「遺言書」が、相続において非常に重要であることは、一般の方でもご理解いただけているのではないでしょうか。遺言が存在する場合には、民法の原則にしたがわない遺産分割を行わなければならないことが多いからです。
しかし、遺言書の存在を、全ての相続人が知っている場合は、むしろ稀かもしれません。
よくある相続相談
- 相続人の一部の人が、自分に有利な公正証書遺言を書くよう強要した。
- 相続人に知られず作成された自筆証書遺言が仏壇から発見された。
- 自筆証書遺言で必要となる検認手続について知りたい。
身近な相続人すら知らなかった遺言書が突然発見されたときは、自筆証書遺言の場合には「検認(けんにん)」という特別な手続きが必要となります。正しい検認を怠ると、折角でてきた遺言が無効となりかねません。
そこで今回は、遺言書の調査方法と、遺言書が発見された場合に、遺産分割でどのように対応すべきかを、相続に強い弁護士が解説します。
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相続財産を守る会を運営する、弁護士法人浅野総合法律事務所では、相続問題と遺言作成のサポートに注力しています。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野です。
「遺言を生前にのこしておきたい。」という方の相続相談のうち一定数は、「自分が死んでから遺言の存在を知られたい。」、「仲の悪い相続人には、仕返しが怖いので遺言の内容を知られたくない。」と言う方がいます。
そのため、ご家族がお亡くなりになってはじめて、遺言があったことを知るということがあるわけです。遺言書を調査し、その存在を知った時の対処法について、正しく理解してください。
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遺言書の調査方法
まずは、遺言書を探す方法について解説します。冒頭で解説したとおり、相続人として、お亡くなりになった方(被相続人)の親族であっても、隠れてこっそりと遺言を残されている例は多くあります。
遺言書をしっかり探しておかないと、あとから遺言書を発見したときに、遺産分割をやり直す必要が生じる場合もあるので注意してください。
自筆証書遺言・秘密証書遺言の調べ方、探し方
遺言書には、通常の作成方式として、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
ポイント
- 自筆証書遺言とは、遺言を行う方が手書きで作成する遺言のことです。
- 公正証書遺言とは、公証人の前で遺言書の内容を説明し、公証人がその内容を遺言書の形でのこす方法で作成する遺言です。
- 秘密証書遺言とは、自分で作成した遺言書を封印して公証人に提出し、公証人が作成日などを記録しておく方法で作成する遺言です。
特に、遺言の内容を、相続人には一切秘密にしておきたいと考える方の中には、「秘密証書遺言」を残す方がいます。秘密証書遺言は、遺言書を封印した上で公証人に提出できるので、内容を秘密にしておくことができます。
自筆証書遺言は、第三者が一切関与することなく一人で作成できるため、亡くなった方が遺言書をひっそりと作った場合、見つけるのが大変です。秘密証書遺言も、公証人が関与するため遺言書を作ったこと自体は記録としてのこりますが、公証役場に遺言書の内容はのこらないため、やはり遺言書の発見が大変です。
自筆証書遺言・秘密証書遺言を探すにはどうやって調べたらよいでしょうか。
まず、亡くなった方(被相続人)本人が大切なものを保管していた場所を探してください。ご家族であれば、大切なものをどこに保管していたか目星がつくのではないでしょうか。次の保管場所が考えられます。
たとえば・・・
- タンス・押し入れの中
- 仏壇や神棚
- 押し入れや金庫の奥
- 書斎の机のひきだし
「自宅に保管すると他の相続人に見られてしまうのでは?」という不安から、金融機関の貸金庫など、自宅以外に慎重に保管する可能性もあるので、貸金庫がないか調査が必要です。
親しい友人や、遺言の作成を手伝ってもらった弁護士・司法書士などの専門士業に遺言書を預けるケースもあります。亡くなった方の親しい親族や友人、顧問弁護士などに心当たりがないか聞いてみてください。
いずれにせよ、遺言書を探すのは手間がかかります。円滑な相続のためには、できる限り、生前から十分なコミュニケーションをとって、遺言の作成の有無について確認しておくのがよいでしょう。
公正証書遺言の調べ方、探し方
公正証書遺言の場合には、調べ方、探し方は他の遺言よりも比較的簡単です。
平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、全国どこの公証役場からでもデータベースで検索することができます。それ以前に作成された公正証書遺言は、遺言を作成した公証役場にのみ記録が残っています。
したがって、平成元年以降に公正証書遺言が作られたと考えられる場合には、ご自宅の近くの公証役場に行けばよいでしょう。
検索をかけても公正証書遺言が見つからず、平成元年よりも前に公正証書遺言を作っていた可能性があると考える場合には、亡くなった方が当時住んでいた場所の近辺の公証役場に問い合わせをしてみてください。
もっとくわしく!
