遺産分割とは、相続によって得た相続財産(遺産)を、相続人間で分割することをいいます。遺産分割をどのようにするか、つまり、相続財産(遺産)をどのような割合で分けるかを決めるのが、遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判といった手続です。
不動産を相続したとき、一般的に、このような遺産分割協議を行った後に、不動産を取得する人の所有名義に変更をする「相続登記」を行いますが、遺産分割協議による相続登記は、登記をするタイミングによって登記原因が変わってきますので、相続登記申請書の書き方に注意が必要です。
そこで今回は、遺産分割協議による相続登記を進めるにあたって、その具体的な方法や注意すべきポイントなどを、相続登記に詳しい司法書士が解説します。
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遺産分割による相続登記の「登記原因」は?
相続登記を行うときに、相続登記申請書を法務局に提出し、そこに「登記の原因」を記載します。「登記の原因」とは、どのような原因によって不動産の名義を変更するかということを示す欄のことです。
冒頭で解説したとおり、遺産分割協議による相続登記を行うときには、相続登記のタイミングによって、所有権移転の理由が異なるため、「登記の原因」欄に書かなければならないことも違ってきます。
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共有登記後に遺産分割による相続登記をするとき
相続をしたときに、いったん、法定相続人(民法で定められた相続人)の法定相続分に応じて共有の登記をしておくことがあります。このときの「登記の原因」は相続登記申請書に「相続」と記載します。
相続の際の不動産の分割方法には、次の3つがありますが、換価分割を行うときには、不動産を売却して現金化する必要があり、故人の名義のままでは不動産の売却ができないため、いったん共有相続登記をしておく必要があります。
現物分割
:不動産を、現物のまま、分筆をして分割する方法をいいます。
代償分割
:不動産を分割し、不足する分を現金・預貯金などによって補う分割方法です。
換価分割
:不動産を売却して現金化し、その代価を分割する方法をいいます。
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この場合には、遺産分割協議書などによってその不動産を誰が取得するかが決まったときに、再度相続登記をやり直すことになりますが、このときの「登記の原因」は、相続登記申請書に「遺産分割」と記載します。
このとき、いったんは法定相続分で共有名義の登記をしているため、その登記名義を変更するときは、法定相続分よりも取得する不動産の持分の少なくなる人が登記義務者、法定相続分よりも取得する不動産の持分が多くなり人が登記権利者となり、共同で相続登記申請をします。
不動産登記法にも、相続の場合には単独での登記申請ができると定められていますが、「登記の原因」が「遺産分割」の場合には、共同申請となります。
以上の流れによれば、相続登記が2回必要となります。
共有名義を経ず、遺産分割による相続登記をするとき
相続が開始後、遺産分割協議中はお亡くなりになった故人(被相続人)の名義のままとしておき、遺産分割協議が成立した後で、直接、不動産を取得することとなった相続人名義に変更する相続登記をする方法もあります。
このような方法をとるときには、相続登記申請書の「登記の原因」は「相続」と記載します。
「登記の原因」が「相続」の場合には、遺産分割協議書にその不動産を相続によって取得する人として記載されている相続人であれば、単独で相続登記の申請が可能です。登記義務者がお亡くなりになった人(被相続人)となり、既に亡くなっている人と共同で登記申請することはできないからです。
不動産登記法にも、次のとおり、相続による登記は「単独で」、「直接」行うことができる旨が定められています。
不動産登記法63条2項相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。
遺産分割協議による相続登記の必要書類は?
遺産分割協議による相続登記をするときの必要書類は、次のとおりです。
共有登記後に遺産分割による相続登記の必要書類
- 登記原因証明情報(遺産分割協議書など)
- 登記識別情報(又は登記済証)
- 登記義務者の印鑑証明書
- 登記権利者の住民票又は戸籍の附票
共有名義を経ず、遺産分割による相続登記の必要書類
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の現在戸籍謄抄本
- 遺産分割協議書(又は遺産分割調停調書など)
- 遺産分割協議書の場合は相続人全員の印鑑証明書
- 不動産を取得する相続人の住民票又は戸籍の附票
遺産分割協議による登記をするときに必要となる、お亡くなりになった故人(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本の収集には、一定程度の時間がかかります。
また、被相続人の年齢や戸籍の転籍の回数などによっては、戸籍の通数が多くなったり、古い戸籍の難しい文言の読み解きが必要になったりするケースもあります。
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遺産分割協議による相続登記の申請書の書き方は?
