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相続欠格とは?該当する事由や効果、相続廃除との違いを解説

相続人は、通常、相続分に応じて被相続人の財産を得る権利を有します。しかし、特定の非行や不正行為をした相続人は、相続権を剥奪されます。この制度を「相続欠格」といいます。

相続欠格は、被相続人の意思にかかわらず遺産の承継ができなくなる強力な効果を生じますが、欠格事由にあたるかどうかについて相続人の間でトラブルが起こりがちです。相続欠格を認めてほしい者、逆に、自分が欠格者だとは認めたくない者がいると、遺産分割の前提として判決手続で争わなければなりません。相続欠格となる事由には、その該当性の判断が難しいケースもあります。

今回は、相続欠格の意味、要件や効果、方法などについて解説していきます。

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相続欠格の基本

誰が相続人となるかは、法定相続人のルール(民法887条ないし890条)によって決まりますが、一定の場合には、相続人としての資格が認められないことがあります。その代表例が「相続欠格」(民法891条)です。

相続欠格とは相続権を剥奪する制度

相続欠格とは、一定の事由によって、相続人としての資格がなくなる制度のことをいいます。そして、欠格事由に該当する相続人のことを「相続欠格者」と呼びます。

相続欠格について定めた民法891条の条文は、次の通りです。

民法891条(相続人の欠格事由)

次に掲げる者は、相続人となることができない。

一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

民法(e-Gov法令検索)

具体的な事由は後に詳述しますが、例えば、被相続人の殺害や遺言書の偽造など、いずれも相続制度の基礎を破壊するような重大な非行、不正行為であり、相続欠格は一種の制裁として機能します。

なお、よく誤解のある点ですが、相続欠格の事由に「破産」は含まれません。

相続欠格の法的効果

相続欠格の効果は、相続人の地位を失うことです。欠格事由に該当すると、当然に相続権を失う(民法891条)のであって、効力発生までのプロセスで、裁判上の宣告や特別の意思表示は不要です(当然発生主義)。相続欠格に関する891条は受遺者にも準用されるため(民法965条)、相続欠格者になると、遺贈を受けることもできません。

相続欠格の効力発生のタイミングは、欠格事由が発生した時期によって異なります。

  • 欠格事由が相続開始前に発生したとき
    欠格事由の発生時に効力が生じる
  • 欠格事由が相続開始後に発生したとき
    相続開始時に遡って効力が生じる

また、相続欠格は、特定の被相続人と相続人間に、相対的に発生するものです。そのため「ある人との関係で相続権を失っても、別の人の相続に参加できる」という場合があります。例えば、父を殺害した人は父の相続人にはなれませんが、自分の妻や子の相続人にはなることはできます。

相続欠格による、相続人や被相続人への影響は、次のようにまとめられます。

【相続欠格者が受ける影響】

※ 以上のマイナス面に対して、相続債務を免れられること、生前贈与は否定されないことといった点には注意を要します。

【共同相続人が受ける影響】

  • 相続欠格者に遺産分割する必要がなくなる
  • 相続欠格者は基礎控除の計算における「法定相続人」にカウントしない
    相続税は、遺産総額が、基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)よりも少ない場合は課税されません。

【被相続人と密接な関係があった人が受ける影響】

  • 欠格者のみが相続人だった場合、特別縁故者(958条の2)として財産を受け取れる可能性が生じる

相続欠格と代襲相続

相続欠格者に子や孫がいる場合には、相続欠格によって相続人でなくなった人の子や孫には代襲相続が発生します(887条2項・3項、889条2項)。これにより、相続欠格者の相続分や遺留分を引き継ぎます。

また、相続欠格者の被相続人に対する寄与分も、代襲相続人が自己の寄与分として請求することができますできる(東京高裁平成元年12月28日決定、横浜家裁平成6年7月27日審判)。

代襲相続の手続きについて

相続欠格と相続廃除の違い

相続欠格と似て非なる制度に、相続廃除という制度があります。相続欠格と相続廃除の違いを解説します。相続廃除は、一定の事由があったときに被相続人の意思によって相続権を奪うものであり、相続から除外するという効果は相続欠格と共通しますが、以下の点が異なります。

スクロールできます
相続欠格相続廃除
被相続人の意思無関係遺言又は家庭裁判所への申立
遺贈受けられない受けられる
取消しの制度なしあり(民法894条)

相続廃除の手続きについて

相続欠格に該当する事由

相続欠格の対象となるケースは、民法891条に列挙されています。

相続欠格の事由があるかどうかは、争いがある場合には裁判所が判断しますが、その前提として遺産分割時にはもめ事の種となるので、相続人としてもよく理解しておく必要があります。

故意に被相続人や相続人を害した場合

一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

例えば、被相続人の子Aが、被相続人、その配偶者、あるいはA自身の兄弟姉妹を意図的に殺したり、未遂に終わったりして、刑に処せられた場合です。

「死亡するに至らせ」とは殺害したことで、具体的には殺人(刑法199条)に該当することが必要です。「故意に」なので、過失致死や傷害致死では欠格にはなりません(大審院大正11年9月25日判決)が、「至らせようとした」場合、つまり殺人未遂も欠格事由となります。

