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相続法改正のポイントは?変更されたルールと注意点をわかりやすく解説

2018年7月に、相続法を大きく改正されました。この改正は、相続分野においては昭和55年以来、40年ぶりの大改正です。配偶者居住権の創設や、自筆証書遺言に付する目録が手書きでなくてもよくなるなど、相続に絡む全ての人にとって身近な影響のある改正点が多く、実態にそぐわずトラブルの種となっていた部分も、社会情勢に合わせて変更されています。

ただ、相続法改正を正確に理解するには、法律の専門知識が必要です。改正点は多岐に渡り、施行日もまちまちで、どのような変更があるのか、全体像を把握しておかないと対応に苦慮するでしょう。

可決された法律の正式名称は「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」「法務局における遺言書の保管等に関する法律」というもの。

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相続法改正とは

2018年7月に相続に関する法律が大幅に改正されました。

成立した法律の正式名称は「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」「法務局における遺言書の保管等に関する法律」の2つ。その名の通り、相続についてのルールを定める民法、家事事件手続法という重要な法律が、大きく変更されました。

まずは、この重要な相続法改正について、基本的な法律知識を解説します。

改正の理由

相続法とは、家族が亡くなったときに、その遺産を、誰が、どのように分けるのか、といったことを定めている法律のルールです。主に民法に定められていますが、家事事件手続法などその他の法律にも留意しておくべき定めがあります。

この相続法は、1980年に改正されて以降、見直しがされてきませんでした。その間40年も経過し、社会の状況は変化し、法律の定めが実態に合わず、不都合が生じるケースが出てきました。特に、少子高齢化の進行に伴い、晩婚化や未婚化、シングル世帯の増加など、昔はなかった家族形態が増加し、これにあわせて法律も変化を求められていました。

このような社会経済情勢の変化が、2018年の相続法改正の主な理由となっています。

改正された項目と施行日

2018年7月に成立した相続法改正について、その施行日が改正項目によって異なる点にはくれぐれも注意が必要です。改正法施行のスケジュールは、次の通りです。

なお、相続法改正については法務省のパンフレットもご覧ください。

相続法改正で変更された点

次に、相続法改正で変更された点について詳しく解説します。

配偶者居住権の新設

高齢化が進み、被相続人はもとより相続人も高齢なケースが増えました。互いに高齢であるほど、同居する夫婦の一方が死亡したとき、残された他方の住む場所が奪われる不都合が生じます。この防止策として、相続法改正において2種類の配偶者居住権が新設されました。

配偶者居住権

配偶者居住権とは、相続開始時に夫婦で居住していた被相続人名義の建物について、終身又は一定期間、残された夫婦に使用と収益を認める権利です。

高齢ながらパートナーに先立たれた方の居住権の確保を目的とします。配偶者居住権の活用によって、遺産分割の選択肢は広がります。従来なら住む場所の確保のために自宅の相続に固執する必要があったケースも、配偶者居住権を得れば、自宅を子に相続させたとしても残された配偶者がその家で暮らし続けることができます。

配偶者短期居住権

配偶者短期居住権とは、配偶者が被相続人とともに無償で住んでいた自宅に、相続開始後、少なくとも6ヶ月という短い期間に限り、居住し続けることを認める権利です。

配偶者居住権について

遺産分割の見直し

相続人間の財産の分配を決めるのが遺産分割協議ですが、話し合いがまとまらないと遺産分割調停、審判に発展して長期化します。相続法改正では、協議がまとまらない原因となっていた実態にそぐわない不都合について修正を試みています。

持戻し免除の意思表示の推定

生前に特別受益を受けた相続人がいるとき、持戻し計算が行われますが、被相続人が持戻しを免除すればもらった財産を返す必要はなく、有利に相続できます(持戻し免除の意思表示)。

相続法改正によって新設された持戻し免除の意思表示の推定は、一定の条件を満たす場合に、持戻し免除の意思表示があったものと推定するルールです。これにより、故人の生前の意思を尊重しやすくなります。本改正における推定規定が適用されるのは、婚姻生活の長い夫婦間での自宅の贈与についてのものであり、具体的には次の条件があります。

