日本にある数多くの会社のうち、そのほとんどが中小企業であるといわれています。日本の会社の99%以上は中小企業であり、上場企業はごくわずかの割合に過ぎません。
上場企業であれば、会社の経営状況が悪化したとしても、株式の発行を通じて、株主となる投資家から資金調達することも可能ですが、中小企業は、そうはいきません。中小企業の経営状況が悪化したときには、資金調達は、銀行などの金融機関からの借入に頼らざるを得ず、その場合、社長(代表者)の個人保証が必要なことも少なくありません。
中小企業の経営がうまくいかなくなったとき「倒産(破産)」が頭をよぎるかと思いますが、頑張り続けた結果、夜逃げ、自殺など、より深刻な事態となってしまう会社もあります。今回は、>会社をたたむのに適切なタイミングはいつかについて、弁護士が解説します。
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会社をたたまず、頑張ることのリスクは?
中小企業を経営している方にとって、会社の経営状況が悪化したとしても「まだ、もうしばらくは頑張れるのではないか。」、「銀行が、つなぎの事業資金を融資しくれれば・・・」と希望を持ち、頑張り続けることが少なくないのではないでしょうか。
しかし、銀行など金融機関からの借入の際に、社長の個人所有の自宅不動産に抵当権が設定されたり、社長個人が連帯保証人になったりすると、会社が立ち行かなくなることは、すなわち、社長個人やその家族まで犠牲にすることにつながりかねません。
会社をたたまずに、頑張り続けることは、結果として状況が好転することもありますが、状況がより悪化した際に、更なる修羅場、苦境に追い込まれる可能性があり、リスクの高い方法です。
会社を長く続けていればいるほど、会社への愛着が生まれ、たたむ決断がしづらくなります。わが子のように育てた会社が無くなることは非常にショックであることは理解できます。家族経営で細々続けてきた場合など、特に、「会社をたたんだらどうなってしまうのか」という不安から、会社をたためない方もいます。
会社をたたむ適切なタイミングは?
では、次に、会社の経営状況が悪化したり、後継者がいなくなってしまったりした、会社にとって土壇場の場面で、「会社をいつたたむべきなのか」、その適切なタイミングの見極め方について、弁護士が紹介します。
中小企業が、資金調達が難しくなり、窮地に追い込まれるまでの間には、さまざまな段階があり、その段階ごとに、たたむべきタイミングであるかどうかを慎重に判断する必要があります。
まだ経営者が若ければ、やり直しの道もありますが、経営者が高齢化した中小企業などは、やめ時を見極めることがとても難しい面があります。それでも、致命傷となる前に、会社をやめる適切なタイミングで決断しなければなりません。
金融機関からの融資が得られなくなる
まず、銀行などの金融機関は、無制限、無制約にお金を貸してくれるわけではありません。経営状況が悪化し、この先の将来が厳しいと予想される会社に対しては、金融機関も融資をストップします。
業績が悪化した中小企業に対する、銀行などの金融機関の見切り方は、とても冷酷に思えるかもしれません。
追加融資、つなぎ融資を拒否されるタイミングとなったら、会社をたたむのに適切なタイミングに来たと考えてよいでしょう。この先、会社を続けていくとしたら、更に返済がかさみ、窮地に追い込まれる可能性が高いからです。
個人的な借入は禁物
銀行などの金融機関は、業績が好調なときはお金をこころよく貸してくれますが、業績が悪化すると途端に融資を得られなくなります。
「ほんの少額だから。」、「苦しい時期を乗り切れば、すぐに入金があるから。」と、社長(代表者)が個人的に借入をして乗り切ろうとする中小企業も少なくありませんが、お勧めはできません。
サラ金や闇金などからの個人的な借入に手を付けると、当面の窮地はしのげたとしても、その後更なる取り立てに追われ、資金繰りに奔走することとなります。会社が破産しても、社長個人の借入は免責されず、つきまとうこととなります。
更に苦しい事態へ追い込まれる
