家庭内に問題があり、子供の1人に、相続財産(遺産)を一切残したくない、という相続相談が少なくありません。しかし、さまざまな方法があるものの「100%必ず、子供の1人に相続財産を与えない」方法はありません。
一般的には、「子どもにできるだけたくさんの財産を残してあげたい」というのが親心でしょうが、中には「勘当した」「縁を切った」「子がどこにいるか、生死もわからない」というご家庭もあります。
一方で、「子どもに与えるくらいなら、配偶者(夫や妻)、近しい友人に財産をもらってほしい」という想いを実現する方法もあります。「争続」とならないよう、注意して対策してください。
そこで今回は、遺言や生前贈与、養子縁組、相続廃除など、相続に関わるさまざまな知識、ノウハウを活用することで、子の1人にできるだけ相続財産(遺産)を残さない方法を、相続に詳しい弁護士が解説します。
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子の相続権は奪えないのが原則
家庭環境によって、子供のうち1人に相続させたくない、という方は思いのほか多いです。子が親孝行せず、親をないがしろにすれば、相続財産をあげたくないという希望も強くなることでしょう。
しかし、民法では、法律に定められた相続人(法定相続人)が定められており、「子」は、必ず法定相続人となります。その相続分は、「配偶者(夫、妻)とともに相続するとき」は、相続財産の2分の1、「子のみが相続人のとき」は、相続財産すべてです。
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法定相続人の範囲・順位と割合は、こちらをご覧ください。
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民法に定められた法定相続人の順位は、次の通りです。
ポイント
配偶者は、必ず相続人となる。
血族相続人の相続順位は、次の通り。
- 第一順位:子
- 第二順位:直系尊属(両親、祖父母)
- 第三順位:兄弟姉妹
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相続順位と、「誰が優先順位か」は、こちらをご覧ください。
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子どもは、特に年齢がまだ若い場合には、被相続人の扶養に入っていたり、被相続人に生活費をもらっていたりすることが多いため、子の相続する権利は強く保証されているのです。
子が、相続人としてふさわしくない行為をしていたり、親に反抗的だったり、何年も連絡をとっていなかったりしても、親の側から一方的に、法律で定められた相続権を奪うことはできません。したがって、子供のうち1人に相続させたくないのであれば、事前の相続対策が必要です。
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【方法①】遺贈・死因贈与で、子の1人に相続財産を残さない方法
相続の生前対策をするとき、真っ先にあがるのが、「遺言書を書く」ことによって相続対策する方法です。子の1人に相続財産(遺産)を与えたくないときにも、遺言が活用できます。
具体的には、遺贈(遺言による贈与)や死因贈与によって、財産を与えたくない子以外の人に対して「全ての相続財産(遺産)を贈与する」と遺言書に書いておくのです。このような遺言書も、その他の有効要件を満たしていれば、問題なく有効です。
しかし、子どもは、相続順位が高く、相続において保護されていると冒頭で解説したとおり、相続できる権利を侵害されたときは、「遺留分減殺請求権」によって救済を図ることができます。
遺留分の割合は、相続人が直系尊属のみのときは3分の1、その他の場合は2分の1ですので、子どもは、「すべての財産を子以外に贈与する」という遺言書があっても、相続できたはずの財産の2分の1までは、遺留分減殺請求権で取り戻すことができます。
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遺留分が認められる割合と、計算方法は、こちらをご覧ください。
相続のときに、「相続財産(遺産)をどのように分けるか」については、基本的に、被相続人の意向(生前贈与・遺言)が反映されることとなっています。 被相続人の意向は、「遺言」によって示され、遺言が、民法に定 ...
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【方法②】遺言で、子の1人に相続財産を残さない方法
遺言書を書くことによって子の1人に相続財産(遺産)を相続させない方法の2つ目に、より直接的に、遺言書に「〇〇には一切相続させない。」「〇〇の相続割合をゼロにする」と記載する方法があります(「相続分の指定」といいます。)。
しかしこの方法も、1つ目の方法と同様に、子どもの遺留分を侵害することが確実なため、子が遺留分減殺請求権を行使すると、相続財産(遺産)をもらった相続人は、その一部を子に返さなければなりません。
子どもの1人に一切の相続財産(遺産)を相続させたくない、というケースではなく、相続財産が多くあり、ある財産(たとえば自宅不動産)だけは子に相続させたくないというケースでは、遺留分に相当する金額の現金・預貯金などを子に与えれば、遺留分減殺請求権は行使されません。
子どもに遺言書の内容を納得させ、遺留分減殺請求権を行使せず、「相続できない」ことを受け入れてもらえれば、子には一切相続させないことができます。遺言書の内容を理解してもらうために、次の生前対策も重要です。
ポイント
- どのような遺言書を作成するか、生前に相続人全員に説明する。
- 遺言書に、遺言の内容となった理由を記載する。
- エンディングノート、動画など遺言書以外の遺志を残す。
なお、遺留分減殺請求権によって遺留分だけの財産は相続されてしまうとしても、できるだけ相続させる遺産を少なくするためには、遺言書の作成はとても有効は解決策です。
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公正証書遺言の書き方と注意点は、こちらをご覧ください。
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【方法③】相続欠格で、子の1人に相続財産を残さない方法
相続欠格とは、相続開始後(被相続人の死亡後)に、相続人に、相続人としてふさわしくない行為があったとき、被相続人の意思を必要とすることなく相続権を失わせることができる制度のことです。
相続欠格の要件は、民法に定められています。したがって、子の1人に相続させないようにするためには、他の相続人が、その子の相続欠格を主張して争う方法が考えられます。
- 故意に被相続人や先順位・同順位の相続人を殺害、または殺害しようとして刑を受けた者
- 被相続人が殺害されたことを知ったうえで、告訴や告発をしなかった者
- 詐欺や強迫により、被相続人の遺言作成・取り消し・変更を妨げた者
- 詐欺や強迫により、被相続人の遺言作成・取り消し・変更をさせた者
- 被相続人の遺言を偽装・破棄・変造・隠匿した者
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相続人になれない?「相続欠格」・「相続廃除」とは?違いは?