  • 婚姻期間が20年以上
  • 居住用不動産の遺贈(遺言による贈与)もしくは生前贈与

遺産分割前の預貯金の払戻し(仮払い)

遺産に預貯金が含まれるとき、遺産分割が終わるまで口座が凍結されて引き出せず、死亡後緊急の出費ができなくなる不都合がありました。相続法改正により、預貯金の仮払い制度が導入され、一定の要件を満たす場合には、遺産分割前でも預貯金を払い戻すことができるようになりました。

具体的には、家庭裁判所の判断によって払戻しを受けられる要件が緩和され、かつ、各金融機関ごと150万円までの金額については裁判所の判断なしに単独で払い戻せるようになりました。

遺産分割前に仮に払戻してもらえる金額は、次の通りです。

  • 家庭裁判所の審判を得た場合
    家庭裁判所が仮取得を認めた金額
  • 家庭裁判所の判断を経ない場合
    相続開始時の預金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分
    (ただし、同一金融機関からの払戻しは150万円が上限)

遺言書の見直し

遺言の制度についても、従来、手軽でありながらデメリットが多く使いづらかった自筆証書遺言に、以下の2点の改正があります。

自筆証書遺言の要件の緩和

改正前は、自筆証書遺言書は全て手書きで作成しなければならず、遵守しなければ死亡後に遺言が無効であると判断されてしまうリスクがありました。また、健康状態の悪化などで手書きが困難な場合、自筆証書遺言のメリットを活かせませんでした。

相続法改正によって、自筆証書遺言でも、署名押印など一定の要件を満たせば、添付する相続財産目録については自署でなくてもよく、パソコンや代筆でも足りることとなりました。

自筆証書遺言の法務局における保管制度

「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が制定され、自筆証書遺言を法務局で保管できる制度が始まりました。これまで自筆証書遺言は保管に難があり、紛失のリスクがあった点が改善されます。

自筆証書遺言の書き方について

遺留分制度の見直し

遺留分は、被相続人の意思の尊重と、相続人の生活保障のバランスをとるため、最低限保証された相続分です。遺言や生前贈与によっても、遺留分は侵害することができません。

改正前は、遺留分を侵害された相続人の請求は、その侵害した財産の移転そのものを対象としていました。これにより、遺留分を侵害する不公平な財産移転があったときでも、それを取り消して財産を移転し直すのが困難なケースでは不都合が生じていました(対象が不動産のように動かしづらいものだったり、事業のように後継者に承継すべきものだったりする場合など)。

相続法改正で、遺留分を侵害された相続人が請求できるのは、その侵害された額に相当する金銭となりました。これにより、遺留分を侵害する遺言、贈与で利益を受けた人も、金銭を払えば、取得したかった財産を手に入れることができ、故人の意思をより尊重できるようになりました。

この改正に伴い、従来「遺留分減殺請求権」と呼ばれていた権利は「遺留分侵害額請求権」と改称され、名称からも金銭請求であることがわかりやすくなりました。

遺留分の基本について

相続人以外の貢献への配慮

改正前は、相続人以外の人が、被相続人の看護や介護をしていた場合にも、その貢献に報いるための制度が十分に整っていませんでした。相続人であれば寄与分を主張できる場面でも、相続人でないとその貢献分を評価し、遺産を取得することは、遺言を残すなどしない限り難しかったのです。

相続法改正によって、特別寄与料の制度が新設されました。これによって、亡くなった方の親族であれば、無償で療養看護をしていたなどの一定の要件を満たす場合に、相続人に対して金銭請求をすることができるようになりました。

特別寄与料について

まとめ

今回は、2018年7月に成立した相続法改正について解説しました。40年ぶりの大改正ということもあり、社会情勢の変更にあわせて法的なルールが大きく変わっています。

特に、被相続人と生計をともにしていた配偶者や、療養看護に貢献した親族などといった親族を保護する改正に重点がおかれ、昨今の高齢化社会に対応した改正内容となっています。この法改正は、相続法の大幅な変更となり、相続を受ける全ての人に影響する、大変身近で重要なものです。

「知らずに損した」ということのないよう、法改正の知識をキャッチアップし、不安のあるときは弁護士に相談ください。

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