相続対策を検討するとき、相続問題は、ある1人の問題ではありません。ご家族全体の問題であるという自覚をもって、家族全員で話し合いをしながら、遺言書の作成など生前対策を進めるのはとても効果的です。
しかし、夫婦で一緒に遺言書を作成しようと考えるときには、注意点があります。それは、「共同遺言」が禁止されているということです。
夫婦の相続財産(遺産)の行方について、将来のことは未定ですので、「原則として配偶者(夫や妻)に残す。しかし、配偶者が死亡している場合には、長男に残す」と遺言したいとき、どのように進めたらよいのでしょうか。
今回は、夫婦で一緒に遺言書を作成するときの注意点と、共同遺言の禁止について、相続に強い弁護士が解説します。
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共同遺言の禁止
「共同遺言」とは、2人以上の方が、同じ遺言書で遺言をのこすことです。つまり、1枚の紙に、2人以上の人の遺志が書かれたもののことです。
この共同遺言は、民法の次の条文で、明文で禁止されています。これを「共同遺言の禁止」といいます。自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言など、遺言の種類を問わず、共同遺言は禁止であることは変わりません。
民法975条「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」
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共同遺言を作成したい理由・動機
では、なぜ、民法にあきらかに「共同遺言は禁止」と書いてあるのに、共同遺言について解説をするのでしょうか。それは、「共同で遺言を作成したい」という理由・動機があるからなのです。
共同遺言が作成されてしまう理由・動機は、以下のようなものです。
- 両親の気持ちを子供たちに伝えたいという想い
- 子供たちに相続手続きでもめてほしくないという気持ち
- 家族の財産をスムーズに相続させたいという思い
夫婦2人で作成した遺言書のほうが、両親の思いが強く出て、子どもたちもその遺言にしたがって争いなく相続手続きを解決してくれるのではないか、と考えて、夫婦が一緒に遺言を作成したいというご相談もあります。
共同遺言が禁止されている理由
しかしながら、このような共同遺言は民法で禁止されています。
遺言は、本来、自由に撤回できるものとされています。しかし、夫婦が共同で作成した遺言では、夫婦の一方が撤回したいと思っても、自分の意思で自由に撤回することができなくなってしまいます。
自筆証書遺言(自分で手書きでつくる遺言)のように、作成の要件が厳しく決まっている遺言では、夫婦のいずれかに要件のミスがあると、遺言が無効となってしまうおそれがあります。
たとえば・・・
自筆証書遺言では、財産目録とよばれる、遺産のリスト以外は、すべて、遺言をのこす方が自分で手書きしなければなりません。
しかし、夫婦が一緒に遺言をのこす場合、夫がよかれと思って妻のぶんまで遺言の内容を書いてしまうということもあるでしょう。このような場合には、遺言が無効となる可能性があります。
共同遺言を作成していたとき、夫が「自筆証書遺言はすべて手書き」という知識を知っていたとしても、妻がこれを知らなければ、夫の分の遺言まで無効となる可能性があり、とても不安定です。
このような理由で、2名以上の方が同じ遺言書の中で遺言をのこす「共同遺言」は禁止されています。
共同遺言が有効になる例外的ケースとは?
以上のとおり、共同遺言、すなわち、複数名の人が同じ書面上に遺言をのこす方法は、無効となるのが原則です。
しかし、夫婦の財産の残し方を、一つの書面に書きたいなど、複数名で一緒に遺言を残したいという需要があります。そして、例外的に有効となる場合もあります。
そこで次に、例外的に共同遺言が有効となるケースについて、相続に強い弁護士が解説します。
注意ポイント
ただし、いずれの例も、裁判によって、遺言書の有効性が争われたケースであって、似たような事案であっても、かならずしも同じ結果になるとは限りません。
仮に、裁判での争いに勝てたとしても、「争続」が長引くこと自体が、「子どもに相続でもめないようにする」という目的に反してしまいます。
したがって、これから遺言をのこされる場合には、以下で説明するような、効力があいまいになってしまう方法は、さけるべきです。
作成者が夫婦の片方である共同遺言
夫が遺言書をつくった際に、遺言書の中に、妻が亡くなった場合の遺産の処分方法まで書いていたというケースです。
夫が遺言書を作ったことを妻も知っていた場合で、妻が「自分の財産の残し方はそれでよい」と思っていた場合でも、その遺言は、共同遺言として無効です。他人の遺産の処分方法を勝手にきめることはできないので、妻が亡くなった場合の遺産の処分方法をさだめた部分は、無効となります。
では、夫がかってに妻の遺産の処分方法まで書いていたが、妻は、夫がそのような遺言を作っていることを知らなかった場合はどうでしょうか。
裁判例(東京高裁昭和57年8月27日決定)は、このようなケースについて、夫が自分の遺産の処分方法について書いた部分は有効であると判断しました。
夫婦が別々に書いた遺言書がまとめられた共同遺言
夫が書いた遺言書と、妻が書いた遺言書が一体となって綴じられているものの、2つの遺言書を切りはなすことは簡単にできるという場合です。
