相続は多くの人にとって避けては通れない道です。しかし、相続は、法律の問題が絡むとても難しい問題です。相続が法的トラブルに発展する場合はもちろん、その前の事前の対策から、弁護士がどう関わるのかを知ることが、スムーズな相続手続きの近道となります。
相続の紛争は、遺産が高額なケースほど対立しやすく、失敗すると大きな経済的損失を被ります。そのリスクを未然に防止するのに、弁護士への相談を活用すべきです。
今回の解説で、相続における弁護士の役割と重要性を理解してください。あわせて、相続を相談する際に適した弁護士の選び方についても、ポイントを解説します。
相続問題における弁護士の役割
まず、相続問題における弁護士の役割を知り、その重要性を理解してください。
相続における法律問題とは
相続が発生すると、多くの法律問題が生じます。大まかに分けると、次のようなカテゴリーがありますが、細かな問題やトラブルを含めれば、相続に関する法律に悩む場面は無数にあります。
- 遺産分割の問題
遺産をどのように分割するか、相続人間で意見が異なるときに争いになります。遺産分割協議から始まり、合意に達すれば遺産分割協議書を作成しますが、決裂すれば遺産分割調停、審判に発展します。 - 遺言書の問題
遺言が存在する場合は、法定相続分に優先し、遺言書にしたがった分割となります。そのため、生前対策のなかでも遺言書の作成は最重要の法律問題です。 - 相続税の問題
相続においては相続税の申告の問題が発生します。また、生前から相続税対策をする際は、贈与税の問題も理解しなければなりません。税金の専門家は税理士ですが、その根本には相続税法などの法律が関与し、弁護士のサポートも欠かせません。 - 特別受益や寄与分の問題
遺産分割において、特定の相続人が生前に被相続人から特別な利益を受けていた場合、それをどう分割に反映させるか、特に難しい対立となります。 - 財産の評価の問題
不動産や株式などの評価が難しい財産の扱いについて、相続人間で意見が分かれるとき、その評価についての法律問題が生じます。
弁護士が相続問題で果たす役割
以上のように法律問題の多く生じる相続の場面で、その法律の専門家である弁護士は重要なサポートを提供することができます。
弁護士は、相続法に関する専門知識をもって、複雑な法律問題を解決するアドバイスを提供できます。そして、まとまった内容を書面にするのも弁護士の役割です。また、遺産分割協議を、本人に代わって支援し、相続人間の意見を調整したり感情的対立を除いたりと円滑に進める助けとなります。遺言書の作成にも関わることがあり、遺言執行者として、相続開始後の遺言の実施にも助言をします。
弁護士が役立つ最たる例は、裁判所で行われる法的手続きです。遺産分割が調停や審判に発展したり、遺留分侵害額請求訴訟で戦ったりと、裁判所を利用する場合には、裁判の専門家である弁護士が、必要な法的書類の作成、証拠収集、期日での対応といったサポートをします。
相続において弁護士が必要となる理由
相続において弁護士が必要となるのは、弁護士に相談し、依頼して解決することに大きなメリットがあるからです。一方で、弁護士に相談しないで一人で相続を進めることにはリスクがあります。
弁護士への相談というと敷居を高く感じてしまいがちですが、紛争が激化してからではとれる選択肢も限られてしまいます。まずは相談の連絡をしてみることから始めてください。
相続を弁護士に依頼するメリット
相続手続きに弁護士を介入させることには、以下のメリットがあります。
専門的な法律知識と経験を活用できる
弁護士は相続法に精通しており、複雑な法律問題を解決してきた知識と経験があります。弁護士に依頼することで、これに基づいたアドバイスを受け、相続を有利に進められます。
法的に公正な遺産相続を実現できる
遺産相続についての法律をよく知る弁護士がアドバイスすることで、法的に正しく、公正な遺産相続を実現できます。相続法は改正も多いため、専門的に扱う弁護士がよいでしょう。依頼者の利益を最大限守るのが、弁護士の使命です。
円滑な遺産分割が実現できる
相続人間の意見の相違や感情的な対立があるとき、弁護士を間にはさむことによって協議をスムーズに進めることができます。弁護士から話すことで相手も譲歩、妥協しやすくなります。
紛争のストレスを和らげる
親族間のトラブルは、骨肉の争いと表現されるように、嫌いな親族の顔を見ることも嫌な方もいるでしょうが、話し合いは必須。弁護士を窓口とすれば対面する必要がなく、ストレスを緩和できます。弁護士は、精神的支柱となり、相続を進めるパートナーとなれる存在です。
紛争の激化を防げる
