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死亡後の預金引き出しの法的問題と相続トラブルを避けるための解決策

故人が残した預金の扱いは、相続手続きにおいて相続人の興味関心の高い重要な資産です。そのため、悪意をもった相続人には、死後に預金をこっそり引き出し、遺産を減らして他の相続人に損失を与える人もいます。そのような意思なくとも、こっそり引き出せば相続トラブルに繋がります。

また、問題ある事例でなくても、家族の死後には、葬儀費用や香典返しなど多くの支出が必要で、大至急預金を引き出したい需要は高いでしょう。このとき、緊急の支出のためには、故人の残した預金の死後の扱いが法的問題となります。一方で、遺産の不当な奪取を避け、遺志を反映するため、一旦は口座が凍結され、すぐ引き出すことはできません。

今回は、遺族の立場から、故人の死後の預貯金の扱いについて解説します。

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死亡後の預金引き出しに関する法的問題

死亡後の預金の引き出しは、故人の資産の相続を考える上で、避けては通れない重要な手続きです

しかし、一部の相続人が得してしまわないよう、口座凍結の解除や払戻しには、厳格なルールが設けられており、これを遵守しない相続人によってしばしばトラブルが引き起こされます。

故人の預金に対する相続人の権利

亡くなった方(被相続人)の残した預貯金は、価値ある財産であり、遺産の一部です。そのため、相続開始後は相続人間でどう分けるかが問題となり、遺産分割の問題が解決するまでは口座は凍結され、預金を引き出せないのが原則です。

遺言によって分けるか、または遺言のない場合は相続人間で預貯金をどう分配するか決める遺産分割協議をします。まず、遺言があればそれによって払い戻せます。遺言が存在しない場合、遺産分割協議をし、相続人全員の合意が成立すれば遺産分割協議書によって払戻しができます。

なお、2018年の相続法改正によって、家庭裁判所の審判を経てその審判で認められた額、もしくは、審判を経ずに「相続開始時の預金額×1/3×法定相続分」(同一金融機関より上限150万円まで)を遺産分割前でも預金を払い戻すことのできる「遺産分割前の預貯金の払戻し」(いわゆる「仮払い」)も利用できます。

したがって、故人の預金を、死後に引き出せるのは、次の場合です。

  • 遺言がある場合
  • 遺産分割協議書が作成できた場合
  • 遺産分割前の預貯金の払戻し制度の要件を満たす場合
    (家庭裁判所の審判を得た場合、もしくは、審判を経ない仮払い)

死後に行うべき金融機関の手続きと必要書類

名義人の死亡が確認されると口座が凍結され、凍結解除や払戻し、口座解約をするのに金融機関の定める必要書類を提出し、手続きを踏まねばなりません。これは、相続人の一部が不当に預金を引き出して使ってしまうといった、公平に反する事態を防ぐためです。

凍結された口座を解除する場合、上記のケースごとに、必要書類は一般的に次の通りです。

【遺言がある場合】

  • 遺言書
  • (自筆証書遺言の場合)検認済証明書
  • 被相続人の戸籍謄本(除籍、改製原戸籍を含む)
    出生から死亡までの全戸籍
  • 払戻しを受ける人の印鑑証明書

【遺産分割協議書の場合】

  • 遺産分割協議書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 被相続人の戸籍謄本(除籍、改製原戸籍を含む)
    出生から死亡までの全戸籍
  • 相続人全員の戸籍謄本

【家庭裁判所の審判を得た場合】

  • 家庭裁判所の審判書謄本
  • 払戻しを受ける人の印鑑証明書

【審判を経ない仮払いの場合】

  • 被相続人の戸籍謄本(除籍、改製原戸籍を含む)
    出生から死亡までの全戸籍
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 払戻しを受ける人の印鑑証明書

いずれの場合も、必要書類を窓口に提出し、払戻しを受けます。なお、仮払いを受けられる金額は、次の通りに決められています

  • 家庭裁判所の審判を得た場合
    家庭裁判所が仮取得を認めた金額
  • 家庭裁判所の判断を経ない場合
    相続開始時の預金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分
    (ただし、同一金融機関からの払戻しは150万円が上限)

金融機関ごとに手続きが異なることがあるため、事前に確認が必要です。死後に行うべき、金融機関における口座に関する手続きは、下記に解説します。

口座の名義変更について

死亡後の預金引き出しに関する法的トラブル

銀行などに預金を持ったまま亡くなると、名義人の死亡によって口座は凍結します。しかし、金融機関は口座名義人の死亡を、全て直後に把握できるわけではありません。そのため、一部の相続人が、口座名義人の死亡を隠してこっそりと預金を引き出すことは、現実問題としては可能です。

このような場面で、死亡後の預金引き出しによって法的トラブルを招きます。

一部の相続人による勝手な預金引き出し

前章の通り、相続人の公平を保つため、死後の預金の引き出しは一定の手続きを要しますが、その死を隠してこっそりと引き出すことは現実には可能です。そのため、相続開始後に通帳を精査してはじめて、他の相続人が勝手に預貯金を引き出していたと気づくケースがあります。

