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遺留分侵害額請求とは?手続きの流れと注意点をわかりやすく解説

遺留分侵害額請求は、相続が発生した際に、法定相続人がその遺留分(法律の保障する最低限の相続分)を侵害されたケースで行使できる重要な手続きです。しかし、多くの人にとって、このプロセスは複雑で分かりにくいものです。

今回は、遺留分侵害額請求の基本と、実際の手続きの流れ、注意点を解説します。公平な相続を実現するために、自分の権利が侵害されたときの救済を理解してください。また、被相続人側でも、後世に争いが残らないよう、遺留分侵害額請求が起こらない工夫を、遺言などの時点ですべきです。

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遺留分侵害額請求とは

遺留分侵害額請求は、相続法に基づく重要な権利行使の一つです。

この考え方を正しく理解するには、まずは遺留分の基本と、それを回復する必要性について知らなければなりません。

遺留分の基本

遺留分とは、亡くなった方(被相続人)の法定相続人に与えられた、法律の保証する最低限度の相続分を受け取る権利のことです。

具体的には、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)に権利が与えられており、法定相続分に対して遺留分率をかけた一定の割合が保障されています。これによって、不公平な遺言や生前贈与から、相続人を経済的に保護するのが目的です。

なお、遺留分侵害額請求は、従来は「遺留分減殺請求」と呼ばれていましたが、2018年の相続法改正において金銭請求であることを明らかにするために改称されました。

遺留分の基本について

なぜ遺留分侵害額請求が必要なのか

遺留分侵害額請求が必要となるのは、故人の遺言や生前贈与など、一部の相続人にとって有利な扱いが、その他の相続人の権利を侵害することがあるからです。例えば、遺言で「全財産を1人の相続人に贈与する」と定めるケースが典型例です。

この状況では、法定相続人は、遺留分侵害額請求を行うことで、法律に基づいた自身の権利を主張し、保護されるべき最低限の遺産を取り戻さなければなりません。

遺留分侵害額請求の手続きの流れ

遺留分侵害額請求の手続きは、相続人が自らの権利を守る重要なプロセスですが、法的な手続きを含む難しい流れです。遺留分の計算から始まり、侵害額の確認、請求書を作成して交渉し、最終的には裁判所における訴訟へと進みます。

STEP

遺留分を計算する

まず、自分が法定相続人に当たるなら、遺留分を計算し、自分の取得した財産と比較して、それが侵害されているか、侵害額がいくらかを確認します。

STEP

侵害した相手を確認する

相続によって取得した額が遺留分より少なく、権利侵害が明らかになったら、逆に遺言や生前贈与によって得をしている人を明らかにし、遺留分侵害額請求の相手を定めます。

STEP

遺留分侵害額請求の通知書を送付し、交渉する

遺留分侵害額請求についての交渉の開始は、内容証明の方法で通知書を送ることによって開始します。遺留分侵害額請求の通知書には、次の事項を記載してください。

  • 遺留分の計算結果
  • 侵害額とその根拠

これにより、請求の意思を証拠に残すことができます。交渉の末に合意に至れば、その結果を合意書などにまとめ、侵害額の支払いを受けます。

STEP

調停を申し立てる

遺留分侵害額請求では、調停前置のルールがとられており、訴訟を起こす前には調停をする必要があります。調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所もしくは当事者間で合意した家庭裁判所へ「遺留分侵害額の請求調停の申立書(裁判所HP)」を提出して行います。申立時は、収入印紙1200円と、連絡用の郵便切手を納付します。

STEP

訴訟を申し立てる

調停でもまとまらない場合には、最終手段として遺留分侵害額請求訴訟を提起します。訴訟は、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所(訴額に応じて140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所)が管轄します。

訴訟では、両者の主張と証拠を審理した上で、裁判所が最終的な判断を下します。

遺留分侵害額請求の手続きは複雑で時間がかかる場合があります。話し合いで終わるならよいでしょうが、大きな金額が動く場合に、相手方も徹底して反論してくるケースも多いです。訴訟に発展することが予想される難しいケースでは、弁護士による法的支援を受けるのが円滑です。

遺留分侵害額請求における注意点

次に、遺留分侵害額請求を進める場合の注意点について解説します。

遺留分侵害額請求には期限がある

遺留分侵害額請求を行うことのできる期間は、法律で定められています。この期限を過ぎると、たとえ遺留分に侵害があったとしても、もはや権利を行使することができなくなってしまいます。

遺留分侵害額請求の期限は、民法において次の2つが定められています。

  • 相続開始を知った時から1年(時効)
  • 相続開始の時から10年(除斥期間)

