相続人の最低限の相続分を確保するための「遺留分減殺請求」にまつわる争いごとを行うとき、話し合い(交渉・協議)や調停によっても解決できないときに利用されるのが「遺留分減殺請求訴訟(いりゅうぶんげんさいせいきゅうそしょう)」です。
遺留分減殺請求訴訟は、裁判所で行う訴訟手続きですので、訴状作成、証拠収集などの複雑な手続きは、弁護士にご依頼頂くメリットが大きいです。ただ、基本的な訴訟提起から判決までの流れや、依頼者に行って頂く準備などを理解しておいたほうがよいです。
遺留分の争いには、「取得した相続財産の評価」「生前贈与や遺贈の存否」など、激しい争いとなることが予想される争点が多いため、訴訟を覚悟しなければならないケースも少なくありません。
今回は、遺留分減殺請求訴訟を行う上で、相談者・依頼者に理解していただきたい基本的な事項について、相続問題に詳しい弁護士が解説します。訴訟は最後の手段ですので、その前の交渉(協議)でできる限り有利な解決ができるよう努力することが重要です。
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遺留分が認められる割合と計算方法は、こちらをご覧ください。
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いきなり遺留分減殺請求訴訟はできない(調停前置)
生前贈与や遺贈により、自分が本来相続できるはずの相続財産(遺産)が得られなくなってしまったときに、「遺留分減殺請求」の争いは起こります。遺留分減殺請求の流れは、交渉から始まり、訴訟まで、次のように進行します。
遺留分減殺請求の意思表示(内容証明郵便など)
遺留分減殺請求の話し合い(協議・交渉)
遺留分減殺請求調停
遺留分減殺請求訴訟
この流れからわかるとおり、「遺留分減殺請求」の争いは、まずは話し合いから始まるものの、話し合いで相手が拒否しても、終局的には、訴訟によって強制的な解決をはかることができます。
しかし、遺留分減殺請求訴訟が、相手方に強制的な解決を押し付けることができる手続きだからといって、「最初から訴訟したほうが手っ取り早いのではないか」というと、そうではありません。
むしろ、遺留分に関する争いは、まずは当事者となる相続人間の話し合いで解決することを原則としており、訴訟よりも先に調停を行わなければならないという「調停前置主義」がとられているからです。
家庭裁判所に遺留分減殺請求調停を申し立てず、直接、地方裁判所に遺留分減殺請求訴訟を提起したとしても、調停を先に行うよう、調停に回されることがほとんどです。ご家族の問題のように話し合いに適した争いごとについて「調停前置主義」は適用されます。
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遺留分減殺請求の内容証明の書き方は、こちらをご覧ください。
遺留分減殺請求権とは、民法で認められた法定相続人のうち、兄弟姉妹以外(配偶者、子、孫、直系尊属)がもつ、遺言などによっても侵害されずに相続できる相続分のことをいいます。 生前贈与や遺言による贈与(遺贈 ...
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遺留分減殺請求調停の手続の流れは、こちらをご覧ください。
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遺留分減殺請求訴訟とは?
遺留分減殺請求訴訟とは、以上の流れにしたがって、遺留分減殺請求調停の後におこなわれる、裁判所で行う遺留分を求める民事訴訟のことをいいいます。
遺留分減殺請求訴訟によれば、遺留分を求められた相手方が徹底的に争って合意にいたらなくても、遺留分の金額、評価額、分割方法などについて、裁判所が証拠に基づいた「判決」による判断を下してくれます。
遺留分減殺請求訴訟の請求内容は?
遺留分を侵害された相続人が、財産をより多くもらった相続人に対して請求できる権利は、現在の民法の制度によれば、相続財産そのもの(現物)を請求するのが原則です。
そのため、遺留分減殺請求訴訟の訴状に記載する請求内容は、求める相続財産(遺産)の種類によって、次のようになります。
遺留分の対象となる目的物 | 遺留分減殺請求訴訟の請求内容 |
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金銭 | 金銭支払請求 |
不動産 | 不動産引渡請求・登記手続請求 |
動産 | 動産引渡請求 |
なお、原告からの、以上のような請求に対して、被告側が、相当額の金銭を支払うことによる解決を望む場合には、「価額弁償」の方法が選択されることとなります。
原告側から、不動産や動産などの現物ではなく、それに相当する金銭を請求することは、現在の民法の制度ではできませんが、2018年に行われた相続法改正によって認められる「遺留分侵害額請求権」では認められます。
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遺留分減殺請求されても不動産を失わない「価額弁償」は、こちらをご覧ください。
民法上、相続人が最低限相続できる財産である遺留分を侵害して多くの財産を得た人は、他の相続人から「遺留分減殺請求権」を行使されるおそれがあります。 遺留分減殺請求をされたとき、不動産(土地・建物)を生前 ...
