結婚と離婚を繰り返した人が亡くなると、相続のとき「前妻の子(前夫の子)」が相続できるかどうかが争点となります。現在の家族からすれば、できるだけ財産を与えたくないと考えるのは当然。
前妻(前夫)は、離婚によって相続人ではなくなるので、離婚後は相続する権利はありません。しかし、前妻の子(前夫の子)は、離婚をしたとしても、その後再婚したとしても子供の地位を失わず、相続することができます。この場合に、できるだけ相続させないようにする生前対策も、遺留分によって阻まれるおそれがあります。
今回は、前妻の子(前夫の子)の相続問題について解説します。
前妻の子(前夫の子)は相続できるのが原則
前妻(前夫)には、相続する権利がありません。配偶者(夫または妻)は離婚すれば他人であり、離婚後に開始された相続について、民法の定める法定相続人にはならないからです。
これに対し、前妻の子(前夫の子)は、離婚しても「子」の続柄を確保し続けます。そのため、当然ながら法定相続人で居続け、離婚後に死亡したとしても相続できるのが原則です。このことは、離婚後に再婚し、新しい家族がいたとしても変わりません。
前妻の子(前夫の子)と、現在婚姻中の相手の子とは、義兄弟の関係になり、その相続割合は平等です。つまり、子供が複数いる場合の通り、それぞれ等分に遺産を分け合います。相続調査によって突然に知らない相続人が増えることもあるため、争いとなることは容易に予想でき、生前対策が重要な場面です。
また、遺産分割協議は、相続人全員の同意がなければ終わらないため、前妻の子(前夫の子)も参加させる必要があります。
離婚した親の相続について
前妻の子(前夫の子)に遺産を渡さない方法
前妻の子(前夫の子)が相続人となるのは避けられないとしても、現在の家族からすれば、できるだけ遺産を渡したくないと考えるはずです。そのためにできる生前対策について、次に解説します。
遺言を残す
まず、遺言を残すことにより、現在の家族を守りましょう。
「後妻の子に全財産を相続させる」といった遺言を残せば、後述する遺留分侵害請求をしてくる以外は、前妻の子(前夫の子)に一切遺産を渡さないことができます。
また、遺言があれば、遺産分割協議をせずに分割できるため、協議のために前妻の子(前夫の子)に連絡する必要もありません。遺留分侵害額請求権には「相続の開始を知った時から1年」「相続開始から10年」という2つの期限があり、相続開始を知らせずとも、そのまま10年経過すれば、前妻の子(前夫の子)に遺留分すら渡さなくてもよくなります。
生前贈与を行う
生前贈与によって遺産を減らしておけば、前妻の子(前夫の子)に相続される財産をなくすことができます。つまり、生きている間に、後妻やその子に対し、贈与によって財産を与えるのです。
ただし、このような生前贈与は特別受益に当たる可能性があり、相続財産に持戻して計算しなければならなくなると、前妻の子(前夫の子)に全く財産を与えないようにはできないケースもあります。生前対策は、死後にやり直しが聞かないため、専門家の意見を聞いて慎重に進めてください。
生命保険に加入する
遺産分割において、生命保険は遺産ではなく、受取人の固有の財産となります。つまり、生命保険を相続人の1人が受け取っても、それを他の相続人に分け与える必要はありません。そして、生命保険は遺留分の対象ともならないため、前妻の子(前夫の子)による遺留分侵害請求権も阻止することができます。
ただし、生命保険が、遺産の大部分を占めているなど、あまりに他の相続人にとって不公平な状況となる場合、特別受益の考え方に基づいて是正する必要ありと判断される危険があります。
相続放棄させる
前妻の子(前夫の子)が相続放棄してくれれば、初めから相続人でなかったことになり、遺産を渡す必要はなくなります。とはいえ、積極的にはたらきかけても相続放棄に応じてもらえるケースは多くはありません。
例えば、遺産のなかに債務が存在する場合など、必ずしも相続することが得ではない場合、前妻の子(前夫の子)に相続放棄すべき事案であること提案する手があります。
相続放棄の基本について
前妻の子(前夫の子)に遺留分を渡さない方法はある?
