遺産分割協議とは、家族が亡くなったときに、相続人間で遺産の分割方法について話し合うプロセスです。遺産分割協議が行われるのは、相続財産の分け方に争いのあるケースです。協議が円満かつ迅速に進めば、さほどもめずに遺産を分けられる家庭もあります。
しかし、協議がうまくいかず、決裂した場合には、遺産分割調停や審判といった裁判手続きに進むため、早い段階で弁護士に相談するのがお勧めです。ひとたびこじれると、相続トラブルは骨肉の争いとなり、家族同士で憎しみ合うこととなります。
今回は、遺産分割協議の基本と、準備や進め方についてのポイントを解説します。
遺産分割協議とは
まず、遺産分割協議の意味と、基本的な知識について解説します。
遺産分割協議の定義と目的
遺産分割協議とは、故人が残した遺産を、相続人間で分割するための協議のことです。
遺産分割協議の目的は、遺産を、相続人全員に合意によって公平に分配することにあります。民法に定められた法定相続人のルールはあくまで一般論であり、家族ごとの特殊な事情は加味されていません。それぞれの事情を踏まえ、話し合いにより納得感のある分割をするのがゴールとなります。
遺産分割協議の法的な位置づけ
遺産分割協議は、民法に基づいた相続手続きの一部です。この協議がうまくまとまれば、合意した内容を遺産分割協議書に記します。協議書は、相続人全員の合意を表したもので、この先の相続手続きにおいて法的な効力を有します。
しかし、協議が成立しない場合は、家庭裁判所に申し立てを行い、遺産分割調停、審判といった法的手続きで、分割について裁判所の判断を得ます。
以上のことから遺産分割協議は、相続における争いが激化することをさけ、円滑な遺産の分配を実現するための重要な役割を果たしています。
遺産分割の基本について
遺産分割協議の進め方
次に、遺産分割協議の具体的な進め方を、協議の開始からのプロセスをたどって解説します。
できるだけスムーズに進めることが、協議を成功に導くポイントです。そのためには、事前の準備が欠かせません。
相続人を調査する
遺産分割協議には、全ての相続人が参加する必要があります。というのも、協議の結果として作成される遺産分割協議書には、相続人全員の押印が必要となるからです。まずは戸籍を収集して調査します。被相続人について出生から死亡までの全戸籍を入手するのが基本です。
隠し子や異母兄弟(異父兄弟)といった思いもよらない相続人が判明することもあるので、戸籍調査は専門家に任せて進めるのがお勧めです。
全相続人に相続開始を通知する
調査の結果判明した相続人の全員に、相続開始を通知します。あわせて、日時と場所を決めて協議をする旨を伝えましょう。連絡が行き渡らず、相続人の一部が不参加だと、遺産分割協議そのものが無効となってしまいます。
後からもめたとき、通知を確実に送ったこと証明するために、内容証明によって送付し、証拠に残しておきましょう。遠方に居住する相続人への連絡は早めにするよう心がけてください。
相続割合を決める
相続人が集まり、遺産分割協議が始まったら、相続割合について話し合いをしましょう。このとき、遺言があるかどうかによって、決め方が異なるため、遺言の調査も必要です。
遺言がある場合には、遺言に従って分割するすることを基本に協議を進めます。これに対して、遺言が存在しない場合には、法定相続分の割合に応じて遺産を分割します。法定相続分とは、民法の定める相続財産の分配の割合であり、公平な基準の1つとして活用できます。
なお、協議の前提として、相続財産の調査も必須です。財産に漏れがあると、遺産分割協議が完了せず、重要な一部である場合は無効となるリスクもあります。いずれにせよ再協議を要するので二度手間です。協議の際に、調べた財産を一覧にし、相続財産目録として準備するのが便宜です。
法定相続分の割合について
合意内容を遺産分割協議書に記載する
遺産分割協議における話し合いで、相続人全員が合意したら、その内容を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員の押印をします。合意ができる限り、財産の分け方に制限はありませんが、まとまったら速やかに書面化しないと、言った言わないの水掛け論で、紛争が悪化します。
