今回は、持ち家の相続に関するお話です。不動産を所有する方の相続では、私たち相続財産を守る会の専門家にも、多くのお悩みが寄せられます。
高齢社会の進展にともなって、夫婦の一方が亡くなったときの、のこされた配偶者の年齢もまた、これまでより高齢化しています。高齢であればあるほど、「自宅に住み続けることができるか」は、死活問題です。
よくある相続相談
夫に遺言を残してもらい、一緒に住んでいた家を相続したが、預金を相続できなかったため生活費に苦しんでいる。
相続分どおりに分割協議をして、家を相続したが、その他の現預金、株式などの資産を得られなかった。
相続分どおりに分割協議をした結果、その後に子との仲が悪化し、夫と一緒に住んでいた家を出なければならなくなった。
夫婦の一方が亡くなったとき、のこされた配偶者(夫または妻)は、これまで住んでいた「家」に住み続けたいと希望する反面、他方で、その後の生活費のために「生活資金」も必要です。
よくある相続相談のようなお悩みに陥らないように、住むべき「家」と「生活資金」の両方を確保するために活用できるのが、2018年(平成30年)の法律改正で、新設された「配偶者居住権」の制度です。
今回は、新しい制度である「配偶者居住権」をうまく活用して相続対策できるよう、基礎知識を弁護士が解説します。
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2018年(平成30年)の相続法改正のまとめは、こちらをご覧ください。
平成30年(2018年)7月6日に、通常国会で、相続に関する法律が改正されました。 正式名称、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」という法律が成 ...
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)、代表弁護士の浅野です。この記事は、私が解説を担当しています。
「配偶者居住権」について、新聞やニュースでご覧になった方も多いのではないでしょうか。今回は、「配偶者居住権」の特徴と、活用方法を、相続を得意とする弁護士が解説します。
「配偶者居住権」を活用した、相続の生前対策は、これから増えていきます。施行日は少し先ですが、相続財産を守る会では、「配偶者居住権」を利用した相続対策に、積極的に取り組んでいます。
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亡くなった方の持ち家に配偶者が住み続ける方法は?
夫婦が、夫が所有する持ち家に一緒に住んでいたケースを想定してください。
夫が亡くなった後も、妻がその家に住み続けられるようにしなければ、夫婦が高齢であるとき、生活に困るケースが少なくありません。夫が亡くなった後も、妻が家に住み続ける方法はあるのでしょうか。
現在の法律では、夫婦の片方がなくなったときに、他方が、一緒に住んでいた家に住み続ける方法には、次の2つの典型的な方法があります。
ポイント
- 持ち家を妻が相続する方法
→妻が持ち家の所有権を取得することで、所有権に基づいて住み続けることができます。 - 持ち家は妻以外に相続させた上で、妻がその人から借りて住む方法
→他の相続人(例えば「子」)が所有権を取得し、妻は、賃貸借契約に基づいて住み続けることができます。
しかし、家に住み続けるための2つの方法にはいずれも、メリット・デメリットがあります。この2つの方法の特徴を、弁護士が、それぞれ説明していきます。
「所有権を相続する方法」のメリット
妻が今の家に住み続ける方法のうち、その家の所有権を相続する(引き継ぐ)のが、一番シンプルで分かりやすい方法です。
家が自分の物になるわけですから、当然、住み続けられますし、他の相続人に邪魔されることもありません。所有権は、不動産(土地・建物)に対する権利の中でも、とても強力なものです。