2つの遺言書が一体となっているので、共同遺言であって無効だと考えることもできそうですが、簡単に分離することができるという意味では、別々の遺言書であるようにも見えるという場合です。
裁判例(最高裁平成5年10月19日判決)では、夫婦の遺言書が一緒に綴じられて、それぞれのページには夫の契印(ページとページをまたいで押印すること)がある事例で、2つの遺言書を切り離すことが容易であるという理由で、遺言書を有効なものと判断しました。
夫婦が同時に遺言を作ることは可能
共同遺言の禁止についてご理解いただいたところで、しかし、この民法の条文で禁止されているのは、あくまでも、同じ遺言書上に、2名以上の遺志が書かれることです。
夫婦が同時に、別々の紙で遺言書を作成することは、禁止されていません。その際に、一緒に遺言を書きながら、隣で相談し合うことも可能です。
夫婦が、財産をどのように家族にのこすかを話し合って、遺言書を作成することは大切なことです。夫婦が十分に話し合って決めた相続の方法であれば、他の相続人も納得でき、財産の分け方について争わない場合も多いでしょう。
夫婦が同時に「公正証書遺言」を作成するときの注意点
夫婦が、同時期に遺言書を作成することは、共同遺言を禁止する民法でも禁止されてはおらず、むしろ、家族間で相談しながら、夫婦の財産の行く末を決めることは、推奨すべきことです。
しかし、夫婦が同時に、公正証書遺言を作成するときには、注意しなければならない点があります。公正証書遺言とは、公証人の目の前で、証人2名以上の立会いのもとで作成する遺言のことです。
夫婦の一方が公正証書遺言をつくる場合に、他方が証人になることができないということです。この点は、民法ではっきりと禁止されています。
公正証書遺言は、公証人の協力のもと行います。そのため、証人が遺言をのこそうとする人の夫や妻であることが分かれば、別室での待機を指示されます。配偶者は、証人になることもできず、また、立会いもみとめられていません。
もし、夫婦が証人、立会人となって公正証書遺言を作成したことが、後から発覚してしまった場合、遺言が無効となってしまうおそれがあるため、注意してください。
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夫婦が同時に「自筆証書遺言」を作成するときの注意点
自筆証書遺言とは、遺言をのこそうとする人が、原則としてすべて手書きで作成する遺言です。公正証書遺言とちがい、公証人の協力は不要であり、証人や立会人も必要ありません。その意味で、いちばん簡単に遺言をつくる方法といえます。
自筆証書遺言をのこす場合に、その遺言を夫婦の一方が見ていたときや、立ち会っていたときに、その遺言が無効となるかどうかは、民法には定めがありません。
しかし、裁判例(高知地方裁判所平成7年8月21日判決)は、このような遺言も無効とはならないと判断しています。
なお、自筆証書遺言には、基本的に全文を手書きでつくる必要があり、また、日付を入れて印鑑をおすなどの、作成の際にみたすべき要件がきびしく決められています。
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「自筆証書遺言」の作成方法と注意点は、こちらをご覧ください。
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遺言には条件を付けることができる
そもそも夫婦・親子などが、遺言書を同時に作成するにあたって、「先に妻が死亡したら・・・」など、今後のライフプランによって遺言内容を変えたい、といった動機・理由があります。
では、このような動機・理由を果たすために、夫婦が一緒の書面に残す「共同遺言」のかわりに、夫婦が同時に、別々の書面で遺言をのこす場合、どのように遺言書をつくれば、これらの目的をはたすことができるでしょうか。
一つの方法は、夫婦それぞれの遺言に、「条件」、つまり、このような場合であればだれだれに財産をわたす、といった内容を書いておくことです。
たとえば・・・
夫婦がそれぞれ銀行預金をもっている場合に、
- 夫の遺言書の中では、「妻が生きている場合には、預金は妻に相続させる。妻が亡くなっている場合には、長男に相続させる。」と書き
- の遺言書の中では、「夫が生きている場合には、預金は夫に相続させる。夫が亡くなっている場合には、長男に相続させる。」と書く
といった方法です。
このように書いておけば、夫婦で貯金した生活費を、一方がお亡くなりになっても、もう一方が使うことができます。
また、夫婦の片方がお亡くなりになった時点ですでに相手も亡くなっているという場合でも、特定の子供に与えると定めておくことで、遺言書を作りなおす手間もはぶくことができます。
ただし、このような遺言をつくる場合には、夫と妻の遺言の内容が矛盾しないようにする必要があります。また、遺言書の書き方も難しくなるため、弁護士などの専門家に相談して作成することをおすすめします。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、夫婦が一緒に遺言をのこす場合の注意点と、「共同遺言の禁止」について解説しました。
夫婦が十分に話し合って、のこされる家族のために財産の分け方を遺言書できめることは、とても大切なことです。
しかしながら、遺言書の作成については、法律が厳格なルールを定めているので、そのルールを守ったかたちで遺言書をつくる必要があります。
「相続財産を守る会」の専門家は、専門分野ごとに連携して、遺言書をのこされる方の意思を十分に反映した遺言書の作成をサポートいたします。ぜひ遺言作成前に、一度ご相談ください。