の調べ方について

相続登記の手続きとの関係

相続財産に不動産がある場合は、法務局で相続登記をする必要があります。2024年4月より相続登記の義務化がなされ、相続人は3年以内に相続登記を完了させなければ過料による制裁を受けます。

相続分の指定による相続登記は、遺産分割が完了した後、実際に不動産を取得した相続人が登記を行います。遺産分割の完了後に被相続人名義から直接変更する方法のほか、分割完了前に相続分の指定に基づいた共同相続登記をしたうえで、分割完了後に不動産を取得した相続人へ移転登記することも可能ですが、後者の方法は手間とコストが余分にかかります。

遺言による相続登記について

遺留分の保護との関係

遺留分とは、遺族の生活を保障するための制度で、被相続人の配偶者・子・直系尊属に認められた最低限の相続できる割合のことです(兄弟姉妹に遺留分はありません)。

相続分の指定を行った結果、ある相続人の遺留分を侵害している場合には、遺産相続をめぐってトラブルになるおそれがあります。例えば、配偶者と子が相続人となるケースで、「次男の相続割合は5%とする」といった不公平な相続分を指定すれば、遺留分侵害が生じます。このとき、次男は配偶者と長男に対して遺留分侵害額請求を行い、侵害された分の遺留分を請求することができ、その結果、相続分の指定通りには進まなくなります。

なお、遺留分侵害額請求はあくまでも権利です。当の遺留分権利者が「5%の割合でも構わない」と納得するのであれば特段トラブルにはなりません。この点で、生前からしっかりと家族でコミュニケーションをとり、納得感をもった指定を行うのが重要なポイントです。

遺留分の基本について

特別受益との関係

相続分の指定がある場合には、特別受益としての持戻しを免除したものとして扱うのが一般的です。持戻しの免除とは、相続発生時に、特別受益分を持ち戻さないでもよいという意思表示を指すと解釈できるケースが多いです。

特別受益は、相続開始前に特定の相続人に対して行った生前贈与など、特別に与えた利益のことで、例えば、配偶者への居住用不動産の贈与、子供への不動産購入資金や高額の学費援助といったものが該当します。そして、相続人間の公平のため、その利益を遺産に加えて分割する必要があります(特別受益の持戻し計算)。

贈与者が「この生前贈与は特別受益ではなく、持ち戻さなくてよい」という意思を示すと、特別受益の持ち戻しは免除されます。相続分を指定するということは「その割合で相続してほしい」という故人の意思ですから、特別受益の持戻し免除の意思表示を含んでいるとされる点は押さえておきましょう。

特別受益の基本について

寄与分との関係

寄与分は、生前に被相続人の財産の維持、増加に特別の寄与をした人が、より多くの遺産を得られるものです。特別受益と同じく、相続人間の公平の観点から認められた制度です。例えば、同居の家族が無償で介護をしたり、無給で家業に従事したりした場合に寄与分が認められる余地があります。

そして、相続分が指定されていたとしても、寄与分はそれを修正する効果があります。つまり、相続分の指定がある相続のケースでも、遺産分割協議において寄与分を主張する相続人がいる場合には争いとなる可能性があり、その結果、寄与分が認められると、相続分の指定よりも多くの遺産を取得することになるわけです。

相続分の指定の通りにならないという点で、特別受益とは結論が異なる点に注意してください。

寄与分の基本について

遺言における相続分の指定の方法

相続分の指定は、遺言書を用いて意思表示する方法によります。

相続分を指定する方法には、相続人全員の相続分を指定する方法、一部の相続人の相続分のみ指定する方法があり、第三者に委託することも可能です。遺言の種類には、自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言の3種類がありますが、偽造や紛失のリスクの小さい公正証書遺言の方法によるのがお勧めです。

相続人全員の相続分を指定する方法

まず、相続人全員の相続分を指定する方法です。例えば、次のような指定のしかたをするケース。

  • 妻Aの相続割合は6分の3とする
  • 長男Bの相続割合は6分の2とする
  • 次男Cの相続割合は6分の1とする

この場合、各相続人が、遺産の何割を取得するのかは、この相続分の指定によって全て決定されます(具体的にどの財産を取得するのかについては話し合いで決める必要があります)。なお、争続とならないよう、遺留分侵害をしないようくれぐれも注意してください。