これら期限内に必ず請求する必要があり、後から争いになったときに備え、内容証明で請求の意思表示をしたことを証拠化して進めるべきです。期限が迫ってきた場合は、遺留分や侵害額の計算などはさておいて、まずは請求の意思表示のみしておきましょう。

遺留分侵害額請求の期限について

必要書類とその準備

遺留分侵害額請求を行うにあたっては、以下の必要書類を収集しておく必要があります。

  • 被相続人の死亡を証明する資料
    死亡証明書、除籍など
  • 相続関係を証明する資料
    相続人、被相続人の戸籍謄本、相続関係説明図など
  • 遺留分侵害を証明する資料
    遺言書、生前贈与契約書など
  • 遺産を証明する資料
    不動産登記簿謄本、預貯金の通帳、有価証券の明細、相続財産目録など

これらの書類は、遺留分の計算や侵害額の確定、請求の根拠となるため、事前に準備し、必要に応じて正確な評価を行うことが重要です。

相続に必要な戸籍の集め方について

受け取った遺留分には相続税がかかる

遺留分侵害額請求によって受け取った金額には、相続税がかかる場合があります。相続税は、基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える額に対してかかり、課税される場合には相続開始から10ヶ月以内に申告、納付する必要があります。

逆に、遺留分侵害額請求をされ、支払いをした結果、取得した遺産が基礎控除を超えない額となった場合には、既に納付していた相続税について更正の請求をすることができます。

遺留分侵害額請求は弁護士に相談すべき

本解説の通り、難しい知識を含む遺留分侵害額請求は、弁護士のサポートを受けて進めるべきです。まずは弁護士に法律相談し、アドバイスを受けるようにしてください。

弁護士に相談するメリット

遺留分侵害額請求について弁護士に相談するのには、次の通り多くのメリットがあります。

法律に基づく正当な権利を確保できる

遺留分侵害請求の際には複雑な手続き、計算が必要です。誤りがあると、せっかく法律で保障された権利を、十分に守れなくなってしまいます。弁護士なら、依頼者の利益を守るため、その法的知識を生かすことができます。

書面作成の手間や労力がかからない

遺留分侵害額請求では、内容証明による通知書、調停申立書、訴状などの多くの書面作成が必要ですが、弁護士なら、面倒な作業は全て任せられるので手間や労力がかかりません。間違っても時効を過ぎてしまうようなことはありません。

法的な手続きを有利に進められる

調停や訴訟に発展するケースでは、遺留分侵害額請求の争いが特に激化した例といえます。このとき、裁判所を利用した手続きに慣れ、豊富な経験を有する弁護士のサポートが役立ちます。

精神的なストレスが軽減できる

争続となったとき、親戚や家族といえど、もはや相手の顔も見たくないでしょう。弁護士に依頼すれば、代理人として窓口となり、直接対面したり交渉したりする苦労はなくなります。ストレスの軽減となるのはもちろん、感情的な対立を緩和して、結果として解決を早める助けとなります。

遺留分侵害額請求は、残された遺族の生活保障としての意味合いがあります。被相続人の扶養を受けていた家族などは、速やかに解決しなければ生活が立ち行かなくなる危険もあり、弁護士への依頼のメリットは非常に大きいです。

相続に強い弁護士の選び方について

遺留分侵害額請求にかかる弁護士費用

遺留分侵害額請求を弁護士に相談するとき、かかる弁護士費用について解説します。なお、初回の相談料は無料ないし低額のところが多いので、まずは弁護士に相談し、アドバイスを求めてから、その後に依頼するかどうかを決めるようにしましょう。

遺留分侵害額請求は、金銭請求であり、次のように旧日弁連報酬基準によって定める例が多いです。

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請求額着手金報酬金
300万円以下請求額の8%請求額の16%
300万円を超え3,000万円以下請求額の5%+9万円請求額の10%+18万円
3,000万円を超え3億円以下請求額の3%+69万円請求額の6%+138万円
3億円を超える場合請求額の2%+369万円請求額の4%+738万円

着手金とは、事件の最初にかかる費用、報酬金とは解決時にかかる費用です。その他に、ケースに応じて手数料や日当、実費がかかることがあります。

まとめ

今回は、遺留分侵害額請求の基本から、手続きの流れ、必要な注意点について解説しました。遺留分侵害額請求は、故人の遺言や生前贈与で、自身の権利が侵害された方にとって、自らの権利を守るのに重要な手続きです。

遺留分侵害額請求には期限(相続開始を知った時から1年、相続開始の時から10年)があるため、速やかに進める必要があります。一方、遺産を正確に評価し、計算に誤りのないようにするなど慎重さも求められます。スピーディに進めるには、弁護士など専門家の関与は必須だといえます。

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