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遺言による相続登記の方法と注意点

被相続人が、生前に遺言を残していたときには、遺言書にしたがって相続手続きを進めます。そして、遺産に不動産を含む場合には、遺言による相続登記が可能です。

遺言による相続登記が可能ならば、相続人間で協議し、遺産分割協議書を作成するといった手間を経ることなく、速やかに相続登記することができます。この点で、生前の対策としての遺言は、分割のトラブルを避ける目的ではもちろんのこと、相続登記に早く着手できるという点でも役立ちます。

今回は、遺言による相続登記の申請書の書き方、必要書類、進め方のポイントを解説します。

相続登記の手続きについて

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遺言による相続登記とは

遺言は、生前の故人の意向を記載した書面であり、存分に尊重されるべきで、このことは相続登記においてもあてはまります。つまり、遺言がある場合には、遺言書に指定された相続分の通りに遺産を分配するのが原則となり、遺言に基づいて相続登記をすることができます。

遺言に基づいて相続登記するときには、遺産分割協議書は不要です。そのため、事前に遺産分割協議をすることなく、遺産に含まれる不動産を確定的に取得することができます。遺産分割協議書は、相続人全員の同意が必要であり、これにしたがって分けるしかないとすれば、相続登記までに相当な期間がかかるおそれもあるところ、遺言による相続登記ならさほどの時間はかかりません。

遺言による相続登記の申請書

本解説にいう遺言によって相続登記するとき、申請書の書式は次の通りです。

不動産登記申請書

登記の目的 所有権移転
原   因 令和XX年XX月XX日相続
相 続 人 被相続人〇山〇男
      (相続人)〇山△男

送付の方法により登記識別情報通知の交付を希望します。

送付先 申請人の住所
連絡先の電話番号 03-1234-5678

添付書類 登記原因情報 住所証明情報

その他の事項 送付の方法により登記完了証の交付及び添付書類の原本還付を希望します。
送付先 申請人の住所

令和XX年XX月XX日申請 東京法務局 御中

課税価格 金4,000,000円
登録免許税 金16,000円

不動産の表示

不動産番号 0100XXXXXXXXX
所   在 東京都中央区銀座二丁目
地   番 X番X
地   目 宅地
地   積 50.00㎡

遺言書によって相続登記をするとき、不動産の表示は、登記の表記にしたがって正確に書き写す必要があります。不動産を特定する情報を誤ると、遺言による相続登記ができないおそれがあります。

相続登記申請書の書式について

遺言による相続登記の必要書類

遺言による相続登記をするとき、申請書と共に添付すべき必要書類について解説します。

遺言書

まず、遺言による相続登記なので、遺言書が必要です。遺言の種類によって、次のように進め方が異なります。

  • 自筆証書遺言の場合
    検認が必要となり、家庭裁判所の発行する検認済証明書をあわせて添付します。自筆証書遺言では、コピーでは相続登記ができず、遺言書の原本が必須となります。
  • 公正証書遺言の場合
    公正証書遺言は、原本が公正証書に保管され、遺言者には正本と謄本が交付されます。遺言による相続登記では、正本を使用するのが通例です。

公正証書遺言や、法務局保管の自筆証書遺言の場合には、紛失しても再発行してもらうことができます。なお、遺言の保管場所がわからないときでも、公正証書遺言ならば最寄りの公証役場から検索できます。

遺言書紛失時の対応について

戸籍謄本・住民票など

遺言による相続登記では、戸籍を多く準備する必要があります。戸籍や住民票は、遺言者の法定相続人を証明するために必要となります。続柄に応じて、次のような資料を収集してください。

【配偶者が相続人の場合】

  • 遺言者の死亡が分かる戸籍謄本
  • (遺言者の死亡後に配偶者の戸籍に変更があった場合)変更後の戸籍謄本

【子が相続人の場合】

  • 遺言者の死亡が分かる戸籍謄本
  • 受遺者が遺言者の子であることが分かる戸籍謄抄本(通常は戸籍の父母欄から子供であることが分かる)

【直系尊属が相続人の場合】

  • 遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 直系尊属の現在戸籍の謄抄本

【兄弟姉妹が相続人の場合】

  • 遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 両親、祖父母の死亡が分かる戸籍謄本
  • 兄弟姉妹の現在戸籍の謄抄本

