遺言書を紛失したときの適切な対応は、遺言の形式によって異なります。具体的には、公正証書遺言の場合は再発行が可能ですが、自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合には作り直すしかありません。
公正証書遺言は公証人が原本を保管しており、なくしても再発行が可能です。しかし、自筆証書遺言や秘密証書遺言は自分で保管することとなります(なお、2018年の相続法改正で導入された自筆証書遺書保管制度が活用できます)。
今回は、遺言の形式ごとに、遺言書を紛失した場合の対応を解説します。緊急事態でも落ち着いて迅速に対応することが、遺志を確実に実現するポイントです。紛失した際のリスクは大きいため、可能な限り失くさないよう大切に保管してください。
紛失時の対応は遺言の形式により異なる
まず、遺言書を紛失した際の対応は、遺言の形式によって異なることを知りましょう。遺言の形式には大きく分けて、次の3つがあります。
遺言の形式によって紛失時の対応が違うのは、その種類により、保管されている場所や保管の方法が異なるからです。それぞれにメリットとデメリットがあるため、自身の状況や、遺言を残す目的にあわせて、最適な方法を用いることで、自身の遺志を確実に後世に残すことができます。
遺言書の基本について
公正証書遺言は紛失しても再発行可能
公正証書遺言は、証人2名の立ち会いのもと公証人に作成してもらう遺言です。
公正証書遺言は、紛失のリスクが最も少ない遺言の形式です。というのも、公正証書遺言の原本は公証役場に保管され、遺言者に渡されるのは謄本(コピー)だからです。そのため、もし遺言者が手元の遺言書(謄本)を紛失しても再発行が可能です。また、公正証書遺言では公証人が関与することで、遺言能力が否定されたり形式不備を指摘されたりといった将来の心配が少なく、弁護士に依頼する多くの人がこの遺言形式を選択します。
紛失の心配が少ないのはもちろん、遺言の内容が後から争われるのを防げるメリットもあります。結論として、公正証書遺言が、安全性と信頼性の観点からして最も良い選択であり、確実に遺志が守られます。
公正証書遺言の書き方について
自筆証書遺言を紛失したときの対応
自筆証書遺言は、遺言者が全文を自署して作成した遺言です。全部を手書きで作成して署名押印するなど、民法の定める厳しい要件を遵守する必要があり、無効となる危険もあります。
自筆証書遺言は、その保管も自分でするのが基本となり、紛失しやすい性質がありました。これを回避すべく、2018年の相続法改正によって自筆証書遺言書保管制度が新設されました。したがって、自筆証書遺言の紛失時の対応は、この保管制度を利用していたかどうかで異なります。
自筆証書遺言書保管制度を利用していた場合
自筆証書遺言を安全に保管するため、2018年の相続法改正で、自筆証書遺言書保管制度が創設されました。この制度には、自筆証書遺言のデメリット、特に紛失リスクと検認の必要性といった課題を解消する目的があります。利用者は、自筆証書遺言の原本を法務局に預け、遺言書は電子画像データとして安全に保管されます。
この保管制度を活用している場合には、自筆証書遺言であっても、紛失のリスクをなくし、トラブルを軽減して自分の遺志を将来へ確実に伝えることができます。公証役場に出向くのが難しい事情があるなど、どうしても自筆証書遺言を選ぶしかない場合には、せめてこの保管制度を活用し、遺言書の紛失を防止しましょう。
自分で保管していた場合
自筆証書遺言書を自分で保管していた場合には、残念ながら原本を紛失してしまえば遺言の効力は認められず、書き直すしかありません。コピーが手元にあっても、全て自署で記載するという条件を満たしませんから、その写しは遺言としての効力は認められません。
紛失した遺言の内容を伝えたいなら、新たに遺言書を作成するしかありません。自筆証書遺言の形式を選び、かつ、保管制度を活用しないならば、その管理が非常に重要なことをよく自覚し、貸金庫などの安全な場所で管理するようにしてください。
自筆証書遺言の書き方について
秘密証書遺言を紛失したら再作成が必要
秘密証書遺言は、遺言者がその内容を隠しながら、公証人と証人2名に遺言であることを宣言するなどして作成する遺言形式です。内容の秘密を死後まで保持し続けられるメリットがありますが、紛失のリスクは、自筆証書遺言よりも更に大きいものです。
秘密証書遺言では、公証役場で保管されないのはもちろん、2018年の相続法改正で新設された法務局での保管の制度も活用できません。自分で保管することで秘密を守る必要があるため、偽造や変造、生前の開封といった問題を避けるため、相続人にすら伝えられていないことも少なくありません。そもそも紛失したことにすら気付かない危険があるので、秘密証書遺言を作成するときには特に注意しないといえません。
秘密証書遺言は、その性質上、火災や地震、盗難といった予期せぬトラブルによっても、紛失してしまうおそれがあります。そして、このときその効力を回復する唯一の手段は、新たな遺言書をっ作成することに尽きます。
秘密証書遺言の書き方について
遺言書を再度作成するときの注意点
遺言書を紛失したとき、公正証書遺言と法務局に保管された自筆証書遺言以外は、遺言書を作成しなおさなければ故人の意思は伝えられません。生前の対策として残すものであるため、できるだけ早く対応しておいたほうがよいでしょう。
そこで、再度作成する際の注意点についても解説します。
再作成時の遺言の形式は問わない
紛失した遺言書がどの形式でも、再作成時の遺言は、同じ形式で作成しなくても構いません。例えば、自筆証書遺言を失くしたケースで、その後に作成するのが公正証書遺言でも問題ありません。前の遺言と同じ形式で作成しなければならないというルールはないのです。
ただし、不注意で紛失してしまった場合、同じことが起こらないよう公正証書遺言の方法で、手間や費用を掛けてでも、確実に遺志を残す努力をするのがお勧めです。
紛失した遺言が出てきても最新のものが優先される
遺言書を再び作成しなおした後になって、紛失した遺言が出てくることがあります。死後になって、2つの遺言書が出てきたときには、新しいほうの遺言が有効だとされています。遺言者の気持ちは変わることもあり、最新のものが、遺志を最も正しく反映していると考えられるからです。
したがって、複数の遺言のあるとき、その作成日が最新のものが優先されます。どの遺言形式でも、作成日を記載しなければ無効となります。このことは、遺言の形式が異なってもあてはまり、例えば、古い遺言が秘密証書遺言、新しい遺言が自筆証書遺言という場合に、その種類によらず最新のものが有効となります。
新しい遺言に記載されず、古い遺言には書かれた財産があるなど、新旧の遺言が矛盾しない部分については、古い遺言の記載もその範囲で有効です。
そのため、古い遺言書を紛失し、再作成するにあたり、前の遺言の内容を覚えていないなど、重複する不都合の生じるおそれがあるときは、「前の遺言は無効とする」と記載するなどの工夫が必要となります。
遺言書が複数見つかった場合について
まとめ
今回は、遺言を残したのに、その遺言書を紛失してしまった場合の対応を解説しました。
遺言は、相続対策に活用されるため、生前に気付いたなら速やかに作成しなおしましょう。このとき、自筆証書遺言や秘密証書遺言を失してしまったなら、次は、より確実に保管できるよう公正証書遺言を作成することによって対策すべきです。
再度の遺言を作成するときには、紛失した遺言があとから出てきて相続トラブルとならないよう、ぜひ弁護士のアドバイスを聞いて作成してください。