ご家族がお亡くなりになって相続が開始されたとき、相続財産(遺産)の中に不動産が含まれているときには、相続登記の手続きが必要となります。このとき、登記の専門家である司法書士に依頼すると、手間がかからず楽に終わるかわりに、司法書士報酬がかかります。
司法書士報酬などの費用をかけずに、自分自身で登記をすることを、相続登記の「本人申請」といいます。しかし一方で、不動産(土地・建物)に関する権利を確定的なものにする不動産登記は重要であり、ミスなく迅速に行う必要があります。
今回は、相続登記を「本人申請」することができるかどうか、また、本人申請の相続登記を行う際の注意点などについて、相続登記に詳しい司法書士が解説します。
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相続登記の本人申請には、専門的知識が必要?
相続登記は、相続財産(遺産)の中に不動産(土地・建物)があるときには非常に重要な相続手続きの1つです。
相続登記は、「本人申請」が原則です。遺言書がある場合であっても、遺言書がなくて遺産分割協議を行った場合であっても、相続登記の申請は、相続人本人が、相続登記申請書を作成し、必要書類を添付の上で、法務局で申請します。
司法書士を依頼する場合であっても、司法書士はあくまでも「本人の代わりに」相続登記の申請を行うにすぎません。司法書士は、登記を専門分野とする国家資格ですが、あくまでも本人申請が難しい場合にサポートする役割に過ぎません。
ただし、相続登記を、ミスなく確実に進めるためには、相続法に関する法律知識や裁判の知識、法務局における手続についての知識などが必要となります。万が一、相続登記が遅れたり、必要書類が不足していたり不備があったりすると、相続登記が遅れるだけでなく、相続登記ができないおそれもあります。
ポイント
相続登記申請書など、相続登記の際に作成した資料に不備がある場合に備えて、法務局(登記所)へいくときには、必ず、申請書書類に押印した印鑑を持参し、いつでも訂正印を押せるように準備しておきましょう。
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相続登記申請書の書式と書き方は、こちらをご覧ください。
相続財産(遺産)の中に不動産が含まれるとき、不動産の名義変更をする手続が必要となります。この手続きを「相続登記」といいます。 相続登記を行うとき、法務局に提出する「相続登記申請書」を作成しなければなり ...
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相続登記を本人申請するメリットは?
相続登記を、本人申請で進めるメリットは、司法書士に依頼する場合に必要となる司法書士報酬が不要となる点です。手続費用の節約になるため、相続手続きにかかる費用を圧縮することができます。
ただし、相続登記を依頼するのにかかる司法書士費用はそれほど高くなく、一般的な相場で7万円から10万円程度であることが多いです。
むしろ、相続登記を行う際にかかる費用が高額となりうるのは、不動産の評価額にもとづいて計算される登録免許税です。そして、登録免許税は不動産の登記の際に収める実費ですから、相続登記を本人申請で行ったとしても当然に納付しなければなりません。
相続登記のために、登記申請、登記完了のタイミングなどに法務局に何度も足を運んだり、必要書類をそろえるために市区町村役場に連絡をしたり申請したりすることが苦にならない方は、相続登記の本人申請を検討してみても良いでしょう。
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相続登記にかかる費用と司法書士報酬は、こちらをご覧ください。
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相続登記を本人申請するデメリットは?
一旦間違った相続登記をし、受理されてしまった場合には、あとから元に戻すことはできませんので、訂正することは極めて困難ですので、相続登記を本人申請で進めるときは、細心の注意を払って行ってください。
相続登記の本人申請を誤った場合、相続登記だけでなく、その前に行った遺産分割協議、遺産分割協議書の作成などの手続も再度やり直しとなるおそれもあり、余計な手間と負担がかかります。その際に、相続人全員の合意が、再度取り直せるかどうかもわかりません。
もし、相続登記を本人申請で進める自信がないけれども、できるだけ相続登記にかかる司法書士費用を減らしたい方は、戸籍など必要書類の収集といった手続的な手間だけを自分で負担することで、司法書士費用を安くしてもらう方法があります。
相続登記の本人申請がお勧めできないケースは?
