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遺産分割協議による相続登記の方法と注意点

遺産を相続人間で分けることを遺産分割といい、遺言がない場合は、その割合は相続人の協議で決めます(遺産分割協議)。この場合には、不動産を相続した際に必要となる相続登記についても、遺産分割協議が終了した後でないと行うことができません。

遺産分割協議による相続登記は、遺産分割協議書に基づいて行われます。そして、この場合に、登記をするタイミングによって登記原因が変わるため、相続登記申請書の書き方には注意を要します。争いが収まらないと、遺産分割調停や審判に発展し、裁判所で争うこととなります。

今回は、遺産分割協議による相続登記の方法、必要書類や注意点について解説します。

相続登記の手続きについて

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遺産分割協議による相続登記とは

遺産分割による相続登記とは、遺言が存在しない場合であって、相続開始後に相続人全員で協議し、その結果、合意に至った場合に行われる相続登記です。このとき、合意の結果を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名押印し、印鑑証明書を添付する必要があります。

このプロセスは、相続人の意見に相違があると、まとまるまでに長時間かかります。協議では解決しない場合には、遺産分割調停や審判に発展します。そのために、協議中の登記をどのように扱うかによって、次の2つのやり方があります。

  • 一度共有名義を経て相続登記する場合
    一旦相続人の共有の登記をし、協議成立後に取得者の単独名義に登記し直す
  • 直接相続登記する場合
    協議成立まで待ち、その後に取得者に登記名義を移す

この2つのやり方ごとに、相続登記の手続きや、申請書の書き方に違いがあり、区別しなければなりません。前者の方法だと、登記名義の変更は2回必要となります。

一度共有名義を経てから相続登記するパターンとは、例えば、不動産を換価分割してから他の遺産と合わせて分割したいという場合に、故人の名義のままでは売却できないために一旦共有名義に登記するというケースが典型例です。

遺産分割協議の進め方について

遺産分割協議による相続登記の申請書

遺産分割協議による相続登記をするとき、その申請書の書き方は、次の通りです。

登記申請書

登記の目的 所有権移転
原因 令和XX年XX月XX日相続

相続人 (被相続人 A山B太郎)
東京都◯◯区……

A山C男
連絡先 03-xxxx-yyyy

添付情報 登記原因証明情報 住所証明情報 

令和XX年XX月XX日申請 東京法務局 御中

課税価格 金1,000万円
登録免許税 金4万円

不動産の表示

所在 東京◯◯区……
地番 XX番X
地目 宅地
地積 100.00㎡

遺産分割による相続登記では、申請書における登記の原因は「相続」と記載し、被相続人の氏名、死亡日を正確に記します。また、不動産を取得する相続人の氏名や住所、不動産の情報についても誤記のないよう正確に書いてください。

「登記の原因」欄は、どのような原因によって不動産の名義変更をするかを示していますが、前章に解説した通り、共有名義を経るかどうか、その相続登記のタイミングによって所有権移転の理由が異なるため、場合分けして解説します。

共有登記後に遺産分割による相続登記をする場合

前章で解説した通り、相続開始後、一旦、相続人の共有名義とする例があります(この場合、法定相続分に応じた共有とするのが通常です)。このとき申請書では、「登記の原因」欄には「相続」と記載して共有登記をします。

この場合に、その後に遺産分割協議をして、最終的に不動産が誰に帰属するかが決まったときには再度相続登記をやり直すことになりますが、この際の登記の原因は「遺産分割」と記載します。

一度共有名義の登記をしているので、その名義変更の際は、法定相続分よりも取得する持分の少なくなる人が登記義務者、法定相続分よりも取得する持分が多くなる人が登記権利者となり、共同で相続登記を申請します。

不動産登記法にも、相続では単独での登記申請が可能と定められていますが、登記の原因が「遺産分割」になる例外的なケースに限り、共同申請となります。

そして、以上の流れによる場合は、相続登記が2回必要となります。

共有名義を経ず遺産分割による相続登記をする場合

これに対し、相続が開始後しばらくは被相続人の名義のままとしておき、遺産分割協議の成立後に、直接、不動産を取得することとなった相続人の名義に変更する、という相続登記の方法もあります。このような方法なら、申請書の「登記の原因」欄は「相続」と記載し、相続登記は一度で済みます。

