相続財産に不動産が含まれるとき、その不動産の名義を変更する手続きが必要です。この手続きを「相続登記」と呼びます。相続登記をするには「相続登記申請書」という書類を作成し、法務局に提出する必要があります。
相続登記申請書の書式と記載例は法務局のサイトに公開されていますが、今回はその書き方を、司法書士が詳しく解説します。司法書士は登記の専門家であり、相続登記を任せるのに適しています。今回の解説を理解し、相続登記を、相続人自らすることができれば、登記に必要な費用をできるだけ安く抑えることができます。
今回は、相続登記申請書の書き方について、ダウンロードできる資料とともに司法書士が解説します。
相続登記申請書を作成する準備
まず、相続登記申請書を作成する前の準備について解説します。
相続登記申請書は一から作成しなければなりません。というのも、申請書の書式やひな形を、役所の窓口でもらうような性質のものではないからです。そのため、用紙から全て自分で用意して、法律の定める登記申請書の形式に沿うように書類を完成させなければならないのです。
相続登記申請書は、次の形式的な要件を満たすものである必要があります。
- 用紙
A4用紙を使用します。相続登記申請書は、法務局に提出して審査を行うものなので、破れやすい紙や、長期間の保存が難しい種類の用紙は避けてください。 - 筆記具
パソコンで入力して印字するか、黒色ボールペンで手書きします。 - 印鑑
相続登記申請書の相続人欄には押印が必要です。印鑑は実印でなくてもよく、認印で足りますが、シャチハタは改ざん、変成が容易なため正式な文書には不向きです。 - 登記簿謄本
相続登記申請書には、相続財産に含まれる不動産の情報を、登記簿に従って正確に記載する必要があります。そのため、不動産の登記簿を取得しておいてください。 - 戸籍謄本
相続登記申請書には、相続人と被相続人に関する情報を、戸籍に従って正確に記載する必要があります。そのため、戸籍謄本を取得しておいてください。
相続手続きに必要な戸籍の収集について
相続登記申請書の書き方(書式ダウンロード可)
相続登記申請書は、相続人が自身で作成し、申請することも可能です。このとき、登記に関する法律知識は専門用語が多いため、よく理解しなければなりません。そこで次に、相続登記申請書の書き方について、順番に解説していきます。
まずは、相続登記申請書の完成形について、具体的なイメージを持っていただくために、一例として書式を示します(ダウンロードしてご使用いただけますが、あくまで一般的なケースを想定した例であり、各自の状況にあわせた修正が必要です)。
不動産登記申請書
登記の目的 所有権移転
原 因 平成32年1月1日
相 続 人 (被相続人〇山〇男)
(申請人)
〇山△男 持分2分の1
〒○○○ー○○○○ ○○市○○町一丁目1番地
連絡先の電話番号 XX-XXXX-XXXX
〇山◇子 持分2分の1
〒○○○ー○○○○ ○○市○○町一丁目1番地
連絡先の電話番号 XX-XXXX-XXXX
送付の方法により登記識別情報通知の交付を希望します。
送付先 申請人の住所
連絡先の電話番号 03-1234-5678
添付書類 登記原因情報 住所証明情報その他の事項
送付の方法により登記完了証の交付及び添付書類の原本還付を希望します。
送付先 申請人の住所
20XX年X月X日申請 東京法務局 御中
課税価格 金4,000,000円
登録免許税 金16,000円
不動産の表示
不動産番号 0100XXXXXXXXX
所 在 東京都中央区銀座二丁目
地 番 X番X
地 目 宅地
地 積 50.00㎡
以下では、上記書式の各項目について詳しく解説します。
登記の目的
相続登記申請書の「登記の目的」欄に記載すべき情報は、その登記がどんなものであるかを示す記載です。相続登記は、単に不動産の名義が変わるというだけではありません。相続によって、不動産の所有権や共有持分権が、被相続人から相続人に移ります。
このとき、亡くなった方(被相続人)の権利の種類や財産状況により、「登記の目的」欄に記載すべき情報には次の3つのパターンがあります。
- 被相続人が不動産の全部を所有していたケース
→「所有権移転」と記載する。 - 被相続人が不動産を共有していたケース
→「被相続人持分全部移転」と記載する。
