亡くなったご家族が、生前に残した口約束が、相続のとき問題となることがあります。「私が死んだら、一緒に住んでいた家は、妻のために残す」と言われていた人は、遺産分割協議のとき強く主張するでしょう。
一方で、共同相続人にとって、「全ての財産をあなたに譲る」と他の相続人が言われていたと主張するとき、相続で取得できる財産の激減を意味しますから、強硬に反対するに違いありません。
よくある相続相談
- 相続財産をもらう口約束をしてもらった相続人が、財産を確実に取得する方法はありますか?
- 口頭による相続の約束は、遺言として有効になりますか?
- 生前の口約束による相続は、死因贈与契約として有効になりますか?
口約束が全て有効だとすると、遺産分割協議の際に、自分に有利な口約束があったと主張する相続人がたくさん出現するおそれがあり、制限が必要となるでしょう。やはり、遺言書を記載してもらうのが一番です。
そこで今回は、口約束で行われた相続について、口約束を確実に証明できるようにし、遺産分割協議を有利に進めるための方法を、相続に強い弁護士が解説します。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野です。
遺産分割協議のとき、口約束のみでは、他の相続人に対して相続権を主張するための証明が不十分となってしまうおそれがあります。口約束を知らない他の相続人にとって、「寝耳に水」なことで、強い反対を受けます。
被相続人に対する十分な貢献を評価され、「相続財産を与える」という口約束を得たら、遺言書や死因贈与契約書を作成しましょう。特に、法定相続分のない第三者の場合、これらがないと全く財産を得られないおそれがあります。
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口約束の相続とは?
口約束の相続とは、生前に被相続人が、「私が死んだら、全ての財産をあなたに与える。」といったように、口頭で相続財産の分け方について指示したケースのことをいいます。
口約束の相続といえども、故人の遺志があることは明らかであり、意思表示は有効です。しかし、遺産分割協議になったとき、口約束の相続によって不利益を被る他の相続人が、口約束にしたがった分割方法に反対します。
そのため、口約束しかない場合には、証拠がなければ法定相続人が優先し、口約束で相続しようとした人は財産を得ることができません。法定相続人であれば、法定相続分だけは得られます。
口約束の相続を主張する人が、法定相続人ですらない人(例えば、孫、近所の知人、内縁の妻など)であった場合には、その口約束を証明する証拠(遺言書、死因贈与契約書)がなければ、相続財産を一切得られません。
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口約束の遺言は有効?無効?
そもそも、お亡くなりになったご家族(被相続人)が、相続財産を相続させる旨の発言を口頭で行っていた事実は、「遺言」として効力があるのでしょうか。
結論からいうと、口頭では遺言とは評価されません。遺言は、相続問題の争いの火種ともなりかねないことから、民法で認められた自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれも、方式が厳格に定められているからです。
民法に定められた有効要件を満たさないものは、かえって混乱、トラブルの原因となりかねず、遺言とは認められません。遺言は書面で行う必要があるため、口約束の相続は遺言として無効です。
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口約束の生前贈与は有効?無効?
遺言書という書面がなければ、口約束の贈与は、「遺言」としての効果がないことをご理解いただけたことでしょう。しかし、生前の口頭での口約束が、全く意味がないかというとそうではありません。
「贈与」は、口頭でも成立するからです。被相続人から、「財産を贈与する」という意思表示があり、相続人から「財産の贈与を受け取る」という意思表示があれば、意思表示の合致があり、贈与が成立します。
贈与の成立には、書面は必ずしも必要ありません。贈与契約書などの書面はあくまでも、贈与があった事実を証明するために必要となるものだからです。
生前に、「相続財産をあげる」という発言が口頭であったとき、それが単なる口約束であったとしても、生前贈与として有効であると評価されるケースがあります。
たとえば・・・
相続人である兄は、お亡くなりになったご家族(被相続人)と生前同居していて、その際に、被相続人の預貯金通帳から、毎月一定額を引き出して使っていました。
預貯金を勝手に使う行為は問題であり、遺産分割協議のときには、勝手に使った分もまた、相続財産の範囲であるとして遺産分割をすべき場合があります。
しかし、贈与契約書などがなく、口頭の口約束に過ぎないとしても、贈与する約束があったとすれば、その預貯金の贈与は、生前贈与として有効です。
生前贈与が有効であった場合であっても、その贈与の理由をよく検討する必要があります。
被相続人の生前に、特別な利益を享受できた相続人には、遺産分割協議の際に「特別受益」が認められ、「持戻し計算」という特殊な計算方法によって具体的な相続分を決める必要があるからです。
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「特別受益」と認められるケースと計算方法は、こちらをご覧ください。
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口約束の死因贈与は有効?無効?
