相続人は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も相続する結果、親が有する、「連帯保証人」という地位も相続することになります。マイナスの財産を相続したくない場合には、家庭裁判所に相続放棄を申述するしかありません。
しかし、相続人が複数いるとき、不動産、動産、預貯金といった、遺産分割をイメージしやすいプラスの財産と異なり、連帯保証人としての保証債務は、どのように分割するのでしょうか。
特に、連帯保証人は、「分別の利益」が認められず、債権者から請求されたら、共同保証人がいたとしても全額返済をしなければならないこととの関係で、問題となります。
今回は、連帯保証人の保証債務を相続したとき、複数の相続人がいた場合に、どのように分割するのか、どのような割合で負担するのか、遺言・遺産分割協議などの取扱いなどについて、相続に強い弁護士が解説します。
「遺産分割」の人気解説はこちら!
[toc]
「複数の相続人が連帯保証人の保証債務を相続する場合」とは?
ご家族がお亡くなりになったとき、相続人となる人は、民法に定めがあります。これを「法定相続人」といいます。
民法の「法定相続人」の定めによれば、配偶者(夫または妻)は必ず相続人となります。そして、配偶者以外の方は、「子・孫>両親・祖父母>兄弟姉妹」の順で、先順位の人が、優先して相続人となります。そのため、相続人が複数存在することは少なくありません。
相続人が複数いるときに、その相続割合を決める民法の定めを「法定相続分」といいます。たとえば、子ども3人が相続人となる場合は、それぞれの法定相続分は3分の1ずつです。
親が借金の連帯保証人となってしまっていたとき、連帯保証人の地位は、相続によって相続人に承継されますが、このとき、相続人が複数いる場合には、この相続人間で、相続債務が分割されることになります。
-
-
「法定相続人」の順位・範囲と割合は、こちらをご覧ください。
身近なご家族がお亡くなりになってしまったとき、「誰が財産を相続することができるのだろう。」と不安に思うことでしょう。 遺言・遺書などがのこされていたなど、お亡くなりになったご家族の意思が明らかでない場 ...
続きを見る
-
-
「法定相続分」を知り、相続で損しない方法は、こちらをご覧ください。
法定相続分とは、その名のとおり、「法律」で定められた「相続分」のことをいいます。民法で、「誰が、どの程度の割合の相続財産を得ることができるか」ということです。 法定相続分は、お亡くなりになったご家族( ...
続きを見る
連帯保証人の保証債務は、遺産分割協議の対象にならない
遺産分割協議とは、相続によって得た財産を、相続人間で分割する「遺産分割」の方法の1つをいいます。
では、複数の相続人がいる場合に、遺産分割協議によって、連帯保証人としての地位を相続人の1人にまとめることができるでしょうか。
しかし、連帯保証の場合には、保証債務は法定相続分に応じて当然に分割されて相続されることとなっています。そのため、連帯保証人の保証債務は、遺産分割協議の対象とはなりません。
たとえば・・・
お亡くなりになった方に子が3人いて、子3人のみが相続人であった場合で、お亡くなりになった方(被相続人)の保証債務が300万円分であったとします。
この場合、被相続人が死亡し、相続が開始されると、300万円の保証債務は、子1人あたり100万円ずつを当然に相続することとなり、「どの保証債務を誰が負担するか」の遺産分割協議は行われません。
負担割合の変更は「債権者の同意」が必要
以上のとおり、遺産分割協議の対象とはならず、法定相続分に応じて分割して相続される「連帯保証人の保証債務」ですが、複数の相続人がいる場合には、その人たちの間で負担割合を変更したい、という場合もあるでしょう。
しかし、債権者との関係では、債権者が同意しない限り、複数の相続人間での、保証債務の負担割合を変えることはできません。
複数の相続人のうち、「1人がプラスの財産をすべて相続し、保証債務は他の相続人が相続することとする。」という決め方をされてしまうと、債権者にとって非常に不利益となるからです。
ただし、債権者の同意があれば、相続人の連帯保証の相続割合を変更することができます。
たとえば・・・
子どもA、B、Cの3名が、親の連帯保証債務(連帯保証人の地位)を相続する場合ケースで考えてみましょう。
A、B、Cの3名のうちAだけが連帯保証債務を相続することに債権者も同意すれば、BやCは、その後債権者から請求があったとしても、拒否することが可能です。
相続とは関係なくAはもともとお金を十分もっているが、BやCはそうではない、といったケースでは、債権者も、Aだけが連帯保証債務を相続することに同意する可能性があります。
複数の相続人「内部」の負担割合は変更できる
「連帯保証人をつけることができた」という債権者の利益を確保するために、債権者との間で、複数の相続人間の「連帯保証人としての負担」の割合を変えるためには、「債権者の同意」が必要であると解説しました。
しかし、相続人どうしの関係では、合意によって、保証債務の負担割合を変更することは可能です。つまり、内部的な負担割合を、連帯保証人としての地位を引き継いだ相続人間で話し合いで決めることは可能です。
たとえば・・・
先ほどと同様、子どもA、B、Cの3名が、親の連帯保証債務(連帯保証人の地位)を相続する場合ケースで考えてみましょう。
A、B、Cの3人の間ではAだけが連帯保証債務を負担するという合意は可能です。
この場合、債権者は、BやCにも保証債務の弁済を求めることができます。ただ、BやCは、自分で債権者に債務を弁済した後、Aに、その分のお金を請求することができます。
相続放棄した相続人がいる場合は?