なお、相続財産に不動産が複数含まれ、全部所有のものと共有のものが混在するでは、各不動産について別々の書面で申請しなければなりません。
原因
相続登記申請書の「原因」欄には、その相続登記が、どんな理由で起こったかについての情報を記載します。「相続による所有権移転」ということは、相続登記申請書を提出すれば明らかなのですが、「どの相続を原因とするのか」について、被相続人と死亡日を特定することで指定する必要があるからです。
したがって、「原因」欄には、亡くなった方(被相続人)の戸籍上の死亡日時を記載し、「XX年XX月XX月日相続」のように書きます。つまり、登記原因とともに、その原因が発生した日付を記載するということです。戸籍上の死亡日が「推定XX年XX月XX日から同月XX日の間」「年月日不詳」などと書かれることがありますが、この場合もそのまま申請書に転記します。
なお、遺産分割協議によって遺産分割が行われたときも、「原因」欄に記載する日付は遺産分割協議書の作成日ではなく、被相続人の死亡日です。遺産分割協議による所有権移転も、協議が成立したら相続開始時(つまり死亡日)にさかのぼって効力が生じるということです。
遺産分割協議の流れについて
相続人等
相続登記申請書の「相続人等」を記載する欄には、被相続人と相続人それぞれの情報を記載します。下記情報を、戸籍謄本、住民票などの記載と同じになるよう、正確に記載してください。
- 被相続人の氏名
- 相続人の氏名、住所、代表者の電話番号
- 相続人の持分
氏名や住所に難しい漢字がある場合には、特に注意を要します。パソコンで印字できない特殊な文字が使用されている場合は、その部分を除いて印刷し、後から手書きで補充します。そして、相続人の氏名の末尾に押印をしてください(認印可)。
持分割合は、遺産分割協議書を作成するケースでは、協議書の通りに記載します。不動産の共有持分を相続する場合は、相続人が1人だけだったとしても、その相続人が相続する持分の割合を書く必要があります。
添付書類
相続登記申請書の「添付書類」欄に、添付すべき必要書類を記載します。必要な添付書類は後述しますが、申請書の記載としては「登記原因証明情報、住所証明情報」と一般的に記載すれば足ります。
原本還付の希望
相続登記申請書に添付した資料は、相続登記の終了後に返却してもらうことができます。この資料を返してもらうことを専門用語で「原本還付」と呼びます。
原本還付を希望するならば、相続登記申請書に「原本還付希望」と記載し、返送先を申請人の住所宛とします。相続手続きのなかで戸籍などの書類が必要となる機会は多いため、還付された資料は金融機関の名義変更、口座解約など様々な場面に流用することができます。
登記完了証・登記識別情報通知書の交付の希望
相続登記申請書の提出後、相続登記が完了すると「登記完了証」を受け取ることができます。登記完了証は、相続登記の終了を申請者に知らせる書面です。相続登記申請書には、登記完了証の送付を希望する旨と、その送付先を記載しておく必要があります。
あわせて、登記識別情報通知書の交付を受けることができます。登記識別情報は、従前の登記済権利証の代わりとなる12桁の数字とアルファベットです。これによって権利証と同様に売買したり担保設定したりすることができるようになります。
登記完了証、登記識別情報通知書は、窓口での受領が原則なので、郵送を希望する場合にはその旨を申請書に記載します。
申請日
相続登記申請書の申請日は、法務局への提出日を記載します。実際に窓口に持参するならば、提出時に当日の年月日を記載すれば足ります。
郵送で申請する場合は、法務局への到達日が相続登記の日となるため、申請日は空欄にしておいて法務局に到着した際に埋めてもらいます。
宛先
宛先は管轄法務局宛とします。管轄法務局は、不動産の存在する場所を管轄する法務局です。
なお、相続登記をはじめとした不動産登記の申請は、オンラインで行うこともできます(この場合、相続人個人の電子証明が必要になります)。
課税価格・登録免許税
相続登記申請書に、不動産の課税価格とともに、納付する登録免許税の額を計算して記載します。
登録免許税は、不動産を登記する際にかかる税金であり、不動産の価格を基準に課税標準額を算出し、これに税率をかけて計算します。不動産の価格は、固定資産税評価額を基準にするため、証明書を入手しておく必要があります。登録免許税は、相続登記申請書に印紙を貼って提出する方法で納付します(消印不要)。