遺産分割協議書は、公正証書にすることができます。公正証書は債務名義となり、守らない相続人に対して、裁判によらずとも強制執行できる効果(執行力)が生じます。
遺産分割協議書について
遺産の名義変更を行う
最後に、遺産分割協議書が完成したら、これによって遺産の名義変更を行います。銀行などの金融機関で預貯金の手続きを進め、法務局で不動産の名義変更を行います。
遺産の名義変更に期限はありませんが、相続登記をせずに放置すると、後に相続人の気が変わって協力を得られなくなるおそれがあります。合意後、遅滞なく行うべきです。
相続登記の手続きについて
遺産分割協議に必要な書類
遺産分割協議を進めるにあたっては、以下の書類が必要となります。いずれも、協議の際には手元にあったほうがよいため、事前準備として集めておいてください。
- 被相続人の戸籍謄本と除籍謄本など
被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍が、相続人を確定するために必要です。 - 相続人全員の戸籍謄本
相続人全員の戸籍謄本は、法定相続人であることを証明するために必要となります。 - 相続財産目録
故人が残した全ての資産と負債を記載した相続財産目録を作成し、財産を網羅的に把握します。 - 遺言書(存在する場合)
遺言を残していた場合には、それに従って分けることになるので、遺言書が必要書類となります。 - 不動産関連書類(不動産が含まれる場合)
遺産に不動産が含まれる場合は、登記簿謄本、固定資産税評価証明書が必要です。 - 金融機関の口座情報(預貯金が含まれる場合)
遺産に預貯金が含まれる場合は、口座の情報と残高証明書が必要です。
これらの書類を揃えておけば、遺産分割協議をスムーズに進行し、法的な問題を未然に防ぐことができます。
遺産を分割する方法
遺産分割協議をうまく進めるには、遺産を分割する方法についての知識を理解する必要があります。遺産分割の方法には、原則と例外があります。
原則は法定相続分による分割
遺産分割における最も基本的な原則は、法定相続分に従って分けることです。
法定相続分は、法律で定められた相続の割合です。例えば、配偶者(夫または妻)と子供が相続人となる場合には、配偶者が2分の1、残りの2分の1を衣が等分することとなります。
遺言書がある場合
亡くなった方(被相続人)が遺言を残している場合には、遺言書に記載された内容にしたがって遺産を分割します。遺言は、故人の意思を反映を強く反映しているため、遺産分割においても尊重され、法定相続分よりも優先して扱われます。
例外的なケースの取り扱い
遺産分割においては、ここまでの原則論とは異なり、例外的なケースも扱われます。
特に、高額な不動産が共有となっている場合や、家業の事業承継が争点となる場合には、協議が紛糾する可能性が高いです。不動産の分け方については、売却して代金を分割するのか、現物を分割するのか、それとも代償分割とするのかを決めなければなりませんが、いずれにせよ大きなお金が動く可能性があります。
これらの複雑なケースでは、特に弁護士などの専門家の助言が必要となります。
遺産分割協議の課題とその対策
遺産分割協議においては、相続人間の対立がしばしば起こります。相続人間で、遺産に対する期待感には違いがあり、欲の強い人が多いと紛争は避けられません。
また、「公平な分け方」についての考えも、人によって異なります。ある人にとっては均等に分けるのが公平だと感じるケースでも、他の人は「より貢献した自分が多くもらうべきだ」という意見を持っていて、戦わざるを得なくなることがあります。そして、その背景には相続人の関係性も影響してきて、過去に険悪な時期があると、相続をきっかけに更に悪化してしまいます。
このような遺産分割協議の課題を解決するには、まずはしっかりと話し合うことが大切です。建設的な議論とするには、全ての相続人が気兼ねなく意見を述べることのできる環境づくりが大切です。感情的な対立が大きいと予想される場合には、弁護士に同席してもらい議事進行を任せるなどといった工夫も良いでしょう。裁判になってしまう前に、円満に議論を進める努力をします。