相続放棄とは、「相続開始を知ってから3か月以内」に家庭裁判所に相続放棄の申述をすることで、はじめから相続人ではなかったものと扱われる相続手続きのことをいいます。
相続放棄をした相続人がいるとき、その人が、最初から相続人ではなかったことになることから、他の共同相続人の相続割合は、その分増加することとなります。もらえる相続財産が増える反面で、負担しなければならない相続債務も増えます。
たとえば、相続人である子ども3人のうち1人が相続放棄したとすると、残りの2人が相続人になるため、相続分はそれぞれ2分の1ずつに増えることになります。
今回のように、親が借金の連帯保証人となっていた場合には、相続放棄をした相続人がいると、その分の連帯保証人としての責任を、他の相続人が負担しなければなりません。
相続財産が少なく、相続放棄した相続人の分まで連帯保証人の責任を負担させられることが酷だと考える場合には、自分も相続放棄することを検討してください。
-
-
親が連帯保証人のとき「相続放棄するかどうか」の判断基準は、こちらをご覧ください。
お亡くなりになったご家族(被相続人)が、借金の連帯保証人となっていたとき、相続人の立場として連帯保証人としての重い責任を負ってしまうのではないかと不安な方も多いのではないでしょうか。 連帯保証人の責任 ...
続きを見る
-
-
亡くなった人の連帯保証人が相続放棄できない理由は、こちらをご覧ください。
「相続」というのは、プラスの財産とともにマイナスの財産(借金・ローンなど)も同時に受け継ぐため、お亡くなりになった方の借金などを相続したくない場合には、「相続放棄」によってはじめから相続しないことを選 ...
続きを見る
遺言書で連帯保証債務を相続する人を選べる?
親が、借金の連帯保証人の地位にあったとき、複数の相続人間であっても、「連帯保証人の地位を誰が相続するのか。」については、遺産分割協議の対象とはならず、法定相続分に応じて分割されることを解説しました。
それでは、遺言書を作成すれば、複数の相続人のうちの1人に連帯保証債務を相続させることができるのかというと、これまた、「債権者の同意」がなければ不可能です。
遺言書の書き方ごとに、複数の相続人の中で、連帯保証人の地位・責任をどのように分けるのかについて、弁護士が解説します。
「相続させる」旨の遺言の場合
相続させる旨の遺言とは、ある財産を特定の相続人に「相続させる」と記載された遺言のことです。今回の解説でいうと、連帯保証人としての地位について、ある相続人に「相続させる」と記載された遺言です。
結論を述べると、「連帯保証人としての地位は長男に相続させる」といった遺言に、強制力はありません。
「相続させる」という遺言は、遺産の分割方法を指定するものと考えられていますが、債務は、被相続人の死亡と同時に当然に分割して相続され、遺産分割の対象となりません。遺産分割の対象にならない「債務」の遺産分割方法を指定しても、無効だからです。
複数の相続人が、相続人の内部での、「連帯保証債務の負担割合」を変えるために、上記のような遺言を尊重することはできますが、債権者の同意がなければ、債権者にはその負担割合を主張できません。
-
-
相続させる旨の遺言と遺贈の違いは、こちらをご覧ください。
遺言書においてひんぱんに登場するのが、「不動産は妻に相続させる」、「A銀行の預金は長男に相続させる」といった、「~を相続させる」という言葉です。このような内容の遺言は「相続させる旨の遺言」と呼ばれます ...