このようなトラブルには次の通りに対応してください。なお、不正な入出金の確認のために、通帳の履歴と共に、金融機関より入出金履歴を取り寄せて確認をしてください。

承諾を得て引き出した場合

被相続人の承諾を得て引き出していた場合は、被相続人自身の引き出しと同視でき、引き出した金銭を預かっていたのと同じことです。既に使途を決めて使用していた場合は取り戻すことはできず、まだ費消しておらず預かっている場合は、他の相続人が返還請求できます。

被相続人の定めた使途とは異なる費消をした場合は、横領罪などの責任を追及します。なお、生前に贈与されていたと考えられる場合には、特別受益として遺産分割において是正すべきことを主張します。

無断で引き出した場合

以上のケースに対し、無断で引き出した場合、その相続人には法律上の責任があります。民事上、返還義務が生じるのはもちろん、刑法上、横領罪や窃盗罪に該当しうる行為です。

具体的には、不当利得返還請求訴訟を提起し、返金を請求します。この場合、被相続人の死後は、勝手に引き出した預金の返還を請求する権利は、相続人全員にあります。

出金隠し

そもそも出金そのものが隠されたことによるトラブルもあります。隠れた出金は、相続開始後に通帳や利用履歴によって初めて気づくことがあります。1つの不正な出金を見つけると「もっと他にもあるのではないか」「口座が別にあるのではないか」と相続人間の疑心暗鬼を招いてしまいます。

使途の不明な預金引き出し

出金の事実が確認できても、その使途が不明だと、相続人間の対立のもととなります。使途を明確に説明できない出金があると、他の相続人が領得し、不当に得をしているのではないかと疑ってしまうからです。出費した相続人からすれば「緊急のことだった」「細かい出費まで覚えていない」ということもあるでしょうが、遺産が減ることとなる他の相続人は、理由を追及してきます。

不明確な遺言書による預金引き出し

遺言書が不明確な場合には、その解釈を巡って相続人間の争いが起きてしまいます。前章の通り、遺言があればそれだけで預金を引き出せてしまうため、遺言が曖昧なことによるトラブルは深刻です。

偏った遺言がもととなって、ある相続人が預金を得てしまうと、他の相続人がこれに対立し、トラブルが長引き、法的な紛争に発展します。

遺言書の基本について

死亡後の預金引き出しによるトラブルを避ける解決策

以上のような死後の預金引き出しトラブルを避けるため、解決策をお伝えします。

速やかに死亡を届け出る

相続人にとって、他の相続人が勝手に預金を引き出して損しないようにするには、速やかに口座を凍結してもらうのが先決となります。そのため、被相続人に当たる人が亡くなったらすぐに、銀行など金融機関に連絡をして死亡を届出ましょう。

相続人間のコミュニケーションをとる

被相続人が亡くなる前から、介護や看護が必要となる場合には多くの出費がかかるケースもあります。そのため、相続人間で、どのような金額が、何の用途で必要となるのか、よくコミュニケーションをとって共通理解としておくことが、トラブル回避のために重要です。

他の相続人にも説明し、理解を得ている出金ならば、不正ではなく、紛争にもなりません。また、生前の家族による話し合いは、適正かつ明瞭な遺言を作成するのにも役立ち、トラブルを減らすことができます。

出費の証拠を残す

死亡直後は、緊急の支出が多く、預金を引き出す必要性にかられることがあります。自分が、引き出す側の人だったとき、後から他の相続人に責められないよう、出費の証拠は必ず残すようにしてください。領収書などで「何にいくら使ったか」を証明でき、それが被相続人や、相続人全員のために必要なものであれば、納得が得ることができるからです。

少なくとも、「勝手に横領したのではないか」という責任追及は回避できます。

死亡後に違法に預金が引き出された場合の対処法

最後に、死亡後に、違法に預金が引き出された場合の対処法を解説します。

遺産分割協議で調整する方法

死亡後の引き出しについて、強く責任追及するのではなく、遺産分割協議の話し合いにおいて調整する方法があります。2018年の相続法改正によって、預金を引き出した人以外の相続人全員が合意をすれば、遺産分割協議においてまとめて解決することが可能となりました(民法906条の2第1項)。

遺産分割協議の進め方について

ただ、遺産分割協議においては相続人全員の合意が得られない場合には、強く責任追及をせざるを得ないケースもあります。このとき、交渉が決裂するなら、訴訟を提起することで法的な解決を得るしかなく、不当利得返還請求訴訟、もしくは、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟預金で争います。

まとめ

今回は、死亡後に、被相続人の口座から勝手に預金が引き出されていたことが判明したときに、どのように対応すべきかについて解説しました。

預貯金は、故人の財産の大部分を占めることも多く、こっそり勝手に引き出されてしまうと、遺産が減ってしまいます。遺産の額を誤って算出すれば、相続税にも影響が出ます。

勝手な引き出しを防がなければ、公平な相続は実現できませんから、予防策への理解も不可欠となります。生前から、相続人間でどのような出費が必要かについてのコミュニケーションをとることが非常に大切です。預貯金が無断で引き出されるような激しい対立のあるケースこそ、早期に弁護士に相談ください。

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