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相続において葬儀費用は誰の負担?遺産分割の対象外であり喪主負担が原則だが例外もある

家族がお亡くなりになると、遺族には、葬儀社を探して葬儀を手配し、葬儀費用を支払うといった負担が生じます。「第6回お葬式に関する全国調査(2024年)」(株式会社鎌倉新書)によれば、葬儀費用の総額は平均118.5万円という調査結果もあり、費用負担は決して軽くはありません。

そのため、故人の葬儀をするにあたり、「葬儀費用を遺産から支払っても良いか」が、相続人間で揉め事の種となることがあります。また、葬儀費用の負担は、喪主が負担するのか、それとも相続人全員ですべきかなど、そもそも誰が負担するのが公平なのかも問題になります。

葬儀費用についてのトラブルを防ぐには、葬儀費用や法事の費用、香典やお布施といった亡くなった際の祭事に関わる収入や支出について、遺産相続における取扱いを知る必要があります。本解説では、遺産分割時に問題になりやすい葬儀費用について、法律上の考え方を解説します。

目次(クリックで移動)

葬儀費用と遺産分割の考え方

まず、葬儀費用と遺産分割について、基本的な考え方を解説します。

葬儀費用は喪主が払うのが原則

葬儀費用は、喪主が払うのが原則とされています。

まず、葬儀社との関係では、「葬儀を契約した人」、つまり喪主が支払い義務を負います。ただ、一旦は喪主が払うにせよ、実質的な負担の帰属については、喪主としても「自分だけが葬儀費用を負担するのでは相続において不公平が生じる」といった不満があるでしょう。また、喪主に資力がない場合、「他の相続人や遺産から負担できないか」といった疑問の生じます。

結論として、相続人間の合意があるならば、どのような分担方法も可能です。

ただ、問題は合意が取れない場合です。相続についてのトラブルが生じると、遺産と比べて葬儀費用がごく少額だとしても、争いの火種となり、相続人間の合意は困難なこともあります。相続人間の合意が取れないと、最終的な判断は裁判所に委ねられますが、裁判例の判断もまた、決して統一されてはおらず、対立が生じやすい争点なのです。

裁判例から見る葬儀費用の負担者」参照

葬儀費用は遺産分割の対象外である

遺産分割は、相続開始時に存在する相続財産(遺産)を対象にします。一方で、葬儀費用は、被相続人の死後に初めて生じるもの。したがって、葬儀費用は本来、相続財産に含まず、遺産分割の対象外なのが原則です(なお、相続人全員の合意によって遺産分割の対象に含めることはできます)。

以上のことから、葬儀費用の問題は、遺産分割の手続きのなかでは解決できず、別問題として話し合いをしなければなりません。

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葬儀費用の範囲には何が含まれる? 

「葬儀費用」とされる範囲が争いになることもあります。

裁判例によっても何が含まれるかに違いがあります。例えば、名古屋高裁平成24年3月29日判決は、葬儀費用を以下のように認定しました。

  • 死者の追悼儀式に要する費用
    (通夜や告別式など葬儀全体にかかる費用)
  • 埋葬等の行為に要する費用
    • 死体の検案に要する費用
    • 死亡届に要する費用
    • 死体の運搬に要する費用
    • 火葬に要する費用等

また、東京地裁昭和61年1月28日判決は、葬儀費用に含まれる費用と含まれない費用を、次のように整理しています。

【葬儀費用に含まれる費用】

  • 死体の検案に要する費用
  • 死亡届に要する費用
  • 死体の運搬に要する費用
  • 棺柩その他葬具の代金
  • 葬儀場設営料
  • 読経料金
  • 火葬料
  • 葬儀社の人件費

