「遺留分減殺請求」とは、兄弟姉妹以外の法定相続人が、遺言や生前贈与などによって、最低限相続できることが保障された「遺留分」すら相続することができなくなってしまったときに、逆に多くの相続財産(遺産)を得た人に対して行使する権利のことです。
遺留分減殺請求をする方法(内容証明・訴訟など)についての解説は多くありますが、では逆に、遺言、遺贈や生前贈与などによって相続財産(遺産)を多く取得したことによって、相続人から遺留分減殺請求をされてしまったら、どのように対応したらよいでしょうか。
「内容証明郵便」という、普通郵便ではない堅苦しい方法で、弁護士から「遺留分減殺請求をする」と書いてある書面を受け取ると、焦ってしまい、無視して放置してしまいがちですが、対応方法を理解してください。
今回は、遺留分減殺請求(内容証明の受領、訴状の送達など)を受けた人に向けて、遺留分減殺請求された側の適切な対応について、相続問題に詳しい弁護士が解説します。
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そもそも「遺留分減殺請求をされた側」とは?
遺留分とは、民法によって認められた、法定相続人が最低限相続できる権利のことをいいます。配偶者(夫または妻)、子、孫、直系尊属(両親、祖父母)には、それぞれ遺留分が認められています。兄弟姉妹には遺留分がありません。
遺言、遺贈や生前贈与などによって相続財産(遺産)の一部が法定相続人の手に渡らず、これにより遺留分が侵害されたとき、遺留分の権利を有する人が行うのが「遺留分減殺請求権」です。
遺留分減殺請求権が行使されると、通常、「遺留分減殺請求をされた側」の人にとっては、内容証明郵便の受領や、特別送達される訴状の受領によって、自分が遺留分減殺請求の対象となったことを知ります。
このような意思表示を受けたということは、あなたが相続財産(遺産)として故人から受け取った財産を「返してほしい」という意思表示を意味します。遺留分権利者の側で、権利行使を行う方法については次の解説をご覧ください。
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なぜ、遺留分減殺請求権は、内容証明で行使されるの?
遺留分減殺請求を、内容証明郵便を送る方法によって行使されたら、内容証明郵便を送りつけられた側の人にとっては、ドキッとすることでしょう。普通ではあまり見かけない形式の郵便物が届くことで、驚くとともに、どうしてよいかわからないという心理的プレッシャーを受けるのではないでしょうか。
「なぜ遺留分減殺請求権が、内容証明郵便で行使されるのか?」といえば、その理由はまさに、受け取った側のそのような心理状態に1つの理由があるのです。
内容証明郵便が届くと、しかもそれが弁護士名義のものであると、「素人では対抗できないのではないか」「財産を奪われてしまうのではないか」という恐れを感じるからです。
更に、口頭や電話などで意思表示を伝えるのではない内容証明によって意思表示を伝えることによって、「遺留分減殺請求の意思表示をした」という証拠を残すことができます。「争続」となり、遺留分減殺請求訴訟などの裁判で争うこととなったとき、証拠によって事実を証明できることが重要です。
もっとくわしく!
内容証明郵便には、意思表示の内容を証拠化する力があります。内容証明郵便で送られた遺留分減殺請求通知書の内容は、郵便局に写し(コピー)が保管されるからです。
配達証明付郵便を合わせて併用すれば、通知書を送付した年月日も証拠化することができます。
遺留分減殺請求権には、「相続開始を知ったときから1年」という消滅時効と、「相続開始から10年」という除斥期間があり、この期間内に権利行使をしなければ、後から遺留分を争うことができません。
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遺留分減殺請求権の行使方法は、こちらをご覧ください。
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遺留分減殺請求の内容証明郵便を受け取ったら、無視・放置してはいけない!
