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相続する遺産がない場合でも必要な手続きと準備しておくべき対策

相続というと、多くの人が資産や財産の引き継ぎを思い浮かべます。しかし、すべての相続がプラスの財産をもたらすわけではなく「親に遺産がない」「相続すべき財産がない」というケースもあります。また、財産はなく、負債のみが承継されてしまうケースも実は少なくありません。

とはいえ、遺産がない場合でも必要な手続きが、相続の場面では存在し、見過ごすとリスクになります。遺産がないからと放置すると、予期せぬ法的責任に見舞われ、手続きを複雑にする危険もあります。したがって、相続が発生した際は、財産があるかないかにかかわらず、適切な手続きを踏む必要があるのです。また、遺産がないと生前から分かっているなら、事前対策も重要です。

今回は、相続において遺産がない場合の対応について解説します。適切な準備と対策、必要な手続きを講じることで、将来に起こり得る相続トラブルを未然に防ぐことができます。

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相続する遺産がなくてももめるケースは多い

まず、「相続する遺産がないから」といって甘く見てはいけません。実際には、自分では「財産は少ない」という感覚だったとしても、法律や税務の観点からすれば、十分に相続対策をするに値する価額の財産を有している方も多くいます。相談時に「うちは遺産が少ない」と聞いても、よくヒアリングしていくと、かなりの額の資産を保有されている家庭は少なくないものです。

また、実務的には、財産の少なく家庭でも、相続トラブルはよく起こっています。

令和4年司法統計年報(裁判所HP)によれば、遺産分割事件の認容・調停成立件数(「分割しない」を除く)6,857件のうち、遺産1,000万円以下が2,296件と全体の3分の1もの割合となっています。遺産5,000万円以下だと5,231件と、全体の約4分の3もを占めることとなります。

相続の争いは、決して、何億、何十億もの資産を有する富裕層だけのものではありません。遺産の額によらず、次のようなトラブルが身近に起こるからです。

  • 家族との仲が悪い
  • 親族で少しでも財産を渡したくない人がいる(隠し子など)
  • 疎遠でありコミュニケーションが取りづらい
  • 感情的な対立で意思疎通がとれない
  • 財産は多額ではないが分けづらい(実家のみが遺産の場合など)

また、相続人間で、故人からの恩恵を受けていた人、介護をしていた人とそうでない人など、受けていた利益に違いがあると、死後に不公平感が生まれます。このような問題は、特別受益寄与分として、たとえ相続する遺産が少なくても問題化します。相続は、誰にでも起こりうる、ごく日常的な問題だという気持ちで、日頃から対策を怠らないようにしてください。本解説では、相続する遺産がないと考えている人に向け、必要な対処法について解説します。

相続する遺産がない場合の法的手続き

まず、遺産がない場合でも必要となる可能性のある法的な手続きについて解説します。

相続放棄の手続きを検討する

相続放棄は、遺産を受け取る権利を放棄する法的な手続きで、借金などの負債の承継を避けるのに利用されます。相続が開始したことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があり、期限を過ぎると放棄できません。

遺産がない場合も、実はあなたの知らない借金が故人にはあるかもしれません。そもそも相続する財産がないと、借金が見つかり次第マイナスになるのは必至であり、そのような不安が少しでもあるなら、期限内に相続放棄の手続きを取っておくのがお勧めです。

以上から、遺産がない相続こそ「借金がないか」を確認すべきです。一般に「借金」といって連想される借入やローンのほか、携帯代や電気代、家賃、入院費や医療費の未払いも相続されます。

なお、一度放棄すると撤回は難しいので「本当に相続する遺産が全くないのか調査を徹底する」を参照してよく調査してください。

相続放棄の手続きについて

法定相続情報証明書を取得する

法定相続情報証明書は、法律上の相続人についての証明となる公的文書です。相続に関わる様々な手続きで戸籍などの代わりに利用することができ、法務局に必要な戸籍謄本などと相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出することで取得することができます。

銀行口座の名義変更、相続登記には、多くの戸籍が必要となり、煩雑です。その度ごとに集めていては手間がかかるため、仮に今は「相続する遺産がない」と考えている場合でも、あらかじめ取得しておくことでトラブルを避けることができます。

相続に必要な戸籍の収集について

相続する遺産がない場合の相続税の取り扱い

相続がない場合には、対象となる財産がないわけですから相続税は課税されないのが原則ですが、それでもなお、注意しておくべき点について解説します。

相続税が課税されないケース

相続税は、遺産が一定額を超える場合にのみ相続人が支払うものです。その遺産額が基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超えない場合、課税されません。また、相続放棄をした場合も、その人は相続人ではなかったこととなるため、相続税は課されません。

実は課税される財産があった場合に、相続税の期限(相続開始を知った時から10ヶ月以内)までに申告、納税をしないと延滞税などが追加で課されるおそれがあります。「本当に相続する遺産が全くないのか調査を徹底する」を参照してよく調査してください。

遺産がなくても検討すべき節税策

相続税がかからない場合にも、次の特例制度を利用したいならば、相続税申告が必要となります。

  • 小規模宅地等の特例
    小規模な宅地の評価額を最大80%まで軽減できる特例。宅地の評価を下げることで遺産を少なくし、相続税を減らすことができます。制度を利用するには、小規模宅地等に係る計算書類、遺産分割協議書の写しを添付し、相続税申告書を提出する必要があります。
  • 配偶者控除
    配偶者が取得した遺産について1億6000万円もしくは法定相続分相当額のいずれか低い金額までは相続税が非課税となる特例です。

相続税の申告期限は、相続開始を知った時から10ヶ月以内とされますが、遺産分割が長期化する場合には、申告期限から3年以内に分割されるなら「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、特例を利用することができます。