「登記の原因」が「相続」の場合には、遺産分割協議による相続登記は、不動産を取得する人が単独で申請することができます(相手は被相続人となり、既に死亡しているためそもそも共同申請ができません)。このことは、不動産登記法に次の通り定めがあります。

不動産登記法63条2項(抜粋)

2. 相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。

不動産登記法(e-Gov法令検索)

遺産分割協議による相続登記の必要書類

遺産分割協議による相続登記をするときの必要書類について解説します。

遺産分割による相続登記では、遺産分割協議書が最重要の必要書類となります。協議書には、相続人全員の実印による押印と印鑑証明書の添付が必要となります。実印を押すことにより、合意内容を証拠化し、相続人の合意を確実なものとするためです。これは、遺産分割協議の結果が法定相続分とは異なるとき、協議の結果を優先するという強い効果を有しているからです。

協議書の他に、登記時に必要となる書類は、共有名義を経るかどうかによって変わりますので、以下では場合分けして説明します。

共有登記後に遺産分割による相続登記をする場合

遺産分割協議が長引く場合など、一旦共有名義に変更した後で、協議がまとまり次第相続登記するケースにおける必要書類は次の通りです。

  • 登記原因証明情報(遺産分割協議書など)
  • 登記識別情報(又は登記済証)
  • 登記義務者の印鑑証明書
  • 登記権利者の住民票又は戸籍の附票

共有名義を経ず遺産分割による相続登記をする場合

遺産分割協議に基づいて、共有名義を経ず、直接に相続登記するケースの必要書類は、次の通りです。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の現在戸籍謄抄本
  • 遺産分割協議書(又は遺産分割調停調書など)
  • 遺産分割協議書の場合は相続人全員の印鑑証明書
  • 不動産を取得する相続人の住民票又は戸籍の附票

このとき、遺産分割協議による相続登記には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本など、多くの戸籍を収集する必要があり、時間がかかるので、余裕をもって準備しましょう。

遺産分割協議による相続登記の方法と、手続きの流れ

遺産分割協議による相続登記の方法と、手続きの流れは次のステップで進めます。相続登記申請書や、遺産分割協議書の記載に誤記があると、相続登記を受理してもらえないおそれがあるため注意して進めてください。

STEP
遺産分割協議書の作成

まず、遺産分割協議書を作成します。これには、相続人全員が同意し、署名押印した上で、全員分の印鑑証明書を添付する必要があります。

なお、協議でまとまらず調停ないし審判になった場合は、調停調書もしくは審判書を添付します。

STEP
遺産分割協議による相続登記を行う

相続登記申請書と必要書類を、法務局に提出し、受理されると審査が行われ、約1〜2週間程度で登記の手続きが完了し、登記識別情報、登記完了証が発行されます。

遺産分割協議による相続登記にかかる費用

遺産分割協議による相続登記にかかる費用は、登録免許税と司法書士費用です。登録免許税は、不動産の登記にかかる税金であり、遺産分割協議による相続登記の際の登録免許税は、不動産の評価額に0.4%をかけて計算します。

  • 登録免許税額 = 不動産評価額 × 0.4%

※ 算出額の100円未満は切り捨てる。
※ 算出額が1000円未満の場合、税額は1000円となる。

遺産分割協議による相続登記は、申請書の書き方や注意点など、複雑で難しい法律知識が必要なことがあるため、司法書士に任せるのが最善です。

まとめ

今回は、遺産分割協議のよって相続登記する場合の具体的な方法や手続き、必要書類などを解説しました。

遺産分割協議によって相続登記をするケースは、その他の法定相続による相続登記遺言による相続登記に比べて、相続人間の対立が生じた場面であり、慎重に進める必要があります。特に①一旦共有名義で登記した後で、協議にしたがって再登記するケースと、②協議の後になって直接相続登記するケースとで、その場面に応じて登記のしかたが異なるため、区別すべきです。

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