妻が、家の所有権を取得するため、もし家に住み続ける必要がなくなったときには、他の第三者に貸して、収益を得ることもできます。
「所有権を相続する方法」のデメリット
「所有権を相続する方法」には、注意しなければならないデメリットがあります。
相続人が、妻以外にも複数いる場合には、他の相続人にも遺産(相続財産)を分け与える必要があります。
民法に定められた「法定相続分」に応じて分割をするのが基本ですが、不動産の価値は一般的にとても高いため、不動産の所有権を相続すると、その他の財産があまりもらえない可能性があります。
たとえば・・・
相続人が、妻と子供2人であるとき、相続人の法定相続分は1/2、つまり半分であり、子どもの法定相続分は、それぞれ1/4ずつになります。
遺産が5000万円で、そのうち住居の価値が2000万円、のこり3000万円が預金だとします。
法定相続分にしたがい、妻は1/2の2500万円の財産をもらえます。しかし、住居の価値が2000万円ですので、家に住み続けるために所有権をもらうと、預金は500万円しかもらえません。
これでは、妻は、生活費が足りず、その後の生活が成り立たなくなる可能性もあります。
「借りて住み続ける方法」のメリット
住み続けていた家の所有権は他の相続人に相続してもらい、その相続人から借りて住む方法を選ぶケースがあります。
妻以外の相続人(例えば子ども)が持ち家を相続した場合でも、妻は、その相続人から家を借りれば、引き続きその家に住むことができます。
この場合、不動産の所有権を得るわけではないので、現金・預金などの財産も相続できます。不動産を一部ずつ相続し「共有」としておく方法もあります。
「借りて住み続ける方法」のデメリット
「借りて住み続ける方法」にもまた、デメリットがあります。自分以外の相続人から家を借りるわけですから、勝手に住むことはできません。相続人が「貸してもよい」と言わなければならず、賃料がかかるかもしれません。
妻が、必ず今の家に住み続けることができるとは限りません。
不動産を相続した相続人も、「他の人に貸して、もっとたくさん賃料を得たい」と思うかもしれません。
新しい「配偶者居住権」とは?
ここまで解説してきたとおり、今までの法律では、のこされた配偶者が持ち家に居住し続けるためには、「所有権を相続する方法」も「借りて住み続ける方法」も、一長一短でした。
そこで、高齢にしてのこされてしまった配偶者の生活を確保し、居住権を保護するために、2018年(平成30年)7月の相続法改正で、新しい制度ができました。
新しく導入される制度が、「配偶者居住権」という権利です。「配偶者居住権」は、名前の通り、配偶者(夫や妻)が、家に住む(居住する)ための権利です。
2018年(平成30年)7月の相続法改正で導入された「配偶者居住権」の制度が、実際にはじまるのは、2018年7月13日から2年以内の施行日とされています。
「居住」するための権利
「配偶者居住権」は、所有権とは異なります。所有権は、不動産に対するすべての支配権ですが、「配偶者居住権」は、あくまでも「居住」するための権利です。
そのため、「配偶者居住権」によって家に住み続けることはできますが、家を売ったり、建て替えたりはできません。家に「住む」ことだけを目的とした権利です。
亡くなった方の配偶者は、それまで住んでいた家を売るつもりはなく、ただ、そこに住み続けることができれば十分というケースで、「配偶者居住権」が活用できます。
「配偶者」の権利
「配偶者居住権」は、「配偶者」を保護するための権利です。そのため、配偶者が亡くなると、この権利は消滅し、相続はされません。
「配偶者居住権」は、終身、つまり配偶者が亡くなるまで存続させることができます。また、例えば10年間など、期間を限定することもできます。
「配偶者居住権」は配偶者の保護を目的としているため、無償で家に住むことができます。配偶者は、「配偶者居住権」にもとづいて家に住み続けるためにお金を払う必要はありません。
配偶者居住権を設定できる建物とは?