続きを見る
特定遺贈の場合
特定遺贈とは、特定の財産を与えるという内容の遺言のことです。「〇〇の不動産をAに遺贈する。」といった遺言がその例です。
特定遺贈は、プラスの財産についてのみ認められるものです。したがって、連帯保証人としての地位について、ある相続人に特定遺贈するという内容の遺言書があったとしても、そのような遺言書の定めは無効です。
ただし、相続させる旨の遺言について解説したのと同じように、相続人が、遺言書のそのような記載を尊重した遺産分割を行い、相続人内部の保証債務の負担割合を変更することは自由です。
包括遺贈の場合
包括遺贈とは、「相続財産の4分の3を長男に相続させる」、「相続財産の全部を妻に相続させる」のように、割合を定めて財産を相続させる内容の遺言です。
包括遺贈の場合には、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(つまり債務)も一緒に相続します。したがって、包括遺贈を受けた方は、連帯保証債務も相続することになります。
たとえば、子ども2名が相続人であるが、それ以外のAに「3分の1の財産を相続させる」という遺言書があったとします。この場合には、Aも、3分の1の連帯保証債務を相続することになります。
ただし、この包括遺贈も、債権者とは関係の無いところで決まる話ですので、債権者は、包括遺贈を無視して、法定相続人である子ども2名に対して、2分の1ずつの保証債務の履行を求めることができます。
相続分の指定の場合
相続分の指定とは、遺言書の中で、相続人の相続分を指定することをいいます。
たとえば、子ども2人が相続人となる場合には、本来であれば法定相続分は2分の1ずつですが、遺言書の中で、「子どもAに4分の3を相続させる」と指定するような場合です。
この場合も、包括遺贈の場合と同様に、相続人の間では、指定された相続分の割合で保証債務を相続することになりますが、債権者との関係では、債権者が同意しない限り、法定相続分に従って保証債務が相続されたもの扱われます。
保証人の地位を相続しない、例外的なケース
以上の通り、連帯保証人の保証債務を、複数の相続人が相続したときの、分割の方法についての原則的なルールは、まとめると次のとおりです。
ポイント
連帯保証人の地位・責任(保証債務)は、相続開始と同時に、法定相続分に応じて分割される。
連帯保証人の地位・責任(保証債務)を、複数の相続人で、内部的な負担割合を約束することができる。
内部的な負担割合を、債権者にも主張するためには、債権者の同意が必要である。
しかし、これに対して、同じ「保証」とつくものであっても、例外的に、相続の対象とはならない特殊なケースがありますので、最後に弁護士が解説します。
身元保証人としての地位
身元保証とは、雇われている会社に対して与えた損害の賠償責任などを保証する契約です。
身元保証契約は、裁判例によって、「相続されない」と判断されています。
信用保証(継続的取引から生じる不特定の債務の包括的保証)
継続的な取引から発生する不特定の債務を、責任限度額や期間の限定なしに連帯保証するもの(信用保証)は、保証人の負担が重くなるため、裁判例(最高裁昭和37年11月9日判決)で、相続は否定されています。
貸金等根保証
不特定の債務を保証する「根保証契約」のうち、保証する対象となる債務に貸金等の債務が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く)を、「貸金等根保証契約」といいます。
貸金等根保証契約では、保証人は、極度額(きょくどがく)というあらかじめ定められた上限額まで保証債務を負いますが、保証人の死亡によって極度額が確定し、相続人はそれ以上の債務は負いません。
-
-
身元保証人の相続については、こちらをご覧ください。
身元保証人という言葉を聞いたことがありますでしょうか。身元保証人とは、「労使関係」において、労働者が、使用者に対して損害を与えたときの賠償債務などを保証する人のことをいいます。 相続のときには、プラス ...
続きを見る
相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、連帯保証人がお亡くなりになった場合に、保証債務がどのように取り扱われるかについて解説しました。
保証債務について、遺言書や遺産分割協議の中で特定の相続人に相続させたとしても、債権者に対してはその効力を主張できないという点には、特に注意が必要です。
また、保証債務の中でも、保証人が亡くなった場合にはそれ以上責任を負わなくてよい場合があります。お亡くなりになった方がプラスの財産だけ残した場合はよいですが、他人の保証人になっていた場合、相続における取扱いを十分に理解し、相続財産を分ける必要があります。
債務の相続の問題を含めた相続についてのアドバイスは、「相続財産を守る会」の弁護士に、ぜひ一度法律相談ください。