養子縁組が、相続税対策のために利用されることがありますが、養子縁組のあと「争続」となり、せっかく養子になったにもかかわらず、その相続分が不公平なほどに少なくなってしまうことがあります。
民法で認められた相続人(法定相続人)のうち、兄弟姉妹以外には「遺留分」が認められており、遺留分を侵害する程度の少ない財産しかもらえない場合には、遺留分減殺請求権による救済を受けることができます。
そこで今回は、養子縁組した養子であっても、実子と同様に遺留分を認めてもらうことができるのか、また、具体的な救済方法などについて、相続に強い弁護士が解説します。
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被相続人の「子」であれば、遺留分が認められる
「遺留分」とは、法定相続人に認められた、最低限度、相続することが確約された財産のことをいいます。被相続人の「子」であれば、この遺留分が認められます。遺留分を認められる相続人は、次の通りです。
- 被相続人の配偶者(夫または妻)
- 被相続人の子
- 被相続人の直系尊属(両親、祖父母など)
そして、養子縁組をした養子は、相続の関係では、実子と同様に「子」の身分を認められて、法定相続人となります。したがって、養子であっても、実子と同様に、法定相続分を認められ、かつ、遺留分を認められています。
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相続における「養子」の全ポイントまとめは、こちらをご覧ください。
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遺留分が認められる養子の人数に制限はない
「相続の関係では、養子は、実子と同様に、法定相続分・遺留分を認められる」と解説しました。そしてこのことは、養子の人数とは無関係に、すべての養子に認められた権利です。
つまり、養子が何人いようとも、全ての養子は、自分の遺留分が侵害されたら、遺留分減殺請求権を行使することによって、より多くの財産を生前贈与、遺贈などによって取得した相続人に対して、財産を返すよう請求することができます。
注意ポイント
相続税の基礎控除額は、法定相続人を増やせば増やすほど、金額を増額する(相続税額を減らす)ことができますが、このとき法定相続人に数えられる養子の人数には、制限があります。
相続税法上の養子の人数の制限は、実子がいるときは1人まで、実子がいないときは2人までとされています。
つまり、養子縁組をして何人に養子を増やしたとしても、それぞれの養子が法定相続分・遺留分を認められますが、相続税の節税効果には上限があるということです。
養子に認められる遺留分の割合は?
養子縁組をした養子に、遺留分が認められるとして、その割合は、どのように算出したらよいのでしょうか。さきほど、養子は実子と同様に遺留分を認められると解説しましたとおり、養子に認められる遺留分の割合は、実子と同じです。
つまり、「誰が、お亡くなりになったご家族(被相続人)の法定相続人となるか」によって、養子縁組をした養子に認められる遺留分の割合は、次の通りです。
法定相続人 | 遺留分割合 |
---|---|
法定相続人が、養子のみのとき | 養子の遺留分=相続財産×1/2 |
法定相続人が、配偶者と養子のとき | 配偶者の遺留分=相続財産×1/4 養子の遺留分=相続財産×1/4 |
いずれの場合にも、養子縁組した養子が複数いる場合には、上記の遺留分の割合を、更に養子の人数で等分します。
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養子が遺留分を守る方法は?
養子縁組した養子が、遺留分を侵害された場合、つまり、さきほどの計算式によって算出した遺留分を下回る相続財産(遺産)しか相続できなかった場合には、養子は、遺留分減殺請求権を行使することができます。
遺留分減殺請求権とは、相続人間の不公平を是正するために、生前贈与、遺贈(遺言による贈与)などで、相続分よりも多くの財産を得た者に対して、遺留分権利者が行使する、財産の返還請求権のことをいいます。
養子であっても、実子などの他の遺留分権利者とまったく同様に、遺留分減殺請求権を行使することによって、本来であれば相続できるはずであった相続財産(遺産)の回復を求めることができます。
養子が、遺留分減殺請求権を行使する具体的な方法については、こちらの解説もご覧ください。
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遺留分減殺請求権の行使方法は、こちらをご覧ください。
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養子が代襲相続したとき、遺留分が認められる?
養子縁組をした親子関係が存在するときに、養子が、養親よりも先に亡くなってしまったとき、養子の子(養親から見た孫)が、養子を代襲相続するかどうかは、養子縁組のタイミングによって異なります。
そのため、養子の子が、遺留分を認められるかどうかもまた、養子縁組のタイミングによる場合分けが必要となります。
養子縁組と、養子の子が生まれたタイミング | 代襲相続 | 遺留分 |
---|---|---|
養子縁組前に生まれた養子の子 | 代襲相続しない | 遺留分なし |
養子縁組後に生まれた養子の子 | 代襲相続する | 遺留分あり |
つまり、養子の子が生まれたとき、既に養子縁組がなされていたときは、養親と養子との間にも直系血族関係が生じていますので、養親の相続について、養子の子は、養子を代襲相続し、この場合には、代襲相続によって遺留分も認められます。
これに対して、養子の子が生まれた後で、養子縁組がなされたときには、養子と養子の子との間、養親と養子との間にはそれぞれ親子関係があるものの、養親の相続について、養子の子は、養子を代襲相続しません。したがって、遺留分も認められません。
実親の相続で、養子に遺留分が認められる?