【葬儀費用に含まれない費用】

  • 法要にかかる費用
  • 飲食代金
  • 納骨費用

もっとも、相続人間で合意できるなら、必ずしも葬儀費用と言いづらい費用についても、相続人間で負担を話し合うことはできます。

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遺産相続における香典の扱い

葬儀費用と合わせて考えるべきが、「香典」の扱いです。香典は、葬儀の際に得られる金品なので、葬儀費用の原資にしようとする方が少なくないからです。

香典は、葬儀費用と同じく遺産には含まず、遺産分割の対象外なのが原則です。香典は、故人の供養のために供える金品ですが、遺族の経済的負担を軽減する趣旨もあり、代表者である喪主(遺族)への贈与と考えることができるため、一般的には葬儀費用に充当されます。

裁判例から見る葬儀費用の負担者

次に、裁判例を参考に、葬儀費用の負担者について5つのケースに分けて解説します。

ここまで解説の通り、葬儀費用は、喪主の負担を原則としながら、実際には裁判例で、様々な判断がなされています。

喪主(実質的な主宰者)の負担としたケース

まず、原則通り、喪主の負担であると判断したケースです。

生前に葬儀の契約がなく、相続人間の合意もない場合、原則に従って喪主(実質的な主宰者)の負担とする考え方が有力です。裁判例でも次のように判断されました。

東京地裁昭和61年1月28日判決

葬式費用は、特段の事情がない限り、葬式を実施した者が負担するのが相当であるというべきである。(……中略……)すなわち、葬式の主宰者として、葬式を実施する場合、葬儀社等に対し、葬式に関する諸手続を依頼し、これに要する費用を交渉・決定し、かつ、これを負担する意思を表示するのは、右主宰者だからである。

葬儀費用について、その決定や契約に関与しなかった者に負担させるのは相当ではなく、自ら葬儀費用を負担する意思を示した実質的な主宰者、つまり喪主に負担させるべきといったことが理由に挙げられます。この考えによれば、葬儀費用を遺産から払うことはできず、他の相続人に分担を求めたり、集金したりすることはできません。

ただ、一部の相続人のみが葬儀費用を負担する不均衡が問題となります。また、喪主が専業主婦の場合、遺産である夫名義の預金から払えないのでは葬儀費用がそもそも出せないといった問題点もあります(なお、この問題は預貯金の仮払い制度である程度は解消できます)。

生前に葬儀の契約があり、相続債務として遺産に含むとしたケース

葬儀費用は、死後になって生じるのが通例なので遺産に含まないと解説しました。

しかし、例外的に、被相続人が生前に葬儀の契約をしていた場合は、葬儀費用は既に発生しており、相続債務であると判断された例があります。「死者が生前に自已の葬式に関する債務を負担していた等特別な場合は除き、葬式費用をもつて、相続債務とみることは相当ではない」と裁判例でも示されています(東京地裁昭和61年1月28日判決)。 

相続債務は、被相続人が生前に負っていた借金などの債務(マイナスの財産)のことで、遺産に含んで分割されます。相続債務になるならば、各共同相続人はそれぞれ法定相続分に応じて葬儀費用の支払義務を承継することになります。この場合、葬儀費用の負担について次の扱いが許されます。

  • 葬儀費用を遺産から支払う
  • 共同相続人から集金して喪主が支払う
  • 喪主が全額立て替えた後に共同相続人から回収する

葬儀費用が相続債務となるときの負担割合は、法定相続分に応じて当然に分割されますが、遺産分割協議における話し合いで異なる割合を決めることもできます。

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相続人が協議して分担するケース

葬儀費用の負担は、相続人などの関係者が合意して定めるべきと判断した裁判例もあります。

名古屋高裁平成24年3月29日判決

亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担(……略……)するものと解するのが相当である。

合意によって負担者を決める方法なら、法律のルールにとらわれず、親族の状況や人間関係を考慮した柔軟な解決ができます。葬儀費用が遺産ではないにしても、相続人全員が合意するなら、その内容を考慮して遺産分割協議を進めることもできます。

話し合いによって合意に達すれば、葬儀費用のトラブルを抑え、スムーズな相続が実現できます。喪主に資金的な余裕があり、故人との関係でも全額負担するのが当然といえる場合はよいですが、そうでなく他の相続人にも負担させたいなら、合意が取れるよう早めに話し合いをすべきです。

