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遺産分割協議書の提出先は?提出期限や必要書類についても解説

相続には複雑な手続きが多くあり、大切な人を失った悲しみにくれる中、残された遺産に関する煩雑な手続きを進めなければなりません。特に、遺産分割協議書の提出は、相続税申告や遺産の名義変更、預貯金の解約や不動産の取り扱いにおいて重要な役割を果たします。

遺産分割協議書なしには資産の移転を行うことのできないケースも多く、相続手続きの初歩として、遺産分割の協議をし、協議書を作るというプロセスを理解するのが不可欠です。そして、遺産の種類ごとに、遺産分割協議書の提出先や、その際に必要な書類をよく理解してください。

本解説では、遺産分割協議書の具体的な提出先を解説します。法務局、銀行、証券会社、税務署など、状況に応じた適切な提出先を明らかにし、各手続きで必要な書類や期限についても触れます。

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遺産分割協議書の重要性と作成手順

遺産分割協議書は、遺産をどう分割するかの合意を記した文書です。この協議書には、相続人全員が話し合って合意した結果が記載され、全員の署名と実印の押印をもって完成します。

遺産分割協議書は、その後の相続手続きでの必要書類として重要なものです。他の相続人から「協議に参加していなかった」といった反論、「分配方法に同意していない」などのトラブルを防ぐため、相続の手続きの多くの場面で、遺産分割協議書が必須となります。

  • 相続登記の場面
  • 預貯金の口座の名義変更や解約の場面
  • 有価証券の名義変更の場面
  • 相続税の申告、納付の場面
  • 自動車の名義変更の場面

遺産分割協議書の作成は、相続の透明性とスムーズな手続きを実現するために不可欠です。この文書を通じて、相続人間の合意を証拠化し、トラブルを防ぐことができます。

遺産分割協議書の基本について

遺産分割協議書の提出先

次に、遺産分割協議書の提出先について、以下の通り解説します。

法務局

遺産として土地や建物などの不動産を承継した場合には、相続登記、つまり、その不動産の名義変更が必要となります。この際、遺産分割協議書の提出先としては法務局が適切です。法務局では、この協議書をもとにして不動産登記の手続きが行われます。

このとき、遺産分割協議書と合わせて次の必要書類や費用を用意してください。

【必要な書類】

  • 登記申請書
  • 被相続人の戸籍謄本
    (出生から死亡までの全ての戸籍)
  • 相続人の現在の戸籍など
  • 遺産分割協議書
  • 印鑑証明書

【必要な費用】

  • 登録免許税
    不動産の固定資産評価額×0.4%

相続登記は、不動産の所在地を管轄する法務局で行います。遺産のなかに不動産が複数ある場合には、提出先の法務局は、各不動産ごとに異なることとなります。

なお、2024年4月1日より相続登記の義務化が施行され、相続により不動産を取得したことを知ったときから3年以内に登記しないと過料による罰則があります。

参考:全国の法務局・地方法務局所在地一覧(法務省)

相続登記の手続きについて

銀行

相続が開始すると、銀行は死亡を確認し次第口座を凍結します。その結果、遺産分割協議書を提出し、財産の行く先を明らかにしなければ、名義変更や払戻し、解約ができなくなってしまいます。遺産分割協議書などを提出すると、銀行はこれを確認し、資産の引き出しを許可します。

なお、この弊害を回避するために、2018年の相続法改正において預貯金の仮払いの制度が新設され、遺産分割の終了前であっても一定の額の引き出しが可能となりました。

口座の名義変更の手続きについて

証券会社などの金融機関

故人が、上場株式や投資信託など、証券会社の扱う金融商品を保有していた場合には、その名義変更の手続きにも遺産分割協議書の提出が必要となります。なお、非上場株式の場合には、発行する会社に対して名義変更を要求しますが、市場取引のない株式だと、その評価が争いになりがちです。

証券会社などの金融機関における手続きは、提出先によって異なるため、必要書類や手続きについては事前に確認しておく必要があります。なお、被相続人の付き合いのある証券会社の目ぼしがつかない場合は、証券保管振替機関(ほふり)に開示請求し、株式の預け先を知ることができます。

