遺産を相続する割合のことを「相続分」といいます。そして、相続分には、指定相続分と法定相続分とがあります。
今回は、この2つの違いと、指定相続分があるときの相続手続きについて解説します。
指定相続分とは
指定相続分とは、亡くなった方(被相続人)が、遺言によって遺産の分け方を指定した場合の、その指定された相続分のことです。相続財産の分け方は、遺言によって自由に決められますが、遺留分に注意しなければなりません。
指定相続分について、民法の条文は次の通りです。
民法908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
1. 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
(……2〜5項目、略……)
民法(e-Gov法令検索)
故人の意思が反映された遺産分割を実現するため、指定相続分は、民法に定める法定相続分よりも優先して適用されます。被相続人は自由に相続分を指定できますが、指定相続分が、遺留分を侵害する場合には、遺留分侵害額請求に関する争いが起こります。
相続分の指定の方法について
指定相続分と法定相続分の違い
法定相続分は、民法の定める、法定相続人に認められた相続割合です。指定相続分とは異なり、法律で明確なルールがあります。
被相続人が、遺産の分け方について遺言を残さなかった場合は、法定相続分を基準に、遺産分割協議によって決めます。
ただし、遺言による指定相続分がない場合でも、生前贈与や遺贈などで利益を得たことを考慮する「特別受益」、生前に相続財産の維持・増加に貢献したことを考慮する「寄与分」などによる調整が検討される場合には、法定相続分通りの分け方にはならないケースがあります。
法定相続分の割合について
相続分を指定する方法と注意点
指定相続分は、遺言によって指定された相続分だと解説しました。そこで次に、相続分を指定する方法について解説します。相続分の指定は、遺言によって行います。具体的には、共同相続人の全部または一部の人を特定し、その人に相続させる割合を定めることによります。
相続分を指定する遺言の注意点は、次の通りです。
多義的な遺言は避ける
指定相続分を判断するときに、遺言の内容が不明確だったり、曖昧で色々な意味に読めてしまうと、どのような指定がされたか判断できず、争いのもとです。そのため、多義的な遺言は避けなければなりません。
例えば、次のような遺言は、指定相続分が遺言書だけから明らかでなく、解釈をしなければならなくなってしまいます。
- 遺産の一部について言及がない
- 相続人の一部が漏れている
- 故人の気持ちは書いてあるが、どう分けるかは書いていない
特に、遺言を自身のみで作成する、自筆証書遺言の場合に起こりやすい問題点です。
遺留分を侵害しない
遺留分を侵害するような指定をすると、これによって利益を侵害される相続人は、遺留分侵害額請求権を行使して、遺留分に足らない金額を請求することとなります。事前に納得のいく話し合いがあったり、生前に指定相続分を伝えたりしていないと、遺留分を侵害するような指定相続分は、相続トラブルの根本的原因となります。
なお、遺留分は必ず得られるわけではなく、あくまで侵害された人の請求が必要であり、請求がなければ指定相続分が有効となります。
遺留分の基本について
指定を第三者に委託できる
指定相続分を定めるとき、その指定は第三者に委託できます。第三者に委託するときもまた、遺言によってその意思を明らかにして行います。例えば、「相続財産の分割割合は、相続人Aに一任する」といった遺言書です。
指定相続分に基づく相続手続き
遺言によって、指定相続分が定められたときはは、法定相続分のみに基づいて遺産分割を行う場合と比較して、さまざまな手続き上の注意があります。
そこで、指定相続分に基づく、相続開始後の相続手続きについて、弁護士が解説します。
遺言書の検認
自筆証書遺言、秘密証書遺言などによって相続分が指定されたときは、遺言書を発見したら、遺言者の死亡後に遅滞なく、家庭裁判所に提出し、検認手続きを行う必要があります。検認では、出席した相続人などの面前で、遺言書を開封し、確認します。
検認は、遺言の存在と内容を明らかにすると共に、利害関係ある相続人による遺言書の隠匿、偽造、変造を避けることが目的です。
遺言書の検認について
遺産分割協議
相続分が指定されたとき、指定相続分が法定相続分に優先することを解説しましたが、指定相続分だけで具体的に相続財産の分け方がすべて決まるわけではありません。
相続財産を分ける割合が決まったとしても、具体的にどの財産が誰のものとなるか決まったわけではないからです。このような遺産分割の詳細を最終的に決定するためには、遺産分割協議が必要です。
特に、指定相続分が存在する場合には、その分だけ、法定相続分よりも相続できる財産が減ってしまう人がいることとなりますので、遺産分割協議は紛糾しやすいといえます。
遺産分割協議の進め方について
指定相続分に基づく登記手続
遺産分割協議を行う前に、指定相続分にしたがって共同相続登記(相続人の共有であることを登記すること)をすることができます。この場合、指定相続分に基づいた共有の登記を行った後、遺産分割協議を行い、「遺産分割」を原因として、不動産を取得した相続人への所有権移転登記を行います。
また、遺産分割が終了するまで、指定相続分に基づく登記を行わず、協議が終了後に、その不動産を取得した相続人に対して直接、相続登記をすることもできます。
相続登記の手続きについて
指定相続分に基づく相続債務の承継
相続財産に、マイナスの財産(相続債務)がある場合、金銭債務は当然に分割され、遺産分割の対象とはなりません。相続財産についても適用されるような相続分の指定があった場合には、相続人間では、その債務は指定相続分にしたがって負担することになります。
この場合、相続人以外の者(債権者)から、相続債務が法定相続分に応じて請求された場合には、支払った相続人が、指定相続分にもとづく相続人間の求償請求をすることが考えられます。
まとめ
今回は、指定相続分とはどのようなものか、法定相続分の違いや、指定があった場合の遺産分割の方法、手続きについて解説しました。
指定相続分があるということは遺言が存在するので、遺言によって、法定相続分とは異なる分け方をすることになります。得する相続人、損する相続人が出現し、争いになりやすい場面なので注意して進めてください。