公正証書遺言の検索をすることができるのは、相続人などの、亡くなった方の利害関係人に限られます。
公正証書遺言の検索ができるのは、遺言書を作成した方がなくなっている場合だけです。遺言書を作成した方が存命の間は、たとえ配偶者や子どもあっても、他人が遺言書の有無を調査することはできません。
公正証書遺言の検索を希望する場合は、以下のものを準備したうえで、公証役場に相談してください。相続人が検索をする場合は以下の書類を用意して下さい。
ポイント
- 戸籍謄本(①亡くなった方の死亡の事実の記載と、②照会者と亡くなった方との利害関係を証明できる記載のあるもの)
- 公証役場で照会しようとする方の身分を証明する書類(運転免許証など、顔写真つきの公的書類)
相続人の代理人(弁護士・司法書士など)が検索する場合は以下の書類の準備が必要となります。
ポイント
- 相続人からの委任状(相続人の実印が押印されたもの)
- 3か月以内に発行された、相続人の印鑑登録証明書
- 代理人の身分証明書(運転免許証など)と認印
- 戸籍謄本(①亡くなった方の死亡の事実の記載と、②照会者と亡くなった方との利害関係を証明できる記載のあるもの)
相続人の代襲相続人が検索する場合や、相続人ではないが受遺者(遺言の中で遺贈を受けた者)であると考える者が遺言書の検索を希望する場合などは、上で説明した資料とは異なる資料が求められることになります。
公証役場を訪れる前に、あらかじめ必要な資料を問い合わせるのがよいでしょう。
注意ポイント
遺言検索システムでは、公正証書遺言書があるかどうかと、どこの公証役場に保管されているかしかわからず、遺言の内容自体をシステムで見ることはできません。
実際に遺言内容を知るためには、遺言書が保管されている公証役場に謄本を請求する必要があります。
特別様式の遺言の調べ方、探し方
通常の遺言は自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類ですが、この他にも、特殊な状況において認められる遺言書の作成方法があります。
このような特別な方法で作成された遺言は、「特別様式の遺言」と呼ばれています。以下のようなものがあります。
ポイント
- 死亡の危急に迫った者の遺言
- 伝染隔離病者の遺言
- 在船者の遺言
- 船舶遭難者の遺言
たとえば、死亡の危急に迫った者の遺言は、遺言が行われた日から20日以内に、家庭裁判所に請求して内容の確認を受けなければなりません。したがって、家庭裁判所にその確認の記録がのこっているかを調べることになります。
これらの方法によって遺言が作られるのは例外的な場合ですが、これらの方法で作成された遺言が存在する可能性があると考えた場合には、相続に強い弁護士などの専門家にご相談ください。
遺言書の確認方法とポイント
遺言書を発見できたら、どのように内容を確認したらよいか、遺言の確認すべき事項とポイントを弁護士が解説します。
生前に、被相続人から遺言を残すと聞いていたら、事前に内容を見ておきたいところですが、実際には相続人の知らないうちに遺言書が作成されていることも少なくありません。
遺言書を発見できたら、まずは後で説明する「検認」の手続を行う必要があります。特に、封印されている遺言書は検認手続の中で開封しないと、過料の制裁が科される場合がありますので注意して下さい。
遺言の内容を確認する
遺言の内容とは、遺言をした方が、誰にどの財産を与えているのか、財産の配分についてどのような指示をしているのかということです。これは、解説するまでもなく、遺言書を見る方が最初にチェックすることでしょう。
特に、遺言書が、一部の相続人だけに不当に有利、もしくは不当に不利な内容であるとき、その遺言書の内容が、遺留分を侵害するものでないかの確認が必要です。
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遺言形式の有効性を確認する
遺言書を確認するにあたっては、遺言の内容のほか、遺言書の有効性にも注意しましょう。つまり、遺言を見る場合には、遺言が有効であるかどうかの確認も必要です。
遺言書は、作成のルールが法律で厳格に定められています。公正証書遺言では公証人が関与して作成されるため、遺言書の有効性が問題とはなりませんが、自筆証書遺言の場合、遺言をのこす方が一人で作ることが多いため、遺言書が有効に作られていない場合も多いです。
自筆証書遺言は、遺言を作成する本人が、その全文、日付、氏名を自書し、押印する必要があります。また、遺言書の訂正も、その方法が厳格に定められています。
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2018年法改正による自筆証書遺言の要件の緩和は、こちらをご覧ください。
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遺言能力を確認する
遺言をした方が、遺言書を作成した当時認知症などで十分な判断能力がなかった場合にも、遺言書が無効となる可能性があります。
遺言書が発見された場合には、内容も重要ですが、遺言書が無効となる可能性がないかについても留意する必要があります。
もっとも、遺言書を作成する能力(遺言能力)があったかどうかを、遺言書を発見したときに判断するには専門的知識と経験が必要となります。遺言書の有効性でお迷いの場合には、相続に強い弁護士にご相談ください。
【注意】検認が必要な場合あり!
