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農地の相続で必要な手続きは?農業委員会への届出のプロセスも解説

農地を相続するときには、特別な注意点があります。農地、つまり田畑などは、農地法という法律により、一般の住宅地などとは異なる制限があるからです。

特に、相続の場面では、これまで農業に関わってこなかった若い世代が、突然に農地を相続することとなり悩むケースがあります。このとき、農地法などに定められた、農地に特有の制度を理解しなければ、その農地を活用したり売却したり、他の用途に転用したりする支障になってしまいます。日本の農業は、地方都市などで古くからの文化として根付いている分、法律面、税務面で特別な扱いが定められているのです。

家族が農業を営んでいるとき、自分は関与していないとしても、農地を相続する可能性があります。今回は、農地を相続したときに、相続人がすべき手続きについて解説します。

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農地を相続する手続きとは

農地の相続には、特別な規制が適用されており、他の不動産とは異なる手続きが必要となります。このことは、農地の相続において特に注意しなければなりません。これらの特別な規制は、農地の特性に配慮し、適正な農地管理と、農業の継続的な発展を目的としています。

農地であっても、相続の原則的なルールは変わらず、遺言や遺産分割協議によって分割され、決まった割合に応じて相続登記し、名義変更を行います。また、その後に相続税を納付すべき点も変わりません。ただし、次の点に例外的な配慮を要します。

  • 農地法が適用される
    農地法は、農地の所有や利用、保護に関する法律です。農地の売買や相続について特別な制限を設けているため、農地の相続ではこれらの規制を遵守する必要があります。
  • 農地相続に特有のルール
    農地の相続では、農地の適切な利用と管理が重視され、相続人が農業に従事しない場合に、地域の農業委員会の承認を必要とすることがあります。また、農業を継続する場合には、相続税の特例を利用することができます。

以上のように、農地を相続する際の特別な法的な枠組みを理解して、その農地ごとの特性を活かして、適正な遺産分割とはどのようなものか、ケースに応じて考える必要があります。

農地法は、農地の所有権を移転することを制限しています。農地は、食料を作る重要な土地であり、日本の食料自給率を下げないよう、農業をしてもらう必要があるからです。つまり、簡単には売ったり買ったり、用途変更をしたりはできないようになっています。

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農地を相続するときに必要な手続き

次に、農地を相続するときに必要な手続きについて、ステップで解説していきます。

遺産と農地の特定

まず、亡くなった方(被相続人)の遺産を調査し、特定し、そのなかの農地がどのような内容であるかを確定します。農地の所在地や面積、利用状況についての情報を入手するようにしてください。

相続した不動産の調査方法について

相続人の確定と遺産分割協議

次に、相続人を特定します。相続人は、戸籍などを収集することによって、民法の定める法定相続人が誰になるかを調査し、あわせて遺言によって相続人と指定される人がいないかどうかを調べます。

遺言があるときには、それにしたがって遺産分割を行います。遺言がないときには、相続人間で話し合いをし、遺産分割協議を進めるのが原則です。ここまでの流れは、農地の相続であっても、通常の場合と変わりありません。

農業委員会への届出

農地の所有権を移転するためには、市区町村に設置された農業委員会の許可を得る必要があることが、農地法で定められています。売買や贈与の場合は「許可」を要しますが、相続による所有権移転ならば「届出」で足ります。許可と届出の違いは、許可は承認が必要であるのに対して、届出は連絡をするだけでよく承認は不要となる点です。

届出書に記載すべき事項は次の通りです。詳しくは農林水産省のパンフレットの書式を参考にしてください。

  • 農地を取得した者の氏名・住所
  • 届出に係わる土地の所在など(所在・地番、地目、面積など)
  • 農地を取得した日
  • 農地を取得した理由
  • 取得した農地の種類及び内容
  • 農業委員会によるあっせんなどの希望について

届出時に添付すべき必要書類は、次の通りです。

【農地の相続登記が既に終了している場合】

  • 完了後の登記事項証明書

【農地の相続登記が未了の場合】

農業委員会への届出をするのは、農地を取得した人です。遺産分割前ならば相続人全員、分割後なら遺産分割によって農地を承継した人が届出ます。相続時の農業委員会への届出は、耕作放棄地や所有者不明の田畑の増加が社会問題化したことから、平成21年の農地法改正で設けられた制度です。

農業委員会への届出には期限があり、相続開始時から10ヶ月以内に行う必要があり、届出をしない場合や、虚偽の届出をした場合は、10万円以下の過料による制裁があります。

相続登記の手続き

農業委員会の届出が済んだら、法務局に相続登記を申請します。この際には、遺産分割協議書や被相続人の死亡証明書、被相続人と相続人の戸籍謄本などが必要です。この手続きは、農地の相続に特別のものではなく、通常の相続と同じプロセスとなります。

あわせて、相続税の基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える財産のあるときは、相続税の申告が必要となります。

相続した農地のその後の処分について

以上のプロセスによって農地を一旦は相続した後、その後にどうすべきかは、相続人の状況によっても異なります。農業を継続できない方のなかには、相続税を支払う原資として売却を希望する家庭も少なくありません。

