せっかく作成した遺言書を失くしてしまったら、どうしたらよいのでしょうか。遺言書は重要な書類であり、自分が死んだ後の相続財産の分け方について、自分の意向を反映させるものですから、保管、管理は万全にしなければなりません。
しかし、火災や地震、引っ越しなどの際に遺言書の紛失はどうしても起こってしまう可能性があります。遺言書を失くしてしまったとき、紛失したときの対応は、自筆証書遺言か、公正証書遺言かによっても異なります。
そこで今回は、遺言書を失くしたとき、紛失したときの対応と、再度作成しなおす方法・注意点を、相続に強い弁護士が解説します。
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自筆証書遺言を失くしたとき(紛失したとき)の対応
自筆証書遺言とは、遺言を残す人が、自分の手書きで作成した遺言のことをいいます。民法に定められた「遺言の有効性」についてのルールで、遺言書の全文を手書きで作成し、署名押印しなければならないなど、厳しい条件があり、無効となる危険もあります。
自筆証書遺言は、全て手書きでなければならないことから、原本を失くしてしまう(紛失してしまう)と、遺言は存在しなかったことになってしまいます。つまり、自筆証書遺言は原本を失くしたら、書いていないのと同じです。
裁判例で、カーボンコピーで作成された自筆証書遺言の写し(コピー)が、自筆証書遺言として有効と認められたことがありますが、これはカーボンコピーの特性上「手書き」と判断されたからです。
コピー機で作成した写し(コピー)は自筆でもなく押印もありませんので、原本を失くしてしまえば「自筆証書遺言」としては無効です。
公正証書遺言を失くしたとき(紛失したとき)の対応
公正証書遺言とは、公証役場で、証人2名の立会いのもと公証人に作成してもらう遺言のことです。公正証書遺言であれば、公証人が有効要件をチェックしてくれるので、「遺言の有効性」はあまり問題になりません。認知症など判断能力に疑問があるときも、医師の立会いのもとに作成することができます。
公正証書遺言を作成したとき、遺言者には「謄本」という写しがもらえます。公正証書遺言の謄本は、あくまでも原本の写し(コピー)であって、失くしてしまっても(紛失してしまっても)原本は公証役場に保管され続けますので、遺言は有効です。
公正証書遺言の謄本を紛失してしまっても、謄本は再度発行してもらえます。謄本の内容は、公証役場に保管されている公正証書遺言の原本と同内容です。
公正証書遺言であれば、平成元年以降に作成されたものは、全国の公証役場の遺言検索システムで、遺言の存在とどこの公証役場に保管されているかを調べることができ、謄本を再度請求することができます。
そもそも遺言を紛失したのは遺言者の意思かも?
ここまでの遺言を紛失したときの対策は、いずれも、遺言者がまだ生前のときに作成した遺言を失くしてしまった場合の対応策でした。
これに対して、遺言者がお亡くなりになって相続が開始した後で、「作成したと聞いていた遺言がない。」、「あるはずの遺言なのに、失くしてしまったのだろうか。」という相続人からご相談を受けることがあります。
よくある相続相談
遺言書の内容をどうするか、頻繁に相談を受けていたのに、あるはずの遺言書が出てこない。
遺言書を書いたといって写し(コピー)をもらったが、あるはずの遺言書が出てこない。
自分が死んだら遺言書通りに遺産分割してくれと言われていたのに、遺言書が出てこない。
確かに、遺言書、特に自筆証書遺言や秘密証書遺言は、遺言者が管理、保管しなければならならないため紛失しやすく、遺言者が相続人に対して「遺言を書いたから、私が死んだら見てほしい」と伝えていても、どうしても遺言書が出てこないという事態に陥る危険があります。
しかし一方で、遺言が出てこないことが、そもそも遺言者の意思であるという場合もあります。というのも、さきほど解説したとおり、絶対になくしたくない、絶対にその通りに守ってほしい遺言であれば、公正証書遺言にすることで紛失の危険を回避できるからです。
遺言は、遺言者の生前であれば、破棄したり、書き直したりできます。生前に遺言内容を相談されたり、遺言書のコピーをもらったのに「あるはずの遺言書原本がない」という不自然な事態は、むしろ、遺言者が、「遺言の内容を変えよう」と考えて遺言書を破棄した可能性も考えるべきです。
遺言書を紛失しても、作成しなおす方法
遺言書を失くしてしまった、紛失してしまったとしても、生前であれば、遺言書を作成しなおすことができます。「遺言書を作成しなおすことができる」のは、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれの種類の遺言でも同様です。
自筆遺言書を作成しなおした後に、紛失していた自筆証書遺言が発見されたとしても、複数の遺言書は、「遺言書の作成年月日」の一番新しいものが優先です。最新の遺言書がどれかがわかるように、遺言書には作成年月日を正確に書かなければ無効となります。
したがって、遺言書の再作成は、再度、同様の形式で遺言書を作成すれば足ります。
ポイント
遺言者の死亡後(相続開始後)に、新しい遺言書と古い遺言書が発見されたとき、新しい遺言書が有効となると書きましたが、新しい遺言書には書かれておらず、古い遺言書には書かれている財産があったときは、矛盾しない範囲で、古い遺言書の記載部分が有効となります。
この結果、新しい遺言書には書いていないけれども古い遺言書には書いてある相続財産の遺産分割があった場合、遺言の内容を守っても、思い通りの相続にならないおそれがあります。
遺言書を紛失し、新しい遺言書を作成しなおすときは、古い遺言書を無効とする旨を記載するか、古い遺言書に記載した相続財産(遺産)について全て新しい考えを記載するなどの工夫が必要です。
ちなみに、遺言書の種類が異なっても、最新の遺言だけが有効となります。自筆証書遺言を紛失してしまったとき、公正証書遺言を作成すれば、後から失くした自筆証書遺言が見つかっても、最新の公正証書遺言が有効となります。紛失リスク回避のため、公正証書遺言の形式で再作成することをご検討ください。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、遺言を作成したけれども、遺言書を失くしてしまった、紛失してしまった方に向けて、その対応策、特に、生前に遺言書を作成しなおす方法と注意点について、相続に強い弁護士が解説しました。
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の種類によらず、遺言書を再度作成しなおすことができますが、その際には、前の遺言が発見されても大丈夫なように注意が必要です。公正証書遺言であれば、そもそも紛失リスクを回避できます。
「相続財産を守る会」では、弁護士が、遺言者の状況やお気持ちを十分にくみ取り、適切な方法で遺言書を作成するお手伝いをしています。