社長(代表者)個人の借入が常態化すると、更にその借入と高額な利息を返済するために、妻子の預貯金、子の学費や、親族への借入など、個人的なツテをつかった資金繰りを行う方もいます。
しかし、この段階に至ると、既に、会社をたたむのに適切なタイミングを逸してしまったといわざるをえません。「いつかまた良い流れが来るはず」という楽観視は禁物です。
知人、友人などにも借金を重ねた結果、個人的な信頼を失えば、最後は夜逃げ、一家離散へと進む危険な道しか残されていません。
【注意】会社をたたむタイミングを見失わない
ここまでの解説をお読みいただければご理解いただけますとおり、会社をたたむのに適切なタイミングは、中小企業の経営者が実際に実感しているよりも早いタイミングにあると考えたほうがよいケースが多いです。
社員への給与支払いの責任感、仕入先への支払に対する責任感や、将来の売上に対する期待など、希望的な観測をたてて、会社をたたまないという選択肢をする方のほうが多いですが、会社をたたむタイミングを見失わないよう注意が必要です。
事業をたたまなければならない理由は、次の通りさまざまです。
ポイント
- 売上の低下
- 人手不足
- キャッシュフローの悪化(黒字倒産)
- 後継者の不足
最も遅いタイミングであっても、少なくとも、社長自身の妻子、両親など、家族への損害が及ばないうちが、会社をたたむタイミングとしては適切であると考えてください。
会社をたたむ適切なタイミングを見逃さなければ、まだ会社には、顧客リスト、取引先リスト、信用、事業用資産、社員、ノウハウの蓄積など、多くの価値ある財産が残っている可能性が高いです。適切なタイミングを見失えば、これらの財産は全てなくなってしまいます。
社長(代表者)の精神的な余裕も重要です。まだ余裕のあるうちに、会社のたたみ方について、ぜひ一度専門家である弁護士にご相談ください。
会社をたたんでも、事業を生かす方法は?
会社をたたむ適切なタイミングについて解説してきましたが、「会社をたたむこと」は、「事業をやめること」と同じではありません。会社をたたんでも、事業を生かす方法もあります。
相続問題の際によく話題になる「事業承継」が良い例です。後継者探しや事業承継を考えるとき、その承継の単位は「事業」であって、「法人」ではありません。会社をたたんでも、事業を生かす方法は多くあります。
従業員への給与・退職金、取引先への未払いなどの債務が少なければ、破産せずとも「会社解散・清算」の手続によって会社をたたむこともできます。
会社(法人)は、事業を入れるための「箱」に過ぎず、その中に入っている事業が、社会的に価値の高いものであれば、会社をたたんだとしても、事業は誰かに承継してもらったり、買い取ってもらったりして残すこともできます。
会社を適切なタイミングでたたんでも、その後も事業を生かす方法には、民事再生や事業譲渡、M&Aなど、数多くの方法があります。例えば、一部の不採算事業を切り捨て、その他の事業を譲渡するなど、会社をたたまざるをえなくなった理由に応じて、適切な方法を検討してください。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、会社の経営が悪化したり、後継者がいなくなったりした際の、会社をたたむのに適切なタイミングについて、弁護士が解説しました。会社を適切にたたむためには、意外と早く訪れる、たたむべきタイミングを見失わないことが重要です。
踏ん切りをつけることが難しく、冷静に検討して覚悟を決めるのが経営者1人でできないとき、専門家である弁護士のアドバイスは非常に有益です。
相続との関係でいえば、後継者が見つからずに会社をたたまざるをえなくなる前に、事業譲渡やM&Aによる社外への承継や、後継者探し、育成・教育による社内への承継など、生前対策を十分に講じておくべきです。
「相続財産を守る会」では、特に、会社を経営している方の相続・事業承継問題に注力し、弁護士だけでなく、相続・事業承継問題を得意とする税理士、司法書士などと協業し、徹底サポートさせていただいています。