口約束による財産を与えるという意思表示(口約束の相続)が、遺言としてはもちろん、生前贈与としては評価できなかった場合であっても、「死因贈与」と評価できる場合があります。
死因贈与とは、死亡を原因として発生する贈与の約束のことをいいます。生前贈与と同様に、死因贈与もまた、死因贈与契約書などの書面がなければ必ず無効となるわけではなく、口頭でも成立する可能性があります。
しかし、口約束による、口頭の死因贈与が、死後の遺産分割協議において有効であると認めてもらうために、次の2つの条件を満たす必要があります。
- 証人が存在すること
- 相続人全員が承諾すること
死因贈与の要件①:証人の存在
口約束の相続の約束を、死因贈与として有効なものと認めてもらうためには、単に「亡くなる前にそのように言っていた。」と、相続人が言うだけでは足りません。
相続人は、口約束の死因贈与が認められれば、大きな利益を受けることができるため、嘘をついている可能性もあるからです。
そこで、口約束の死因贈与を有効なものと認めてもらうための有効要件の1つ目は、死因贈与があったことを証明してくれる証人が存在することです。死因贈与を受けたと主張する人以外の証人が必要ということです。
死因贈与を証明する証人とは、被相続人が生前に、死亡を原因として贈与する意思があったことを見聞きし、その旨を証言してくれる人のことをいいます。血縁、親族である必要はなく、友人、知人、近所の人でも足ります。
もっとくわしく!
証人が存在しなくても、証人と同様に死因贈与を証明してくれる客観的証拠(書類)があれば、死因贈与があったことを証明することができます。「死因贈与契約書」といった名称の契約書を締結することが一般的です。
遺言の場合、被相続人の一方的な意思表示であるため、遺言書には、被相続人の署名・押印などがあればよく、相続人の関与は不要です。
これに対して、死因贈与契約書は、被相続人と相続人の、贈与に関する意思表示の合致が必要であるため、死因贈与契約書には、相続人の署名・押印も必要となります。
死因贈与の意思表示を受け、契約書を作成してもらえそうな場合には、いざとなったとき無効と評価されないよう、死因贈与契約書の作成を相続に強い弁護士へご依頼ください。
死因贈与の要件②:相続人全員の承諾
死因贈与が有効となる要件の2つ目は、相続人全員の承諾があることです。相続人の中に、一人でも口約束の相続に反対する人がいれば、その口約束は死因贈与として有効にはなりません。
遺産分割協議と、その後に続く相続財産の名義変更の手続において、他の相続人が協力することが、相続人全員の承諾があったものと評価すべき事情となることがあります。
たとえば・・・
相続財産に不動産(土地・建物)があるとき、遺産分割協議を行った後、その結果に応じて不動産の名義変更手続き(相続登記)を行う必要があります。
不動産の名義変更手続き(相続登記)には、相続人の印鑑証明書などが必要となりますが、死因贈与によって不動産を譲り受けたことを主張する相続人に、印鑑証明書などの必要書類を渡すことが、相続人による承諾があったと評価されます。
口約束の相続で財産を得るための生前対策は?
