相続というプロセスにおいて、法定相続人が財産を承継するのが原則的なルールとなります。法定相続人は、民法に定められた遺産を承継できる人のことで、そこには「範囲」と「順位」に関する明確な決まりがあります。
法定相続人の考え方は、相続が発生したときにはもちろん、生前対策においても、知らずには済ませられません。特に、遺留分を有する法定相続人を無視し、不公平な分割を推し進めると、争続を招き収拾がつかなくなってしまいます。とはいえ、法定相続人に関する法律の定めは非常に複雑で、ケースに応じて正しく理解しなければなりません。相続する人が多い場面では注意を要します。
今回は、法定相続人の基本と、範囲及び順位について解説します。
法定相続人の基本
まず、法定相続人の基本的な法律知識を解説します。
家族が亡くなると相続が発生しますが、その際に、遺産を受け継ぐ権利を持つのが法定相続人であり、相続の問題を検討する際には真っ先に理解しておかなければなりません。
法定相続人とは
法定相続人とは、民法の定める相続権を有する人のことです。亡くなった人に関係性の深い順に、配偶者、子供、両親、兄弟姉妹といった一定の順序に基づいて決められています。この順序は、法律の定める関係性の深さや、相続をさせるべき必要性など、公平な相続の観点から民法に定められています。
遺言が存在しない場合には、法定相続人に対して、法律に定められた割合で遺産を分配するのが原則です。このように基準があることによって、相続に関する争いを最小限に抑え、スムーズに進めることができるのです。
法定相続人と受遺者の違い
受遺者は、遺言によって指名され財産を取得する人です。受遺者あh、法定相続人であることもあれば、そうでない第三者のこともあります。遺言がある場合にはその指示によって、法定相続人のルールは上書きされるのが原則となります。
ただし、法定相続人のうち兄弟姉妹以外は、遺留分を有するので、これを侵害するような遺言に対しては、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分の基本について
法定相続人の順位
相続が発生すると、故人の遺産を誰が受け継ぐか、法定相続人は、民法の定める順位に基づいて決まります。この順位は、故人との関係の近さを基準にしており、遺産分割の公平性を保つための重要な役割を果たします。
法定相続人の順位について定める民法の条文は、次の通りです。
民法887条(子及びその代襲者等の相続権)
1. 被相続人の子は、相続人となる。
2. 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3. 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
民法889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
1. 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹2. 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
民法890条(配偶者の相続権)
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
民法(e-Gov法令検索)
上記の条文から分かる通り、法定相続人は、最優先順位である「配偶者」、第一順位の「子」、第二順位の「直系尊属」、第三順位の「兄弟姉妹」と続きます。また、各続柄が存在しないときには「子」については代襲、再代襲が発生し、いない場合には次の順位の者が相続します(兄弟姉妹は、一代限り、代襲相続が発生します)。
同順位が複数いるときには、人数で等分します。
なお、どれだけ親しくとも、貢献があっても、親友や友人、知人、内縁や事実婚などは、法定相続人とはなりません。
配偶者は最優先順位
法律上、相続人には「配偶者相続人」と「血族相続人(子や孫、直系尊属、兄弟姉妹など)の2種類があり、このうち前者にあたる「配偶者」は、必ず相続人となります(民法890条)。つまり、配偶者は、法定相続人として、最優先の順位であるということです。
配偶者とは、相続発生時に法的に婚姻関係にある人であり、夫からみた妻、妻からみた夫のことです。離婚していたり、そもそも事実婚であったりするとき、法律上は「配偶者」ではなく相続人にはなりません。配偶者が必ず相続人になるのは、被相続人の財産の増加に貢献し、被相続人に扶養されるなど生計を共にしていることが多いからです。
配偶者が法定相続人となるとき、これとあわせて、次章以降で解説する第1順位から第3順位までの法定相続人のうち、最も順位の高い者が相続人となります。いずれも存在しない場合は、配偶者のみが相続人となります。
子は第一順位の相続人
配偶者が必ず相続人になるのに対し、血族相続人には順位があり、上位の順位の者(及びその代襲者)がいる場合、下位の順位の者は相続人とはなりません。
子は第一順位の相続人です。そのため、子がいる場合には配偶者と共に相続人となります(この場合、第二順位、第三順位の法定相続人には遺産は承継されません)。子が法定相続人となるとき、次のポイントに注意してください。
- 養子も法定相続人となる
養子縁組をした子は、実子と同等の法定相続人となります。パートナーの連れ子であっても養子縁組をしたなら相続権があります。ただし、実の親子関係を失う特別養子縁組をした場合、実の親子関係による相続はなくなります。 - 胎児も法定相続人となる
民法では胎児は既に生まれたものとみなされます。なお、死産となったときは遡って法定相続人としての権利を失います。 - 認知された非嫡出子も法定相続人となる
婚姻していない男女の間に生まれた子(非嫡出子)は、父親が認知した場合は相続権を有します(遺言による認知も含む)。 - 親権を有しない子も法定相続人になる
両親が離婚していて、親権を有しない親が亡くなったときも、親子関係は存在しており、相続権を失いません。