一部の相続人の相続分のみ指定する方法

相続分の指定において、以下のように一部の相続人の相続分のみ指定する方法もあります(次章のように相続分の指定を第三者に委託したが、その第三者が一部の指定しか行わなかった場合も同じです)。

  • 相続人が妻A、長男B、次男Cのケース
  • 「妻Aの相続割合は3分の2とする」という指定のみ

この場合、残りの3分の1の遺産の扱いについて、長男B、次男Cがどのような割合で取得するのかは指定されていません。このとき、相続分の指定を受けなかった他の相続人は、法定相続分にしたがった割合の遺産を取得します。したがって、長男Bと次男Cは、残り3分の1の遺産を、2分の1ずつ分割して相続することになります。

なお、一部の相続人の相続分のみを指定した遺言の結果、他の相続人には遺産が残らないケースもあります。例えば上記ケースで「妻Aの相続割合は3分の2、長男Bの相続割合は3分の1とする」と指定すると、次男Cには遺産が残りません。このような遺言も有効ではありますが、次男Cの遺留分を侵害しており、次男Cが納得しない場合には遺留分侵害請求の争いに発展します。

相続分の指定を委託する方法

相続分の指定は、第三者に委託することもできます。例えば「遺産の分割割合は妻Aに一任することとする」という遺言があれば、妻が相続分の指定を行います。

第三者が相続分を指定する場合であっても、遺留分に注意しなければならない点は変わりません。そのため、相続分の指定を任された第三者が相続についての法律知識を有していない場合、遺産分割がスムーズに進まなかったり、かえってトラブルを招いてしまったりするおそれがあります。また、どのような指定がよいかは家族や財産の状況によってもケースバイケースです。そのため、相続分の指定を委託された場合には、まずは弁護士に相談するべきです。

相続に強い弁護士の選び方について

相続分を指定する遺言書の書き方【文例付】

最後に、具体的に、相続分を指定する遺言書の文例、記載例を紹介します。

遺言書

20XX年XX月XX日

私、〇〇〇〇は、死後の財産の処分について以下の通りに指定する。

第1条(相続人の指定と相続分)
私の妻Aに、私の財産の3分の1を相続させる。
私の長男Bに、私の財産の3分の1を相続させる。
私の長女Cに、私の財産の3分の1を相続させる。

第2条(遺言執行者の指定)
私は、Dを遺言執行者に指定する。

第3条(遺言執行者の報酬)
遺言執行者の報酬は、相続財産の〇%とする。

上記の文例は、相続させる割合のみ記載する、相続分の指定を内容としています。このような遺言書を発見したときは、具体的な財産の内訳と構成が記載されていないため、具体的な遺産の分割方法は相続人で協議する必要があります。また、その前提として、相続財産調査を徹底して行う必要があります。

参考までに、具体的な財産の分割方法まで記載する「遺産分割方法の指定」の文例も紹介します。

第1条(預貯金の相続)
私名義のXX銀行XX支店の普通預金口座(口座番号:XXXXXXX)の預金全額を、私の妻Aに、私名義のXX信用金庫XX支店の定期預金(口座番号:XXXXXXX)の預金全額を、私の長男Bに相続させる。

第2条(不動産の相続)
私が所有する東京都XX区……所在の自宅不動産を、私の長女Cに相続させる。

第3条(その他の財産の相続)
前条までに定めるもの以外の私の財産については、私の次男Bに相続させる。

第4条(遺言執行者の指定)
……(以下、上記例と同様)……

上記の文例では、預貯金、自宅不動産、土地の分割方法について明確に記載されています。また、遺産の内容についても記載されるため、財産調査の手間も省けます。相続人としては、後者の方が遺産分割協議を省略できるため、手続き負担を楽にできます。

まとめ

相続分の指定を行うと、各相続人が取得する遺産の割合をあらかじめ決めておくことができます。相続分の指定は、法定相続に優先するため、遺産分割に自分の意向を反映させたい場合には、生前に遺言を作成しておくのがおすすめです。

ただし、相続分の指定を行っても、遺産の内容によっては相続人が遺産分割協議を行う必要があります。また、遺留分を侵害する指定は、後々になってトラブルの原因となります。

相続分の指定をする際は、相続人の心情や感情に配慮すること、トラブルの火種を残さないことを意識してください。必要に応じて弁護士などの専門家と相談し、どのように相続の準備を進めるかアドバイスを仰ぐことも有意義です。

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