遺留分減殺請求の内容証明郵便を受け取ったら、「話し合いをしたら相続財産(遺産)とられるのではないか。」と考え、無視、放置したい気持ちとなることはやまやまですが、最もお勧めできない対応です。面倒な気持ちはわかりますが、きちんと回答が必要です。
遺留分減殺請求権の権利行使を示す内容証明郵便は、「遺留分減殺請求通知書」であったり、単に「通知書」という題名であったり、あるいは、弁護士ではない、一般人の相続人が送る場合には、題名がなかったり「ご連絡」といった一般的な手紙をしていることもあります。
どのような書面であっても、到着した内容証明郵便をよく読み、遺留分減殺請求の意思表示が書かれていたら、無視・放置してはいけません。無視・放置が正しい対応ではない理由を、弁護士がまとめました。
【理由1】調停・訴訟で争いが激化する
遺留分減殺請求権を、内容証明郵便を送る方法で行ってくるということは、その相手方の相続人は、「相続財産(遺産)を取り戻したい」という強い気持ちを持っていると考えられます。
送られてきた内容証明を無視、放置しておいたからといって、あきらめてくれる可能性は低いと言わざるを得ません。
むしろ、放置・無視した場合、本来であれば話し合いで解決することもできたであろう遺留分についての争いについて、遺留分減殺請求調停、遺留分減殺請求訴訟など、裁判所を利用した、更に激しい争いを起こされる可能性が高いです。
この場合、調停や訴訟の場では、「交渉の経緯」として、送られてきた内容証明に対して誠実な回答がなかったことを主張され、裁判所のイメージダウンを狙われることもあります。
【理由2】「意思表示が届いていない」ことにはできない
配達証明付き内容証明郵便は、受取が必要であり、不在の場合であってもポストに投函はされません(不在票が投函されます)。しかし、受取をしなかったとしても、「意思表示が届いていなかった」ことにはなりません。
遺留分減殺請求をする意思を知りながら「拒否」しても、訴訟などの争いになれば、遺留分相当額を支払うよう裁判所の判決などで命じられてしまいます。
【理由3】無視・放置する戦略もある
ただし、事前の話し合いなどによって、遺留分減殺請求権を行使してくる相続人の主張が既にわかっており、話し合いによる和解が難しいケースもあります。
送られていきた内容証明郵便に対応して話し合いを行ったり、譲歩をしたりしても、合意に至る可能性がないことが容易に予測される場合であれば、「調停・訴訟になったらはじめて対応する」という姿勢も、戦略的には考えられます。
遺留分減殺請求の権利行使をされてしまった方は、対応策についてお迷いになる場合には、事前に相続問題に強い弁護士に法律相談ください。
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遺留分減殺請求権を行使されたら、相続財産をできるだけ守る方法は?
遺留分と、これを守るための遺留分減殺請求権は、民法に認められた法定相続人の権利です。そのため、完全に遺留分減殺請求権を否定したり、遺留分に相当する財産を一切与えなかったりといった解決策は、なかなか困難です。
話し合いによって、遺留分権利者が、「遺留分の放棄」をしてくれればよいですが、内容証明まで送ってくるような相続人が遺留分を放棄してくれる可能性は非常に低いです。
そこで次に、遺留分減殺請求権を行使されたら、その後の対応によってできるだけ相続財産(遺産)を守る方法について、弁護士が解説します。これらの対応策を理解しているかどうかで、確保できる相続財産(遺産)の量が変わってきます。
注意ポイント
なお、被相続人がお亡くなりになる前に、遺留分を侵害されるような遺言書を作成される可能性があったり、過去に多額の生前贈与があったりするような場合で、生前にそのことに気づいた場合には、遺留分を侵害しない、争いの可能性のない遺言書を作成してもらえるよう、被相続人を説得することも検討してください。
【方法1】遺留分減殺請求権の期限を過ぎていないか確認する
遺留分減殺請求権には、「相続開始を知ったときから1年」という消滅時効、「相続開始から10年」という除斥期間による「期限」があります。
そこで、遺留分減殺請求権を内容証明郵便の送付などによって受け取った場合には、まずは、この期限を過ぎていないかを確認してください。期限を過ぎている場合には、遺留分減殺請求権の権利行使自体ができないからです。
