お亡くなりになった方(被相続人)が、生前に遺言書を作成していたときには、その遺言書にしたがって相続手続きを進めることができます。相続財産(遺産)に不動産(家・土地)が含まれるとき、「遺言による相続登記」が可能です。
遺言による相続登記ができるときは、遺産分割協議を行ったり遺産分割協議書を作成したりする手間なく相続登記ができますので、可能な限り生前に遺言書を作成しておくほうが、相続登記の面でも、有効な生前対策となります。
そこで今回は、相続登記を数多く取り扱う司法書士が、遺言による相続登記の必要書類、申請書の書き方や、進め方のポイントを、わかりやすく解説します。
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【STEP1】検認手続
遺言書の種類のうち、自筆証書遺言、秘密証書遺言の場合には、遺言書をあけて内容を確認してしまう前に、まず家庭裁判所に申立てをして、検認手続を行う必要があります。検認手続をせずに遺言内容を見てしまうと、過料の制裁があるため注意してください。
家庭裁判所の検認手続を経ることによって、検認日における遺言書の形状、加除訂正、遺言書の作成日時や署名押印などを保全し、遺言書の偽造、変造を予防できます。
検認手続の申立てに必要となる書類などは、次のとおりです。申立は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
- 検認手続の申立書
- 遺言者(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍・改製原戸籍を含む)
- 遺言者(被相続人)の住民票除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本、住民票
- 800円分の収入印紙(遺言書1通につき)
公正証書遺言の場合には、公証人が関与して作成され、公証役場で保管されていますので信頼性が高く、検認手続を行う必要はないものとされています。
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遺言書の調査方法と検認手続については、こちらをご覧ください。
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【STEP2】遺言内容を確認する
まず、相続が開始して遺言書が発見されたときは、遺言書の内容を確認してください。特に、被相続人が自分だけで作成した自筆証書遺言の場合には、「全文を自筆で作成」「作成日を明記」「押印」といった有効要件を欠いていると、無効になってしまいます。
遺言書があれば、遺言書どおりに不動産の相続登記手続き(名義変更)を行えばよいと思いがちですが、しかし、遺言書の文面の内容、書き方によっては、相続登記の前に遺産分割協議が必要となるケースがあります。
以下では、遺言の内容ごとに異なる、相続登記の具体的な方法について、場合分けして司法書士が説明します。
「特定の財産を相続させる」遺言による相続登記
「特定の財産を相続させる」という内容の遺言書がある場合には、遺産分割協議を行うことなく、その財産については遺言書で指定された人が相続によって承継取得することとなります。遺言書の文面に「〇〇の不動産を相続させる」と記載がある場合のことです。
つまり、この場合には、遺言書(公正証書遺言、もしくは、検認済の自筆証書遺言など)を添付することによって、遺産分割協議を行うことなく、その相続人が単独で相続登記(不動産の名義変更)を行うことができます。
このことは、最高裁判例に次のとおり定められています。
最高裁平成3年4月19日判決特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言は、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情がない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである
「全ての財産を相続させる」遺言による相続登記
さきほど解説したのは「特定の財産を相続させる」という内容の遺言書の場合ですが、「全ての財産を相続させる」という遺言書であっても、これに基づいて相続登記することができるとされています。
「すべての財産を相続させる」という内容は、その相続財産(遺産)の中に含まれた不動産(家・土地)も、遺言で指定した人に「相続させる」と書かれていることと同じだからです。
したがって、「全ての財産を相続させる」という内容の遺言書を添付することによっても、その人が単独申請で、遺言による相続登記ができます。
「財産を共有させる」遺言による相続登記
特定の不動産について、相続割合を定めている遺言書の場合はどうでしょうか。例えば「〇〇の不動産は、長男に2分の1、次男に2分の1を相続させる」という場合です。
この場合も「相続させる」遺言書ではありますが、共有で相続させることを定めていますので、各自が単独で自分の共有持分について相続登記申請をすることはできず、共有名義に不動産の名義変更を行うこととなります。
相続人の全員で登記申請をしない場合は、申請をした相続人の分の登記識別情報しか発行されないので、注意してください。
このような遺言による相続登記では、共有名義での登記をすることしかできず、単独の登記にしたいのであれば、遺産分割協議ではなく、共有物分割協議、共有物分割訴訟といった手続を踏む必要があります。
「分割方法を指定する」遺言による相続登記
「分割方法を指定する」遺言書の場合には、お亡くなりになった方(被相続人)の遺志としては、その方法にしたがって遺産分割協議をすべきものとされています。つまり、この遺言書のみによっては相続登記をすることができず、遺産分割協議をしなければなりません。
遺産分割協議を行った結果、遺言書に指定されたとおりの分割方法に、相続人全員が合意をしたら、遺産分割協議書を作成して実印を押し、印鑑証明書を添付して相続登記を行います。
【STEP3】遺言による相続登記の必要書類を収集する
被相続人の作成した遺言書が残っている場合には、さきほど解説したとおり、その文面を確認した上で、遺言書を添付して、遺言による相続登記を行うことができます。
遺言による相続登記を行うときに必要となる書類の種類と、収集方法などについて解説します。
遺言書
まず遺言による相続登記では、遺言書が必要となります。
自筆証書遺言の場合には、さきほど解説したとおり検認手続を行い、家庭裁判所から発行される検認済証明書をあわせて添付する必要があります。自筆証書遺言の場合には、コピーなどでは相続登記ができず、原本が必要書類となります。