公正証書以外の遺言については、家庭裁判所で、「検認(けんにん)」の手続きが必要です。検認とは、遺言書の形状や、加除訂正の状態、日付や署名などの、遺言書の内容や状態を明確にするための手続です。
検認の手続を行うことで、あとで遺言書が偽造、変造されることを防ぐことを目的としています。また、遺言の存在と内容を相続人に知らせる意味もあります。
注意ポイント
検認の手続は、遺言の有効・無効を判断することを目的としません。つまり、検認が行われたからといって遺言書が有効であると確定するわけではなく、遺言書があとで無効とされる場合もあるのです。
遺言書の検認の手続きは、遺言書の偽造などを防ぐための重要な手続きです。そのため、手続きを行わないと、過料の制裁がかされる可能性もあります。
検認の手続を、自分でやることが難しい場合や不安な場合には、過料の制裁を受けてしまわないよう、相続の専門家(弁護士・司法書士)にご相談ください。
検認の必要な遺言とは?
検認は、公正証書遺言以外の遺言について必要となります。
公正証書遺言の場合は、検認は不要です。公正証書遺言は、公証人に遺言の内容を伝えて作成してもらう遺言で、遺言の内容が、公証役場にのこります。そのため、遺言書が偽造されたり、隠されたりするおそれがないので、検認は不要です。
もっとくわしく!
2018年に行われた相続法改正により、2020年7月以降は、自筆証書遺言(手書きの遺言)を法務局に預けられるようになる予定です。
この保管制度によって遺言書を預けた場合には、遺言書の画像データがデータベースに保存されるため、改ざんなどのおそれがありません。したがって、この保管制度にもとづいて保管された遺言書についても、検認は不要です。
検認の申立て方法
検認の手続を行う人は、遺言書の保管者、または遺言書を発見した相続人です。これらの者は、遺言者が亡くなったことを知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、検認手続きを請求しなければなりません。
封印のある遺言書の場合には、家庭裁判所で、相続人などの立会いの上で開封しなければならないこととされています。これも、遺言書の偽造などを防ぐためです。
検認を申し立てるためには、申立書を記載したうえで、少なくとも以下の書類をそろえて提出する必要があります。
ポイント
- 遺言者(=亡くなった方)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者の子(およびその代襲者)で死亡している者がいる場合、その方の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
検認は、遺言者(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要があります。検認手続きを申し立てるためには、遺言書(封書の場合は封書)1通につき、収入印紙800円分が必要となります。
手続きの連絡用の郵便切手も必要になります。具体的にいくら必要かは、申立てをする先の裁判所に問い合わせて確認しましょう。
検認手続きの進み方
検認の申立てがなされると、相続人に対して、裁判所から、検認の手続きを行う日(検認期日)が通知されます。検認期日には、相続人が全員そろわなくても手続きが行われます。
検認を申し立てた方は、検認期日に、遺言書、自分の印鑑のほか、裁判所から指示されたものを持参します。
検認期日では、その日に出席した相続人が立ち会ったうえで、裁判官が、遺言書が封印されている場合には封筒を開封し、遺言書の状態などを確認します。
検認が終わると、裁判所で、遺言書の「検認済証明書」を発行してもらうことができます。相続に関する手続きで遺言書を使用する際には、この検認済証明書が必要となります。
検認済証明書の申請には、遺言書1通につき150円分の収入印紙と、申立てをする方の印鑑が必要となります。
検認しないリスク、デメリットは?
上記のとおり、遺言書の提出を怠った場合や、家庭裁判所の手続外で遺言書の開封をした場合には、5万円以下の過料が課されるおそれがあります。
また、遺言書に不動産に関する記載があり、これに基づいて登記手続きを行う場合でも、検認を行っていないと、相続登記することができません。
さらに、金融機関でも、遺言書による相続手続きを行う場合に、検認済みでないと受け付けてくれない可能性があり、相続財産を取得することができなくなります。
相続手続きは、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか。
今回は、生前には伝えられていなかった遺言書が突然発見されたときに備えて、遺言書の探し方、調べ方と、遺言書の検認手続について、相続に強い弁護士が解説しました。
見つかっていない遺言書が存在したとき、遺産分割協議が終了していたとしても、遺産分割のために改めて話し合いのやり直しが必要となります。それどころか、遺言を放置し、検認をしないと、過料の制裁を受けるおそれもあります。
お亡くなりになる方の財産の分け方について、相続人間で争いとなるおそれがあるときは、生前から、遺言が存在するかどうか、また、遺言がどのような内容かなどを、事前に確認しておいてください。
「相続財産を守る会」では、遺言書の作成サポートはもちろん、遺言書が発見されたときの検認手続きを代わりに行ったり、遺言にもとづく相続財産の分け方のアドバイスを行うことができます。