節税対策を税理士に相談したとき、養子縁組を勧められることがあります。特に、「息子の嫁」や「孫」などと養子縁組することを、相続税対策として勧められることが多いです。
皆さまの周りにも、大人になって、結婚や離婚などが理由でないのに、突然名字が変わり、よく聞くとその理由は「相続対策」だという話を聞いたことはないでしょうか。しかし、養子縁組をするとどのような意味で相続税が減るのか、理解している方は多くありません。
そこで、息子の妻や孫などを養子にすることが、どのような意味で節税対策になるのか、相続税をどのような方法で減らすことが出来るのかについて、相続税に強い税理士が解説します。
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養子縁組すると相続税が減る理由
養子縁組をすると相続税が減る理由は、端的にいうと、養子が増えると、相続税から控除される金額が増える(その分相続税が減る)からです。
養子は、次のとおり、民法において、実子と同様に取り扱われることが決められていますから、養子縁組をして養子を増やすということは、「子」の続柄の相続人が増えることを意味しています。
民法727条(縁組による親族関係の発生)養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。
では、なぜ、「子」の続柄の相続人が増えると、相続税が減るのでしょうか。「子」が増えることによって相続税から控除することのできる、次の項目に影響を及ぼします。
ポイント
相続税の基礎控除額
生命保険金の非課税限度額
死亡退職金の非課税限度額
それぞれの相続税から控除できる金額と、その計算方法について、税理士が解説します。
相続税の基礎控除額が増える
相続税の基礎控除額とは、どのような場合であっても、相続財産の額から控除できる一定の基本的な控除のことをいいます。相続税の基礎控除額は、法定相続人の数に応じて増えます(その分相続税が減ります。)。
相続税の基礎控除額の計算方法は、次のとおりです。
相続税の基礎控除額=3000万円 + 600万円 ×法定相続人の数
したがって、「子」の続柄の人は、「法定相続人」すなわち民法で決められた相続できる人に含まれますから、養子縁組によって子が増えれば、その分相続税の基礎控除額は増額し、これにともなって課税される財産の価額が減少し、支払うべき相続税の金額が減少するわけです。
生命保険金の非課税限度額が増える
生命保険金の非課税限度額とは、生命保険の受取人が相続人であった場合にみなし相続財産として課税される生命保険金額から控除できる、一定の金額のことをいいます。
生命保険の死亡保険金の受取人には、原則相続税がかかりますが、その受取人が相続人の場合、死亡保険金の額が非課税限度額の枠内であれば、相続税はかかりません。
生命保険金の非課税限度額もまた、次の計算式で示すとおり、相続人の数に応じて増額します。
生命保険金の非課税限度額=500万円 ×法定相続人の数
したがって、「子」の続柄の相続人(=法定相続人)が増えれば増えるほど、生命保険金の非課税限度額が増えます。
そのため、養子縁組によって「子」を増やしておけば、生命保険金の非課税限度額が増えますので、その分、生命保険を利用した相続税の節税対策が、より多く活用できるということです。
そして、その節税対策の分だけ相続財産を減らし、さらに相続税を減らすことができます。
死亡退職金の非課税限度額が増える
死亡退職金の非課税限度額とは、生命保険と同様に、死亡退職金をもらうことのできる受取人が相続人の場合にみなし相続財産として課税される死亡退職金から控除することができる一定の金額のことをいいます。
死亡退職金もまた、のこされた遺族の生活のためにもらえる金銭ですから、一定の控除額の枠内までは、相続税がかかりません。
そして、死亡退職金の計算方法は、次の式によって算出されるとおり、法定相続人の人数によって変化します。
死亡退職金の非課税限度額=500万円 ×法定相続人の数
死亡退職金は、退職金、退職年金、功労金など、死亡によって支払われる金額のうち、死亡後3年以内に支給が確定したものをいい、会社から支払われるものですから、相続税対策として生前に対策をしておくことはできません。
しかし、会社から支払われる死亡退職金が高額となるような、勤続年数の長い社員の方などの場合には、養子縁組をして「子」の続柄の相続人を増やしておくことによって、非課税限度額を増やし、相続税を減らすことができます。
相続税の累進税率を下げることができる
ここまでの解説は、「相続税額から控除できる金額が増えることで、相続税が減る」というお話でした。これに対して、養子縁組によって「子」が増え、相続人が増えることによって、税率も低く抑えることができる可能性があります。
相続税は、「累進税率」といって、相続をする財産(遺産)が増えれば増えるほど、相続税の税率が高くなるように決められています。相続税の税率は、次の「速算表」をご覧ください。
法定相続分に応ずる課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税の税率は、法定相続人が法定相続分で相続財産を取得したものとみなして各法定相続人ごとに個別に相続する金額(「課税価格)を計算し、その課税価格に応じて課税される税率が決まります。
そのため、養子縁組によって相続人を増やし、相続財産(遺産)を法定相続分で分割すれば、その分1人の相続人が取得する財産を減らすことができ、その分だけ、相続税の累進税率を下げることができます。
たとえば・・・
9,000万円の課税財産(基礎控除控除後)を実子2人で分割する場合と、合計3人(養子1人、実子1人)で分割する場合を比較すると・・
- 子二人の場合
9,000万円×1/2=4,500万円
税率は、5,000万円以下の20%で控除額200万円を使用します。 - 子二人と養子一人の相続人が三人場合
9,000万円×1/3=3,000万円
税率は、3,000万円以下の15%で控除額50万円を使用します。
よって、相続人が増えることで相続財産に乗じる税率を減らすことができるため、相続税を減らすことができます。
ただし、孫との養子縁組を行う場合には、「孫養子」の場合には相続税が2割増しとなる、という特別なルールあるので、2割加算をされたとしても節税になっているか注意して進めて頂く必要があります。
【注意】養子縁組が相続税対策にならない場合とは?