なお、紛争の蒸し返しを防ぐためにも、合意した内容は必ず書面でまとめておくのが重要です。

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相続人が負担すべきその他のケース

葬儀費用は喪主の負担が原則ですが、公平の観点から「相続人が負担すべきだ」とする考え方もあります。相続人が負担すべきと判断した裁判例には、法的な根拠が明らかでないものもありますが、次のように様々な理由が示されています。

  • 相続債務として各共同相続人に当然分割して承継される
  • 相続財産に関する費用である
  • 相続財産に対する先取特権が認められている
  • 葬儀は死者の社会生活の延長もしくは跡始末である

公平の観点から「相続人の負担とすべき」という結論ありきで、理由付けは定まっていないというわけです。1つ目は、前章で紹介した考え方です。2つ目は、葬儀費用が民法885条「相続財産に関する費用」に当たり、相続財産から支弁すべきとする考え方です。

民法885条(相続財産に関する費用)

相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。

民法(e-Gov法令検索)

3つ目は、以下の民法306条と309条1項を根拠とします。しかし、本条文は単に相続財産に対する先取特権を認めただけで、負担者を決める規定ではないとする批判もあります。

民法306条(一般の先取特権)

次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。

一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給

民法309条(葬式費用の先取特権)

1. 葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。

2. 前項の先取特権は、債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。

民法(e-Gov法令検索)

慣習・条理によって決めるケース

最後に、地域や親族間の慣習を考慮して、条理に照らして判断するほかないとした裁判例や学説もあります。葬儀費用の負担が法律上明らかではない以上、事案に応じた妥当な結論を得るための考えとして理解できる一方、家族の形態が多様化した現代において、葬儀について確立された慣習を見出すのは難しく、曖昧な定め方はもめる原因となるのではないか、という反論があります。

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葬儀費用をめぐるトラブルを回避するための進め方

葬儀費用の負担について、トラブルを回避するため、死後の葬儀費用についての進め方を解説します。実際に家族がお亡くなりになったとき、自分が喪主の立場になった方は特に、以下の解説を参考に、慎重に対処するようにしてください。

葬儀の内容や葬儀費用は話し合いで決める

まず、葬儀の内容が豪華だったり、他の相続人の予想よりも高い葬儀費用だったりすると、葬儀費用を分担する話し合いの支障となってしまいます。そのため、葬儀の内容や葬儀費用は、相続人間で協議をして、話し合いながら決めるのがお勧めです。

喪主が負担するのが原則ですが、喪主の一存で決めてしまえば、その後に相続人間で分担してもらうのは困難でしょう。終活の段階で葬儀についての故人の意思が明らかにされており、故人の意向に沿った葬儀を執り行えるのが最もよいです。遺志にしたがったものならば、他の相続人からも文句が出づらく、負担について合意を形成しやすいからです。

負担した葬儀費用の領収書を保管する

葬儀費用について将来争いになる場合に、「何が葬儀費用に含まれるか」「合計額がいくらか」といった前提からして対立のあることも多いです。対立が生じると、証拠がなしには解決困難です。葬儀費用の負担をした場合、その金額を証明できる請求書や領収書を保管しておくことが重要です。

葬儀費用といっても、具体的な費目は様々です。例えば、葬式場の使用料や葬儀社の人件費、飲食代金などがあります。葬儀費用の分担を協議するにも、どのような費用を分担するのかといった範囲を明らかにするのが重要です。納骨などのお墓に関する費用との区別も大切です。

証拠がないと、私的に流用したり、使い込んだりしたのではないかと疑われるおそれもあります。

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費用の透明性と事前説明を重視する

葬儀費用の透明性を確保することが、相続人間の信頼関係を保つ基本となります。

前述した見積書や請求書、領収書といった資料は、相続人間で必ず共有し、どのような費用が発生したかを明確にすべきです。これによって、無用な疑念や不満を防ぐことができます。

また、葬儀費用について事後報告ではなく、事前に説明しながら進めるのがよいです。相続人全員で会議を開き、葬儀の内容や費用について話し合うことが大切です。事前に説明し、合意を得ておけば、トラブルを未然に防げるからです。このとき、遺産相続に詳しい専門家のアドバイスを受ければ、豊富な経験に基づいた客観的な意見を聞けるため、他の相続人にとっても納得感のある解決策を見つけやすくなります。