ただ、その後に売却したり、転用したりしたいとき、農地であるがゆえの特別な制限があります。

農地のまま売却する

相続人が農業を継続できないにしても、他にその土地で農業したい人がいれば、農地のまま売却処分することができます。この場合、相続以外の理由によって農地の所有権移転をすることになるので、農地法3条にしたがって、農業委員会の許可が必要です。また、農業経営基盤強化促進法という特別法に基づいて処分することも可能です。

いずれの場合も、農地を譲り受ける人には、農業従事者であるか、農業に参入することを予定する人であるなどの一定の要件があります。

農地を転用する

相続した農地を、他の目的に利用することを農地転用といいますが、この方法にも制限があるので注意してください。農地転用をするためには、農業委員会に、農地転用許可申請をし、許可を得る必要があります。許可の要件は、農地の場所や広さに応じて細かく定められています。

農地転用をお考えなら、まずは農業委員会に相談するのが最善です。自身で農地の管理、継続のできない相続人は、農地の借り手探しの相談もできます。

相続した土地の活用方法について

農地の相続を放棄する

最後に、農地を相続する可能性のあるとき、その後の複雑で面倒な手続きに巻き込まれたくないなら、相続放棄を選択することもできます。相続放棄すれば、初めから相続人でなかったことになるので農地の相続を回避できます。ただし、その他の遺産についても一切承継しないことになります。

相続放棄するのが得かどうかは、遺産のなかの農地だけでなく、その他の財産、負債の内容によっても異なります。しっかりと事前に調査をしなければなりません。また、放棄まではしなくても、遺産分割協議のなかで、農地をもらってもよいという人がいるなら、その人が農地を承継し、代わりに他の相続人に金銭を支払う、代償分割による方法もあります。

相続放棄の基本について

農地を相続するときの課題と解決策

最後に、農地を相続するときの課題と、その解決策について解説します。

農地にかかる相続税を最適化する

農地を相続するときにも相続税がかかります。そして、田畑などの農地は、一般に宅地より広いことが多く、正しく理解しなければ過大な税負担ともなりかねません。この点で、農地の有効活用と用途変更の防止のため、農地の相続税には特別な猶予措置があります。

相続の際の不動産の評価は、固定資産税評価額によって行うのが通例ですが、農地の場合には、その種類に応じて、次の特殊な計算方法があります。

  • 純農地・中間農地
    倍率方式(固定資産税評価額に、路線価に基づく一定の倍率をかけて算出)
  • 市街地農地
    宅地批准方式((その農地が宅地であるとした場合の1㎡あたりの価額-1㎡あたりの造成費の金額)×地積として算出する)もしくは倍率方式のいずれか
  • 市街地周辺農地
    その農地が市街地農地であるとした場合の80%相当額

このように農地の評価には難しい点があり、相続税の申告時には市街地農地等の評価証明書が必要書類となります。

また、農地としての使用継続を援助するため、相続税の納税猶予の特例として「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」があります。これは、農業を行う相続人が農地を相続し、引き続き農業に従事するなどの一定の要件のもと、相続税の納税を猶予する措置です。ただし、特例を使うには、納税期限までに遺産分割が終わっていることが条件です。

なお、次の農地の相続では、納税猶予の特例は利用できません。

  • 農地が三大都市圏(首都圏、近畿圏、中部圏)の特定市(区)の市街化区域内にあって生産緑地地区内又は田園住居地域内でない場合。また、生産緑地地区内であっても「買取の申出がされたもの」「特定生産緑地の指定(及び指定の延長)がされなかったもの」「特定生産緑地の指定が解除されたもの」
  • 農地が相続時精算課税制度を適用して贈与された場合

後継者不足に悩まされる

農業を営む家族にとって、後継者不足は深刻な過大となっています。

農地を相続するとしても、後継者がいないと、その後にどのように活用、処分するかを巡って相続人間の対立や議論を助長しかねません。このことは更に、農地の遊休化や荒廃を招き、地域の農業にも悪影響を及ぼすおそれがあります。

事業承継の基本について

農地の相続が予想されるなら生前対策が重要

農地の相続が予想されるとき、特に、遺産に農地が含まれるが、相続人である子や孫などは農業を継がないとき、生前から農地に関する相続の対策をしておくことが重要です。生前の対策としてしておくことは、死後の農地をどのように活用するか、遺言書を作成し、被相続人の意思を明確化することから始めます。

遺産分割協議になってはじめて、遺産の大部分が農地であることが明らかになると、相続人間の争いとなり、農業委員会への届出などの期限までにまとまらないおそれがあります。

まとめ

今回は、相続財産に農地が含まれる場合に、相続手続きで注意すべきポイントを解説しました。

農地の場合、農業の源となる大切な土地であり、法制度が、農地を継続し、残す方向を基本として作られています。しかし、相続人の人生設計によっては、相続した農地を活用できない場合も多いことでしょう。このとき、相続登記や相続税の問題について、農地に特有の問題を知り、スムーズに進める必要があります。

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