以上のように解説してきたとおり、「養子と相続税の関係」について、「養子を増やせば、相続税を減らすことができる」、そして、「養子を増やせば、相続税の節税対策がしやすくなる」という関係にあります。
しかし、「養子を増やせば増やすほど、相続税を減らすことができる」かというと、注意していただかなければならない点があります。
そこで、相続税対策のために養子縁組を検討されている方に向けて、注意点を、税理士が解説します。
養子の人数には制限がある
「養子を増やせば増やすほど相続税が減る」と考えて、養子を無制限に増やすことは危険です。というのも、相続税法上においては、養子の人数には制限があるからです。
民法上は、養子縁組は何人でも行うことができ、養子縁組をした子はすべて法定相続人となりますが、相続税法上、相続税の基礎控除、生命保険・死亡退職金の非課税限度額、相続税の総額の計算の際に「法定相続人」に加算される養子には、次のとおり人数制限があります。
ケース | 養子の人数制限 |
---|---|
お亡くなりになった方(被相続人)に実子がいる場合 | 1人まで |
お亡くなりになった方(被相続人)に実子がいない場合 | 2人まで |
ただし、相続税法上の養子の人数制限を超える養子がいたとしても、「養子Aが法定相続人となり、養子Bは制限を超えるので法定相続人とはならない」ということではなく、あくまでも基礎控除や非課税限度額の計算上、「人数」に制限があるというだけです。
人数制限にかからない養子とは?
相続税法上、「法定相続人」とみとめられ、節税効果のある養子の人数には制限があることを解説しました。
ただし、次に説明する養子は、実子と全く同等に取り扱われるため、何人増えても、すべて「法定相続人」と評価されます。言い換えると、養子の人数制限にはひっかからない養子というわけです。
注意ポイント
- 特別養子縁組によって養子となった子
- 被相続人の配偶者の実子で、被相続人の養子となった子
- 被相続人の配偶者と、結婚前に特別養子縁組によって養子となり、結婚後被相続人の養子となった子
- 被相続人の実子・養子・直系尊属が既に死亡しているか、相続権を失ったため、その子に代わって相続人となった直系卑属
難しい用語が並びましたが、要は、これらの人は、養子縁組をする際に家庭内の特別な事情が存在する場合であって、「養子として」というよりは「実子と同等に」保護してあげる必要があるためです。
いずれの場合も、「相続税対策」だけを考えて養子縁組をすべきではなく、養子となる子の感情面などにも配慮して慎重に進めるべきです。詳しくは、専門家(税理士)のアドバイスを受けてください。
相続税対策目的の養子は認められない
養子縁組は、あくまでも、民法上の親子関係を生むために行われます。もちろん、その付随的な効果として、ここまで解説してきたとおり、「養子を増やすことで相続税が減少する」という関係にはありますが、もっぱら相続税の負担を減らすことだけを目的にした養子は認められません。
養子縁組が、相続税対策目的のみのために行われた場合、その養子は、基礎控除や非課税限度額の計算上、「法定相続人」とは認められません。
具体的には、悪質な意図をもって行われた養子縁組のケースに対しては、税務署から指摘を受けて否認され、相続税や加算税などを余計に支払わなければならないおそれがあります。
相続税対策は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、「養子縁組と相続税」の関係について、「養子が増えると相続税が減る」理由と、具体的な対策方法、注意点などについて、相続税に詳しい税理士が解説しました。
基本的には、養子縁組をすることは、相続税の生前対策となります。しかし、限度があり、常識はずれの相続税逃れは許されません。また、養子縁組は、その対象となる親戚、家族の心情を混乱させかねないという問題もあり、単なる「税金対策」だけで行うべき問題ではありません。
「相続財産を守る会」では、養子縁組を利用した相続税対策の指導を多く行ってきた税理士が中心となって、生前の節税対策、「争続」対策を、一括してサポートさせていただけます。