結婚、離婚、再婚を繰り返した人がお亡くなりになったときに、相続問題でよく揉め事となるのが、「前妻の子(前夫の子)の相続権」です。
前妻は、離婚後は、相続をする権利はありませんが、前妻の子は、離婚、再婚を繰り返したとしても子の地位のままで居続けるため、相続をする権利をもっています。この場合、前妻の子の相続分、遺留分の割合を理解しておかなければ、「争続」の火種となります。
今回は、前妻(前夫)との間の子がいたときの遺産相続、遺産分割の注意点と、前妻(前夫)の子にできるだけ相続財産(遺産)を渡さない方法について、相続に強い弁護士が解説します。
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前妻の子(前夫の子)には相続権がある
前妻(前夫も含みます。以下同じ)には相続権はありません。これは、配偶者(妻もしくは夫)は、離婚をすれば他人になることから、離婚後に死亡して相続が開始されたとき、民法で定められた法定相続人にはならないからです。
これに対して、前妻(前夫)との間に生まれた子は、離婚をしても、「子」の地位を確保し続けますので、法定相続人で居続けます。そのため、前妻(前夫)の間に子がいる場合、離婚をし、さらに再婚をしたとしても、前妻の子が相続する権利に配慮しなければなりません。
前妻の子(前夫の子)と、現在結婚している相手との子とは、「義理の兄弟姉妹」の関係にありますが、突然相続人が増えることとなると、争いとなる可能性は容易に予想されます。
たとえば・・・
法定相続人が、再婚後の後妻と、後妻との間の子1人、相続財産が8000万円であったとします。
この場合、再婚前の前妻との間に子がいなければ、法定相続分にしたがって、後妻が4000万円、後妻との子が4000万円の相続財産(遺産)を得ることができます。
しかし、前妻との間に子がいた場合には、その子も法定相続人となり、相続権を持ちますので、この場合には、後妻が4000万円、前妻との子が2000万円、後妻との子が2000万円をそれぞれ相続します。
上の例からもわかるとおり、離婚した前妻との間にも、再婚後の後妻との間にも子がいる場合には、それぞれの子は平等に相続権を持ちます。そのため、子が複数いる例にならって、それぞれ等分に相続財産(遺産)を分け合います。
注意ポイント
前妻の子(前夫の子)もまた「実子」であり、法定相続人となることは、その子の親権を被相続人がもっているかどうかには関係ありません。
つまり、離婚したときに、前妻(前夫)に親権を渡して(奪われて)、新しい家庭を築いたとしても、前妻の子(前夫の子)が相続人となって、遺産分割協議に参加してくることに変わりはありません。
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前妻の子(前夫の子)には遺留分がある
前妻の子(前夫の子)が、第一順位の法定相続人(「子」の地位)にあることから、この「子」が有する遺留分の権利も、等しく有しています。
遺留分とは、法定相続分に対して遺留分割合を乗じた相続分であり、相続によって最低限入手できることが保証された金額です。「子」の遺留分割合は「2分の1」ですので、「子」は、相続財産に法定相続分「2分の1」を乗じ、遺留分割合「2分の1」を乗じた「4分の1」を、遺留分として確保できます。
「子が遺留分を有する」という結論は、相続開始時(死亡時)現在の妻の子はもちろんのことですが、離婚した前妻の子であっても同じことです。
遺留分は、遺言書の内容や生前贈与よりも優先されます。つまり、遺言書を作成して「後妻との間の子に、すべての財産を与える」と遺言を残しても、少なくとも遺留分相当額は、前妻の子に与えなければなりません。
具体的には、前妻の子(前夫の子)が、「遺留分減殺請求権」という権利を行使し、さきほどの遺言があった場合には後妻の子に対して、「得た相続財産(遺産)のうち、遺留分に相当する額の財産を返還するように」と請求することができます。
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遺留分減殺請求を弁護士に相談するメリットは、こちらをご覧ください。
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前妻の子(前夫の子)の遺留分割合は?
前妻の子(前夫の子)が存在したとしても、その子に相続財産(遺産)を渡さなければならないことが確定しているわけではありません。
遺言、生前贈与などによって、例えば後妻やその子に財産を与えることとしたとき、前妻の子が「遺留分減殺請求権」という権利を行使しない場合には、前妻の子(前夫の子)に対して、相続財産(遺産)を渡す必要はありません。
遺留分減殺請求権は、遺留分を侵害している部分に対して行使することのできる権利ですが、その金額を明らかにするため、前妻の子(前夫の子)の遺留分割合について、弁護士が解説します。
なお、前妻の子も、後妻の子も、「子」という法定相続人の身分は平等ですので、相続分も遺留分も、それぞれ同等となります。
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遺留分が認められる割合と計算方法は、こちらをご覧ください。
相続のときに、「相続財産(遺産)をどのように分けるか」については、基本的に、被相続人の意向(生前贈与・遺言)が反映されることとなっています。 被相続人の意向は、「遺言」によって示され、遺言が、民法に定 ...