遺産分割協議による相続登記を行うときに、法務局に提出する相続登記申請書の書き方は、次の通りです。下記の書式を参考にして、ケースに合わせて作成してください。
登記の目的 所有権移転
原因 平成YY年MM月DD日相続
相続人 (被相続人 A山B太郎)
東京都中央区銀座二丁目10番8号
A山C男
連絡先 03-xxxx-yyyy
添付情報 登記原因証明情報 住所証明情報
課税価格 金1000万円
登録免許税 金4万円
所在 東京中央区銀座二丁目
地番 10番8
地目 宅地
地積 100.00㎡
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相続登記申請書には、遺産分割協議による相続登記の場合には、登記の原因を「相続」としたうえで、被相続人の氏名、死亡日などを正確に記載します。また、遺産分割協議の結果、不動産を相続することとなった相続人の氏名、住所、不動産の情報なども、正確に記載してください。
相続登記申請書や、遺産分割協議書の記載が1文字違ったことによって、相続登記を受け付けてもらえず、書類の作成しなおしとなってしまったという失敗例もあります。
遺産分割協議による相続登記の費用は?
遺産分割協議による相続登記をするときにかかる費用は、登録免許税と、司法書士費用です。
登録免許税は、不動産の評価額に対して、1000分の4をかけて計算します。登録免許税とは、不動産の登記をする際にかかる税金のことです。不動産の評価額とは、固定資産税評価額のことで、市町村(東京23区の場合は都税事務所)が発行する固定資産税評価証明書で確認することができます。
遺産分割協議による相続登記は、相続登記申請書の書き方や注意点など、複雑で難しい法律知識が必要なことがあるため、司法書士にお任せいただくことができます。司法書士にお任せいただく際の司法書士費用は、5万円から10万円程度です。
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遺産分割協議による相続登記にかかる時間は?
遺産分割協議による相続登記をするときには、相続登記申請書に記載して、法務局に登記申請を提出する必要があります。
遺産分割協議による相続登記申請が受理されると、法務局による審査が行われたあと、約2週間程度の期間で、登記の手続きが完了します。登記の手続きが完了すると法務局から相続人の登記識別情報、登記完了証が発行されます。
遺産分割協議による相続登記は、遺産分割協議書の作成が必須!
遺産分割について、話し合い(遺産分割協議)でまとまる場合には、そのまとまった遺産分割の結果を書面(遺産分割協議書)にまとめて、相続人全員の実印による押印と印鑑証明書を添付する必要があります。
相続人全員の実印がそろっていなかったり、認印による押印であったり、印鑑登録証明書が準備できない人がいたりすると、遺産分割協議書は相続登記の申請では使うことができません(もちろん銀行の手続きでも使えません)。ただし、遺産分割協議による相続登記の場合には、印鑑登録証明書には、特に期限はありません。
遺産分割協議書という書面にして、実印を押すことによって、合意内容を証拠化し、確実なものとするためです。遺産分割協議の結果が民法に定められた法定相続分と異なる場合であっても、遺産分割協議の結果が優先するという強力な効果を持っているからです。
「登記原因証明情報」とは登記の原因を証明する資料のことです。そして、登記原因証明情報が、相続登記の際にはかならず必要となるところ、「登記の原因」が「遺産分割」であれば、これを証明する登記原因情報は「遺産分割協議書」、「遺産分割調停調書」等になります。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、相続登記を得意とする司法書士が、相続登記の中でも遺産分割協議によって相続登記する場合の、具体的な方法、手続、かかる費用、必要書類や注意点などについて解説しました。
遺産分割協議によって相続登記をするケースには、いったん共有名義で相続登記をし、その後に再度、遺産分割協議によって相続登記をする場面と、遺産分割協議のあとに直接相続登記する場面の2つがありますが、相続不動産の分け方などによって、どちらかを選択しなければなりません。
「相続財産を守る会」では、遺産分割協議による相続登記はもちろんのこと、遺産分割協議がうまくまとまらない場合には、相続に強い弁護士が当事者を代理して遺産分割協議を有利にまとめるお手伝いをすることもできます。