不動産の表示
最後に、相続財産となる不動産の情報を特定するのに十分な情報を、正確に記載します。具体的には、不動産の登記簿謄本を取得し、そこに書かれた以下の情報を正確に転記します。
- 一等の建物の表示(所在、建物の名称)
- 専有部分の建物の表示(不動産番号、家屋番号、建物の名称、種類、構造、床面積)
- 敷地権の目的である土地の表示
- 敷地権の表示
不動産の表示は、登記簿謄本の通りに正確に記載しないと、申請が受理されなかったり無効にされてしまったりするので注意が必要です。
相続登記申請書の添付書類
相続登記申請書に添付すべき必要書類は、次の2種類です。
登記原因証明情報
相続の状況に応じて、添付すべき書類が異なるため、場合分けして説明します。
遺言書により相続する場合
遺言書があるケースは、遺言書で指定された相続分(指定相続分)に従って相続財産を分割します。この場合、相続登記申請書の添付すべき登記原因証明情報は、次の通りです。
- 遺言書
- (自筆証書遺言の場合)検認調書又は検認済証明書
- 遺言者が亡くなったことがわかる戸籍謄本
- 受遺者が相続人であること(または相続人ではないこと)がわかる戸籍謄抄本
遺贈の場合
遺言書で、死亡を原因として財産を贈与するのが「遺贈」です。遺贈により不動産を贈与された場合には、相続登記申請書に添付すべき登記原因証明情報は、次の通りです。
【遺言執行者がいる場合】
- 遺言執行者の資格証明書(遺言書で執行者の指定がされているときは、その遺言書)
- 遺言執行者の印鑑証明書
【遺言執行者がいない場合】
- 被害相続人の相続関係のわかる戸籍謄本
- 相続人の戸籍謄抄本
- 相続人全員の印鑑証明書
遺言書がなく、遺産分割協議書がある場合
遺言書がない場合は、民法の定める相続分(法定相続分)を目安に、相続人の話し合いによって財産の分け方を決め、遺産分割協議書を作成するのが通例です。この場合には、相続登記申請書に添付すべき登記原因証明情報は、次の通りです。
- 被相続人の相続関係がわかる戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄抄本
- 遺産分割協議書(印鑑証明書付)
- 受遺者が相続人であること(又は相続人ではないこと)がわかる戸籍謄抄本
遺言書も遺産分割協議書もない場合
遺言書も遺産分割協議書も存在しないケースもあります。例えば、相続人が1人きりの場合です。相続人が1人なら遺産分割の手続きは不要ですが、相続が起こるため、相続登記申請書は必須となります。このときの相続登記申請書に添付すべき登記原因証明情報は、次の通りです。
- 被相続人の相続関係がわかる戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄抄本
- (他の相続人が相続放棄をした場合)相続放棄申述受理証明書
- 受遺者が相続人であること(又は相続人ではないこと)がわかる戸籍謄抄本
相続登記の手続きについて
住所証明情報
相続する人の住民票、戸籍の附票などを添付することで足ります。
1つの申請書で1つの相続登記が原則
最後に、相続登記申請書を提出する際の注意点を解説します。
相続財産に複数の不動産が存在する場合でも、複数の相続登記を1つの申請書にまとめてすることはできず、1つの不動産について1枚の登記申請書が必要なのが原則です。不動産を所有する方の多くは、土地と建物など、複数所有していることがよくあるでしょう。
ただし、登記の目的、原因、当事者が同じで、登記するそれぞれの不動産を管轄する法務局も同じ場合に限り、1枚の申請書で複数の登記申請をまとめて行うことができます。複数の不動産を1つの申請書でまとめて登記するときは、記載されたすべての不動産の課税価格を合算した登録免許税を納める必要があります。
まとめ
今回は、相続登記申請書の書き方を、記載例をまじえて解説しました。
相続財産を、確実に手に入れるためにも、遺言や遺産分割のみで満足せず、不動産の登記名義の変更までしっかりと行っておきましょう。相続登記は、今回の解説を参考に、書式をダウンロードし、自ら行うこともできます。ただ、複雑な法律問題が生じたり、書式の記載が正確でないと失敗してしまったりすることがあります。
どのように進めてよいかわからない方は、ぜひ相続のプロにご相談ください。