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相続人が配偶者と子の場合、遺留分割合は?
相続人が、配偶者(妻もしくは夫)と子の場合の、前妻の子(前夫の子)の遺留分割合について解説します。例えば、再婚後の後妻とその子、前妻との間にも子がおり、その全員が法定相続人になるケースです。
この場合には、前妻の子も、後妻の子も、同じ割合で遺留分を分け合うため、前妻の子の遺留分割合は、次のとおり計算されます。
前妻の子の遺留分割合=「子」の法定相続割合(1/2)×「子」の遺留分割合(1/2)
相続人が子のみの場合、遺留分割合は?
相続人が、「子」のみの場合であっても、前妻の子の遺留分割合が問題になることがあります。例えば、再婚後の後妻との間に子がおり、後妻自身は既に亡くなっており、前妻との間に子がいることが発覚したケースです。
この場合、「子」の立場にある法定相続人が、相続財産(遺産)を分け合うことになりますので、前妻の子の遺留分割合は、次のとおり計算されます。
前妻の子の遺留分割合=相続財産(遺産)全額×「子」の遺留分割合(1/2)
相続開始後、前妻の子(前夫の子)に連絡をとらなければならない?
相続が開始した後(被相続人が死亡した後)、前妻(前夫)に子がいることが判明したとき、その「子」も法定相続人となり、相続分・遺留分を有することをご理解いただけたでしょうか。
相続人となるということは、相続が開始した後で、連絡をとらなければならない可能性が高いとお考えかもしれませんが、実際には、前妻の子(前夫の子)に対して連絡をとらなくても、相続手続きを進めることができるケースもあります。
場合分けして、どのような場合には、発覚した、いわゆる「隠し子」に連絡をとらなければならないのか、弁護士が解説します。
遺言が存在しない場合
被相続人が生前対策などを行っておらず、遺言書が存在しないケースでは、相続が開始すると、「相続財産(遺産)をどのように分けるか」を決めるために、遺産分割協議を行わなければなりません。
遺産分割協議は、相続人全員が参加し、相続人全員が合意した内容を遺産分割協議書にして締結しなければ、相続財産(遺産)を分割できません。つまり、前妻の子(前夫の子)も相続人として、遺産分割協議に参加させなければ、相続財産の利用・処分ができません。
そのため、遺言書が作成されていないケースでは、知れた相続人に対しては、すべて連絡をとる必要が出てきます。前妻の子(前夫の子)に連絡せず、参加させずに勝手に遺産分割方法を決めることはできません。
自筆証書遺言が存在する場合
自筆証書遺言とは、遺言書のうち、お亡くなりになったご家族(被相続人)が、公証人などの助力を得ずに自分の手で作成した遺言のことです。
自筆証書遺言は、素人が自分だけで作成したものであるため、紛失、隠匿、偽造、改ざんなどを避けるため、「検認」という手続きを家庭裁判所で行わなければ、その遺言に従った遺産分割を進めることができません。
そして、この「検認」の手続のために相続人全員の関与が必要となることから、自筆証書遺言しか残されていない場合、結局前妻の子(前夫の子)に対して連絡をする必要があります。
公正証書遺言が存在する場合
公正証書遺言とは、遺言書のうち、公証役場で公証人の協力のもとに、公正証書として作成される遺言のことです。公正証書遺言の場合には、公証人が作成し、公証役場で保管されることから、自筆証書遺言と異なり「検認」は不要です。
「検認」が不要であることから、公正証書遺言の場合には、前妻の子(前夫の子)が相続人として存在することが明らかになっても、必ずしも連絡をする必要はありません。
生前の相続対策を適切に行い、公正証書遺言が存在する場合には、遺言書に登場しない相続人には、相続が開始したこと自体知らせなくても、遺産分割を進めることができます。
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公正証書遺言と自筆証書遺言の比較・メリットは、こちらをご覧ください。
数ある遺言書の種類のうち、特によく利用されているのが「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類です。この2つの遺言については聞いたことがある方が多いでしょう。他方、秘密証書遺言や緊急時の遺言の利用頻度 ...
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前妻の子(前夫の子)にできる限り相続財産(遺産)を渡さない方法は?