税務署

相続財産が基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるときは、相続税の申告、納付が必要であり、この際にも遺産分割協議書の提出が必要となります。提出先は、被相続人の住所地を管轄する税務署となります。

相続税の期限は、相続開始を知ったときから10ヶ月以内であり、協議が完了していないときには、法定相続分に応じた割合で納税するのが通例です。

参考:税務署の所在地などを知りたい方(国税庁)

運輸支局

被相続人が自動車を所有していた場合には、これを承継した相続人は、名義変更の手続きを要します。この際、遺産分割協議書を要し、提出先は運輸支局となります。なお、自動車の名義変更の手続きは、車両の査定額や種類によって提出先が異なります。

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種類査定額遺産分割協議書提出先
普通自動車100万円超必要相続人の住所地を管轄する運輸支局
100万円以下不要
(遺産分割協議成立申立書で可能)
相続人の住所地を管轄する運輸支局
軽自動車一律不要軽自動車協会

100万円以下の普通自動車の手続きで活用できる「遺産分割協議成立申立書」は、遺産分割協議書とは異なり、相続人全員の署名押印は不要で、新所有者のみの署名押印で足りる簡易な文書です。

参考:全国運輸支局等のご案内(自動車検査登録総合ポータルサイト)

遺産分割協議書は原本の提出が必要となる

遺産分割協議書を提出する際は、原則として原本の提出が求められます。

協議書の重要性を考慮して、その真正性を確保し、相続手続きの信頼性を高めるためです。このとき、遺産分割協議書に、相続人全員が署名し、実印が押されたか、原本によって正確に確認されます。コピーではなく原本そのものを見ることで書類の改ざんや偽造の防止にもなります。

相続人が複数いる場合は、各自が原本を要する可能性があります。後のトラブルを避けるためにも、相続人の人数分だけ、遺産分割協議書の原本を作成しておくのがお勧めです。また、相続手続きに関与しない相続人に内容を知らせるだけならコピーで足ります。

協議書の原本について複数の提出先があるときには、原本を返却してもらうための「原本還付」の手続きを利用できます。これにより、1つの原本を複数の提出先に使い回すことができます。

原本還付の手続きは次の通りに進めます。

  • 遺産分割協議書の原本とコピーを用意する
  • コピーに署名押印し「この写しは原本と相違ありません」と記載する
  • 原本とコピーを提出し、その際に原本還付を希望することを伝える

なお、提出先ごとの具体的な進め方は事前に確認してください。また、原本が返却されるまでの間に他の手続きは滞るおそれがあるので、優先順位を付け、計画的に進める必要があります。

遺産分割協議書の提出が不要な場合

遺産分割協議書は相続人間の合意を示す重要なものですが、全ての手続き、どの状況でも必須というわけではありません。以下の場合は、遺産分割協議書の提出は不要です。

遺言書がある場合

故人が遺言を残していた場合、その遺言書に記載された内容に従って遺産が分配されます。このとき、遺言書があれば、前章で解説した様々な手続きを進めることができ、遺産分割協議書の提出は不要です。

相続人が一人だけの場合

相続人が一人しかいない場合には、遺産の分配について協議する相手がいません。全ての遺産は、自動的にその1人の相続人に帰属しますから、遺産分割協議書の提出は不要です。

法定相続分に従う場合

相続人が複数いるものの、全員が民法で定められた法定相続分に従って遺産を分けることに合意している場合も、遺産分割協議書を作成する必要はありません。法定相続分ならば、法律のルールに基づく明確な割合で分かることができ、分配についての取り決めは不要だからです。

法定相続分の割合について

まとめ

今回は、遺産分割協議書の提出先について解説しました。

相続手続きにおいて重要な役割を果たすこの文書について、その提出先が財産ごとに異なることを理解することが、将来の紛争を防ぐのに役立ちます。原則として原本が必要となり、真正性と信頼性を確保して進めなければならない文書のため、スムーズに進めるには、原本を複数作成しておいたり、原本還付の手続きを利用したりといった効率的な進め方を知る必要があり、専門家の助けは必須といえます。

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