子が、被相続人である親よりも先に死亡していたときは、孫が代襲相続します。また、孫もいないときにはひ孫への再代襲が生じ、以下、直系卑属が存在する限り代襲が生じます。
離婚した親の相続について
直系尊属が第二順位の相続人
直系尊属が、第二順位の相続人となります。直系尊属とは、血縁関係のある人のうち、自分よりも前の世代の人のことで、具体的には両親や祖父母がこれに該当します。直系尊属が複数いるときには親等の近い者(したがって、まずは両親)が優先します。
配偶者がいる場合の法定相続人は「配偶者と直系尊属」、いない場合は「直系尊属のみ」となります。両親が既に離婚していても親子関係はなくならないので、相続権は失われません。直系尊属が法定相続人となるときのポイントは次の通りです。
- 義両親は直系尊属ではない
妻の親などの義理の両親は直系尊属ではなく、法定相続人にはなりません。 - 代襲相続は生じない
両親が既になくなっていたとして、その後に祖父母が相続するのは代襲相続とはいいません。代襲相続は、死亡した人よりも後の世代について生じるものだからです。直系尊属の場合には、法律の条文で、親等の近い順に相続するという順位が定められています。 - 片親の場合は存命の方が法定相続人となる
自分の死亡時に、両親が既に片方亡くなっていた場合でも、他方が存命である限り、その人が法定相続人になり、この場合には祖父母は相続権を有しません。
兄弟姉妹が第三順位の相続人
兄弟姉妹は、第三順位の相続人です。直系卑属も直系尊属もいないときには、兄弟姉妹が法定相続人となります。この場合、配偶者がいれば「配偶者と兄弟姉妹」、いなければ「兄弟姉妹のみ」が相続します。兄弟姉妹が法定相続人となるときの注意点は、次の通りです。
- 腹違いは2分の1
半血の兄弟(異母兄弟、異父兄弟)も法定相続人となるが、全血の兄弟の2分の1の割合しか相続できない。 - 代襲は一代限りのみ生じる
兄弟姉妹が既に死亡していたときはその子(甥や姪)が代襲相続するが一代に限り、甥や姪の子への再代襲は生じない。
法定相続人の範囲
相続によって遺産を受け継ぐことができる人の範囲は、基本的には法律で定められています。しかし、特定の条件によって変動することがあります。
法律で定められた相続人の範囲
法律による相続人の範囲には、上記のように順位があります。そして、その順位のうち、再優先順位の配偶者は必ず相続人となり、それ以外の子や孫、両親、兄弟姉妹などは、先順位の者のみ相続人となり、それ以外の者は相続によっては遺産を承継しません。
特別な事情による相続人の範囲の変更
法定相続人の範囲や順位は、次のような特別な事情が存在する場合には変動が生じます。
代襲相続
第一順位の子が死亡したときには、その直系卑属が存在する限り何代でも、代襲相続が生じます。コレに対して、配偶者、直系尊属には代襲相続は発生しません。また、兄弟姉妹については一代に限って代襲相続が発生します。
代襲相続の基本について
養子縁組
養子縁組をした場合には、養子は実子と同等の相続権を有し、法定相続人の範囲に新たに含まれることとなります。
養子縁組と相続の基本について
非嫡出子の認知
非嫡出子(婚姻していない男女の子)も、認知をすることによって親子関係が生じ、法定相続人の範囲に新たに含まれることになります。
遺言
更に、遺言によって相続人の範囲が拡大されることもあります。
故人が遺言を残していた場合には、遺言書で指名された人が、法定相続人よりも優先して遺産を承継します。ただし、法定相続人のうち兄弟姉妹以外(つまり、配偶者、子や孫、直系尊属)は遺留分を有しており、これを侵害するほどに取得する遺産が減ってしまったとき、遺留分侵害額請求をして回復を求めることができます。
遺言書の基本について
相続放棄
法律上は相続人となる人も、被相続人の負債を承継したくない場合など、相続をしたくない場合には放棄をすることができます。相続放棄は、相続の発生を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。これによって、放棄した人は初めから相続人ではなかったこととなり、法定相続人の範囲や順位が変更されます。
相続放棄の基本について
法定相続人の調べ方と相続手続きの流れ
法律において、法定相続人となる続柄がどのようなものかを理解したところで、実際の相続のケースで、どのように法定相続人を調べ、手続きを進めるべきかを解説します。
法定相続人の調べ方
法定相続人が、実際に誰になるかを知るには、亡くなった方(被相続人)の身分関係の変動を調べる必要があり、出生から死亡までの全戸籍を取得する必要があります。このとき、戸籍の連続性を確保し、空白のないようにしなければ、法定相続人となる人を見逃すおそれがあります。
戸籍の読み方を知り、ミスのないよう調査してください。結果を相続関係図にまとめておくと便利です。法定相続人であれば、法定相続情報証明制度を利用し、一定の戸籍を提出することによって法定相続情報一覧図の交付を受けることができます。
相続手続きの流れ
最後に、相続手続きの流れについて解説します。本解説にいう法定相続人を知るステップは、この大きな手続きのうちに初期段階に発生する、とても重要なものと理解してください。最初の段階で誤ると、その後に大きな影響が出てしまい、公平な相続が実現できません。
まとめ
今回は、法定相続人の基礎知識と、相続をするときの順位や範囲について解説しました。法定相続人の考え方は、法律の想定する公平な相続を実現する、非常に重要なものです。
相続は人生の避けられないプロセスの一つなので、誰しもが相続人となる可能性があります。法定相続人には法律で定められたルールがあり、これを知ることで、いつ、誰がどのように相続するのかを予想することができます。なお、一度相続人となりうる人を調査しても、その後の身分関係の変動によっては範囲が変更される可能性があります。実際には、相続が発生した時点でよく調査しなければなりません。