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【方法④】相続廃除で、子の1人に相続財産を残さない方法
「推定相続人の廃除」の制度を利用すれば、子の1人に対して、遺留分も含めてすべての相続財産(遺産)を相続させないことが可能です。
この制度は、子どもなどの相続人が、被相続人に対して、相続人としてふさわしくない行為を行ったことを理由に、被相続人が生前に家庭裁判所に「廃除」を請求するか、遺言書に記載することによって、相続人の相続資格をはく奪する制度です。
相続廃除によって、相続権をはく奪するための要件は、次のものです。次の行為を行っていない相続人に対しては、どれほど相続財産を相続させたくなくても、相続廃除は利用できません。この要件に該当するかどうかは、家庭裁判所で判断されます。
被相続人に対する一方的な虐待や重大な侮辱を加えたとき
著しい非行があったとき
なお、相続資格をはく奪するという重大な効果を生むことから、これらの行為によって、被相続人に対して、精神的、財産的な損害を与える程度の重大な行為であることが、相続廃除を認めてもらうためには必要となります。
例えば、「犯罪を起こした」というだけでは足りず、被相続人の財産を勝手に処分してしまったとか、繰り返し犯罪を起こして被相続人に精神的なダメージを与えた、といった程度のことが必要となります。
相続廃除をしても、「代襲相続」によって、相続廃除の効果が薄れてしまうことがあります。相続廃除によって相続人ではなくなった子の、更に子(被相続人の孫)がいた場合には、代わりに相続をする(代襲相続)ことができるからです。
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【方法⑤】養子縁組で、子の1人に相続財産を残さない方法
ここまで解説してきたとおり、相続順位が高く、相続権を強く保証されている「子」の身分を持つ人に、いっさいの相続財産(遺産)を相続させないことは、非常に難しいことであるとご理解いただけたことでしょう。
最終手段として、相続人となる人を増やすことによって、相続させたくない子の手にわたる相続財産(遺産)を少しでも少なくすることが考えられます。
「あの子には絶対に財産を渡したくない」という反面、「世話になった人に、財産をあげたい」という意思があるときは、相続財産を渡したい人と養子縁組をして親子関係を作ることによって、その人にも法定相続人としての相続分を与えることができるからです。
注意ポイント
なお、養子縁組を利用した不当な脱税をさせないために、相続税法上は、実子がいる場合には1人、実子がいない場合には2人までに、養子の数が制限されていることに注意が必要です。
この制限を超えて養子縁組をしても、相続税法上、相続税の基礎控除の計算(3000万円+600万円×法定相続人の数)において、法定相続人として加算されません。
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相続税がかかるかどうか調べる方法は、こちらをご覧ください。
相続税がかかるかどうかは、相続財産の金額によって異なります。具体的には、相続税法が「基礎控除」の金額を定めており、相続財産の金額がこの基礎控除額の範囲内であれば、相続税はかかりません 一方、相続税法は ...
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【方法⑥】相続財産を減らして、子の1人に相続財産を残さない方法
遺贈(遺言による贈与)や生前贈与などでは、遺留分を侵害するような相続のしかたができないことから、最終手段として、相続財産(遺産)自体を減らしてしまう方法もあります。
遺留分は、相続財産(遺産)の合計額に対して、「遺留分割合」を掛けて算出をしますので、相続財産(遺産)の合計額がゼロであれば、遺留分もなくなるからです。
早めの生前贈与などによって相続財産(遺産)を減らしておくことで、子の1人に対して、できるかぎり相続財産(遺産)を与えたくないという希望を実現することができます。
注意ポイント
ただし、生前贈与を相続人に対して行った場合に、「特別受益」となり、相続財産(遺産)に加算して計算しなければならない結果、やはり遺留分が生じるおそれがあることに注意が必要です。
「特別受益」とは、相続人の1人が、被相続人の生前に、被相続人の財産から特別の利益を受けていたことをいいます。特別受益に当たらないような生前贈与を行うよう注意が必要です。
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特別受益が認められる場合と、計算方法は、こちらをご覧ください。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、相続人となる子の1人に、相続財産(遺産)をどうしても与えたくない子どもがいる、というご家庭事情を考慮して、子どもの1人にできるだけ相続させないための方法を、弁護士が解説しました。
遺留分などによって相続資格が保護されている「子」の続柄にある人を、相続からはずすことは難しいものの、生前贈与と遺言を組み合わせることで、できるだけ手にわたる財産を減らすことができます。
「相続財産を守る会」では、相続に強い弁護士とともに、相続税に詳しい税理士も在籍しています。生前贈与を有効に行うためには、「できるだけ揉めないように」という弁護士のアドバイスとともに、相続税についても気を配るようにしてください。