数ある遺言書の種類のうち、特によく利用されているのが「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類です。この2つの遺言については聞いたことがある方が多いでしょう。他方、秘密証書遺言や緊急時の遺言の利用頻度は非常に低いです。
自筆証書遺言にも公正証書遺言にも、いずれもメリット、デメリットがあると解説されています。メリット、デメリットとして非常に多くの項目を比較していくと、結局どちらを利用したらよいかわからなくお悩みの方も少なくないのではないでしょうか。
そこで今回は、ご状況に合わせて結局自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを利用したらよいのかを、相続・遺言に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。
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【判断基準①】遺言作成を弁護士に依頼するかどうか
まず、遺言書の作成を弁護士に依頼するかどうかによって、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」のいずれがよいかが変わります。
いずれにしても弁護士に依頼して適切な遺言書案を練りたいところではありますが、弁護士に依頼しない場合、自筆証書遺言の方法によってしまうと、有効要件を満たさず、お亡くなりになった後で遺言が無効だったと判明してしまう場合があるからです。
自筆証書遺言の、「誰にでも簡単に作成できる」というメリットだけにとらわれてしまうと、自筆証書遺言の方式が非常に厳しく民法に定められているデメリットを見逃してしまいがちです。
弁護士に依頼しないとしても、公正証書遺言にしておけば、最悪公証人が遺言書が有効となるかどうかはチェックしてくれます。また、遺言者が遺言の内容を伝えれば、その趣旨にかなうような文書を公証人が作成してくれます。
ただし、たとえ公証人といえども遺言内容が適切であることは保障してくれないので過信は禁物です。
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【判断基準②】遺言内容が秘密かどうかは関係ない
「遺言の内容を秘密にしておきたい」という理由で、自筆証書遺言の方式を利用する方がいますが、あまりお勧めの判断基準とはいえません。
というのも、遺言を秘密にするため自筆証書遺言を作るという人は、弁護士にも依頼していないことが多く、先ほど解説した通り、無効となってしまうような自筆証書遺言を作りがちだからです。
一方で、公正証書遺言の秘密が保たれないわけではありません。確かに、公証人、証人には見られるものの、公証人は、裁判官、検事、弁護士、法務局長経験者から選ばれ、職務上の守秘義務があります。証人にも、相続人や親族などを選ばなければならないわけではありません。
弁護士にも、弁護士法で定められた厳しい守秘義務があります。そのため、弁護士は、相続相談の内容を、たとえ親族、家族であっても漏らすことはありません。「遺言を秘密にしたい」というだけの理由で遺言の方式を選ぶべきでないことをご理解ください。
【判断基準③】遺言作成費用がかかるかどうか
公正証書遺言を作成するときは、公証役場に支払う作成費用がかかります。また、公正証書遺言の作成時には、作成過程の全てに2人以上の証人が立ち会う必要がありますが、証人に日当を支払うこともあります。
しかし、「遺言作成費用がかかるから」という理由で、公正証書遺言をやめて自筆証書遺言にすることはお勧めできません。
公正証書遺言でも自筆証書遺言でも、作成を弁護士に依頼するときには一定の弁護士費用がかかります。また、遺言書は、相続財産(遺言)を守るためのものであり、そもそも作成費用すら支払えないのであれば、遺言によって守る財産もないと考えられるからです。
【判断基準④】遺言執行が確実かどうか
遺言をのこしてお亡くなりになった場合には、相続開始後に、遺言が執行されます。つまり、遺言に指定したとおりの相続が実行されるということです。この遺言執行の場面でも、自筆証書遺言と公正証書遺言には大きな違いがあります。
公正証書遺言の場合には、「執行力」があります。つまり、遺言書に記載されたとおりに従わない者に対して、公正証書遺言をもって強制執行をすることができます。
また、自筆証書遺言の場合には、公証人などの専門家が関わっていないことから偽造、変造、隠匿のおそれがあるため、家庭裁判所で検認の手続を行う必要があり、遺言執行の準備に手間がかかります。
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公正証書遺言のほうが安全確実
以上のとおり、各判断基準に分けて、自筆証書遺言と公正証書遺言のメリットとデメリットを比較しました。最終的にどちらを選ぶほうがよいかは、遺言をのこす人が「どの点(判断基準)を重視するか。」にもよってかわります。
しかし、結局どちらがよいかを考えるとき、公正証書遺言のほうが、安全で確実な遺言方法であるといってよいでしょう。結論としては、弁護士として公正証書遺言を作成する方をお勧めします。
作成マニュアルや書籍などを購入して自筆証書遺言を作成する人は多く、「簡単に書ける遺言」などといった本も多く出ています。
しかし、実際に遺言と相続のからむ法律相談を受ける弁護士の立場からすれば、不備のある遺言書しかなかったり、遺言書の有効性が争いになったりすることは、皆さまが想像しているよりはるかに多いとお考え下さい。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、自筆証書遺言と公正証書遺言とを比較することで、「結局どちらの方法で遺言書を作成したらよいの?」というお悩みに弁護士が回答しました。結論としては、公正証書遺言を選択したほうがよいケースがほとんどです。
公正証書遺言を作成することを決断したとき、重要になるのが、公証役場にもっていく遺言書の原案です。というのも、遺言書の原案が適切な内容となっているかどうかまで、公証人は確認してくれないためです。もちろん、有利な相続についてのアドバイスもしてくれません。
「相続財産を守る会」では、公正証書遺言の原案作成はもちろん、公証役場との連絡窓口、スケジュール調整、戸籍など必要書類の収集から立会い証人の準備まで、弁護士に一貫してお任せいただくことができます。