相続登記は、本人申請で行うことが可能であるのが原則であることと、本人申請のメリット・デメリットを、司法書士が解説しました。本人申請することのデメリットのほうが大きく、本人申請をお勧めできないケースもあります。
そこで次に、相続登記を本人申請で行うことが困難であるか、お勧めできないケースについて、司法書士が解説します。
なお、実務上は、相続登記以前の状態で、遺言書の作成、遺産分割協議書の作成などを、相続を専門分野とする弁護士、司法書士などが依頼されて代わりに行っている場合も多いため、その続きで「相続登記もついでに」とスムーズに依頼して頂くことができます。
相続人が多数いる場合
法定相続人が多数いる場合には、その相続人の人数に応じて、相続登記の際にそろえなければならない必要書類が増加します。
とくに被相続人が亡くなる前に相続人が亡くなっている場合や、被相続人が亡くなった後に相続人がさらに亡くなっている場合は、注意が必要です。
相続登記を本人申請で行った結果、必要書類が足りなかったり、不備があったりして新たに書類を整理しなおさなければならなかったりすると、書類収集の手間がとても多くかかることになります。
更に、相続人が多数いる場合には、権利関係が複雑となり、「誰が法定相続人となるか」、「法定相続分の割合はどのように計算するか」について、難しい法律知識、裁判例の知識が必要となる場合もあります。
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法定相続人の範囲・順位と割合は、こちらをご覧ください。
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相続不動産を売却予定の場合
相続によって取得した不動産を売却する予定があり、既に買主が見つかっているケースでは、売買成立の決済の時期が、既に決まっている場合も多いものです。
しかし、相続登記が終了し、故人の名義から相続人の名義に、所有権の名義変更を行わなければ、その不動産を売却処分することはできません。
相続登記を本人申請で行った結果、修正ややり直しが繰り返され、スケジュールに間に合わなくなってしまうと、相続不動産を予定通りに売却できなくなってしまいます。特に、買主がローンを得て不動産を買おうと考えていたとき、決められたスケジュールに間に合わないと、売買の話が破談になってしまう危険があります。
相続税申告が必要な場合
相続税の申告は、相続開始を知ったときから10カ月以内に行わなければなりません。そして、このことは、遺産分割協議がまとまらなかったとしても期限は守らなければなりません。
相続登記を本人申請で行った結果、登記が遅れてしまうと、相続不動産を売却したお金を納税資金にあてようと考えていた場合などには、相続税を期限通りに支払うことが難しくなってしまうというデメリットがあります。
相続税がかかるかどうかは、相続財産全体を評価した上で、「3000万円+600万円×法定相続人の人数」という基礎控除の金額を越えるかどうかで判断をしてください。基礎控除の金額を越える財産があるときは、相続税の申告・納付が必要です。
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相続税を安くする節税対策の基本は、こちらをご覧ください。
相続税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内に、税務署に対して申告し、納税しなければなりません。節税対策を全く行っていないと、相続税があまりにも高額となり、期間内に払いきれない危 ...
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相続人間に争いがあった場合
遺産分割協議を行ったり、遺産分割調停・審判に移行して争いとなったりしたケースなど、相続人間に、相続問題について争いがあり「争続」に発展してしまった場合には、相続登記を本人申請ではなく司法書士に依頼することがお勧めです。
相続人間に争いがあるときに相続登記を本人申請で行った結果、ミスがあって遅れたり、やり直しになってしまったりしたとき、再度同じ分割方法で、相続人全員の合意がとれるとは限らないからです。
「争続」が激化して、話し合いや調停、審判の代理を相続問題に詳しい弁護士に依頼していた場合には、そのまま弁護士の紹介で司法書士に依頼してもらうこともできます。
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遺産分割協議がもめる理由と対処法は、こちらをご覧ください。
「遺産分割協議」とは、法定相続人や、遺言によって相続人に指定された人が、相続財産(遺産)をどのように分けるかについて話し合いをする協議のことです。 遺産分割協議は、あくまで話し合いですから、円満に解決 ...
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「登記識別情報通知書」を大切に保管する
「登記識別情報通知書」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。相続登記を本人申請で進めるときに、必ず注意しておいていただきたいのが、相続登記が完了した際に「登記識別情報通知書」を発行してもらい、大切に保管しておくことです。
従来、不動産の権利証(権利済証、権利書)などと呼ばれていたものは、現在、この登記識別情報通知書に記載されたパスワードによって代替されています。
そして、相続登記を本人申請で行ったとき、登記完了時に発行される「登記識別情報通知書」は、発行してもらうのを忘れていたり、紛失してしまったりしても、再発行してもらうことはできません。
権利証を紛失してしまった場合と同様、この登記識別情報通知書をなくしてしまった場合には、その後に不動産を売却処分する場合などに、大きな手間と費用の負担がかかります。
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権利証を紛失したときの対応は、こちらをご覧ください。
不動産の権利証は、非常に重要な書類で、大切に保管しておかなければなりません。しかし、相続した不動産に権利証がなかったり、相続時の多忙でなくしてしまったりすることが残念ながらあります。 不動産の権利証が ...
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不動産の売買のときは、登記を司法書士に依頼する
相続登記の場合には、ここまで解説してきましたとおり、正しい法律知識、登記に関する知識をもって進めれば、本人申請で登記手続きを行うこともできます。
しかし、不動産売買のときには、所有権移転登記を、司法書士に依頼するのが一般的です。というのも、不動産売買のときの登記は、売主と買主が共同で行わなければならず、この際に、売主と買主の利益は相反するため、どちらかに不公平な登記となってはならないからです。
不動産売買のとき、登記手続きと代金支払いとが同時履行となっていることが通常ですが、しかし実際には、どちらかを先に行わざるを得ず、全くの同時ということは物理的に困難です。この場合に、委任状を預けて売主、買主のいずれかが登記することとなると、やはり相手方を信頼できないのではないでしょうか。
相続の際にも、相続税の生前対策、揉める遺産分割手続とならないようにする相続対策などの目的で、不動産の売買を行うことがありますが、この際には、事後のトラブルを避けるためにも、不動産会社の仲介、弁護士による契約書チェック、司法書士による不動産登記を行いましょう。
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いかがでしたでしょうか。
今回は、相続登記を本人申請した場合のメリット、デメリット及び注意点について、相続登記に詳しい司法書士が解説しました。
相続登記を本人申請で行うとき、法務局(登記所)に相続登記申請書を提出して行う方法以外に、郵送やインターネットでのオンライン申請などの方法を利用することもできます。
しかし、正しい知識に基づいて登記申請を行わなければ、やり直し、修正となって手続が長引いたり、誤った相続登記となってしまったりする危険があり、あまりお勧めできません。