養子縁組をした後で、実親が死亡し、実親の相続が開始されたとき、養子は、相続する権利を有しているのでしょうか。この問題は、養子縁組の2つの種類(普通養子・特別養子)のいずれの養子であるかによって変わります。
養子の種類 | 実親の相続権 | 実親の相続における遺留分 |
---|---|---|
普通養子 | あり | 遺留分が認められる |
特別養子 | なし | 遺留分が認められない |
普通養子の場合には、実親との親子関係もそのまま残りますので、実親の相続の際にも相続権はなくなりません。したがって同様に、遺留分もなくならず、実親の相続の際に遺留分を侵害された養子は、遺留分減殺請求権を行使できます。
これに対して、特別養子とは、実親が子育てが困難な場合であるとか、DV(家庭内暴力)などから子を守るために、実親との親子関係を絶ち切って行われる養子縁組です。
そのため、特別養子の場合には、実親との親子関係は消滅し、相続権もなくなるため、遺留分も認められません。つまり、特別養子は、実親の相続財産(遺産)を得られなくても、遺留分減殺請求権を行使することはできません。
もっとくわしく!
普通養子は、戸籍上に「養子」と記載されます。婿養子や孫養子など、特に当事者間にも争いなく、相続税対策や再婚の際に行われるケースが多くあります。
これに対して、特別養子は、実親のもとにおいておくと不都合がある限られた事情のもとに行われる養子であるため、戸籍上には、実子と同様、続柄に「長男」「長女」などと記載され、養子であることは戸籍上からは明らかになりません。
相続において、実親との間の遺留分が認められるか否か、養子縁組の種類が不明な方は、戸籍を調査することによって判明させることができます。
他の相続人の遺留分を減らすための養子縁組とは?
「養子縁組と遺留分」の関係を説明するときの最後の問題点は、「他の相続人の遺留分を減らす」とうい目的のために行われる養子縁組の問題です。
自分にとって不利となる生前贈与や遺言があるときに、主張できる遺留分の具体的な金額は、法定相続人の人数が多くなればなるほど少なくなります。そのため、「ある相続人に、絶対に財産を相続させたくない」と考えるとき、養子縁組を増やすことで、その相続人の遺留分を減らすことができます。
例えば、実子にはなるべく相続させたくないというケースでは、養子縁組をすることで「子」を増やすという生前対策がとられることがあります。ある相続人の遺留分を減らすために行われた養子縁組が存在するとき、次のような「争族」の原因となります。
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養子縁組届が偽造された場合
養子縁組によって、遺留分を減らされた相続人が、「その養子縁組によって得をする相続人が、養子縁組届を偽造したのではないか?」と主張し、争いになることがあります。
養子縁組の際、通常は、市区町村役場において本人確認がされるため偽造は困難ですが、しかし、お亡くなりになった方(被相続人)が認知症となっていたり、本人確認書類を家族が偽造・盗用・悪用しているケースもあります。
遺留分を減らされた相続人としては、何が何でも養子縁組を無効であるものと主張したいでしょうから、これらの証拠を収集することで戦うことになります。
養子縁組をする能力がなかった場合
養子縁組をするためには、養子縁組の当時に、自分の家族関係について、有効に判断をする能力がなければなりません。
このことは、養親となる人が、生前に認知症や精神疾患などにり患して、通常の判断能力が欠如していた場合に問題となります。養子縁組によって遺留分を減らされてしまう相続人としては、カルテなどの証拠により、養親の判断能力について証明することとなります。
真の親子関係を作出する意思がなかった場合
もっぱら相続税の節税だけを目的とした養子縁組は無効であるものとされています。逆にいうと、親子関係を作出する意思がなければ、養子縁組は無効です(東京高裁昭和57年2月22日判決)。
養子縁組によって、遺留分を減らされてしまう相続人にとって、単にその人に不利にするためだけの養子縁組に対しては、このような理由で無効を主張して争うことが考えられます。
ただし、最高裁判例(最高裁平成29年1月31日判決)においても、相続税対策の目的と親子関係を作出する目的とは併存しうるものとされていますので、単に相続税対策や、ある相続人の遺留分を減らす目的があるだけでは、その養子縁組は無効とはなりません。
相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、養子縁組をした養子が、遺留分を認められるかどうか、遺留分減殺請求権を行使することができるかどうかについて、相続問題に強い弁護士が解説しました。
多くの場合には、養子であっても遺留分を認められ、相続財産(遺産)を少ししかもらえない不公平な事態に直面したときは、遺留分減殺請求権による権利の救済を図るべきです。遺留分を正確に算出するためには、弁護士など相続の専門家にご相談ください。
「相続財産を守る会」では、相続に強い弁護士が、養子縁組を用いた相続税対策、生前対策を積極的に提案しています。養子縁組と遺留分が複雑に絡み合う難しい相続問題も、ぜひお気軽にご相談ください。