「刑に処せられた」こと、つまり、実刑に処せられることが必要で(最高裁昭和28年6月10日判決)、証拠不十分で無罪になった場合や正当防衛、緊急避難の場合は欠格になりません。少年保護処分についても「刑」に含まれません。執行猶予の言渡しがあった場合、猶予期間が経過すると刑の言渡しの効力は失われ(刑法27条)、その後は欠格事由ではなくなります。

被相続人の殺害を告訴・告発しなかった場合

二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

被相続人が殺害されたとき、その事実を知っているのに、犯人を告訴、告発しなかった場合は相続欠格の事由に該当します。被相続人の殺害を告訴、告発するのが相続人として当然のことで、これを怠り、犯罪の発覚を妨げたり、遅延させたりしたことには制裁があるわけです。なお、現在では、告訴や告発なくして操作が開始されることが多く、犯罪が発覚して捜査機関が動き出した場合には、告訴、告発していなくても欠格事由にはあたらないとされています。

ただし、是非の弁別がないとき、つまり判断能力に欠けているときと、殺害者が自分の配偶者や直系血族であったときには、例外的に、告訴、告発しなかったとしても相続欠格にはあたりません。

詐欺や強迫によって遺言を妨げた場合

三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

遺言に関する妨害や、遺言書への偽造、変造といった行為も、相続欠格になります。ただし、相続欠格の対象となる遺言は「相続に関する」ものに限られ、相続財産や相続人の範囲に影響を与える遺言に限られています。例えば、次のような遺言がこれに該当します。

  • 相続分の指定
  • 遺産分割方法の指定
  • 相続分に影響を及ぼす認知
  • 遺産の範囲に影響を及ぼす遺贈など

また、自分に有利な遺言を作らせるように脅したり、騙したりすることもまた、相続欠格の事由になります。なお、詐欺や強迫があっても、被相続人がそれにしたがった遺言行為をしなかったときには、この事由には該当しません。また、詐欺や強迫によってされた遺言は、後に取り消される可能性があります(民法96条)が、この場合でも相続欠格にはなると考えられています。

遺言書に対する違法な行為をした場合

五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

遺言書に対する違法な行為としては、自身に有利な遺言を偽造したり、不利な内容のものを破棄したり、預かった遺言書を隠したりといったケースが典型例です。

  • 偽造
    相続人が、被相続人名義で遺言書を作成すること。
  • 変造
    相続人が被相続人により作成された遺言書に加除訂正その他の変更を加えること。
  • 破棄
    遺言の効力を失わせる全ての行為。
  • 隠匿
    遺言書の発見を妨げる全ての行為。ただし、自己に有利な遺言書の破棄や隠匿は、同号に該当せず、破棄や隠匿の故意のほかに、不当な利益を得る目的(二重の故意)がさらに必要とされる(最高裁平成9年1月28日判決)。

遺言書が勝手に作成された場合について

相続欠格の手続きの流れと必要な準備

次に、相続欠格の手続きについて解説します。

相続欠格があるとしても、手続きが必要なのか、必要だとしてどのような手続きが必要なのか、疑問に思うことがあります。

基本的に手続きは必要ない

相続欠格を発生させるためには、特別な手続きは不要です。相続廃除とは異なり、被相続人の意思も、家庭裁判所への申立も必要ありません。

ただし、相続欠格であるかどうかが争いになる場合には、法的な手続きによって戦う必要があります。相続欠格者を除いて進められた遺産分割協議の効力を争う場合などは、その遺産分割の前提問題となるため、遺産分割手続内では争えません。相続欠格の争いには、別途の判決手続(相続権もしくは相続分不存在確認訴訟、遺言無効確認訴訟など)を起こす必要があります。

判決手続は、相続人全員が当事者となる必要があります(最高裁平成16年7月6日判決)。

相続登記の申請時には相続欠格を証明する必要がある

共同相続人に相続欠格者がいる場合、相続登記の申請をするには、相続欠格証明書または確定判決の謄本を提出する必要があります。相続欠格証明書とは、欠格者が自ら作成した「欠格事由がある」旨の証明書であり、印鑑証明書を添付する必要があります。

これらの必要書類があれば、相続欠格者を除外し、残りの相続人のみで相続登記を申請できます。なお、代襲者の有無を確認するため、欠格者の出生から被相続人の死亡までの戸籍なども必要となります。

相続登記の手続きについて

相続欠格で相続人不存在になるときの手続き

相続欠格をきっかけとして、相続人不存在が確定すると、「特別縁故者」(例:被相続人と内縁関係にあった者など)が相続財産の全部または一部を取得できる可能性があります(958条の2第1項)。特別縁故故者とは、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」です。

特別縁故者かどうかは、親族関係の有無によって決まるわけではありません。内縁の配偶者のほかに、事実上の養子などが典型例です。審判例では、被相続人の友人や付添看護師、勤務先の代表取締役などにも認められたケースがあります。特別縁故者として財産の分与を請求したい場合には、家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任審判申立てをしてください。