前妻の子(前夫の子)は、第一順位の法定相続人なので、遺留分があります。
遺留分は、民法において最低限相続することが保証された割合であり、「子」の続柄の場合には、法定相続分の2分の1が遺留分となります。このことは、現在の家族でなくても、離婚後であっても、「子」に当てはまるなら同じことです。
前妻の子(前夫の子)の遺留分の割合は、次のようになります。
- 相続人が配偶者と子の場合
前妻の子(前夫の子)の遺留分
=子の法定相続分(2分の1)×子の遺留分割合(2分の1)
=4分の1 - 相続人が子のみの場合
=遺産全額×子の遺留分割合(2分の1)
=4分の1
遺言や生前贈与によって対策しても、遺留分を無視することはできないため、前妻の子(前夫の子)の相続問題を解決するには、この遺留分を渡さない方法を考えなければなりません。遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた権利で、手厚く保護されます。
相続開始前に遺留分の放棄をさせるには、家庭裁判所に申し立て、許可の審判を得る必要があります。家庭裁判所で、許可の審判を得るには、生前の遺留分放棄に合理的な理由がないといけません。例えば、遺留分を放棄するのに相当する財産を得ているといった事情が考慮されます。
遺留分の基本について
前妻の子(前夫の子)に連絡がとれないとき相続はどうなる?
最後に、そもそも前妻の子(前夫の子)に連絡がとれないときの対処法を解説します。いわゆる「隠し子」が典型例です。
亡くなった方(被相続人)は、離婚後も面会交流したり、連絡をとったりしていたとしても、現在の家族には隠しているケースもあります。隠していなかったとしても連絡先までは知らない方も多いでしょう。このようなときでも、子がいることが発覚したら、相続において対処が必要です。
遺言が存在するかどうかによって対処法が異なるため、ケース別に解説します。
遺言が存在しない場合
まず、遺言が存在しない場合です。
この場合には、相続の開始後、遺産をどう分けるか決めるために遺産分割協議を行う必要があります。遺産分割協議は、相続人全員で合意し、協議書を締結しなければ遺産を分割できません。つまり、知れた相続人には全て連絡をする必要があり、前妻の子(前夫の子)も相続人として参加させなければ、財産の利用、処分が進みません。
連絡せずに協議を進め、勝手にしてしまった分割は後から無効になるおそれがあります。
自筆証書遺言が存在する場合
自筆証書遺言、つまり、亡くなった方(被相続人)が自分で作成した遺言がある場合、検認の手続きを家庭裁判所で行わなければ、遺言に従った遺産分割を進めることができません。検認は、遺言の紛失や隠匿、偽造、改ざんを避けるために必要となる法的な確認の手続きです。
検認には、相続人全員の関与を要するため、自筆証書遺言しかないなら、前妻の子(前夫の子)に連絡しなければなりません。
自筆証書遺言について
公正証書遺言が存在する場合
最後に、公正証書遺言、つまり、公証人の関与する遺言が存在する場合です。公正証書遺言は、公証役場で作成し、保管されるため、検認は不要です。そのため、前妻の子(前夫の子)に対して連絡をする必要はありません。
そのため、生前対策として、公正証書遺言を作成することによって、相続開始を知らせずとも遺産分割が進むようにしておくのが最良の手です。
公正証書遺言について
まとめ
今回は、再婚をした家族の立場で、前妻の子(前夫の子)が相続トラブルの原因となるケースの解決策を解説しました。前妻の子(前夫の子)にできるだけ遺産を渡さない方法をとりたいなら、生前の対策が欠かせません。
離婚を経験し、前妻の子(前夫の子)がいる方は、相続争いとなることが事前に予想できるため、現在の家族を大切に思うならば、ぜひ遺言を残すなどの対策を講じてください。