「配偶者居住権」は、配偶者を保護するための権利です。そのため、どのような建物(住居、家)であっても利用可能というわけではありません。
「配偶者居住権」を利用するためには、次の条件を満たす建物である必要があります。この条件を満たさない建物には、「配偶者居住権」を設定できません。
ポイント
- 亡くなった方(被相続人)が持っていた建物であること
- 相続開始の時に配偶者が住んでいた建物であること
「配偶者居住権」は、亡くなった方(被相続人)が持っていた建物にだけ設定できます。夫婦で建物を共有していた場合も「配偶者居住権」を設定できます。
夫婦以外の方が建物を共有している場合には、「配偶者居住権」を設定できません。夫婦が、借家に住んでいた場合には、その借家に「配偶者居住権」を設定することはできません。
「配偶者居住権」は、相続開始のとき(被相続人が亡くなったとき)に、配偶者が住んでいた建物にだけ設定できます。
亡くなった方が複数の建物を所有している資産家で、配偶者がそのうち1つに住んでいた場合、その住んでいた建物についてだけしか「配偶者居住権」を設定することはできません。
配偶者居住権を利用するメリット
「配偶者居住権」がどのような権利であるかを理解していただいたところで、次に、「配偶者居住権」を利用するメリットは何でしょうか?
不動産の所有権をもらう場合と、配偶者居住権をもらう場合とを比べてみることで、「配偶者居住権」のメリットが、よりわかりやすくなります。
たとえば・・・
所有権を相続することで、配偶者が家に住み続けることのできるケースを考えてみましょう。
相続人が、妻、子2人の合計3人で、遺産(相続財産)が5000万円。そのうち住居の価値が2000万円、のこり3000万円が預金とします。
法定相続分にしたがうと、妻は1/2の2500万円の財産をもらうことができますが、住居をもらう場合には、預金は500万円しかもらうことができません。
不動産の所有権は価値が高いため、所有権をもらうと、その他の財産の取り分が少なくなります。
一方で、「配偶者居住権」は、「住む」ことだけを目的とした権利であり、配偶者が亡くなれば消えてしまいます。
そのため、「配偶者居住権」の価値は、所有権の価値よりも低くなると考えられます。
たとえば・・・
さきほどと同じ例で、住居の「所有権」は2000万円でしたが、「配偶者居住権」だけであれば価値は1000万円だったとします。
法定相続分にしたがうと、妻は1/2の2500万円の財産をもらうことができます。
住居の所有権ではなく、「配偶者居住権」(1000万円相当)だけをもらうならば、妻はさらに預金1500万円をもらい、生活費にあてることができます。
所有権ではなく「配偶者居住権」をもらうことで、住居以外の財産を、より多くもらうことができるのです。
もっとくわしく!
配偶者が「配偶者居住権」をもらう場合には、家の所有権は別の相続人(例えば子ども)がもらうことになります。
したがって、別の相続人が所有権を持ち、「配偶者居住権」にしたがって配偶者が居住する関係は、配偶者は、子どもから家を借りて住むのと似た関係になります。
配偶者居住権を設定するための方法は?
メリットの多い「配偶者居住権」を、実際に設定する方法について、弁護士が解説していきます。
「配偶者居住権」を設定する方法には、次の3つの方法があります。
ポイント
- 「遺産分割」によって配偶者居住権を設定する方法
- 「遺贈・死因贈与」によって配偶者居住権を設定する方法
- 「家庭裁判所の審判」によって配偶者居住権を設定する方法
遺産分割で「配偶者居住権」を設定する方法
「配偶者居住権」は、遺産分割によって設定できます。遺産分割とは、相続人間で話し合って、亡くなった方の相続財産(遺産)を、誰がどのように相続するかを決める手続です。
遺産分割における話合いで、所有権は別の相続人がもらうことにした上で、配偶者の方がそれまでと同じ家に住み続けることで合意できれば、配偶者は、「配偶者居住権」を得ることができます。
配偶者に「配偶者居住権」を与える場合、遺産分割の話し合いでは、家の所有者を、他の相続人に与えることができます。
遺贈・死因贈与で「配偶者居住権」を設定する方法
「配偶者居住権」は、住居を持っている方が、亡くなる前に配偶者に与えておくこともできます。遺贈(いぞう)や死因贈与(しいんぞうよ)を使う方法です。