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遺留分減殺請求訴訟の管轄は?
遺留分減殺請求訴訟は、相続財産(遺産)を多くもらいすぎた相続人に対して、その財産を返すように請求し、その相続人の選択によってはその財産相当額の金銭を請求する手続きです。そのため、通常の民事訴訟と同様、地方裁判所・簡易裁判所で行います。
遺留分減殺請求訴訟の管轄は、訴訟によって請求する遺留分の金額によって、次のように決められています。
請求する遺留分の額 | 管轄裁判所 |
---|---|
遺留分額が140万円以下の場合 | 簡易裁判所 |
遺留分額が140万円を超える場合 | 地方裁判所 |
遺留分減殺請求訴訟は、家庭裁判所で行う手続きではないので、訴状、証拠などの提出先に注意が必要です。「被相続人(お亡くなりになった方)の最後の住所地を管轄する裁判所」が管轄を有します。
遺留分減殺請求訴訟の流れ
遺留分減殺請求訴訟の流れは、通常の民事訴訟と同様に、訴状を裁判所に提出することによる「訴訟提起」から、裁判所における「審理」を経て、「判決」に至ります。
途中、「判決」に至るまでに、審理の経過をふまえて、双方が譲歩をすることによって話し合いで解決できる場合には、遺留分減殺請求訴訟の最中であっても、和解によって解決することも可能です。
遺留分減殺請求訴訟の具体的な流れについて、相続に強い弁護士が解説します。
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遺留分減殺請求訴訟の提起
遺留分減殺請求の争いは、調停が不成立となった場合には、それで調停の手続は終了し、その後「審判」の手続に移行することはありません。そのため、調停が不成立となった場合には、遺留分減殺請求訴訟を、別途申し立てる必要があります。
遺留分減殺請求訴訟の提起のためには、訴状を作成し、証拠とともに裁判所の事件係へ提出します。訴訟提起の必要書類は、次のとおりです。
ポイント
- 訴状
- 証拠(訴状に記載した主張を基礎づける証拠)
- 連絡用の郵便切手
- 印紙(請求額によって印紙算定表にしたがった金額)
遺留分減殺請求訴訟の訴状には、主張する遺留分減殺の請求を基礎づけるために、次のような内容を記載します。ただし、具体的な主張として必要十分かどうかは、事案に応じた判断が必要となりますので、弁護士にご相談ください。
ポイント
- 原告が法定相続人であり、遺留分を認められる続柄であること
- お亡くなりになった方(被相続人)から被告に対する生前贈与・遺贈があったこと
- 原告の遺留分が侵害されていること
あわせて、遺留分減殺請求権を証明するための証拠として、次の証拠を収集し、訴状に添付して提出します。
ポイント
- 遺留分を認められる続柄(配偶者、子・孫、両親・祖父母)にあたることを立証する証拠
:戸籍謄本・住民票など - 遺留分を侵害する生前贈与・遺贈があったことを示す証拠
:贈与契約書、遺言書など - 遺留分が侵害されていることを示す証拠
:財産目録、不動産鑑定評価書など - 遺留分減殺請求の経緯を示す証拠
:内容証明郵便、調停調書など
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遺留分減殺請求訴訟の審理
訴状が裁判所に受理されると、裁判所での日程調整の上、期日が決まります。期日が決まると、被告側に対して、期日呼出状が送付され、あわせて、答弁書の提出期限が指定されます。
その後、答弁書、準備書面を双方で出し合いながら、主張と立証を繰り返し、「どの点に争いがあるか」という、遺留分減殺請求に関する争点を明らかにする「審理」を裁判所において行います。
裁判所における訴訟期日は、おおよそ1か月に1回程度の間隔で行われ、数回~十数回繰り返し、争点整理が終了するまで続けられます。審理の間に、証人尋問が行われたり、話し合いが可能と裁判所が判断する場合には和解の調整が行われることもあります。
遺留分減殺請求訴訟の判決・不服申立て(控訴・上告)
原告・被告の双方の主張立証が尽くされ、その間に和解も困難と考えられる場合には、裁判所は、遺留分減殺請求訴訟に関する審理を終結し、判決を下します。
判決では、遺留分減殺請求を認めるか否か、支払うべき遺留分額がいくらかなどについて、裁判所が終局的に判断します。
遺留分減殺請求訴訟の判決に不服がある当事者は、判決送達から2週間の期間内に、不服申し立て(控訴)することができます。控訴をすると、第一審が地方裁判所の場合には高等裁判所で、第一審が簡易裁判所の場合には地方裁判所で、控訴審の審理が行われます。
控訴審に対しても、更にいずれかの当事者が不服を申し立てる(上告)と、第一審が地方裁判所の場合には再考裁判所で、第一審が簡易裁判所の場合には高等裁判所で、上告審の審理が行われます。
いずれかの判決の後に、不服申し立てが期限内(2週間)に行われないと、判決は確定し、その判決の通りの権利を行使することができます。判決にしたがわず、遺留分相当額の金銭が支払われないような場合には、強制執行によって、預貯金や不動産を差し押さえ、強制的に回収することもできます。
遺留分減殺請求訴訟にかかる期間(時間)は?