口約束の相続を、被相続人がお亡くなりになった後で、遺産分割協議において主張し、有効なものと認めてもらうためのハードルがかなり高いことをご理解いただけたのではないでしょうか。
口約束の相続を約束してもらえたとき、これを有効なものとして、被相続人の死亡後にも実現してもらうためには、やはり、生前からの相続対策(生前対策)が非常に重要です。
被相続人が元気なうちであれば、「遺言書を作成する」、「死因贈与契約書を作成する」という2つのいずれかの方法で、口約束の相続を現実的なものにすることができます。
遺言書、死因贈与契約書の作成の基礎知識と、遺言と死因贈与の違い、メリット、デメリットなどについて、相続に強い弁護士がまとめました。
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遺言書による準備
相続人の立場からして、被相続人から「財産を死後に相続してほしい」という意思を受けたら、遺言を書いてもらうようにお願いしましょう。特に、法定相続人以外の場合には、遺言がないと相続財産が得られない可能性が高まります。
日本の民法では、民法に定められた相続割合(法定相続分)より、遺言で定めた相続割合(指定相続分)が優先し、法定相続人は、「遺留分」の分だけ保護されるに過ぎないからです。
法定相続人以外の人に相続財産をあげたい場合には、遺言書が必要です。例えば、次のようなケースです。
たとえば・・・
- 妻と子がいるが、孫に預貯金を相続させたい。
- 子がいるが、一緒に家業を経営している弟に事業用不動産と株式を相続させたい。
- 内縁の妻(事実婚のパートナー)に相続財産を全て渡したい。
遺言によって相続財産を贈与することを、「遺贈」といいます。「遺贈」には、次の2種類があります。
ポイント
- 特定遺贈
:特定の相続財産について、特定の人に贈与することを、遺言で定めること
例:「○○銀行の預貯金を、孫に相続させる。」 - 包括遺贈
:相続財産の全部または一部を、割合的に贈与することを、遺言で定めること
例:「相続財産の3分の1を、弟に相続させる。」
遺言を記載するときは、法律に定められた有効要件を必ず満たし、事後に無効とされないものにする必要があります。遺言がかえってトラブルの元とならないためには、法定相続人に認められた「遺留分」を理解しなければなりません。
法的に有効性を認められる、不備のない遺言書を作成するには、相続に強い弁護士に、「公正証書遺言」の作成をご依頼ください。
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「遺留分」が認められる場合と計算方法は、こちらをご覧ください。
相続のときに、「相続財産(遺産)をどのように分けるか」については、基本的に、被相続人の意向(生前贈与・遺言)が反映されることとなっています。 被相続人の意向は、「遺言」によって示され、遺言が、民法に定 ...
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死因贈与契約書による準備
死因贈与契約書を取り交わしておくことによっても、口頭の相続を証拠化し、実現することができます。
死因贈与契約書は、財産を贈与する人(被相続人)と、財産を受け取る人との、双方の合意によって成立します。口頭でも成立はしますが、書面で取り交わしておかなければ、証人、相続人全員の承諾が必要です。
被相続人がお亡くなりになった後、遺産分割調停、遺産分割審判などで争いになれば、死因贈与を主張する人が、客観的な証拠をもって証明する必要があります。
遺言と死因贈与の違い
遺言と死因贈与の大きな違いは、遺言は被相続人による単独の行為であるのに対して、死因贈与は、被相続人と贈与を受ける人との合意によって成立する行為であるという点です。
このことから、遺言と死因贈与には、次のようなメリット・デメリットがあります。
遺言のメリット・デメリット | 死因贈与のメリット・デメリット |
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遺産分割調停のサポートは、「相続財産を守る会」にお任せください
いかがでしたでしょうか。
今回は、「生前に、相続財産(遺産)を全て与えると約束されていた。」と主張する方の相続相談について、口頭の相続が有効となるかどうか、口頭の相続を実現するための生前対策などについて、相続に強い弁護士が解説しました。
口頭の約束は、法律的には弱い立場に立たされます。証拠がなければ、遺産分割調停、遺産分割審判など、家庭裁判所で権利を実現することは困難です。
口頭の約束を得られた方は、遺言書、死因贈与契約書を作成するといった方法によって、自分の権利を実現することができます。残念ながら準備をしていなかった場合でも、口頭の相続を実現できる場合もあります。
相続財産を守る会では、これまで経験してきた遺産分割調停のサポート経験、実績を武器に、ご依頼者にとってより有利な相続の実現を目指します。