特別縁故者の要件について

相続欠格のよくあるトラブル事例

相続欠格が判明するのは、必ずしも遺産分割前であるとは限りません。気づいたときには既に欠格者のもとに財産があるケースもあります。このときに、相続欠格のよくあるトラブルを解説します。状況に応じた注意点も合わせて説明します。

遺産分割後に相続欠格に気づいた

相続欠格事由であることが明らかにならないまま、遺産分割がなされてしまうケースがあります。この場合でも、欠格事由が存在する以上、相続人にはなれません。そのため、真の相続人としては、相続欠格者に対して、占有されている物の返還や不当利得の返還を請求する必要があります。

こうした請求は、相続回復請求権(民法884条)によって行いますが、5年の短期消滅時効が存在するため、気付いたら速やかに専門家に相談するのが望ましいです。

相続欠格者によって第三者に遺産が譲渡された

相続欠格者によって、他人に財産を譲渡されてしまうトラブルもあります。

このとき、相続欠格の効果は、第三者に対しても及びます。したがって、相続欠格者から遺産を譲り受けた第三者は、即時取得(民法192条)などの保護を受けない限り、その財産を正当に取得することはできず、真正な相続人からの明け渡し請求などが可能です。

相続欠格だといわれたら?

多くの財産が移動する相続のタイミングは、相続人の間で争いが絶えません。

ここまで相続欠格について説明してきましたが、逆に、事実無根であるにもかかわらず、相続欠格者だと言われてしまうこともあるでしょう。相続権が剥奪されてしまえば、不利益を被ることが多いですから、簡単に認めず相続権があると主張していかねばなりません。

一度相続欠格が確定すると回復は難しい

一度相続欠格になってしまうと、相続人としての地位を回復することは困難です。相続廃除には取消し(894条)という制度がありますが、相続欠格には同様の制度は用意されていないからです。

もっとも、特段の規定はないものの、相続欠格者が相続人から許されれば(これを宥恕といいます)、相続資格を回復できるとする見解もあり有力です。実際、裁判においても、兄が同順位の弟を殺害して服役した事案につき、父が兄を宥恕したと認定して、兄に父の相続を認めた事案があります(広島家裁呉市部平成22年10月5日審判)。

とはいえ、これを否定する見解も根強いため、宥恕さえ取り付けられれば確実に相続人の地位を回復できると考えることはできません。

相続欠格者であるとは認めず争う

こうした事情があるため、共同相続人から相続欠格者であるといわれても、事実と異なるなら容易に認めてはなりません。

裁判では証拠の有無が勝敗の決め手になりますため、相続欠格事由に該当しない事実を示す証拠を収集してください。なお、不当な利益を得る目的がないという事実は、相続欠格者でないと主張する側で主張し立証しなければなりません。

有効な主張を組み立てるには、法律の専門的な知識が必要です。一人で無理をせず、まず弁護士に相談してください。

相続に強い弁護士の選び方について

相続欠格に関する裁判例

相続欠格で特に争いになる、遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿の該当性について、裁判例を紹介します。

最高裁平成6年12月16日判決

相続人の一人が、被相続人から公正証書遺言の正本を託されたものの、一部の相続人に遺言書の存在と内容を告げぬまま遺産分割協議を成立させた。裁判所は、他の相続人には遺言書の存在を知っている者がおり、また遺言執行者もいたなどの理由から「隠匿」に該当しないと判断した。

大阪高裁昭和61年1月14日判決

相続人の一人が、公正証書遺言書の存在を他の相続人に公表しなかった。裁判所は、原本が公証人役場に保管され、遺言執行者も指定されていたため、相続人の一人が遺言書の存在を他の相続人に公表しないからといって、遺言書の発見を妨げる行為には該当せず、相続欠格とはならないと判断した。

最高裁昭和56年4月3日判決

被相続人の死後、その妻が、遺言公正証書が入った封筒のなかから、この書面の内容を訂正する趣旨の自筆遺言証書を発見。この証書には被相続人の捺印・訂正印・契印がなかったため、妻がこれを補充したが、他の共同相続人にとって不利な内容だったため争いに発展した。

裁判所は、被相続人の意思を実現するためという目的であり、かつ、その法形式を整える趣旨であるなら、偽造や変造に当たらないとするのが相当であると判断した。

まとめ

今回は、相続欠格について、解説しました。

相続欠格は、特定の犯罪や不正をした相続人の地位を剥奪する制度です。相続欠格者は遺産を取得することができなくなり、遺贈を受けることもできなくなります。相続廃除と似た機能があります、違いをよく理解する必要があります。

相続欠格はより公益的な観点から相続権を否定するもので、特別な手続きを要しませんが、遺産分割の際に相続欠格に該当しうる人がいると、必ず争いになります。相続欠格の疑いがある方のいる相続、逆に自分が欠格者だと言われてしまった場合などは、ぜひ弁護士に相談ください。

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