遺留分減殺に関する争いが、訴訟となると、解決に至るまでに、相当程度長期間かかることが予想されます。協議、調停による話し合いでは解決できなかったわけですから、「争続」は相当こじれた状態と言わざるを得ません。
遺留分減殺請求訴訟にかかる期間(時間)は、おおむね、第一審の手続で半年~1年半程度ですが、相続問題の難易度、相続人同士の感情などによって、かかる期間は大きく変動します。
およそ1か月に1回程度で、裁判期日が指定され、その間に準備書面や証拠などを提出して争いを継続するわけですが、何回程度の期日が必要となるかによって、遺留分減殺請求訴訟に要する時間が変わってくるからです。
相続人間の対立が非常に大きい遺留分減殺請求訴訟の場合には、相手方が控訴、上告をして争ってきて、上記解説の期間以上に長い期間がかかることもあります。調停でも解決できなかったわけですから、途中で和解によりすんなり解決することは難しいことが予想されます。
遺留分減殺請求訴訟と、調停の違いは?
遺留分減殺の戦いは、協議・交渉からはじまり、調停を経て訴訟に至るわけですが、遺留分減殺請求訴訟と、その前に前置される遺留分減殺請求調停との違いは、どのような点にあるのでしょうか。
まず、調停は、あくまでも話し合いにより両当事者の合意を目指す制度です。これに対して、遺留分減殺請求訴訟では、途中で和解をする場合もありますが、最終決定である「判決」を目指して徹底的に戦う制度です。
参加者や進め方も、調停と訴訟では異なります。調停では、調停委員同席のもと、両当事者本人が交互に調停委員と話をして進みますが、遺留分減殺請求訴訟では、裁判官と弁護士が、訴訟期日に法廷、もしくは、弁論準備室でやりとりすることで進めます。
管轄についても、調停の場合には、家庭裁判所で行われますが、遺留分減殺請求訴訟の場合には、訴額に応じて地方裁判所もしくは簡易裁判所で行います。
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遺留分減殺請求調停の手続きの流れは、こちらをご覧ください。
遺産分割調停とは、相続財産(遺産)の分割方法について、家庭裁判所において、調停委員の関与のうえで話し合いを行うことです。遺産分割協議が、いざ進めると相続人本人間だけでは思ったようにまとまらないとき利用 ...
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いかがでしたでしょうか?
今回は、遺留分減殺請求の争いが、訴訟にまで発展した場合に利用される「遺留分減殺請求訴訟」の手続について、その全体の流れと進め方などを、相続に強い弁護士が解説しました。
遺留分減殺請求訴訟は、裁判所で行う訴訟手続きであり、裁判所における訴状・答弁書・準備書面等の書類の書き方、証拠のそろえ方や手続きなどの、特別なノウハウが必要となる専門的な手続きです。
「相続財産を守る会」の弁護士は、遺留分減殺請求訴訟をはじめ、訴訟手続きにおいて、主張立証を組立て、訴訟を有利に進めるためのサポートをします。遺留分に関する争いが、訴訟にまで発展してしまったときは、ぜひ一度法律相談ください。