弁護士に相談しておく

葬儀費用に関するトラブルに直面している場合のほか、将来トラブルを避けたい方も、ぜひとも早めに弁護士にご相談ください。

葬儀費用や相続に関する不安や悩みをまとめて相談できるので、知らないうちに不利になってしまう行動を避けられます。裁判例に基づいて、遺産相続を有利に進めるにはどうすべきか、といったアドバイスを受けられるのも大きなメリットです。

相続問題に強い弁護士の選び方について

葬儀費用を相続財産から支払った場合の相続放棄への影響

多額の借金のあるケースなど、被相続人の遺産を相続したくないとき、相続放棄を選択する場合があります。しかし、相続財産を処分したり、消費してしまったりすると、単純承認をしたものとみなされて、その後は相続放棄をすることができません(法定単純承認)。

この点で、葬儀費用を相続財産から支払ってしまったことが、後に予定していた相続放棄に影響する危険があるため、事前の検討を要します。

なお、国民健康保険の葬祭費、健康保険の埋葬料といった保険料を受け取ったり、香典を葬儀費用や香典返しに充てたりした事情は、私的に流用したわけではないため単純承認には当たりません。また、遺産から葬儀費用や仏壇・墓石の購入代金を支払っても、不相当に高額でない限り法定単純承認とはいえず、相続放棄は可能であると判断した裁判例(大阪高裁平成14年7月3日決定)もあります。

相続放棄の手続きについて

遺産分割と葬儀費用に関するよくある質問

最後に、遺産分割と葬儀費用に関するよくある質問について回答します。

葬儀費用は誰が支払うのが一般的?

葬儀費用は、原則として喪主の負担であり、遺産分割の対象ではありません。

例外的に、生前に既に被相続人が負担していた場合に限って、相続債務として相続人間で分割されます。また、円満に協議ができるならば相続人の負担とすることもできます。裁判例は、相続人が負担すべき理由として様々な事情を示しています。

葬儀費用を故人の預貯金から払ってもよい?

葬儀費用は遺産には含まないのが原則なので、葬儀費用の負担者が決まっていないうちに故人の預貯金から支払ってしまうことには問題があります。

なお、相続人全員の合意があれば、故人の預貯金から支払っても構いません。また、2018年の相続法改正で新設された預貯金の仮払い制度を利用すれば、一定額までは遺産分割前に預金を引き出すことができ、葬儀費用を準備できます。

預貯金の仮払い制度について

遺言がある場合の葬儀費用の扱いは?

遺言のなかに「葬儀費用は遺産から支払う」などと記載がある場合は、原則としてこれに従う必要があります。また、被相続人の意思が遺言によって明確化されることで、残された相続人としてもこれを尊重して合意をしやすくなります。

遺言書の書き方について

葬儀費用は遺留分の計算に影響する?

葬儀費用は喪主が負担すべきという原則的な考え方に従えば、そもそも遺産ではなく、遺留分の計算にも無関係です。

一方で、生前に葬儀会社との契約がある場合に、相続債務に含むとする例外的な考え方に立つと、遺留分の算定においても葬儀費用を考慮する必要があります。

遺留分の基本について

まとめ

今回は、相続における葬儀費用の負担について解説しました。

葬儀費用は、原則として喪主が負担します。遺産分割の対象外であるのが基本なので、遺産分割協議や調停で、他の相続人に葬儀費用の負担を求めるのは容易ではありません。相続人間で分担してもらおうとするなら、相続人全員の合意を得るか、もしくは、裁判で救済してもらうしかありません。

将来争いになる可能性があるので、支払った葬儀費用の領収書や請求書は、必ず保管しておいてください。葬儀費用の負担については、どれほど少額でも感情的な対立になりやすく、相続人の争いが生じやすいため、早めに話し合いをはじめ、弁護士に相談するのが有益です。

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