相続の初期の段階や、むしろ生前に弁護士へ相談することにより、将来の紛争を予防し、万が一トラブルになった場合にも速やかに解決することができます。
書類を正確に作成できる
遺産分割協議書や遺言書など、重要な文書はいずれも法的な要件があり、正確に作成する必要があります。条件を満たさないと、後から無効となるおそれがあり、故人の意思を相続に反映できなくなります。
総合的なアドバイスを受けられる
相続の問題は、決して法律のみではなく、税金や登記など様々な専門分野が必要で、弁護士だけでなく税理士や司法書士などのチームが必要です。相続を専門的に扱う弁護士に相談すれば、相続を得意とする他分野の専門家の紹介を受けることができ、総合的なアドバイスが受けられます。
手続きを効率化できる
法律に基づく適切な手続きを進めるには、相当な手間と労力でしょう。弁護士に任せれはスムーズな進行が可能です。トラブルの場面だけでなく、戸籍の収集など、面倒な手続きも任せることができます。市区町村役場での手続きなどは、必要書類が多く手間がかかります。
弁護士は依頼者の味方であり、最大のパートナーです。相続について進めるにあたり、なんでも相談し、いつでもプロに気になったことを聞けるのが大きなメリットだといってよいでしょう。
弁護士に相談せず相続を進めるリスク
弁護士を利用しない場合、以下のようなリスクや困難が生じる可能性があります。総じて、弁護士がいないことによって、法的な安全性がなくなることは非常に危険な状態です。
法律上のミスが発生する
法律知識の不足した状態で相続を進めると、重要な手続きを見落としたり、誤った判断をしたりするリスクがあります。
相続トラブルが悪化する
適切な助言のない状態で相続人同士が議論を重ねると、紛争に発展する可能性が高まってしまいます。
遺産分割の手続きが遅延する
争いが激化すれば、その対立が収束するまで相続手続きが進まなくなってしまいます。また、トラブルにならなくても、必要書類の収集などに手間取ると、相続手続きに定められた様々な期限を過ぎてしまうおそれがあります。
法的な保護が不足する
法律に基づいた適切な保護がないと、相続人間で不公平が生じる危険があります。特に、生前贈与や遺贈によって遺留分を侵害された場合、遺留分侵害額請求による救済が必須となります。
相続弁護士を選ぶ際のポイント
次に、相続で弁護士を選ぶ際のポイントを解説します。弁護士選びは、法律知識や経験、相性やコミュニケーション、かかる費用など、総合的な観点から検討してください。
相続問題を任せる弁護士の選び方
相続問題を任せる弁護士を選ぶにあたっては、次の点に注意してください。多くの弁護士がいて迷う方もいるでしょうが、相続を任せるのに最適かどうか、という観点で選びましょう。
相続分野の専門性が高い
相続トラブルを任せる弁護士は、相続問題に精通している必要があります。様々な専門分野があり、相続を扱わない弁護士もいます。
多数の分野を扱う事務所では、最新の法改正や裁判例など、特化した知識のないこともあります。大規模な事務所では、経験豊富な弁護士が担当してくれるかがポイントです。専門知識の有無を知るには、サイトなどの情報発信や解決実績が参考になります。
デメリットを示してくれる
相続には良い点だけでなく悪い点もあります。絶対勝てる戦いなどなく、依頼を勧めるのは簡単ですが、リスクを伝えずに良い面ばかり話す弁護士は信用できません。
デメリットも包み隠さず、遠慮なく質問できる弁護士を選びましょう。誠実な弁護士なら、話しやすい雰囲気作りをしてくれますが、最終的には性格や相性も重要な決め手です。
顧客目線でわかりやすく説明してくれる
相続は難しい法律問題が多く、専門用語を多用するとわかりづらくなってしまいます。顧客目線で、わかりやすく説明してくれる弁護士は、知識と経験が豊富であり、選ぶべき弁護士といえます。
弁護士に任せるにあたり丸投げはお勧めできないので、何をしてくれるか、説明のわかりやすい弁護士を選びましょう。
明朗会計である
弁護士に依頼するのに心配なのが費用面でしょう。特に、相続トラブルは長期化しやすく、遺産が高額になると弁護士費用も高くなってしまいます。「安かろう悪かろう」では意味がないですが、サービス内容に比して不当に高い費用の弁護士はやめるべきです。
適正な弁護士費用をしっかり説明してくれる、明朗会計の弁護士に依頼するのがお勧めです。費用について相談時に納得いくまで説明を求めた上で、契約するようにしてください。
他の士業との連携やチームでの協力も重要なので、税理士や司法書士から紹介されて弁護士を決めるのもお勧めの方法です。
