遺言書を書こうにも、高齢や病気などが理由で、なかなか外に出ることができないという方がいます。
遺言の中でも「自筆証書遺言」という形式であれば、自分ひとりで、自宅で作成することが可能なのですが、「自筆証書遺言」は、「全文手書きでなければならない」など、有効とするための要件が厳しく設定されており、要件を満たさなければ遺言が無効となってしまいます。
これに対して、公証人につくってもらう「公正証書遺言」の場合には、公証役場まで出向かなければならないことが原則です。
そこで今回は、「遠出は難しいけれど、公正証書遺言を作成したい」という方に向けて、公証人に出張を依頼する方法・費用・注意点などについて、相続に強い弁護士が解説します。
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公証役場以外でも、公正証書遺言が作成できる
公正証書遺言とは、公証人の協力を得て、遺言書を公正証書にしてもらう方法のことをいいます。そのほかの遺言形式である自筆証書遺言、秘密証書遺言よりも、無効となりづらく、紛失、隠匿、偽造などの危険も少ないため、よく利用されています。
公正証書遺言を作成するときは、証人2名をともなって公証役場にいくのが原則ですが、病気や高齢などにより体が不自由で、公証役場までいけないとき、公証人に出張してもらい、公証役場以外の場所で、公正証書遺言を作成する方法があります。
公証人は、「管轄」といって、自分が業務をできる地域が決まっています。管轄以外の場所に出張することはできません。出張してもらおうとしている場所からできるだけ近くの、管轄の公証役場に依頼してください。
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公正証書遺言の書き方のポイントと注意点は、こちらをご覧ください。
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公証人に出張してもらう手続の流れ(当日まで)
次に、公証人に出張してもらって、公正証書遺言を作成してもらう手続きの流れについて、弁護士が説明します。
公証人に出張してもらうためには、事前準備などの手順を踏む必要があります。ざっくりいうと、以下のような流れとなります。
ポイント
- 公証役場への事前相談
- 公証人との事前調整(遺言書の内容の調整、必要書類の準備)
- 公証人が出張して遺言書を作成
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自筆証書遺言と公正証書遺言の違い、比較は、こちらをご覧ください。
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事前相談
公正証書遺言は、公証役場に突然いっても、その日に作成してもらえるわけではありません。まずは、公証人との事前相談をし、作成したい遺言内容を伝えなければなりません。
事前相談は、公証役場にいって行うこともありますが、電話、メールやFAXなどのやりとりが可能な場合もあります。公証人に、作成したい遺言の内容を適切に伝えるために、内容をまとめたメモや、戸籍謄本、住民票、相続関係図などを持参しましょう。
この事前相談に関する注意点は、公証役場で作成する場合であると、公証人に出張を依頼する場合であるとにかかわらず、変わりません。
文案作成
公正証書遺言をつくる場合には、どのような内容の遺言とするかを考えて、それを公証人に伝える必要があります。
公正証書遺言をのこそうとする方は、遺言書の専門家ではないので、遺言書の案を、細かく正確に書く必要まではありませんが、公証人が遺言書の案をつくれるように、遺言でのこしたい内容のポイントは、整理して伝えなければなりません。
これは、きちんとした文章にする必要はなく、メモ程度のものでも構いません。たとえば、「自宅は妻に相続させる」、「〇〇銀行□□支店の定期預金は長女に相続させる」といったもので足ります。
このようなポイントを伝えると、公証人が、きちんとした遺言書の案を書き起こしてくれます。その内容を見ながら、メールやファックスなどでやり取りをし、遺言書のくわしい内容をつめていきます。
必要書類の準備
公正証書遺言の内容をつめるのと同時に、必要書類の準備をしましょう。事前相談の前から準備をしていただくと、より早く遺言書をつくることができますし、正確な情報を公証人に伝えることができます。
必要書類は、実際に遺言書を作成する日までには、すべてそろっている必要があります。
公正証書遺言の作成に必要な書類としては、以下のようなものがあります。具体的に必要な書類については、公証人に確認してください。
ポイント
戸籍謄本(遺言者と相続人の関係がわかるもの)
相続人以外で遺贈を受ける人の住民票
遺言者の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
遺言者の財産の内容や価値がわかる資料(土地・建物であれば、①その土地・建物の登記簿謄本、②固定資産固定資産評価証明書または固定資産税納税通知書、③土地が借地であるときは、所有者と遺言者の間の契約書。預貯金であれば通帳のコピーなど)
公正証書遺言の作成に立ち会う証人の身分証のコピー
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相続に必要な「出生から死亡までの戸籍謄本」の収集方法は、こちらをご覧ください。
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作成日時の予約