ただし、遺留分を行使する相続人に、相続に強い弁護士などがついている場合には、期限の計算を間違っていたり、期限を過ぎた権利を行使していたりすることは期待できませんので、その他の方法で相続財産を守らなければなりません。
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【方法2】価額弁償を申し出る
現在(2019年1月)時点の民法では、遺留分減殺請求を請求された側が返還しなければならない「遺留分に相当する財産」は、現物で返還するのが原則です。つまり、相続財産を現金で得ていたら現金、不動産で得ていたら不動産を返します。
しかし、相続で不動産を得ていた人が、遺留分として不動産を返すとき、その一部を返すときにわざわざ分筆して現物で返還することは現実的ではありません。自宅用不動産や事業用不動産など、どうしてもその不動産を手元に確保しておきたい事情がある場合もあります。
そのため、遺留分を請求されたら、遺留分相当額の価額弁償(お金の支払)を申し出ることによって、現物返還を免れることができます。この価額弁償をするときの、相続財産額の評価の基準時は、「事実審口頭弁論終結時(裁判になった場合)」とされています。
したがって、遺留分減殺請求をされた側が、相続財産をできる限り守り、支払う遺留分を少なくするためには、価額弁償を申し出た上で、その評価額について、できるだけ低くなるように争う方法があります。
【方法3】相続によって得た財産の評価額を下げる
遺留分減殺請求権は、権利行使をする人が全体の相続財産額を計算し、そのうちの決められた割合(遺留分割合)の財産の返還を主張するものです。そのため、遺留分を行使する人の相続財産の評価が高すぎる場合には、不当に過大な請求をされる可能性もあります。
不動産、未公開株式(非上場株式)など、評価額に争いのある場合には、しっかりと鑑定、調査、評価を行い、適正な評価額を主張することで、できる限り支払う遺留分の金額を下げることができます。
特に、不動産の評価額は、時価評価と実際の評価額に差がある場合は少なくありません。
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相続財産に占める不動産の評価額の割合が高いときは、こちらをご覧ください。
相続財産の中で、最も大きな割合を占めるのが、不動産の評価額、特に、土地の評価額である場合が多いです。 不動産(土地・建物)を所有している方がお亡くなりになって、その土地の評価額よりも多額の現金・預貯金 ...
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【方法4】特別受益を得ていないか検討する
特別受益とは、相続人が、お亡くなりになった方(被相続人)から特別に受けた利益のことをいいます。生前に、生前贈与などによって受けた利益はもちろん、遺言によって贈与(遺贈)された利益も、特別受益となる場合があります。
遺留分減殺請求をされた側の立場に立つと、遺留分減殺請求権を行使してきた人が特別受益を受けていた場合には、その分を控除することによって、返還する遺留分の金額を少なくすることができます。
相続する財産を計算するときに、特別受益の金額は、相続財産(遺産)の金額に加算をして計算するからです。
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特別受益が認められる場合と、計算方法は、こちらをご覧ください。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、生前贈与や遺言によって被相続人からより多くの財産を取得した方に向けて、遺留分減殺請求権を行使された側がどのように対応したらよいかについて、弁護士が解説しました。
遺留分減殺請求権は、遺留分を認められた法定相続人に許された法律上の権利であるため、無視・放置したり拒否したりすることはできませんが、適切な対応をすることによって、少しでも支払う遺留分を減額し、少なくすることができます。
「相続財産を守る会」では、遺留分の複雑な計算が必要となったり、相続財産の評価を伴う難しい案件に、弁護士、税理士、司法書士をはじめとした相続の専門家がタッグを組んで積極的に取り組んでいます。