初回相談のコミュニケーションで決める
相続を任せる弁護士選びでは、初回相談を活用することが大切です。初回の相談は、まさに弁護士と初めて顔合わせをする重要な場面です。このときのコミュニケーション力があるかどうかは、上記のような様々なポイントをよく反映しています。
相談をうまく活用するには、事前準備が欠かせません。相続に関する状況、悩みの内容や希望する方針などをメモしてまとめておくのがよいでしょう。重要な書類があれば、忘れず持参してください。
対立する人の思いが絡み合い、複雑化した相続問題では、法律知識以上に、感情面のノウハウが重要となる場面もあります。初回相談において、相談者に共感してくれて、心情を察して行動してくれる弁護士かどうかを見極めてください。あなたが不快に思うような弁護士は、たとえ知識が豊富でも、対立する相手にも同じような振る舞いをし、争続を悪化させる危険があります。
相続問題を弁護士に相談してから解決までの流れ
次に、相続問題を弁護士に相談してから、解決するまでの流れについて順に解説します。
相談の予約をする
相続問題だけでなく、多くの法律相談は予約制となっています。電話やメール、問い合わせフォームなどの方法で、相談日程を予約します。問い合わせの段階で、相談者の氏名や連絡先を伝えるほか、利益相反がないか確認するため、被相続人の氏名を事前に伝えておきましょう。
初回の相談をする
予約した日時になったら法律事務所を訪問し、弁護士と対面で相談を行います。電話やメールだけでは事情聴取が不足し、複雑な相続問題について正確なアドバイスをもらえません。信頼して任せるべき弁護士かどうかも判断がつかないでしょうから、対面で話すのがお勧めです。
初回相談前によくある質問について回答しておきますので参考にしてください。
- 相談時に持参すべき資料は?
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相続関係を示す資料、遺産を示す資料などが大切ですが、関連する可能性があると思えば全て持参しましょう。相談者が取捨選択し、弁護士に伝わらない資料があるのはもったいないです。あなたが価値を感じなかった書類が、実は法的にとても重要かもしれません。
- 初回相談では何を話したらよい?
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初回相談で話すべきは、まずは現在置かれた状況、次に今後の希望する方針です。ただし、弁護士が丁寧にヒアリングをし、「何を話してよいかわからない」ということにはならないので安心してください。
- 相談したことは誰にもバレない?
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弁護士は守秘義務を負っているので秘密は守られます。共同相続人となる可能性のある家族や親族にも、相談したことがバレることはありません。
相談は何度してもよいので、納得するまで相談をしましょう。
方針の提案と見積もり
弁護士が事情を把握し、アドバイスをもらったら、次に、相談者の希望を叶えるための方針を提案してもらい、それを弁護士にサポートしてもらうための見積もりをしてもらいます。方針説明は、何をしてくれるのか、具体的にイメージできるよう、詳細にするよう求めましょう。
初めて弁護士に依頼する方にとって、弁護士費用は高額に感じるかもしれませんが、重要なことは、その費用を払って解決することに合理性があるかどうか、という点です。費用体系がわかりづらく、なぜその金額になるかの説明がないとき、依頼すべきではありません。
委任契約の締結
納得し、任せることを決断したら、委任契約を締結します。委任契約書は弁護士が作成し、読み聞かせをしますので、説明をよく聞くようにしましょう。
重要なポイントは、どの範囲の業務をサポートしてくれるか、いくらの費用をいつ支払うか、途中解約したらいくらかかるか、といった点です。
弁護活動の遂行と解決
着手金などの費用を支払うと、弁護活動がスタートし、相手との交渉や裁判手続きなどの業務を進めていきます。どのような業務や手続きを要するかは、依頼者の抱える悩みによって様々です。
法律相談時や委任契約にて説明した方針の通りに進んでいるか確認し、変更が生じる場合にはよく弁護士の説明を受けながら進めるようにしてください。
相続を弁護士に依頼するときかかる費用
相続を弁護士に依頼するとき、かかる費用がどれくらいか不安になるでしょう。弁護士に任せる唯一のデメリットといってよいかもしれません。ここでは、弁護士費用の基本について解説します。
相続の弁護士費用