事前相談をしながら、ある程度内容が固まってきたら、公証人に出張してもらう日時の予約を入れます。
公証人は、多くの案件をかかえており、また、毎日出勤するわけではない方もいるため、すぐに予約を入れるのがむずかしい場合もあります。特に、出張を依頼する場合には、往復の移動の時間もみなければならないため、調整がむずかしい場合があります。
この日までに遺言書を作成したいという希望があるときは、スケジュールには余裕をもって、早めに相談をはじめるようにしてください。
2.5. 証人への依頼
公正証書遺言を作成する場合には、遺言書を作成するその場に、証人2名が立ち会う必要があります。遺言書の作成は、基本的には平日の昼間になるため、遺言書の作成に立ち会ってくれそうな方を考えておきましょう。
公証人と出張の日時を決めるときに、2名の証人にも日時を確認してください。証人をご自分でさがすのがむずかしい場合には、公証人に相談します。
公証人に出張してもらう場合、証人にも、遺言者がいる病院や介護施設などに来てもらう必要があります。証人には、遺言作成を行う場所を正確に伝えるようにしてください。
遺言を作成する方が証人をさがして依頼したときは、証人の本人確認ができるもの(運転免許証など)の写しを用意して、出張当日よりも前に、公証人に提出します。証人の氏名や住所も遺言書に書かれることになるので、あらかじめ提出する必要があります。
なお、未成年者や推定相続人(相続人になることが見こまれる方)などは、証人になることができないので、注意してください。
遺言書作成の当日の流れ
事前に遺言書の内容をきめて、必要な書類もそろえたら、公証人と日時を調整して、遺言書の作成のために出張をしてもらいます。
ここでは、遺言書を作成する当日の流れについて、ご説明します。
当日準備するもの
当日は、遺言書の実印、証人の認印、あらかじめ写しを提出した証人の身分証明書(運転免許証など)の原本などが必要になります。
公証人が、当日用意する必要のあるものを教えてくれるので、忘れないように用意してください。もちろん、公証人に手数料を支払う必要があるので、そちらも準備してください。
遺言書の読み上げと署名押印
当日は、公証人が、遺言を作成する本人と、2名の証人の前で、遺言書の内容を読み聞かせます。あらかじめ遺言書の内容は公証人との間で調整をしていますが、内容がまちがっていないか、最終確認のためです。
事前相談も電話やファックスなどでしている場合には、出張の当日に公証人とはじめて会うことになります。そのため、公証人は、目の前にいる遺言者が本当に遺言の内容を理解しているかどうかを確認しながら、丁寧に手続きをすすめてくれます。
遺言書の読み上げが終わって、まちがいのないことが確認できたら、遺言者と2名の証人が、それぞれ遺言書の原本に、署名と押印をします。それがおわると、公証人が最後に署名をします。
もっとくわしく!
遺言者の意思能力(判断能力)に問題がないということを、きちんと証拠として残しておくことを目的として、写真撮影を行うことがあります。
もし、遺言書を作成した時点で意思能力がないとされてしまうと、その公正証書遺言は無効となってしまいます。遺言書を作成した後で、意思能力がある、ない、という争いになってしまうことをさけるために、写真を撮影して、証拠としてのこしておくのです。
遺言書の交付と費用の支払い
これらが終わると、公証人が、そのまま公正証書遺言の正本と謄本を、遺言をされた方に交付してくれます。大切な書類ですから、きちんと保管してください。
最後に、手数料を現金で支払って終了です。出張してもらう場合には、できる限りお釣の出ないように費用を準備した上で、出張していただいた公証人へのねぎらいの言葉を忘れないようにしましょう。
公証人の出張にかかる費用
公証人に支払う手数料は、法務省がさだめた手数料令で決められており、全国一律です。基本的には、以下のものを支払うことになります。
公証人に出張してもらう場合、公証役場で遺言を作成する場合よりも、基本手数料が高くなったり、日当がかかったりするなど、出費が多くなります。
ポイント
公正証書作成の基本手数料の1.5倍
日当(半日であれば1万円、1日であれば2万円)
交通費の実費
基本手数料は、遺言書の中であつかう財産の評価額に応じて変わり、財産の評価額が大きくなるほど、手数料も増えることになります。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
ただし、手数料は、財産をもらう人ごとに計算して合計する必要があるなど、実際はやや複雑な計算が必要となりますので、はっきりした金額は、財産の内容などを説明したうえで、公証役場に計算してもらってください。
手数料のはっきりした金額を確認したいときは、遺言者がもっている財産の内容を、早めに、正しく、公証人に伝えることが必要です。
遺言書の作成サポートは「相続財産を守る会」にお任せ下さい!
今回は、公証人に出張してもらって公正証書遺言をつくる場合の手続きの流れや費用について解説しました。
公正証書遺言を作成するときは、つくりたい遺言書の内容についてポイントを伝えれば、公証人が遺言書にその内容をまとめてくれます。
ただ、遺言書の内容をどう決めるかは、税金の問題が関係したり、相続人どうしで争いにならないようにといった点も考えながら、する必要があります。
「相続財産を守る会」では、相続に強い弁護士や税理士などの専門家が、遺言書をのこす場合の内容について、協力しながら支援します。