遺贈とは、遺言(遺言書)の中で、財産をあげる相手を決めておくことです。
たとえば・・・
夫の所有している不動産(自宅)に、夫婦で一緒に住んでいる場合に、夫が、亡くなる間に遺書を作成し、自宅に関しては妻に「配偶者居住権」を与える、と決めておくことができます。
死因贈与は、財産を持っている人が、亡くなったときに自分の財産を与えることを、あらかじめ誰かと約束しておくことです。
遺贈は、遺書を作る人が1人で内容を決めることができるのに対し、一方、死因贈与は「契約」の一種なので、夫と妻の合意で決めることになります。
たとえば・・・
夫が亡くなった場合には妻に「配偶者居住権」を与えるということを、夫がお亡くなりになるより事前に、夫と妻が約束(合意)しておくことができます。
家庭裁判所の審判で「配偶者居住権」を設定する方法
遺産分割は、誰がどの遺産を相続するかを、相続人どうしが話合いで決めることです。しかし、話合いではまとまらない場合もあります。
遺産分割の話合いがまとまらない場合、家庭裁判所に行って、誰がどの財産を相続するかを、裁判所に決めてもらうことができます。
家庭裁判所で、相続についての手続をするとき、配偶者が希望すれば、家庭裁判所が「配偶者居住権」の取得を認める場合があります。
配偶者居住権はいつから活用できる?(施行日)
「配偶者居住権」が始まる日(「施行日」といいます)は、2018年7月13日から2年以内です。具体的な施行日はまだ決まっていませんが、2020年から始まると想定されます。
「配偶者居住権」は、施行日以降に亡くなった方の相続について、活用できます。
「配偶者居住権」を遺言で与えることができるのも、施行日からです。つまり、施行日前に遺言書を作っておいて、「配偶者居住権」を夫や妻に与えると定めておくことはできません。
そのため、「配偶者居住権」を活用した相続対策をする場合、遺言(書)を施行日以降に作り直す必要があります。
注意ポイント
「配偶者居住権」は新しい制度ですので、これを活用した相続対策を行う場合には、専門家に相談の上で、十分な時間をかけて検討することをおすすめします。
施行日に向けて、事前に対策を練っておきたいという方は、相続財産を守る会の専門家にお気軽にご相談ください。
配偶者居住権を活用した相続対策は、「相続財産を守る会」にお任せください
ここまでの弁護士の解説のとおり、法改正によって「配偶者居住権」の制度がつくられたことで、「所有権」をもらわずに自宅に住み続けることが可能となります。
たとえば、次のような相続問題で、「配偶者居住権」を活用して解決することができます。
- 自分が亡くなっても、妻が家に住み続け、かつ、生活資金もできるだけ多く受け取れるようにしてあげたい。
- 自分が亡くなったら、自宅は世話になった恩人に与えたい。しかし、妻が亡くなるまでは、妻に住ませてあげたい。
- 夫婦ともに再婚で連れ子がいるため、自宅は自分の子に譲りたいが、妻の今の生活は守りたい。
「配偶者居住権」は、2018年の法改正でつくられた新しい制度であり、活用するためには、新しい法律についての詳しい理解が必要となります。
「相続財産を守る会」では、「配偶者居住権」を活用した相続の解決ができるよう、相続法改正についての研鑽を積んでいます。配偶者の保護についてお悩みの方は、ぜひご相談ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、2018年7月の法改正で新設された「配偶者居住権」を活用した相続対策について、相続問題を多く取り扱う弁護士が解説しました。この解説では、次のことをご理解いただけます。
解説まとめ
- 妻が、夫の死亡後も、夫が所有していた家に住み続けるための具体的な方法、メリット・デメリット
- 「配偶者居住権」の内容と、これまでの方法によるデメリットの解消
- 「配偶者居住権」を設定する3つの方法と、具体的な活用方法
相続財産を守る会では、相続に強い弁護士だけでなく、税理士、司法書士などの他の士業、不動産会社、FP、保険会社などの協力により、「配偶者居住権」を活用した、多くの解決方法を提案できます。
まずは、初回のご相談にて、あなたの置かれている状況をご説明いただき、オーダーメイドの相続のご提案をお受けくださいませ。