弁護士費用は、古くは旧日弁連報酬基準というものが存在していましたが現在は自由化され、弁護士によって様々な料金体系となっています。費用の種類には、次のものがあります。
- 相談料
相談をする際にかかる費用 - 着手金
依頼に着手する際、最初にかかる費用 - 報酬金
弁護活動が終了したとき、その成果に応じてかかる費用 - 日当
弁護士が事務所外で活動する際にかかる費用 - 手数料
着手金・報酬ではない一定の作業を依頼する際にかかる費用 - タイムチャージ
時間単価で依頼する業務についてかかる費用 - 実費
郵送代、交通費など弁護活動の遂行にかかる実費
現在もなお参考にされることの多い、旧日弁連報酬基準は、次のように経済的利益に応じて弁護士費用を定めています。経済的利益というのは要するに、依頼者が経済的に得をする金額です。遺産や遺留分を請求するケースならば獲得した金額、請求される側ならば請求額からの減額分を参考にして決めるのが通例です。
経済的利益の額 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
300万円以下 | 8% | 16% |
300万円を超え、3000万円以下 | 5%+9万円 | 10%+18万円 |
3000万円を超え、3億円以下 | 3%+69万円 | 6%+138万円 |
3億円を超える場合 | 2%+369万円 | 4%+738万円 |
なお、相続を任せるときには、費用の安さだけで選ぶのでなく、専門性や解決実績を参考にし、どのように成功に導いてくれるかを重視してください。
弁護士費用を安く抑える方法
節約しすぎることで、経験や専門性に欠ける弁護士に依頼してしまうと、かえって十分な解決を得られず損します。とはいえ、相続の弁護士費用をできるだけ安く抑える方法についても知っておきましょう。
相談料が無料の弁護士を選ぶ
相談料が無料の弁護士を選べば、その分だけ相談料が安くなるのは当然です。また、無料相談によって複数回相談し、事前に知識を得ておけば、実際に弁護士に依頼する際にもスムーズに進めることができます。無料相談している事務所をうまく活用することは、弁護士費用の節約につながります。
合理的な方針を選択する
相続は、感情的対立が優先されることがありますが、こと経済的な面においては、合理的な方針を選択することが、結果として弁護士費用を安く抑える役に立ちます。他の相続人に不満があるからといっていつまでも交渉をまとめず、調停や審判、訴訟といった手続きに発展すれば、かえって費用ばかり高くついてしまいます。
着手金の分割払い、後払い
相続の問題は、解決までの期間が長期に渡ることが多く、着手金を一括では払いきれなくても、分割払いに応じてくれる弁護士もいます。また、多くの遺産を獲得できる可能性のある事案では、着手金の一部ないし全部を後払いとしてもらえないか相談してみましょう。
法テラスを利用する
資力のない方でも、相続問題の悩みは容赦ありません。民事法律扶助の収入要件、資力要件を満たす場合には法テラスを活用することができます。法テラスは、一定の弁護士費用を国が負担してくれ、その後分割払いで償還することのできる制度です。
相続を弁護士に相談するタイミングは早い方がよい
相続について弁護士に相談するタイミングは早い方がよいです。悩みの小さいうちに解決したほうが、手間も費用も少なくて済みます。弁護士に相談するのは敷居が高く感じたり、費用が心配だったりするでしょうが、相談だけであれば無料もしくは1万円以内で終わることがほとんどです。
「もう少し問題が深刻化したら」「まだ自分一人で解決できるはず」と考えて依頼のタイミングを逃した結果、手のつけられない紛争に発展することもあります。相談タイミングは「できるだけ早く」が原則。他の相続人と話し合ってからにしようと考える人もいますが、相続人は基本は「敵」だと考えるべきです。弁護士は、依頼者の味方であり、相続人全員の味方をすることはできないのが基本となっています。
最悪でも、相続が開始したタイミング、遺言が発見された時点、他の相続人から請求が届いた時点といった重要な場面では、必ず弁護士に相談してから行動を決めるようにしてください。
相続問題の専門家について
まとめ
今回は、遺産相続の問題で悩む方に向けて、相続に強い弁護士の選び方を解説しました。
弁護士の探し方には、友人・知人の紹介、他士業の紹介、ネット検索や広告など様々な方法がありますが、どの方法で探したとしても、最終的には、任せるべき弁護士かどうか、実際に会って話してみるのが一番大切です。まずは初回相談に、ぜひお越しください。