公正証書遺言の場合には、原本は作成時に公証役場に保管され、遺言者に対して正本と謄本が交付されます。遺言による相続登記の際には、正本を使用しますが、謄本でも足りるかどうかは、相続登記を行う法務局に確認してください。
公正証書遺言の場合、正本、謄本を紛失してしまったとしても、公証役場で再発行してもらうことができます。どこの公証役場で原本を保管しているかわからないときでも、最寄りの公証役場で検索してもらうことができます。
登記申請書
遺言による相続登記を行うときにも、登記申請書を自分で作成する必要があります。遺言による相続登記のときに必要となる登記申請書の書式・文例は、例えば次の通りです。
登記の目的 所有権移転
原 因 平成32年1月1日
相 続 人 被相続人〇山〇男
(相続人)〇山△男
送付の方法により登記識別情報通知の交付を希望します。
送付先 申請人の住所
連絡先の電話番号 03-1234-5678
添付書類 登記原因情報 住所証明情報
その他の事項 送付の方法により登記完了証の交付及び添付書類の原本還付を希望します。
送付先 申請人の住所
課税価格 金4,000,000円
登録免許税 金16,000円
不動産番号 0100XXXXXXXXX
所 在 東京都中央区銀座二丁目
地 番 X番X
地 目 宅地
地 積 50.00㎡
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相続登記申請書の書式と作成方法は、こちらをご覧ください。
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遺言書によって相続登記を行うときには、不動産の表示を、登記簿謄本記載のとおり、正確に書き写す必要があります。不動産を特定する情報の記載をあやまると、遺言による相続登記ができない危険があるため、注意が必要です。
戸籍謄本・住民票等
遺言による相続登記の際にも、戸籍謄本(除籍、改製原戸籍を含む)を用意する必要があります。戸籍謄本や住民票などは、「遺言者の法定相続人が誰か」を証明するために必要となるものですから、法定相続人の範囲によって、必要となる書類が異なります。
もっとくわしく!
相続人が子の場合
:遺言者(被相続人)の亡くなったことがわかる戸籍謄本
受遺者が遺言者の子であることがわかる戸籍謄抄本(通常は戸籍の父母欄から子供であることがわかります。)
相続人が配偶者の場合
:遺言者の亡くなったことがわかる戸籍謄本
遺言者が亡くなった後に配偶者の戸籍に変更があった場合は、変更後の戸籍謄本
相続人が両親の場合
:遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本
両親の現在戸籍の謄抄本
相続人が兄弟姉妹の場合
:遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本
両親、祖父母が亡くなったことがわかる戸籍謄本
兄弟姉妹の現在戸籍の謄抄本
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法定相続人の範囲・順位と割合は、こちらをご覧ください。
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また、各法定相続人が被相続人より先に死亡している場合には、その相続人の子が代わりに相続する「代襲相続」が起こりますが、遺言の場合は、受遺者が遺言者より先に死亡している場合について、遺言書で定めていないときは、この部分について効力を失ってしまいます。
しかし、遺言書で「受遺者が先に死亡している場合はその子供〇〇に相続させる」と定められている場合は、受遺者が死亡していることのわかる戸籍謄本とその子供の現在戸籍の謄抄本が必要になります。
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相続で必要な「出生から死亡までの戸籍謄本」の収集方法は、こちらをご覧ください。
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固定資産税評価証明書
固定資産税評価証明書とは、不動産の評価のうち、「固定資産税」という地方税を納付するのに基準となる金額の書かれた証明書のことをいいます。
固定資産税評価証明書は、遺言による相続登記を行う際に支払う「登録免許税」の計算の基準ともなるため、申請の前に取得しておく必要があります。
【STEP4】申請し、登録免許税を支払う
必要書類の収集が完了したら、相続登記の申請書とともに必要書類を添付し、法務局で相続登記の申請を行います。
この際、次の計算式によって算出される登録免許税を支払います。登録免許税とは、不動産の名義変更の際に、法務局に対して支払う税金のことで、収入印紙を申請書に貼付する方法で納付します。
受遺者が相続人の場合
登録免許税額=不動産評価額×1000分の4
受遺者が相続人以外の場合
登録免許税額=不動産評価額×1000分の20
※ 計算した金額の100円未満は切り捨て
※ 計算した金額が1000円に満たない場合、登録免許税額は1000円
相続登記の申請が法務局に受理されると、約1~2週間程度、法務局での審査が行われ、審査が完了すると登記名義が変更されます。
遺言書と異なる遺産分割協議をすることも可能?
遺言書を失くしてしまった場合、特に、自筆証書遺言を失くしてしまったときは、再発行することができないため、遺言による相続登記はできません。この場合、遺言の内容にしたがうことに相続人全員が合意していたのであれば、遺産分割協議をすることで、相続登記を進めることができます。
また、遺言書で禁止されておらず、相続人全員が合意している場合には、遺言書の内容と異なる遺産分割協議を行い、遺産分割協議書による相続登記を行うこともできます。
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遺言書の内容と異なる遺産分割協議の効果は、こちらをご覧ください。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、遺言による相続登記を行う場合の、具体的な方法、必要書類や注意点などについて、司法書士が解説しました。不明な点があったり、必要書類の収集、遠方の法務局への申請が手間な場合、司法書士に手続を委任することができます。
特に、2018年(平成30年)に行われた民法の相続部分の改正で、本来の相続分を越えて不動産を相続で取得する場合、相続登記をしなければ、自己の権利を第三者に対抗できなくなりました(対抗要件)。そのため、不動産の相続登記の重要性はますます増加しています。
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