なお、法定相続の場合には、相続人が先に死亡した場合にはその子が相続する「代襲相続」が生じますが、遺言では生じません。つまり、受遺者が、遺言者よりも先に死亡した場合に、その扱いを遺言書で定めていない限り代襲は発生せず、この部分の遺言の効力は失われます。

相続に必要な戸籍の集め方について

固定資産税評価証明書

固定資産税評価証明書は、固定資産税という地方税を納付するための基準として設定された不動産の評価額を示す書類です。遺言による相続登記においても、登録免許税の計算の基準とするために、申請前に取得しておく必要があります。

遺言による相続登記の方法と、手続きの流れ

遺言による相続登記の方法と、手続きの流れは次のステップで進めます。

STEP
遺言の有効性の確認

まず、遺言の有効性を確認します。自筆証書遺言では、偽造や変造の予防のため、家庭裁判所での検認を経る必要があります。検認の申立て先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。また、全文が自署されていないなど、形式不備の遺言は無効です。

これに対し、公正証書遺言は信頼性が高く、検認は不要です。

STEP
遺言による相続登記を行う

相続登記申請書と必要書類を、法務局に提出し、相続登記を実施します。

相続登記の申請が法務局に受理されると、約1〜2週間程度で審査が行われ、完了すると登記名義が変更されます。

なお、遺言書の内容や書き方によっては、遺産分割協議を要するケースがあります。以下では、以後の内容ごとに、相続登記の具体的な方法を、場合分けして解説します。

相続させる旨の遺言の場合

「特定の財産を相続させる」という内容の遺言書を、相続させる旨の遺言と呼びます。この場合、遺産分割協議なくして、その財産は遺言書で指定された人が承継します。そのため、この場合には遺産分割協議を経ることなく、受遺者が単独で相続登記することができます。

同趣旨のことが、最高裁判例で次の通り判断されています(最高裁平成3年4月19日判決)。

特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言は、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情がない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである

最高裁平成3年4月19日判決

また、特定の財産ではなく、全ての財産を相続させるという内容の遺言書でも、これに基づいて単独で相続登記ができます。全ての財産について記載されるなら、遺産に含まれた不動産についても当然それに従うべきと考えられるからです。

相続させる旨の遺言について

「共有させる」という遺言の場合

特定の不動産についての相続割合を定め、共有で相続させることを定める遺言書もあります。

このとき、各自が単独で自分の持分について相続登記を申請することができず、共有名義に不動産の名義を変更するしかありません。このような遺言によって相続登記した場合、単独登記に変更したい場合、遺産分割協議ではなく、共有物分割協議のプロセスが必要です。

分割方法を指定する遺言の場合

分割方法を指定する遺言では、その遺志は、その方法によって遺産分割協議をすべきことを示していると考えられています。つまり、このような遺言だと、遺言書のみでは相続登記することができず、遺言があるにもかかわらず、更に協議もしなければなりません。

そして、協議の結果、遺言書に指定された分割方法に相続人全員が合意したら、遺産分割協議書を作成し、全員が署名押印し、印鑑証明書を添付して相続登記をします。この場合には、遺産分割協議による相続登記の方法と変わらなくなるのです。

遺産分割協議による相続登記について

遺言による相続登記にかかる費用

遺言による相続登記にかかる費用は、登録免許税と司法書士報酬です。このうち、登録免許税は、不動産の名義変更の際に法務局に支払い税金であり、申請書に収入印紙を貼付する方法によって納付します。

登録免許税は、次の計算式によって算出されます。

【受遺者が相続人の場合】

  • 登録免許税額 = 不動産評価額 × 0.4%

【受遺者が相続人以外の場合】

  • 登録免許税額 = 不動産評価額 × 0.2%

※ 算出額の100円未満は切り捨てる。
※ 算出額が1000円未満の場合、税額は1000円となる。

遺言によって財産を承継する人(受遺者)が相続人か、それ以外かによって異なるため注意してください。

相続登記の費用について

まとめ

今回は、遺言による相続登記の方法、必要書類や注意点を解説しました。

特に、2018年の相続法改正において、遺言によって取得した財産であっても、本来の相続分を超えて不動産を取得した場合には、相続登記をしないとその権利を第三者に対抗できないこととなりました。そのため、遺言による相続登記の重要性が増しています。

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