遺産分割協議をサポートしてもらうための弁護士を選ぶにあたっては、相続人全員が信頼できると感じる人に依頼するのが最適です。せっかく専門家にまかせても、その人を軽視する相続人がいるのでは役に立ちません。その経験や実績から、相続分野に秀でている人を選ぶのが最も説得力があります。
協議が成立しない場合の解決策
遺産分割協議は、あくまで交渉であり、うまくまとまらないこともあります。相続人間の意見や考えが大きく乖離し、誰も譲歩しなければ、交渉は決裂します。分割協議をすること自体を拒否してくる相続人がいることもあります。
遺産分割協議が不調に終わり、成立しなかった場合の解決策は、次の2つです。
弁護士に代わりに交渉してもらう
遺産分割協議を、当事者のみでまとめるのは非常に大変です。相続についての知識、経験が欠けていることはもとより、相続人間の感情的な対立が、冷静な議論を阻害します。
弁護士に代わりに交渉してもらうことによって、法律知識と経験に基づいて正しい判断を聞くことができます。また、円満に進む可能性の高い協議でも、弁護士に同席してもらうことでリスクを減らすことができます。なお、相続人間で利益相反のあるとき、弁護士は全相続人を代理することはできません。
相続に強い弁護士の選び方について
遺産分割調停を申し立てる
遺産分割による話し合いがうまくいかないとき、中立の第三者の判断を得るしかありません。弁護士に相談しても、弁護士はあくまで1人の相談者の味方であり、中立ではありません。この点で、最終手段として、家庭裁判所の法的手続きを利用することとなります。
具体的には、遺産分割調停を申し立てます。遺産分割調停は、遺産分割について裁判所で調停委員に仲介してもらいながら話し合いをする手続きです。調停でもまとまらない場合は、次に、裁判官が分割方法を決定する遺産分割審判に移行します。
遺産分割調停の流れについて
遺産分割協議に関するよくある質問
最後に、遺産分割協議について、よくある質問に回答します。
遺産分割協議に期限はある?
遺産分割協議には、期限はありません。そのため、いつまでにすべきかという法的なルールはないのです。家族が亡くなると多くの手続きが必要となり多忙ですから、どうしても遅れがちです。
しかし、遺産分割協議の開始が、被相続人の死亡からあまりに時が経過してしまうと、相続財産を把握しづらくなったり、散逸してしまったり、寄与分や特別受益の証明がしづらくなったりと、不都合なことは多く起こります。また、協議の終わらないうちに相続人が死亡すると、二次相続が起こり、問題が複雑化してしまいます。
そのため、期限がないとしても、できるだけ早く遺産分割協議に着手すべきです。なお、相続税の期限は相続開始から10ヶ月とされていますが、遺産分割協議がまとまらずとも、法定相続分にしたがって相続税を申告することができます。
協議成立後に新たな財産が発見されたら?
遺産分割協議の準備が甘いと、協議成立後に新たな財産が発見されてしまうことがあります。入念に準備したつもりでも、被相続人と疎遠だった場合など、全ての財産を探し切るのはとても困難です。
このとき、遺産の一部のみの分割協議しか行わなかったこととなり、新たに発見された財産については分割方法と割合を決めていないことになります。新たに見つかった遺産の扱いは、過去の裁判例によれば次のように判断されています。
- 新たに判明した財産の重要性が低い場合
遺産分割協議は有効であり、新たに判明した財産についてのみ再協議する。 - 新たに判明した財産の重要性が高い場合
遺産分割協議の全体が錯誤によって無効になる。
いずれにせよ、せっかく苦労して意見をまとめたのに、再度の遺産分割協議を行う必要が出てしまいます。この事態を避けるために、新たに遺産が見つかった場合の扱いについて、最初の協議の際にあらかじめ定めておく方法があります。
まとめ
今回は、遺産分割協議の基本の流れと進め方を解説しました。
協議を円滑に進めるには、十分な事前準備が不可欠です。そして、交渉は、相続に関する法務、税務の知識を理解して、戦略的に進めなければなりません。そのためには、弁護士に相談しながら進めるのが有益です。