最後に、ご家族が再婚者であり、前妻の子(前夫の子)が存在することが生前から明らかになっていた場合に、できる限り相続財産(遺産)を渡さないための、生前対策の方法について、弁護士が解説します。
公正証書遺言を作成する
さきほど解説したとおり、公正証書遺言を作成して、例えば「後妻の子にすべての相続財産(遺産)を与える」などといった遺言を残せば、前妻の子(前夫の子)の存在を知っていたとしても、相続が開始したこと自体を伝える必要もなく、遺産分割を完了させることができます。
この公正証書遺言の内容が、前妻の子(前夫の子)の遺留分を侵害していた場合、遺留分減殺請求権によって、多くもらいすぎた財産を請求される可能性がありますが、この権利は「相続開始を知っていから1年、相続開始から10年」の間に行使しなければなりません。
そのため、公正証書遺言を作成し、前妻の子(前夫の子)に相続開始を知られず、そのまま10年間が経過すれば、前妻の子(前夫の子)には、一切の相続財産(遺産)を渡さなくてもよくなるということです。
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公正証書遺言の書き方と注意点は、こちらをご覧ください。
公正証書遺言は、自筆証書遺言、秘密証書遺言といった、その他の遺言の形式に比べて、確実性が高く、偽造、改ざんをされにくい点で、最もお勧めの遺言方法です。 遺言書を作成して遺言を残そうと、弁護士、税理士、 ...
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生前贈与を行う
生前に行うことのできる、前妻の子(前夫の子)にできるだけ財産を与えないための相続対策として、生前贈与があります。つまり、生きている間に、後妻や、後妻の子に対して、法定相続分よりも多くの財産を、贈与によって与えておく方法です。
しかし、生前贈与は、通常は「特別受益」にあたり、相続財産(遺産)に持戻して計算することになるため、前妻の子(前夫の子)が生前贈与に対して文句を言ってきた場合、思い通りの結論とはならない可能性があります。
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生前贈与するときの贈与契約書の書式は、こちらをご覧ください。
相続対策をするとき、検討しなければならないのが「生前贈与」です。つまり、お亡くなりになる前に、生きているうちに、財産の一部を他人に贈与するという相続対策です。 財産を贈与する契約のことを贈与契約といい ...
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生命保険に加入する
生命保険は、遺産分割においては、相続財産(遺産)ではなく、受取人の固有の財産として取り扱われます。つまり、生命保険を相続人の1人が受け取っても、それを他の相続人に分け与える必要はないということです。
このことは、前妻の子(前夫の子)が遺留分についての権利を行使しても同様です。そもそも生命保険が相続財産(遺産)にならないことから、遺留分の対象ともならないからです。
ただし、生命保険が、相続財産(遺産)の大部分を占めているなど、あまりに他の相続人にとって不公平な状況となっている場合には、「特別受益」の考え方に基づいて、その生命保険分を相続財産(遺産)に持戻して計算すべきと判断される危険があります。
遺留分を放棄してもらう
遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた権利であるため、その権利は手厚く保護されており、相続開始前に放棄してもらうためには、家庭裁判所に申立て、許可の審判を得る必要があります。
家庭裁判所で、許可の審判を得るためにも、生前の遺留分放棄に合理的な理由がある場合、例えば、遺留分を放棄するのに相当する財産を得ている場合などの事情が必要とされています。
そのため、前妻の子(前夫の子)が、どうしても相続財産(遺産)を得たいと考えている場合には、なるべく与える財産を減らすという目的で遺留分の放棄を活用することはできません。
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遺留分の放棄の手続・方法は、こちらをご覧ください。
他の相続人にあらかじめ遺留分を放棄させたい、もしくは、「争続」を回避するために、遺留分を放棄したい、という相続相談が、弁護士のもとに寄せられます。しかし、遺留分の放棄は、(特に、ご家族がお亡くなりにな ...
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相続放棄してもらう
相続放棄は、相続人の意思によって、最初から相続人ではなかったこととする手続であり、家庭裁判所に申述することによって行います。
前妻の子(前夫の子)が、相続放棄を進んで行ってくれれば、相続財産を渡さなくて済むようになるわけですが、積極的にはたらきかけて相続放棄をしてもらうことは困難なケースも少なくないのではないでしょうか。
例えば、相続したい財産があるのと同時に、一方で相続したくない債務(借金・ローン等)もある場合であるとか、相続関係が複雑で「争続」が長期化することが明らかな場合であるといった場合には、前妻の子(前夫の子)には相続放棄してもらって、相続関係から抜けるることを提案してみてください。
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相続放棄したほうが得かどうかの判断基準は、こちらをご覧ください。
相続放棄とは、お亡くなりになったご家族から、財産を引き継がず、その代わりに莫大な借金も引き継がないために利用する制度です。 いざ相続が開始したら、葬式や通夜などであわただしいでしょうが、早めに相続財産 ...
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相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、再婚をしたご家族に、前妻の子(前夫の子)が存在する場合の、相続問題におけるトラブルと、前妻の子(前夫の子)にできる限り財産を渡さない方法・対策について、弁護士が解説しました。
特に、離婚を経験し、前妻の子(前夫の子)がいる場合、「争続」トラブルに家族が巻き込まれることが容易に予想されます。現在のご家族を大切にされたいのであれば、ぜひ公正証書遺言による生前対策をお勧めします。
「相続財産を守る会」では、前妻の子(前夫の子)との相続トラブルが予想される事案を解決するために、適切な公正証書遺言を作成するご提案経験を豊富に有する弁護士がサポートします。