税負担をあらかじめ予測して計画的に進める必要もあります。生前贈与は、相続税の節税策としてよく利用される方法であり、生前に財産を家族に贈与しておけば、将来の相続財産を減らし、相続税の負担を軽減できます。ただし、生前贈与には贈与税が課される可能性があるため、贈与税の基礎控除や非課税枠を理解して活用しなければなりません。

遺産がなくても相続計画を立てるのが重要

遺産がないとしても、相続において金銭面の計画を立てることは非常に重要です。相続計画は、生前から立てておく必要があり、財産の少ない家庭では特に、借金の管理、生命保険の活用といった点が大切です。

借金を管理する

まず、相続する遺産がない場合でも、借金が多いと相続人に迷惑をかけてしまいます。そのため、借金の管理を徹底し、できるだけ生前に責任をもって返済できるよう計画しましょう。返済先ごとに元本と利息を整理し、月の返済可能額を定め、どれくらいの期間で返せるかを検討してください。返済がどうしても難しい場合は、借金が膨らまないよう、破産も視野に入ります。

生命保険や投資を含む資産計画を立てる

相続する遺産がないことに生前に気付いたなら、将来に備えて資産形成をすることも、相続計画を立てるにあたって重要なことです。この際に最も活用されるのが、生命保険です。

まとまった財産がないとしても、月々の保険金を支払えば、相続時には死亡保険金が受取人に払われるので、相続人など家族の助けとなります。生命保険は遺産ではなく、受取人固有の財産となるため、財産がなくて相続放棄を選ばざるを得ないケースでも、生命保険だけは受け取れます。

相続計画は、一度立てても、相続開始までは何度でも見直すことができます。資産形成は、長期かつ計画的に進めるのが有益であり、早めに始めるに越したことはありません。なお、投資についてはリスクとリターンのバランスが重要であり、自己責任で、余剰資金の範囲で行うことをお勧めします。

終活とお金について

家族とコミュニケーションをとって進める

相続する遺産がない場合でも、むしろそのようなケースほど、家族とのコミュニケーションが大切です。死後に、財産がないと判明すると、負の感情につながる危険がありますから、相続人の納得は不可欠です。

また、限られた財産だからといって相続トラブルが起こらないわけではなく、むしろ少ない遺産を奪い合うケースも多いものです。金銭面だけでなく、感情的な側面にも配慮することが、遺産のない相続の場面では重要です。対話を常日頃から重ねることで、家族の関係を維持し、悪化している場合は改善しておいてください。

相続争いは遺産がない場合も発生しますから、事前の対策は欠かせません。

本当に相続する遺産が全くないのか調査を徹底する

ここまでは、相続する遺産がないという前提で、法律面、税務面、計画といった観点で解説してきましたが、本当に相続する遺産が全くないのかどうかは、よく調査をする必要があります。相続放棄した後で、遺産に気付いても、もはや取得することはできなくなってしまいます。

遺産がない、と考えている家庭において、注意して調査すべき。隠された財産がないか確認を徹底してください。調査の際に、慎重に進めたい点をチェックリストとして挙げておきます。

  • 隠された現金がないか
    押入れや仏壇、冷蔵庫など、特殊な隠し場所に注意する。
  • 貸金庫がないか
  • 預貯金の見落としがないか
    同一金融機関の他支店、最寄りの銀行、定期預金、カードや通帳のない「ネット口座」など、全て調べる。
  • 不動産の見落としがないか
    田畑や放置された山林、空き家、未登記の不動産なども相続される。
  • 無形の金融資産がないか
    株式(非上場会社のものを含む)、投資信託、国債、ゴルフ会員権、リゾート会員権など。
  • 有形だが小さく、なくなりやすい財産はないか
    金、ダイヤモンド、プラチナ、骨董品など。
  • デジタル資産はないか
    SNSのアカウントや、デジタルウォレット内の電子マネー、仮想通貨など、財産的な価値を有するデジタル遺産が存在する可能性あり。
  • 海外の資産がないか
    故人が外国人である場合など、日本には財産がなくても海外に資産がある可能性あり。

現金や預貯金、不動産といった典型的な遺産を見逃すことはないと思うかもしれませんが、予想外の隠し場所に置かれていることもあります。故人の遺産の特定はなかなか難しいため、「相続する遺産はない」という固定観念は捨て、上記リストを活用し、再度、徹底して調査してください。

相続財産調査について

相続する遺産がない場合のよくある質問

最後に、相続する遺産がない場合において、よくある質問に回答しておきます。

相続がない場合でも遺言は必要?

遺言は、相続財産の有無に関わらず、故人の最後の意思を明確に示す重要な文書です。金銭面のことのみ書くのでなく、葬儀の希望、墓の希望、思い出の品の行き先なども遺言で指定できます。また、感情面において残された家族にメッセージを残すといった役割もあります。

相続財産を放置した場合のリスクは?

遺産はないと考えて放置していたが実は存在した場合、義務化された相続登記を懈怠する、相続税の申告期限を過ぎてしまう、遺留分侵害額請求の時効が過ぎてしまう、といったリスクがあります。

まとめ

本解説では、相続する遺産がない場合に、それでもなお必要な手続きや注意点を解説しました。

相続に関する手続きや準備は、遺産がある場合だけでなく、遺産がない場合にも重要です。法的手続き、財務的な準備のほか、家族のお気持ちを含めた精神的な側面の準備も欠かせません。むしろ、遺産がないからこそ招かれる争いに対処するため、どのような場合でも遺言書の作成、相続人への説明の重要性は高いものです。

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